2021.02.22 M&A実務

TOKYO PRO Market上場の本質:低い形式基準と引き換えに失うもの、本来目的に照らした合理性を問う

TOKYO PRO Market(TPM)とは、2008年の改正金融商品取引法に基づくプロ向け市場制度の下で、東京証券取引所が運営する株式市場です。形式基準なし・最短10営業日での上場承認・直近1期分の監査証明で済む柔軟性が特徴ですが、特定投資家(プロ投資家)に投資家層が限定されるため流動性は低く、上場時の資金調達は限定的になりがちです。

【この記事の結論】TOKYO PRO Market(TPM)は形式基準なく短期上場可能な「プロ向け市場」ですが、流動性が低く資金調達も限定的です。「上場」自体を目的化せず、資金調達・知名度・内部統制等の本来目的に照らして必要性を慎重判断すべきだと考えます。

東京プロマーケットとは何ですか?

TOKYO PRO Marketは、2008年の改正金融商品取引法により導入された「プロ向け市場制度」に基づき、東京証券取引所が運営する株式市場です。母体のTOKYO AIMは2009年6月に開設、2012年7月からTOKYO PRO Marketとしてコンセプトを継承しています(出典:日本取引所グループ TOKYO PRO Market 概要)。

TPMの主な特徴

TPM上場のメリットとデメリットは何ですか?

メリット:上場までのスピードと低コスト

デメリット:流動性の低さと資金調達の限定性

「手軽さ」自体は魅力ですが、それが目的化されると本来の経営目的を見失う危険があります。詳細は日本取引所グループ「TOKYO PRO Market」資料もご参照ください。

そもそも何のために上場するのですか?

現状特段の問題なく運営されており、資金は金融機関からデットで調達でき、従業員も募集すれば集まるのであれば、あえて上場する経営上の必然性は乏しいでしょう。

上場の本来目的は「市場からエクイティを集め、会社の成長に充てる」ことです。オーナーの個人資産形成や知名度向上は、その派生的結果と捉えるべきでしょう。

TPM上場の構造的論点:上場廃止比率と主幹事の構成

上場廃止比率と鞍替え比率

当社調べおよび日本取引所グループの統計データを踏まえると、TPM上場企業の一定割合がその後上場廃止に至っており(マザーズ等への鞍替えを除く)、鞍替え成功企業はそれより少数に留まります。「上場」という手段が目的化された結果、上場・維持コストや機会費用が回収できずに退場するケースが少なくないと推測されます(最新の正確な企業数は日本取引所グループ公式統計でご確認ください)。

株主資本コストと負債コストの観点

現代経営論では株主資本コストの方が負債コストより高いとされます。それでもエクイティで調達する合理性があるとすれば、構造改革のための「使い切り」資金として、収益性を上げるために資本を投じるストーリーが必要です。従来通りの経営を継続するならば、上場は煩わしさを増やすだけになりかねません。

主幹事の構成:大手証券が少ない理由

TPMに上場する企業のJ-Adviserには、野村證券・大和証券・SMBC日興証券・三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった大手証券会社が主幹事として入る事例が極めて少ない構造があります。仮説としては、(1)TPMは上場・維持コストが低くJ-Adviser報酬も小さくなりがち、(2)プロ投資家限定で大規模公募増資が難しく、大型案件を志向する大手証券のビジネスモデルと適合しにくい、(3)大手証券は時価総額・流動性要件を満たす企業をマザーズ/プライムに誘導する方が合理的、といった点が挙げられます。

市場再編後の位置付け

2022年4月の東証市場再編後、グロース市場の上場時価総額要件は40億円とされています。これに届かないが上場したい企業の選択肢としてTPMが浮上する構図ですが、「市場から40億円の評価を得られない段階で上場コストをかける合理性があるのか」「結果として機関投資家に相手にされない上場で何を得るのか」という問いは避けて通れません。

合理性のあるTPM上場ユースケースは何ですか?

当社の見解として、TPM上場に一定の合理性があるのは以下のような限定的ケースです。

債務超過の解消は本質的には事業再生の文脈で語られるべきテーマです。当社では企業再生(事業再生)ワンストップサービスもご提供しています。

日本財務戦略センター(JFSC)支援事例:TPM上場の代替戦略を選んだA社

知名度向上と従業員モチベーション向上を目的にTPM上場を検討していたA社(匿名)は、詳細シミュレーションと当社のアドバイザリーを通じて、TPMでの資金調達の困難・上場後の維持コスト・「プロ投資家からの評価」の限界を認識し、上場準備にかかる費用と時間を事業拡大のためのM&A戦略と内部統制強化に充てる選択をしました。結果、外部資本に頼らずに企業価値向上と従業員エンゲージメント向上を同時実現しています。

「何のために経営を行うのか」に立ち返る

「上場」による資本調達・知名度向上・内部統制構築はあくまで手段であり、必要性を慎重に検討すべきです。「形式要件はない」と言われていますが、現実には1年で上場できない企業もあり、その間も費用は発生します。その費用を採用に充てて売上を伸ばした方が結果として良かったというケースは少なくありません。

「何のために経営を行うのか」「そのためにどうするのか」「その手段を考える」—この三段ロジックに立ち返り、「上場」という言葉に心を惹かれた瞬間に手段と目的を照合することをおすすめします。M&Aや事業再生を含めた多様な選択肢の比較検討では、顧問税理士弁護士等の専門家にご相談ください。お困りの際はJFSC のM&Aセカンドオピニオン無料相談をご活用ください。

よくあるご質問

TOKYO PRO Marketは資金調達手段として有効ですか?

TPMはプロ投資家限定で流動性が低く、上場時の公募増資・売出しで大規模な資金を集めることは難しい構造です。資金調達を主目的とするなら、グロース市場やスタンダード市場、あるいは第三者割当増資を含む別経路の検討が合理的なケースが多いと考えられます。

TPMに大手証券会社がJ-Adviserとしてあまり入らないのはなぜですか?

TPMは上場・維持コストが低くJ-Adviser報酬が相対的に小さくなりがちで、プロ投資家限定で大規模公募が難しいため、大型案件を志向する大手証券のビジネスモデルと適合しにくい構造があります。大手は時価総額要件を満たす企業をグロース/プライム市場に誘導する方が合理的になります。

TPM上場に合理性があるケースはどのような場合ですか?

(1)グロース市場等を目指したが及ばなかった滑り止めとしての利用、(2)株式価格を形式的に決め第三者割当増資の目安に使う、(3)会計論的に債務超過を解消する手段として用いる、といった限定的ケースです。本来は事業再生・M&Aを含めた選択肢全体を顧問税理士・弁護士等と比較検討することをおすすめします。

公開日: 2021年2月22日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2021年2月22日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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