【この記事の結論】TOKYO PRO Market(TPM)は形式基準なく短期上場可能な「プロ向け市場」ですが、流動性が低く資金調達も限定的です。「上場」自体を目的化せず、資金調達・知名度・内部統制等の本来目的に照らして必要性を慎重判断すべきだと考えます。
東京プロマーケットとは何ですか?
TOKYO PRO Marketは、2008年の改正金融商品取引法により導入された「プロ向け市場制度」に基づき、東京証券取引所が運営する株式市場です。母体のTOKYO AIMは2009年6月に開設、2012年7月からTOKYO PRO Marketとしてコンセプトを継承しています(出典:日本取引所グループ TOKYO PRO Market 概要)。
TPMの主な特徴
- 開示言語:英語または日本語
- 上場基準:数値基準なし
- 上場申請から承認までの期間:10営業日(事前にJ-Adviserによる意向表明手続き)
- 上場前の監査期間:直近1年間
- 内部統制報告書・四半期開示:任意
- 主な投資家:特定投資家等(いわゆるプロ投資家)
TPM上場のメリットとデメリットは何ですか?
メリット:上場までのスピードと低コスト
- 上場までのスピードが早い:一般市場では2期分の監査証明が必要なところ、TPMは直近1期分でよく、最短1年以内での上場も可能。
- 形式基準がない:株主数・純資産・時価総額の数値基準がなく、オーナー企業や規模の小さい企業でも上場の機会を得られる。
- 準備コスト・維持コストが相対的に低い:監査期間短縮と形式基準緩和により、初年度の上場準備費用は一般市場の約5,000万円水準に対しTPMは約2,000万円〜3,000万円が一つの目安。四半期開示・内部統制報告が任意であるため維持コストも抑えられる傾向。
デメリット:流動性の低さと資金調達の限定性
- 投資家層が制限され流動性が低い:プロ投資家等のみが参加可能で、一般投資家の参加がない。
- 上場時の資金調達が難しい:流動性が低いため、上場時の公募増資や売出しで想定額を集めにくい。一般市場のような大規模調達はTPMでは稀。
「手軽さ」自体は魅力ですが、それが目的化されると本来の経営目的を見失う危険があります。詳細は日本取引所グループ「TOKYO PRO Market」資料もご参照ください。
そもそも何のために上場するのですか?
現状特段の問題なく運営されており、資金は金融機関からデットで調達でき、従業員も募集すれば集まるのであれば、あえて上場する経営上の必然性は乏しいでしょう。
- 「上場で資金が集まる」—非上場企業でも資金調達できている企業は多数。
- 「代表者の連帯保証が外れる」—経営者保証ガイドライン(金融庁関連資料)でも上場非依存で対応可能な範囲が広がっている。
- 「内部統制が整う」—それ自体は良いが、内部統制を整える手段は他にもあり、上場を目的化するのは本末転倒。
上場の本来目的は「市場からエクイティを集め、会社の成長に充てる」ことです。オーナーの個人資産形成や知名度向上は、その派生的結果と捉えるべきでしょう。
TPM上場の構造的論点:上場廃止比率と主幹事の構成
上場廃止比率と鞍替え比率
当社調べおよび日本取引所グループの統計データを踏まえると、TPM上場企業の一定割合がその後上場廃止に至っており(マザーズ等への鞍替えを除く)、鞍替え成功企業はそれより少数に留まります。「上場」という手段が目的化された結果、上場・維持コストや機会費用が回収できずに退場するケースが少なくないと推測されます(最新の正確な企業数は日本取引所グループ公式統計でご確認ください)。
株主資本コストと負債コストの観点
現代経営論では株主資本コストの方が負債コストより高いとされます。それでもエクイティで調達する合理性があるとすれば、構造改革のための「使い切り」資金として、収益性を上げるために資本を投じるストーリーが必要です。従来通りの経営を継続するならば、上場は煩わしさを増やすだけになりかねません。
主幹事の構成:大手証券が少ない理由
TPMに上場する企業のJ-Adviserには、野村證券・大和証券・SMBC日興証券・三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった大手証券会社が主幹事として入る事例が極めて少ない構造があります。仮説としては、(1)TPMは上場・維持コストが低くJ-Adviser報酬も小さくなりがち、(2)プロ投資家限定で大規模公募増資が難しく、大型案件を志向する大手証券のビジネスモデルと適合しにくい、(3)大手証券は時価総額・流動性要件を満たす企業をマザーズ/プライムに誘導する方が合理的、といった点が挙げられます。
市場再編後の位置付け
2022年4月の東証市場再編後、グロース市場の上場時価総額要件は40億円とされています。これに届かないが上場したい企業の選択肢としてTPMが浮上する構図ですが、「市場から40億円の評価を得られない段階で上場コストをかける合理性があるのか」「結果として機関投資家に相手にされない上場で何を得るのか」という問いは避けて通れません。
合理性のあるTPM上場ユースケースは何ですか?
当社の見解として、TPM上場に一定の合理性があるのは以下のような限定的ケースです。
- マザーズ等への上場を目指したが及ばなかった「滑り止め」としての上場
- 株式の価格を形式的に決め、その価格を目安に第三者割当増資を行うための上場
- 債務超過を会計論的に解消する手段としての上場(事業再生の本質論ではないが、手段として一定の合理性がある)
債務超過の解消は本質的には事業再生の文脈で語られるべきテーマです。当社では企業再生(事業再生)ワンストップサービスもご提供しています。
日本財務戦略センター(JFSC)支援事例:TPM上場の代替戦略を選んだA社
知名度向上と従業員モチベーション向上を目的にTPM上場を検討していたA社(匿名)は、詳細シミュレーションと当社のアドバイザリーを通じて、TPMでの資金調達の困難・上場後の維持コスト・「プロ投資家からの評価」の限界を認識し、上場準備にかかる費用と時間を事業拡大のためのM&A戦略と内部統制強化に充てる選択をしました。結果、外部資本に頼らずに企業価値向上と従業員エンゲージメント向上を同時実現しています。
「何のために経営を行うのか」に立ち返る
「上場」による資本調達・知名度向上・内部統制構築はあくまで手段であり、必要性を慎重に検討すべきです。「形式要件はない」と言われていますが、現実には1年で上場できない企業もあり、その間も費用は発生します。その費用を採用に充てて売上を伸ばした方が結果として良かったというケースは少なくありません。
「何のために経営を行うのか」「そのためにどうするのか」「その手段を考える」—この三段ロジックに立ち返り、「上場」という言葉に心を惹かれた瞬間に手段と目的を照合することをおすすめします。M&Aや事業再生を含めた多様な選択肢の比較検討では、顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。お困りの際はJFSC のM&Aセカンドオピニオン無料相談をご活用ください。
よくあるご質問
TOKYO PRO Marketは資金調達手段として有効ですか?
TPMはプロ投資家限定で流動性が低く、上場時の公募増資・売出しで大規模な資金を集めることは難しい構造です。資金調達を主目的とするなら、グロース市場やスタンダード市場、あるいは第三者割当増資を含む別経路の検討が合理的なケースが多いと考えられます。
TPMに大手証券会社がJ-Adviserとしてあまり入らないのはなぜですか?
TPMは上場・維持コストが低くJ-Adviser報酬が相対的に小さくなりがちで、プロ投資家限定で大規模公募が難しいため、大型案件を志向する大手証券のビジネスモデルと適合しにくい構造があります。大手は時価総額要件を満たす企業をグロース/プライム市場に誘導する方が合理的になります。
TPM上場に合理性があるケースはどのような場合ですか?
(1)グロース市場等を目指したが及ばなかった滑り止めとしての利用、(2)株式価格を形式的に決め第三者割当増資の目安に使う、(3)会計論的に債務超過を解消する手段として用いる、といった限定的ケースです。本来は事業再生・M&Aを含めた選択肢全体を顧問税理士・弁護士等と比較検討することをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。
よくあるご質問(FAQ)
📅 本記事の情報基準日
本記事は 2021年2月22日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。
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