2021.07.09 M&A実務

M&A譲渡時の役員退職金:手取り最大化と税務リスク回避の戦略

M&Aにおける役員退職金とは、譲渡企業の役員が退職する際に支払われる費用で、譲渡対価の一部として活用することで、税制上の優遇措置(退職所得控除)を受け、売り手経営者の手取り額を最大化できる可能性があります。税務上は「功績倍率法」に基づき損金算入が認められます。

M&Aにおける譲渡対価の最適化は、売り手経営者にとって極めて重要な課題です。特に、役員退職金スキームの活用は、手取り額を最大化するための有効な戦略の一つとして注目されています。本記事では、この役員退職金スキームの基本から、メリット・デメリット、そして税務上の注意点まで、M&A支援の実績豊富な日本財務戦略センター(JFSC)の視点から詳しく解説します。

M&Aにおける役員退職金とは?その税務上の仕組みを解説

役員退職金は、役員が退職する際に支払われる費用です。M&Aにおける譲渡対価の最適化において、この役員退職金の活用は重要な戦略の一つとなります。

税務上、役員退職金は最終報酬月額×勤続年数×功績倍率という「功績倍率法」に基づいて損金算入が認められます。功績倍率は役員の職責や貢献度合いを評価する指標で、一般的に代表取締役は3.0、平取締役は2.0が目安とされます。この功績倍率の考え方は、昭和55年の東京地裁判決などをもとに判断されており、国税庁が明文化した確定的な基準ではない点に留意が必要です。

役員退職金スキームのメリットと手取り最大化の具体例

中小M&Aガイドラインでも言及されるように、M&Aの譲渡対価の一部を役員退職金として支払うケースは多々あります。これは、売り手側が代表取締役を兼ねていることが多く、退職金とすることで税制上の優遇措置(退職所得控除)を利用できるため、総額を株式譲渡のみで受け取るよりも手取り額が増える可能性が高いからです。買い手側からしても、役員退職金は損金算入できるため、税務上のメリットを享受できます。

【手取り額最大化の具体例】
譲渡対価2,000万円、資本金500万円、代表取締役(最終報酬月額66.67万円、勤続10年、功績倍率3.0)1名の法人を想定します。適正退職金目安は約2,000万円。

この例では、役員退職金スキームの活用により、手取り額が約139.7万円(約8.2%)増加します。JFSCが支援した地方製造業のM&A案件では、より複雑な条件の下で約15%の増加を実現した実績もございます。

役員退職金スキームのデメリットと税務リスク回避策

最大のデメリットは、税務調査において役員退職金が損金算入を認められない可能性があることです。過去には、退職後も実質的な経営権を保持していたと見なされ、役員退職金が役員賞与と認定され、多額の追徴課税が発生した事例も報告されています。

特にM&A後も売り手経営者が会社に残留する場合、経営上の主要な地位から外れていないと、役員退職金ではなく役員賞与と見なされ、損金不算入・源泉徴収漏れが発生し、売り手側も給与所得として課税対象とされてしまいます。

このリスクを回避するためには、会社法上の地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると外見的にわかる状況にしておくことが極めて重要です。具体的なチェックリストは以下の通りです。

また、退職金として支払う現金を対象会社が保有していない場合、買い手からの貸付けなど、テクニカルな対応が必要になることがあります。これらの課題解決には、M&Aアドバイザー(JFSC)と顧問税理士との綿密な連携が不可欠です。

M&Aプロセスにおける役員退職金検討の最適なタイミングと準備

役員退職金スキームは、M&Aプロセスの比較的早い段階、具体的には基本合意契約(基本合意書(LOI))締結前後のスキーム検討フェーズで議論を開始することが理想的です。この段階で、売り手経営者のM&A後の関与意向、退職金規程の有無、会社の財務状況(退職金支払いの原資)などを確認します。

必要な資料としては、役員報酬履歴、勤続年数、退職金規程(あれば)、過去の株主総会議事録などが挙げられます。これらの情報を基に、M&Aアドバイザー(JFSC)、顧問税理士弁護士が連携し、最適なスキームを検討します。

国税庁通達から読み解く役員退職金の税務要件(一次ソース解説)

国税庁の法人税基本通達には、役員退職金の損金算入に関する詳細な規定が示されています。M&A実務において特に重要となるのは、以下の点です。

これらの通達内容を正確に理解し、適用するためには、専門家である税理士との綿密な協議が不可欠です。JFSCは、M&Aプロセス全体を通じて、資金調達戦略からスキーム設計、税務・法務面の調整まで一貫してサポートし、お客様の利益最大化に貢献します。

よくあるご質問

M&Aで役員退職金スキームを利用する最大のメリットは何ですか?

最大のメリットは、売り手経営者の手取り額を最大化できる点です。株式譲渡所得に比べて、退職所得には「退職所得控除」が適用されるため、税負担を大幅に軽減し、結果として受け取る金額を増やすことが可能になります。

役員退職金が税務上否認されるリスクを避けるにはどうすれば良いですか?

税務否認リスクを避けるには、「退職の実態」を明確にすることが重要です。具体的には、M&A後に役職や職務内容を激変させ、報酬を大幅に減額するなど、実質的に退職したと認められる状況を整える必要があります。顧問税理士との連携が不可欠です。

M&Aで役員退職金を検討する際、いつ専門家に相談すべきですか?

役員退職金スキームの検討は、M&Aプロセスの比較的早い段階、具体的には基本合意契約(LOI)締結前後のスキーム検討フェーズで開始することが理想的です。M&Aアドバイザー、顧問税理士、弁護士と早期に連携し、最適な設計を進めましょう。

公開日: 2021年7月9日 / 最終更新日: 2026年5月22日
五十嵐 悠一

執筆者

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役

京都大学経済学部経営学科卒業。株式会社損害保険ジャパン本店営業部、東証上場M&A仲介会社を経て、2020年5月に日本財務戦略センターを設立。中小企業のM&A仲介・事業承継支援を専門とし、医療・介護・食品製造・流通卸・機械製造分野の成約実績を持つ。

資格:プロフェッショナルCFO(日本CFO協会)/M&Aエキスパート(金融業務2級 事業承継・M&Aコース)

公的登録:中小企業庁 M&A支援機関 登録事業者/一般社団法人 M&A支援機関協会 正会員

メディア登壇:株式会社サイゾー Business Journal ウェブセミナー講師「【売り手向け】M&Aを成功させるための具体的な行動・プロセス・知識」(2022年6月)[公式告知]

専門家コラム寄稿:BATONZ(国内最大級M&A プラットフォーム)に M&A・事業承継 74本(2021年〜継続)[コラム一覧]

|LinkedIn|X (@jfsc2020)|BATONZ

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件における法務・税務・会計判断を提供するものではありません。法務・税務・会計の個別判断は、弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。M&Aのスキーム設計・タイミング・買い手探し等のアドバイザリーは、株式会社日本財務戦略センターにご相談ください。記載内容は公開時点の情報に基づき、法令改正や市場変動により最新の状況と異なる場合があります。

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よくあるご質問(FAQ)

この章のポイント
日本財務戦略センターへのご相談に関する共通の10問と、本記事に関する0問の計10問。
共通Q1. 日本財務戦略センターはどのような会社ですか?
A. 株式会社日本財務戦略センター(JFSC)は、中小企業オーナーの M&A・事業承継を「自分事として最後まで完結する」ためのご相談先です。仲介の独断ではなく、売り手の判断材料を整える立場を貫いています。会社概要もご覧ください。
共通Q2. 相談したら、必ず M&A しなければいけませんか?
A. いいえ、ご相談のみで結構です。相談後に「今回は見送ります」と判断いただいても問題ありません。M&A 以外の選択肢(廃業・親族承継・事業再生)も含めてご一緒に整理します。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。
共通Q3. 相談料・着手金は発生しますか?
A. 初回相談・簡易査定・進行中の段階まで、すべて無料です。日本財務戦略センターは完全成功報酬制を採用しており、M&A 成約時のみご報酬が発生します。着手金・中間金・月額顧問料は一切いただきません。なお、案件特性により外部専門家への依頼や登記等の実費(例:司法書士の登記費用、外部監査法人による資産査定、譲受企業側からの弁護士・公認会計士による DD 費用 等)が発生する場合は、必ず事前にご相談・ご同意のうえ進めますので、不意の費用負担は生じません。詳細は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q4. 一般的な M&A 仲介会社と、どこが違いますか?利益相反はどう開示されますか?
A. M&A 仲介は売主・買主の双方から報酬を得る「両手仲介」が業界慣行で、構造的な利益相反のリスクがあります。そのうえで、業界には「誘い込む仲介」と「公開する仲介」の二類型があると当社は考えています。日本財務戦略センターは後者の立場で、契約締結時に重要事項説明書を交付し、両手仲介の構造を含めて文書でご説明したうえで、売り手の判断材料となる情報を整え、買い手の都合で交渉を急がせない姿勢を貫きます。これは経済産業省・中小企業庁中小 M&A ガイドライン第 3 版・2024 年 8 月改訂、手数料算定基準の開示・買い手信用調査等を留意事項として明示)に則った対応です。二類型化の根拠は弊社独自の業界 20 社研究レポート、構造論の詳細は仲介契約 vs FA 契約の構造分析もご参照ください。
共通Q5. どれくらいの規模から相談できますか?
A. 年商数千万円規模の小規模事業から、数億円規模まで対応します。業界の多くの仲介会社では最低手数料を 2,000 万円以上に設定している傾向で、各社の最低手数料は中小企業庁M&A 支援機関登録制度・登録情報で確認いただけます。日本財務戦略センターの最低手数料は 700 万円で、小規模案件もお引き受けしています。具体的な報酬構造は弊社の報酬体系をご確認ください。
共通Q6. 税金・法律のことを詳しく教えてもらえますか?
A. 税務・法務は税理士法・弁護士法により、具体的な提案は弁護士・税理士等の専門家のみが行えます。当社は業界慣行の一般論をご説明した上で、顧問の先生方にご確認いただく形でご案内します。必要に応じて専門家ネットワークのご紹介も無料で行っています。
共通Q7. 家族や従業員に知られたくないのですが、可能ですか?
A. ご相談段階から NDA(秘密保持契約)を締結し、徹底管理します。社名を公開せずに買い手候補へ打診する「ノンネーム打診」の進め方も可能です。守秘義務体制については情報管理ポリシーでご確認いただけます。
共通Q8. 成約までどれくらいの期間がかかりますか?
A. 標準的には 3〜6 ヶ月程度を目安としてお考えください。買い手候補と事前に綿密な調整を行い、売主オーナー様のペースで進行します。スピード優先で売主の利益を損なう進め方は致しませんが、売主オーナー様のご事情・ご要望に応じて、最短 60 日での成約実績もございます。
共通Q9. デューデリジェンス(DD)では、どのような立場をとりますか?
A. 日本財務戦略センターは、売主オーナー様の利益を最優先に検討する立場を貫きます。仲介業の構造的な利益相反論点については仲介契約 vs FA 契約の構造分析で詳述しており、DD 費用負担の判例実務は東京地裁 DD 費用判決の射程でご確認いただけます。必要に応じて第三者の公認会計士・弁護士・税理士等の専門家をご紹介し、買い手寄りに偏らない査定体制を整えます。中小企業庁中小 M&A ガイドラインの遵守事項に則り、適切な情報開示を行います。
共通Q10. 対応エリアは限られますか?
A. 全国対応可能です。首都圏はもちろん、各地方都市でもご相談実績があります。オンライン面談と現地訪問を組み合わせ、所在地を問わず売主様のペースで進行します。まずは所在地を問わない無料相談をご利用ください。

📅 本記事の情報基準日

本記事は 2021年7月9日 公開時点の情報に基づきます。税制・法令等は改正される場合があるため、最新の制度・税制は公的機関の公式情報をご確認ください。

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