公開日:2022年11月7日 /最終更新日:2024年7月24日
「私的整理円滑化法」法案策定公表
10月27日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定)において、「コロナ後に向けた我が国企業の事業再構築を容易にするため、新たな事業再構築のための法制度について検討し、早期に国会に提出する。」との内閣官房からリリースが出ました。新たな事業再構築のための私的整理円滑化法案の国会提出に向けて検討を行うとのことです。
以前、私的整理ガイドラインに関するコラムでも触れましたが、従来は私的整理を行うには債権者全員の同意が必要で、合意が得られないとなかなか進められないという問題がありました。
そのためガイドラインでより私的整理をしやすくする方向性が提示されましたが、あくまでもガイドラインであるため法的拘束力がありませんでした。
今回、債権者全員の同意を得なくとも以下の通り債権者の多数が同意した場合、私的整理に進むことができるように法整備を行うという趣旨です。
「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」より抜粋
対象債権者集会における再構築計画案の決議
○指定法人は、(ア)の確認後、対象債権者集会を招集・主宰し、手続や決議の適法性・公正性を監督する。また、再構築計画案の法令適合性等を調査し、報告書を作成する(決議前に債権者に提供する)。
○事業者による対象債権者に対する情報提供及び債権者の対象債権者集会における意見陳述の機会を与え、再構築計画案を対象債権者の多数決(例えば、総議決権の2/3以上の議決権を有する対象債権者の同意)で可決できることとする。
法制化の背景
欧米ではコロナから開始後1年経過した時点で融資額が減少しているのに対し、先日のコラムでもお知らせしましたが、おそらく最後のゼロゼロ融資が行われるなど融資の拡大が継続しています。
他方、債務の過剰感については30%を超える中小企業が過剰と答えています。
さらには33%の中小企業が事業再構築への負担があると答えていることから、政府も私的整理へ誘導することで債務整理を行い、再編を進めていこうと考えているのではないでしょうか。
ここで思い出してほしいのは経営者保証についての説明義務の法制化や、ゼロゼロ融資借り換えの条件として金融機関との協議が盛り込まれていました。
これらは以前コラムでも紹介した各種ガイドラインの強制力をより強くしたとも言え、今回の法制化もその流れの一環であると言えます。
逆に言うと、今まで政府が出してきた各種ガイドラインは「新しい資本主義」の下、法制化に進んでいくと考えられます。
今後の流れは?
政府の問題意識が過剰債務とその処理であるとすると、前回もお伝えしましたが、金融機関に当事者意識を促し、私的整理も視野に経営に関与させていくことだと考えられます。
(詳しくは「最新「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」についての解説」をご確認ください)
とはいえゼロゼロ融資の私的整理で単純な債権放棄を行うと国民負担に対する議論が起きる可能性があるため、再建が難しい案件はDESを行い、REVICなどの管理になる可能性は高いでしょう。
この話を取り上げているM&AOnlineの記事では抜本的な解決につながらないのではないかと以下の通り締めくくられています。
再生か延命か、諸刃の剣となる難しさも
金融機関に債務免除を求めても、一部の金融機関の同意を得られず再生の道を閉ざされた企業は少なくない。半面、抜本的な財務体質が改善されないまま条件を緩めても延命にしかならないとの指摘も根強い。コロナ禍や物価高騰の影響で債務超過に苦しむ中小企業は多いが、多数決決議で反対した対象債権者にも配慮する適切な仕組みづくりが求められる。
ただ個人的には少し違う意見を持っています。
今回、政府が想定しているフローは多数決で私的整理に進む場合、裁判所が最終的に再構築計画案を認可するか判断します。
逆に言うと裁判所で決裂した場合、債権者間の利害が不一致ということが顕在化するため、破産の申し立てなど次のステップに進みやすくなるのではないでしょうか。
私的整理の申し立ての入り口が広がる分、破綻へ進む数も増えるという認識です。
より言うなら、事業再構築案が立てられない企業については私的整理が受け入れられる可能性が低いため、選択肢が限られてくるのは間違いありません。
自社で何がどこまでできるのかを冷静に見極めることが必要なのかもしれません。
ゼロゼロ融資の終焉とその後
最新「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」についての解説
企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)
事業承継時の「経営者保証に関するガイドライン」の特則
「経営者保証に関するガイドライン」とは
<金融機関の視点から見る>ポストコロナを見据えた救済型M&Aについて
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