【解説!】事業承継時に焦点を当てた 「経営者保証に関するガイドライン」の特則について

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公開日:2021年3月31日 /最終更新日:2021年6月25日

「事業承継時に焦点を当てた 『経営者保証に関するガイドライン』の特則」とは

中小企業が第三者に対して事業承継を行うにあたりネックとなるものが、現代表個人で連帯保証を行っている債務の存在でしょう。
多くの中小企業では運転資金や設備投資などの借入れに自宅を担保に入れたり、個人で連帯保証を行っていることが多いと思います。
創業者や二代目三代目経営者であればリターンのためにリスクを取ったり、家業・祖業という事で債務を継承するという事も多いと思いますが、従業員や第三者である場合、同等のリスクを取ることに躊躇してしまうことはままあるでしょう。
それにより事業承継が円滑に進まないのであれば産業界の損失につながります。
そのため国は以下の趣旨で中小企業の活力を阻害している要因を取り除くため、中小企業庁と金融庁の後押しで、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が事務局として、経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際の「中小企業、経営者および金融機関共通の自主的なルール」として策定・公表されたガイドラインを作成しましたが、今回は新たに令和元年に別途出された、事業承継に関するガイドラインの特則について検討してみたいと思います。

中小企業の経営者による個人保証には、資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっている等、中小企業の活力を阻害する面もあり、個人保証の契約時および保証債務の整理時等において様々な課題が存在しております。
この「経営者保証に関するガイドライン」は、それらの課題に対する解決策の方向性を取りまとめたものです。

「事業承継時に焦点を当てた 『経営者保証に関するガイドライン』の特則」

この特則を見てみると冒頭から「目的として『成長戦略実行計画』(令和元年6月21日閣議決定)では、中小企業の生産性を高め、地域経済にも貢献するという好循環を促すための施策として、経営者保証が事業承継の阻害要因とならないよう、原則として前経営者、後継者の双方からの二重徴求を行わないことなどを盛り込んだガイドラインの特則策定が明記された」

とあるように、前経営者と後継者から二重徴求を行わないよう要請しています。
これも当事者からしてみたらもっともな話で、前経営者としては会社を手放すのに、引き続き経営者保証に入るように求められたらリスクだけ残ってしまいます。
また二重徴求を求めるケースも、前経営者に貸付けがされていたり、後継者に対しても貸付けや資産移転が行われているなどのような、経営者と法人が同一視される場合について言及しています。
逆に前経営者後継者双方から二重徴求を申し出された場合は債権者(銀行)から必要性について説明し、債務者側から書面で申し入れがあった場合にのみ認めるなど、債権者の一方的な優越的な地位の濫用を戒めるような記載があることも注視すべきでしょう。

経営者保証を引き継がせることで事業承継が頓挫しないようにする、という事も記載していますね。
なおここで頻繁に出てくるガイドライン4項の1及び2を抜粋します。
(ガイドライン自体についてはまた別途、項を設けて検討します)

4.経営者保証に依存しない融資の一層の促進
経営者保証に依存しない融資の一層の促進のため、主たる債務者、保証人及び対象債権者は、それぞれ、次の対応に努めるものとする。
(1)主たる債務者及び保証人における対応
主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、まずは、以下のような経営状況であることが求められる。
① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。
② 財務基盤の強化
経営者保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
③ 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。
なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。
また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。

(2)対象債権者における対応
対象債権者は、停止条件又は解除条件付保証契約、ABL、金利の一定の上乗せ等の経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図ることとする。
また、法人個人の一体性の解消等が図られている、あるいは、解消等を図ろうとしている主たる債務者が資金調達を要請した場合において、主たる債務者において以下のような要件が将来に亘って充足すると見込まれるときは、主たる債務者の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性、上記のような代替的な融資手法を活用する可能性について、主たる債務者の意向も踏まえた上で、検討する。
イ) 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
ロ) 法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
ハ) 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
ニ) 法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
ホ) 経営者等から十分な物的担保の提供がある。

5 このガイドラインは中小企業の経営者(及びこれに準ずる者)による保証を主たる対象としているが、財務内容その他の経営の状況を総合的に判断して、通常考えられるリスク許容額を超える融資の依頼がある場合であって、当該事業の協力者や支援者からそのような融資に対して積極的に保証の申し出があった場合等、いわゆる第三者による保証について除外するものではない。
また、こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。
6 停止条件付保証契約とは主たる債務者が特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約であり、解除条件付保証契約とは主たる債務者が特約条項(コベナンツ)を充足する場合は保証債務が効力を失う保証契約である。
7 Asset Based Lending 流動資産担保融資

 

上記を概観すると、債務者(譲渡法人)にある程度収益性や資産があり、経営者と分離してきちんと稼働していることが必要になると判断されます。
もっと言えば、事業の継続性や分離が後継者でも図れるのか(逆に後継者なら事業継続の蓋然性が上がるのか)という点は論点になってくると考えられます。
その意味では実績のある後継者であるほど望ましい(実績を出している企業への承継の方が債権者である銀行も納得しやすい)のではないでしょうか。

 

債務超過企業の事業承継の場合

逆に譲渡を検討している法人が債務超過の場合、単にM&Aで経営者を切り替える、という事だけで経営者保証を切り離すのは難しいかもしれません。
M&Aの相手が連帯保証を切り替えられるような資産の大きい企業であれば、上記の論点については解消されるので前経営者の個人保証を外せる可能性は高いと思います。
そうではない場合、事業再生(企業再生)と絡めたM&Aも検討する必要があるでしょう。
もちろん現経営者にとって一番いいのは個人保証から切り離され、大手の資本が会社を引き継ぎ、立て直してくれることでしょう。
しかし債務超過企業の場合、会社が存続している間に相手が出てくるかどうか、という事が一つの論点となってきます。
なぜなら追加融資が難しいことが多いので、資金繰りが出来なくなるまでをタイムリミットとして、逆算しながら今後について検討する必要があると考えられるからです。
そのため、M&Aを検討できる先を迅速に探しつつ、どこかで方針を転換するタイミングを区切り、事業再生(企業再生)を行い、個人資産を残しながら会社を残していく、という事を考える必要も出てくるでしょう。

なお弊社では上記のような一般的な事業承継の他、事業再生も絡めたM&Aも行っているため、どちらの対応も可能です(同時対応も可能です)。
債務超過がネックで事業承継ができないという法人様もご利用しやすいシステムとしておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 

事業承継時に焦点を当てた
「経営者保証に関するガイドライン」の特則

 

1.はじめに
◼ 特則策定の趣旨・目的
◼ 特則の位置付け

2.対象債権者における対応
(1)前経営者、後継者の双方との保証契約
(2)後継者との保証契約
(3)前経営者との保証契約
(4)債務者への説明内容
(5)内部規程等による手続の整備

3.主たる債務者及び保証人における対応
(1)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
(2)財務基盤の強化
(3)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

4.その他

1.はじめに
◼ 経営者保証の取扱いについては、平成26年2月の「経営者保証に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)の運用開始以降5年余りが経過した中、新規融資に占める無保証融資等の割合の上昇、事業承継時に前経営者、後継者の双方から二重に保証を求める(以下「二重徴求」1という。) 割合の低下など、経営者保証に依存しない融資の拡大に向けて取組みが進んできたところである。
◼ ただし、事業承継に際しては、経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが一定程度あることが指摘されるなど、課題が残されている。
◼ この点、ガイドラインが主たる対象とする中小企業・小規模事業者(以下「中小企業」という。)を取り巻く最近の状況をみると、経営者の高齢化が一段と進む下で、休廃業・解散件数が年々増加傾向にある。更には、その予備軍である後継者未定企業も多数存在する中、このまま後継者不在により事業承継を断念し、廃業する企業が一段と増加すれば、地域経済の持続的な 発展にとって支障をきたすことになりかねない点が懸念されている。
◼ このため、「成長戦略実行計画」(令和元年6月21日閣議決定)では、中小企業の生産性を高め、地域経済にも貢献するという好循環を促すための施策として、経営者保証が事業承継の阻害要因とならないよう、原則として前経営者、後継者の双方からの二重徴求を行わないことなどを盛り込んだガ イドラインの特則策定が明記された。
◼ 以上を踏まえ、本特則は、ガイドラインを補完するものとして、主たる債務者、保証人及び対象債権者のそれぞれに対して、事業承継に際して求め、期待される具体的な取扱いを定めたものである 2。
◼ 本特則が、主たる債務者、保証人及び対象債権者において広く活用され、経営者保証に依存しない融資の一層の実現に向けた取組みが進むことで、円滑な事業承継が行われることが期待される。

 

2.対象債権者における対応
◼ 事業承継時の経営者保証の取扱いについては、原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないこととし、後継者との保証契約に当たっては経営者保証が事業承継の阻害要因となり得る点を十分に考慮し保証 の必要性を慎重かつ柔軟に判断すること、前経営者との保証契約について は、前経営者がいわゆる第三者となる可能性があることを踏まえて保証解除に向けて適切に見直しを行うことが必要である。
◼ また、こうした判断を行うに当たっては、ガイドライン第4項(2)に即し て検討しつつ、経営者保証の意味(規律付けの具体的な意味や実際の効果、保全としての価値)を十分に考慮し、合理的かつ納得性のある対応を行うことが求められる。

(1)前経営者、後継者の双方との保証契約
◼ 原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないこととし、例外的に二重に保証を求めることが真に必要な場合には、その理由や保証が提供されない場合の融資条件等について、前経営者、後継者の双方に十分説明し、理解を得ることとする。例外的に二重徴求が許容される事例としては、以下の通りである。
①前経営者が死亡し、相続確定までの間、亡くなった前経営者の保証を解除せずに後継者から保証を求める場合など、事務手続完了後に前経営者等の保証解除が予定されている中で、一時的に二重徴求となる場合
②前経営者が引退等により経営権・支配権を有しなくなり、本特則第2項(2)に基づいて後継者に経営者保証を求めることが止むを得ないと判断された場合において、法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、当該債権が返済されない場合に法人の債務返済能力を著しく毀損するなど、前経営者に対する保証を解除することが著しく公平性を欠くことを理由として、後継者が前経営者の保証を解除しないことを求めている場合
③金融支援(主たる債務者にとって有利な条件変更を伴うもの)を実施している先、又は元金等の返済が事実上延滞している先であって、前経営者から後継者への多額の資産等の移転が行われている、又は法人から前経営者と後継者の双方に対し多額の貸付金等の債権が残存しているなどの特段の理由により、当初見込んでいた経営者保証の効果が大きく損なわれるために、前経営者と後継者の双方から保証を求めなければ、金融支援を継続することが困難となる場合
④前経営者、後継者の双方から、専ら自らの事情により保証提供の申し出があり、本特則上の二重徴求の取扱いを十分説明したものの、申し出の意向が変わらない場合(自署・押印された書面の提出を受けるなどにより、対象債権者から要求されたものではないことが必要)
◼ なお、対象債権者は、事業承継時に乗じた安易な保全強化や上記の例外的に 二重徴求が許容される事例の拡大解釈による二重徴求を行わないようにする必要があり、事業承継を機に単に単独代表から複数代表になったことや、代表権は後継者に移転したものの、株式の大半は前経営者が保有しているといったことのみで二重徴求を判断することのないよう留意する必要がある。
◼ また、本特則策定以降、新たに二重に保証を求めた場合や既に二重徴求となっている場合には、二重徴求となった個別の背景を考慮し、一定期間ごと又はその背景に応じたタイミングで、安易に二重徴求が継続しないよう、適切に管理・見直しを行うことも必要である。

(2)後継者との保証契約
◼ 後継者に対し経営者保証を求めることは事業承継の阻害要因になり得ることから、後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、ガイドライン第4項(2)に即して、保証契約の必要性を改めて検討するとともに、事業承継に与える影響も十分考慮し、慎重に判断することが求められる。
◼ 具体的には、経営者保証を求めることにより事業承継が頓挫する可能性や、 これによる地域経済の持続的な発展、金融機関自身の経営基盤への影響などを考慮し、ガイドライン第4項(2)の要件の多くを満たしていない場合 でも、総合的な判断として経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討することが求められる。
◼ また、こうした判断を行う際には、以下の点も踏まえて検討を行うことが求められる。
① 主たる債務者との継続的なリレーションとそれに基づく事業性評価や、事業承継に向けて主たる債務者が作成する事業承継計画や事業計画の内容、成長可能性を考慮すること
② 規律付けの観点から対象債権者に対する報告義務等を条件とする停止条件付保証契約 3等の代替的な融資手法を活用すること
③ 外部専門家や公的支援機関による検証や支援を受け、ガイドライン第4項(2)の要件充足に向けて改善に取り組んでいる主たる債務者については、検証結果や改善計画の内容と実現見通しを考慮すること
④ 「経営者保証コーディネーター」4によるガイドライン第4項(2)を踏まえた確認を受けた中小企業については、その確認結果を十分に踏まえること
◼ こうした検討を行った結果、後継者に経営者保証を求めることが止むを得 ないと判断された場合、以下の対応について検討を行うことが求められる。
⑤ 資金使途に応じて保証の必要性や適切な保証金額の設定を検討すること(例えば、正常運転資金や保全が効いた設備投資資金を除いた資金に限定した保証金額の設定等)
⑥ 規律付けの観点や財務状況が改善した場合に保証債務の効力を失うこと等を条件とする解除条件付保証契約 5等の代替的な融資手法を活用すること
⑦ 主たる債務者の意向を踏まえ、事業承継の段階において、一定の要件を満たす中小企業については、その経営者を含めて保証人を徴求しない信用保証制度 6を活用すること
⑧ 主たる債務者が事業承継時に経営者保証を不要とする政府系金融機関の融資制度 7の利用を要望する場合には、その意向を尊重して、真摯に対応すること

(3)前経営者との保証契約
◼ 前経営者は、実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性がある。令和2年4月1日からの改正民法の施行により、第三者保証の利用が制限されることや、金融機関においては、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣 行の確立が求められていることを踏まえて、保証契約の適切な見直しを検討することが求められる。
◼ 保証契約の見直しを検討した上で、前経営者に対して引き続き保証契約を求める場合には、前経営者の株式保有状況(議決権の過半数を保有しているか等)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状 況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案して、保証の必要性を慎重に検討することが必要である。特に、取締役等の役員ではなく、議決権の過半数を有する株主等でもない前経営者に対し、止むを得ず保証の継続を求める場合には、より慎重な検討が求められる。
◼ また、本特則第2項(4)のとおり、具体的に説明することが必要であるほか、前経営者の経営関与の状況等、個別の背景等を考慮し、一定期間ごと又 はその背景等に応じた必要なタイミングで、保証契約の見直しを行うこと が求められる(根保証契約についても同様)。

(4)債務者への説明内容
◼ 主たる債務者への説明に当たっては、対象債権者が制定する基準等を踏まえ、ガイドライン第4項(2)の各要件に掲げられている要素(外部専門家や経営者保証コーディネーターの検証・確認結果を得ている場合はその内容を含む)のどの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるかなど、事業承継を契機とする保証解除に向けた必要な取組みについて、主たる債務者の状況に応じて個別・具体的に説明することが求められる。特に、ハ)で定める法人の資産・収益力については、可能な限り定量的な目線を示すことが望ま しい。
◼ また、金融仲介機能の発揮の観点から、事業承継を控えた主たる債務者に対して、早期に経営者保証の提供有無を含めた対応を検討するよう促すこと で、円滑な事業承継を支援することが望ましい。
◼ 更に、保証債務を整理する場合であっても、ガイドラインに基づくと、一定期間の生計費に相当する額や華美ではない自宅等について、保証債務履行 時の残存資産に含めることが可能であることについても説明することが求 められる。

(5)内部規程等による手続の整備
◼ 本特則第2項(1)から(4)に沿った対応ができるよう、社内規程やマニュアル等を整備し、職員に対して周知することが求められる。
◼ なお、社内規程等の整備に当たっては、原則として前経営者、後継者の双方からの二重徴求を行わない、経営者保証に依存しない融資を一層推進するとの考えの下、経営者保証の徴求を真に必要な場合に限るための対応を担保するためには、具体的な判断基準や手続を定めるなど、工夫した取組みを行うことが望ましい。

3.主たる債務者及び保証人における対応
◼ 主たる債務者及び保証人が経営者保証を提供することなしに事業承継を希望する場合には、まずは、ガイドライン第4項(1)に掲げる経営状態であることが求められる。特に、この要件が未充足である場合には、後継者の負担を軽減させるために、事業承継に先立ち要件を充足するよう主体的に経営改善に取り組むことが必要である。
◼ このため、「事業承継ガイドライン」に記載の事業承継に向けた5つのステップ 8も参照しつつ、事業承継後の取組みも含めて、以下のような対応が求められる。
◼ また、以下の対応を行うに際しては、ガイドライン第4項(1)①に掲げる外部専門家の検証や公的支援機関の支援を活用することも推奨される。

(1)法人と経営者との関係の明確な区分・分離
◼ 経営者は、事業承継の実行(本特則では代表者交代のタイミングをいう。)に先立ち、あるいは経営権・支配権の移行方法・スケジュールを定めた事業承継計画や事業承継前後の事業計画を策定・実行する中で、法人 と経営者との関係の明確な区分・分離を確認した上で、その結果を後継者や対象債権者と共有し、必要に応じて改善に努めることが望ましい。

(2)財務基盤の強化
◼ 事業承継に向けて事業承継計画や事業計画を策定する際に、現経営者と後継者が対象債権者とも対話しつつ、将来の財務基盤の強化に向けた具体的な取組みや目標を検討し、計画に盛り込むことで、対象債権者とも認識を共有する。
◼ また、その際、公的支援機関が提供する支援制度を活用して、外部専門家のアドバイスを受けるなど、計画の実現可能性を高めることも推奨される。

(3)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
◼ 自社の財務状況、事業計画、業績見通し等について、決算書を含めた法人税 等確定申告書一式や試算表、資金繰り表等により、現経営者と後継者が認識 を共有することが必要である。
◼ 対象債権者との間では、望ましい情報開示の内容・頻度について認識を共有するとともに、代表者交代の見通しやそれに伴う経営への影響、ガイドラインの要件充足に向けた取組み等を含めた事業承継計画等について、対象債権者からの情報開示の要請に対して正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を可能な限り早期に開示・説明することが望ましい。
◼ また、外部専門家による情報の検証も活用し、開示した情報の信頼性を高める取組みも推奨される。
◼ 併せて、対象債権者が適切なタイミングで経営者保証の解除を検討できるように、株式の移転や、経営権・支配権の移転等が行われた場合は、速やかに対象債権者に報告することが求められる。
◼ なお、ガイドラインに基づき保証債務の整理を行うと、一定期間の生計費に相当する額や華美ではない自宅等について、保証債務履行時の残存資産 に含めることが可能であり、普段から対象債権者と良好な関係を構築することが重要である。

4.その他
◼ 本特則は、令和2年4月1日から適用することとする。
◼ 本特則に基づく取扱いを円滑に実施するため、主たる債務者、保証人、対象債権者及び行政機関等は、広く周知等が行われるよう所要の態勢整備に 早急に取り組むとともに、本特則の適用に先立ち、各々の準備が整い次第、本特則に即した対応を開始することとする。

<注>
1 本特則における二重徴求とは、同一の金融債権に対して前経営者と後継者の双方から経営者保証を徴求している場合をいい、例えば、代表者交代前の既存の金融債権については前経営者、代表者交代後の新規の金融債権は後継者からのみ保証を徴求している場合は、 二重徴求に該当しない。
2 本特則に定めのない事項については、ガイドライン及び同Q&Aが適用され、本特則における各用語の定義は、特に断りのない限り、ガイドライン及び同Q&Aと同様とする。
3 停止条件付保証契約とは、主たる債務者が特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約をいう。ガイドラインQ&Aでは、特約条項の主な内容として、①役員や株主の変更等の対象債権者への報告義務、②試算表等の財務状況に関 する書類の対象債権者への提出義務、③担保の提供等の行為を行う際に対象債権者の承諾 を必要とする制限条項等、④外部を含めた監査体制の確立等による社内管理体制の報告義 務等、を例示している。
4 「経営者保証コーディネーター」は、中小企業庁の委託事業として令和2年度から開始する「事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家支援スキーム」において、経営者保証がネックで事業承継に課題を抱える中小企業を対象に、①中小企業経営者からの相談受付や周知、②ガイドライン第4項(2)及び本特則の要件を踏まえた「事業承継時判断材料チェックシート」に基づく経営状況の確認(見える化)、③前記②のチェックシートをクリアできない先の経営の磨き上げに向けた公的支援制度の活用、④中小企業経営者が保証解除に向けて取引金融機関と交渉・目線合わせを行う際の専門家(主に中小企業診断士や税理士、弁護士等)の派遣等を行うこととしている。
5 解除条件付保証契約とは、主たる債務者が特約条項(コベナンツ)を充足する場合は保証債務が効力を失う保証契約をいう。ガイドラインQ&Aにおける特約条項の主な内容は、脚注3の①~④を参照。なお、この場合、財務状況の改善をコベナンツとすることも考えられる。

6 本保証制度(「事業承継特別保証制度」)は、保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定する具体的な計画を有し、資産超過である等の財務要件を満たす中小企業に対して、経営者保証が提供されている借入(事業承継前のものに限る。)を借り換えて無保証とするなど、事業承継時に障害となる経営者保証を解除し、事業承継を促進することを企図している。借換えについては、信用保証付借入のみならず、いわゆる「プロパー借入」(他金融機関扱い分も含む。)も対象とする。令和2年度より取扱い開始。
7 例えば、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」が挙げられる。
8 「事業承継ガイドライン」(中小企業庁、平成28年12月)では、事業承継に向けたステップとして、①事業承継に向けた準備の必要性の認識、②経営状況・経営課題等の把握
(見える化)、③事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)、④事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)/M&A等のマッチング実施(社外への引継ぎの場合)、⑤事業承継の実行を定め、計画的な事業承継を促している。

 

 

<事業再生についてはこちらのページも併せてご参考にしてください>

企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)

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