「提携仲介契約から14日間での成約」のプレスリリースに思う、早ければいいの? M&Aの相談から実行までの期間について

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公開日:2024年4月18日 /最終更新日:2024年4月18日

早ければいいのは蕎麦屋の出前だけにしとき? M&A仲介の成約期間について

本日、とあるM&A仲介で掲題のような成約期間の速さに関するプレスリリースが出ました(特定の会社を誹謗中傷するつもりはないので、社名は伏字にしています)。

 ****が、成約期間の最短記録更新を発表した。一般的に成約までの期間は半年から1年ほどかかるとされる。コンサルタントが支援するM&Aにおける成約期間14日というのは、業界でも異例のスピードである。

 

M&A支援業務においては、成約期間が長期間に渡ることが多い。その要因として、中堅・中小企業のM&A業界における案件の進め方があげられる。

現状、中堅・中小企業のM&Aにおいては、1人のコンサルタントが集客・商談・企業評価・資料作成・マッチング・クロージングまでを行うことが一般的である。それによって、1つの工程が完了しないと次の工程に移れないことから、案件の成約期間が長引く傾向にある。

 

圧倒的なスピード感をもった成約が実行出来た要因は、完全分業制によるサービスの提供だ。****では、複数人で各工程を完全分業化することで、同時並行的に社長のニーズや会社の状況のヒアリング、M&Aスキームの立案、企業評価や契約書の作成、クロージング(譲渡を完了させるための具体的な引継ぎ手続きを指す)に必要な資料の作成を行う、といった案件の進め方をすることができ、高いサービスの質を維持しつつも、今回の最短成約に繋がった。

 

案件の成約期間が短いことは、譲渡企業・譲受企業の双方にもメリットが大きい。譲渡した前社長は、「まさかこんなに早く決まるとは。次やりたいと思っている事業にすぐ移行することが出来て、本当に良かったです。」と言う。

また、譲受した新社長からは、「丁寧にことが進んでいたので、安心感をもって進めることが出来ました。日々忙しい中だったので、スピード感があって良かったです。」という声も出た。

 

後継者不在の中堅・中小企業は全国で約53.9%にのぼり、経営者が平均引退年齢である70歳を超える企業は127万社になる。現在のM&A業界では、業界全体で年間4,000件ほどの成約が行われているが、課題解決にはまだまだ数が足りていないというのが現状だ。今後は、業界的にもより早い成約、成約件数の増加が求められる。****のスピード感あるサービスが、後継者不在問題の解決の糸口になるか。期待感が高まる一方だ。

 

これについて以下の通り、M&A仲介界隈がざわついているので解説していきたいと思います。

ドラゴンボール後半みたいに数値が加熱すると、それこそ【成約まで最短24時間】
みたいの出てくるでこれ

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000136427.html

 

 

弊社もウェブ上で掲載しているように最短成約実績は81日とうたっていますが、これはあくまでも参考としてくださいという話であって、必ずしもいいことであるとは思っていません。
なぜならM&Aについては以下説明する通り、最低限の時間がかかるからです。
(そのうえで、81日が遅いといわれるのであれば甘受します)

M&Aに必要な最低限の期間は?

一般論としてM&Aを行うにあたって「最低半年から一年」といわれる理由についてお伝えします。
M&Aでは最低以下の工程が考えられます。
(今回はプレスリリースに倣って簡略化しているところがありますし、弊社でも前後したり双方合意の上で基本合意などを一部省略することもあります)

①売り手株主と仲介会社でアドバイザリー契約書締結
②各種資料提出
③仲介サイドで資料作成
④買い手を探索
⑤買い手とNDA締結し情報開示
⑥買い手とアドバイザリー契約締結しトップ面談調整
⑦買い手から意向表明提出
⑧基本合意締結
⑨買収監査(DD。デューデリジェンス)
⑩譲渡契約書確認→締結
⑪譲渡実行

と、簡単に見たうえでざっと11工程ありますね。
さてここから仲介サイドで簡略化できるところを見てみましょう。
死ぬ気でやって(クオリティは置いておいて)簡略化できるのは、③と双方合意で⑧でしょうか。
後は買い手や売り手の問題があるので(さすがに「明日面談しますからここに来てください」というのは難しいでしょう)、通常の組織の意思決定でやるなら、オーナー企業だっとしても1日ないしは半日など調整でかかると思います。
ましてや上場企業であれば取締役会を経て決議するのでまず無理です(三菱UFJがモルガンスタンレーを買収した事例もあるでしょうが株主からの訴訟などを考えるとあれは例外中の例外でしょう)。
そう考えると頑張って半日でそれぞれやるとしても、どうしても時間が必要な工程は出てくるでしょう。それは…、先ほどの①~⑪で時間をかけても惜しくないもの(仲介次第ですが)、それは④と⑨でしょうか。

早くていいのはラーメン屋の着丼だけ? 買い手と売り手の立場から

買い手と売り手の立場から時間が必要な理由を説明します。
まず売り手から。

それは本当に「相手として妥当」なのか

債務超過で運転資金が大変なことになる…という場合であればともかくですが数学の「秘書問題」という、秘書や結婚相手を探すのにどれくらい面談などをすればいいかという命題でも、最初の一人で決めればいいとは言っておらず、ある程度の母数があった上で、全体から36%くらいの候補者見て最後に一番いいの見て決めろという結論になっています(この辺の証明はリンク先や他のサイトにお任せしますが、ネイピア数は∞が出てくるときに出てくる超越数なので、面白いなと思った方は色々と参考文献読んでみてください。無限を扱うので、利息を考える際に発見された定数です)。
もっと言うなら「最適な相手を見つけるなら1日では足りない」と数学的に言い換えられるのではないでしょうか。
先ほども申し上げたように債務超過などで資金繰りが厳しい場合には否定するものではないものの、1日2日で相手探索が終わった場合、それは買い手と癒着して「決め打ち」されている可能性や、仲介が探索する手間を惜しんで早く手数料を得たいというインセンティブが働いている可能性を念頭に置いたほうがいいかもしれません。

<ご参考>

弊社と連携して頂いているクレジオパートナーズ様が手数料一覧を作成されていますのでそれを先に掲示します(許可をいただいています)。
各社の報酬体系をご念頭に記事を読んでいただくと理解がさらに深まると思います。

それは本当に買っていいのか? 買われていいのか

反対に買い手側(からの売り手側)の目線で見てみましょう。
上場企業の場合、大手法律事務所や公認会計士事務所に買収監査(DD、デューデリジェンス)を行い、2週間~4週間程度かかることは一般的ですし、大型案件ならそれ以上かかることはもちろんあります。
その段階で今回の「最短記録」は超えてしまうと思いますが、仮に上場企業が株主に対して説明するために必要とする一般的な期間をはるかに下回る日数で買収監査を終える場合に考えられることは、かなり性悪説的なことも思いつきます。
今回がそうというわけではないのですが、聞き及ぶ範囲として
・トラブルがあった際に買い手が譲渡契約を反故にする
・仲介が表明補償を盾に譲渡後のトラブルを丸投げする
がまず思いつきます。
であれば、きちんと費用や時間をかけてお互いが納得し、問題が発覚したら法的に解決できる(後ろ指をさされない)ようにした方がリスク管理として適切ですし、そこに時間がかかってしまうのは仕方ないのではないでしょうか。

結論

冒頭申し上げた通り、弊社も最短期間は謳っているものの、売り手サイドの必要性を踏まえたうえで、双方必要な工数を経て成約実行に移行しています。
ただそれをはるかに下回る日数で成約したことについてM&A仲介界隈がざわついたことについては、負け惜しみもあるかもしれませんが、色々と考える必要はあるのかなと思いました。
もちろん資料作成や買い手との調整などで無駄に時間をかけてはいけないのは当然です。
ただそれらを踏まえたうえで、あまりにも現実的ではない話には何かしらあるのではないか、と考えたほうが、長期的にはプラスになるかもしれません。

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