債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)

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公開日:2021年2月27日 /最終更新日:2021年3月1日

債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)について

以前、債務超過企業の企業再生の手段について私案(「債務超過企業の取る経営戦略について(私案)」)を記載しました。
考え方としては前向きではあるものの、実現可能性や実行可能性は低く、頭の体操に過ぎないと考えています。したがって債務超過やそれによって生じる問題を解消する方法としては現実的とは言えないでしょう。
ただしアクセスは多く、債務超過企業の取る経営戦略について、かなりご関心を頂いたことを実感いたしましたし、私もそのような強いご関心に対して真摯に対応する必要があると感じました。
今回はもっと現実的な再生手段である、準則型私的整理手続きを利用した企業再生と、日本財務戦略センターが企業再生についてどう関与していくか、という事を記載したいと思います。

債務超過とは

まずはおさらいです。
「債務超過」とは何を意味しているでしょうか。
また債務超過に陥ってしまうとどのようなデメリットがあるのでしょうか。
以下はウィキペディアからの引用です。

債務超過(さいむちょうか)とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態。つまり、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態である。

法人及び相続財産の破産手続開始の原因並びに株式上場企業における上場廃止の原因である。

反対語は、資産超過企業会計上は、貸借対照表で判断される。

この状態で企業を清算すれば、残余資産がないのだから、株主の取り分がゼロである状態ともいえる。またこのことをもって、清算価値がゼロあるいは理論株価がゼロという表現をすることもある。

概要

銀行などの市中金融機関では、債務超過を新規の貸付ができない条件とすることが多く、特別な事情のない限り、この状態で新たな貸付を期待することは困難である。ただし、貸借対照表には、事業を継続したときの将来の期待収益は織り込まれていないため、債務超過だから事業を継続する価値がないとは言い切れない。たとえば、株価を算定する際に将来のキャッシュ・フロー割引現在価値を用いるDCF法を用いれば、債務超過であっても正の株価が正当になることもありうる。

なお、債務については価額が明白なのに対し、資産については評価額がわかれることがあり、債務超過か否かを完全に客観的に判定することは難しい。とくに、客観的な市場価格のない非上場株式や、農地山林など流動性の低い不動産特許権商標権などの知的財産権については、査定方法によって評価額に大きな幅があることに注意すべきである。

債務超過の原因も色々あると思います。
例えば経営を行っていく中で、在庫の減損や取引先が倒産したため売掛金が回収できなくなった等、一時的に特別損失が発生してしまうことはあると思います。
一過性のものであれば、一時的に債務超過に陥ったとしても、日々のキャッシュフローや利益から資本を蓄積して債務超過の解消を図ることは可能でしょう。
しかし毎年の営業損失の累積で債務超過に転落してしまったという場合、劇的な構造改革を行い、利益の出る体質にしなければ債務超過の解消は困難であると思います。
なぜならバランスシートは今までの経営の結果が反映されているわけですが、毎年マイナスだったものが急激にプラスになるという事は、よほどのことがない限りあり得ないからです。

また毎年のマイナスで債務超過に陥ってしまっている場合、構造転換を行うための資金を銀行から融資してもらうことは極めて困難でしょう。
なぜなら現在に至るまでに運転資金を借りて融資枠を使い切っている可能性がありますし、構造改革のための経営計画の妥当性に疑念を持たれるからです(銀行が今までできなかったことが追加融資でなぜできるのか、と感じるのは仕方がないことだと思います)。
デットでの調達が難しいのであれば、資本等のエクイティ性での調達になりますが、それも実績がなく(もし実績があれば債務超過に陥っていない)、かつ債務超過に陥っており、資本を毀損している会社に資金を入れるというのは、よほどの関係性がない限り、困難だと言わざるを得ないと思います。
そうすると今ある手元資金の中で利益を出すしかありませんが、負債が重くなっていることから、身動きを取ることもままならず、小手先の対応に終始せざるを得なくなっているのではないでしょうか。
このような場合、仮に一時的な市況の変化で増収に転じたとしても、構造的に赤字体質であるため、近い将来またマイナスに陥る可能性が高いと思います(特に日本のように少子高齢化によって縮小していくマーケットの中でしか営業していないのであればなおさら)。

では、恒常的に赤字体質である企業がとる現実的な選択肢はどのようなものがあるのでしょうか。
一般的にはキャッシュが枯渇して倒産するか、その前に自主廃業するという事が挙げられます。ただし左記の選択肢を取った場合、個人で連帯保証に入っているのであれば、家や土地などの抵当権行使をされますし、取引先や従業員に対して迷惑をかけてしまいます。
しかし緩慢に運転資金の枯渇による倒産を待つのではなく、動けるうちに動くことで、会社は存続でき、従業員(全部は無理かもしれませんが例えば半分はそのまま)の雇用が維持され、取引先にも迷惑をかけず、かつ代表者もある程度の資産が保全されるとしたらどうでしょうか。
むしろ積極的にそのような手段も検討し、会社を残して利害関係者を守っていくことも経営者としての責務なのではないでしょうか。
特に家族のように従業員のことを考えてきたのであれば、なおさら働ける環境を積極的に守っていくことも重要であると考えています。

緩慢な死を待つよりも、積極的に動いて今まで築いてきたものを、少しでも残していくことこそ経営の責任の取り方ではないでしょうか。
さて前置きが長くなりましたが、上記のような手段の一つとして、企業再生(事業再生とも)が挙げられます。

企業再生とは

まずは企業再生の定義について簡単におさらいしましょう。
「企業再生とは」で検索すると法律事務所ホームワン様のサイトが出てきましたので引用させていただきます。

企業再生とは、債務超過や赤字収支等の理由で存続が危ぶまれる企業を、その原因を排除し、再生することです。再生手法には、銀行融資のリスケジュール、中小企業再生支援協議会等による私的整理、民事再生、会社更生等の法的整理があります。

今回取り上げるのは上記のうち、中小企業再生支援協議会等による私的整理です(他の再生方法につきましては、以前記載した「企業再生とM&Aについて」をご覧ください)。

私的整理とは

それでは私的整理とは何でしょうか?
私的整理とは「裁判外で債権者と債務者の話し合いにより倒産処理を図る手続き」と定義されています(なおこのようなガイドライン等に則って話し合いを行うことを「準則型」と呼びます)。
裁判で倒産処理を図ることを「法的整理」と呼びますが、私的整理と法的整理の違いはどのようなものがあるのでしょうか。

以下もホームワン様からの引用です。

私的整理のメリット

  • 債権者と債務者の合意を円滑に進めることで、柔軟・迅速な対応が可能。
  • 「倒産企業」のレッテルを貼られることがないため、取引関係や事業価値が毀損されにくい。
  • 事業規模や実態に合わせ、手続きを柔軟に変更したり簡素化したりできる。

私的整理のデメリット

  • 再建計画に反対する債権者がいる場合、その債権者を法的に拘束できない。
  • 裁判所に債務弁済禁止等の保全処分を求める制度がない。

債権者である銀行は守秘義務があるため、裁判所に申立てを行う法的整理と異なり、危機的状況を外部に知られることなく進められる可能性が高いです。
また「何年以内に●●しなければならない」というような、法的整理に求められるような形式要件もないことから、柔軟な再建計画を協議することが可能です。
ただしデメリットにもあるように債権者に対して債務の保全処分を求めることができないことから、無計画に動いてしまうと銀行側が抵当権行使などの保全の手段を取ってしまう可能性があるでしょう。

中小企業再生支援協議会とは

しかしそうすると私的整理ができなければ更生できない債務超過企業は、法的整理か倒産の二択しかなくなってしまいますし、結果として産業界の新陳代謝が進まず、社会的な損失が発生してしまいます。
そこで国は「中小企業再生支援協議会」という公的な支援機関を各都道府県に設置し、私的整理を進めるような体制を取っています。
「私的整理による倒産」と聞くと心理的な負担はあると思いますが、法的・会計的には「債務の減免と引き換えに株主と資本構成を変える」と言い換えることができるでしょう。
国としても中小企業再生支援協議会を通じ、中小企業の再生支援を行い、産業活力の再生及び産業活動の革新を図っていこうとしています。
私的整理において、このような国の支援機関を一つ挟むことで、債権者による優越的地位の濫用が起きず、公平な解決を図っていこうとしているわけですね。

このような制度を利用することで、冒頭申し上げたように、運転資金の枯渇による倒産を待つよりも、積極的に会社を残してい行くことは可能になります。
倒産すれば0どころか個人資産を含めるとマイナスになる可能性もありますが、私的整理が成功すれば会社を存続させることが可能になります。
ただし再生支援協議会も万能ではなく、再建計画に債権者(銀行)が合意しなければなりません。
そのため合意するための納得感のある再建計画が必要になります。
そうでなければ債権者から否認され、場合によっては銀行主導の再建計画がなされ、破綻してしまうこともあるでしょう。

それでは「納得感」を満たすためにはどうしたらいいのでしょうか?
納得感を満たすための要素の一つとして、私的整理後に販路拡大の支援や、当面の運転資金や設備への投資など、営業支援や資本を投下してくれるスポンサーの有無があると思います。
しかし再建計画を立て債権者と交渉している中で、スポンサーまで探すのは現実的には難しいのではないのではないでしょうか。
ただしスポンサー不在であれば、単なる債務の減免にすぎないと思われてしまい、私的整理が合意に至らない可能性も高いでしょう。
あるいは銀行側から意に沿わないスポンサーを押し付けられてしまい、経営者が思っているような再建に至らない可能性もあると思います。

日本財務戦略センターの支援

このような問題点があることを踏まえ、弊社は中小企業の再生支援を行うため、新しいサービスを立ち上げました。
具体的には大手法律事務所(協力事務所:TMI総合法律事務所)と連携し、債務超過に陥った企業(以下、「当該企業」)の再生支援手続を行うほか、並行して債務減免後に支援者となるスポンサーの探索を行います。
当該企業が私的整理が行われる前提でスポンサー企業と資本業務提携を行うことで、再建案の妥当性を高め、私的整理を成功に導きます。

上記のサービスをご利用いただくことで、再建手続きの負荷を軽くすると同時に、弊社を通じて、ご自身の考えている再建プランに協力してくれるスポンサーを「選ぶ」ことが可能になります。
また弁護士もいわゆる街弁ではなく、企業法務を専門に行っている法律事務所において、企業再生を専門にしているプロが対応しますので、再建可能性はご自身で行われるよりさらに高くなると考えております。
またこういったサービスの場合、費用負担のご懸念があるかと思いますが、スポンサー企業が入ることで、単独で費用負担を行うよりも安価に利用できるようにするスキームを採用しております。

運転資金が枯渇して倒産するというような緩慢な死を待つより、動ける間に積極的に動くことで、今まで培ってきた会社のブランドを活かし、取引先や従業員を守り、ご自身のポジションも確保していくというのであれば、それは国も認めている経済合理性のある手段の一つだと思いますし、経営責任の取り方ではないでしょうか。
弊社はそのように考えに共感していただける経営者を、徹底的に支援します。
本件につきましてご興味ある方はお気軽にお問い合わせください。

<ご参考:wikipediaより引用
TMI総合法律事務所:https://www.tmi.gr.jp/

組合としてのTMI総合法律事務所と弁護士法人としての弁護士法人TMIパートナーズの共同事業。
企業法務及び知的財産法務を中心とする総合法律事務所であり、弁護士数においては日本に所在する弁護士事務所の中で現在4番目の規模である。多数の弁理士を擁するのが特徴である。

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