<金融機関の視点から見る>ポストコロナを見据えた救済型M&Aについて

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公開日:2022年1月20日 /最終更新日:2022年1月20日

ポストコロナと救済型M&Aについて

昨年、本コラムでもコロナの第6波が年明けに起きるの可能性がある旨、触れましたが、悪い予想が当たってしまい、全国で感染が爆発しています。
潜伏期間が短く感染力が強いことが特徴ですが、デルタ株と比べると炎症を起こす器官が異なるため、重症に至る可能性は低いようですが、死亡例が発生していること、軽症者もかなり苦しいようなので、皆様、第6波が収まるまでお気を付けください。

さて「事業再生と債権管理」という季刊誌が一般社団法人金融財政事情研究会より季刊されており、銀行員の対談や弁護士など専門家が実務の手続きなどについて論じており、毎号楽しく読まさせていただいています。
銀行員の対談についても今まではコロナ対策や倒産動向などについての論点が多いように思えましたが、最近はコロナ後を見据えた経営の進め方についてが論点となってきている印象です。
今回は金融機関の行員がどのようにコロナ禍の企業を見て、今後についてどう考えているのかについて触れてみたいと思います。

貸出先の状況について

現状をどう見ているのかについて、かいつまんで取り上げると、コロナ7業種(宿泊、飲食、生活関連、娯楽+医療・福祉、陸運、小売り)のうち、飲食については郊外型やテイクアウトなどにシフトできていない企業、特に政府からの助成金のウェイトが低くなっている中規模の事業者は大きな影響をいまだ受けていること。
宿泊については稼働率はまだ回復していないが、一部の事業者(高級、個室、部屋付き露天風呂などがある)についてはむしろ売り上げが上がっているという点が指摘されています。

また金融機関の印象も、弊コラムと同様に、コロナで倒産している企業は元々業績が悪い企業がコロナによりとどめを刺されてしまっただけであり、元々業績がよかったところは緊急支援対策などもあって、倒産までには至っていないのではと受け止めているようです。

とはいえ緊急融資によるモラルハザードが起きていること(借り入れる必要がないのに借りている、またその借入れでプロパー融資を返済するなど)や債務が膨張している企業について、緊急支援後に設備投資などへの余力が低下し、「ゾンビ企業」化することについての懸念が示され、出口論戦略について検討が始まっています。

銀行の出口戦略

債務が膨れてしまった企業について金融機関が取り得る支援としては、「債務免除」「期限猶予」「DES(デット・エクイティ・スワップ)」「DDS(デット・デット・スワップ)」が選択肢としてあると示されている中で、金融機関として選択しやすいのはこのうち期限猶予、DDSが挙げられており、債務免除、DESはなかなか選択肢として取りづらい印象を受けます。
理由として、「期限猶予」「DDS」は金融機関からすると債権の条件変更と考えられるのに対し、債務免除は文字通り債権自体を消滅させてしまうことから貸し手としての責任問題が生じてしまう事、DESも検討課題であるとは言われていますが、やはり非公開企業に対してDESを行うとすると、客観的な株価が不明となり、実質的な債務免除と同じような考えになってしまうため中々支援としては取りづらいようです(上場企業では少し事例があるようです)。
元々コロナ前「順調」だった企業は普段より経営努力を行っていたから順調であったわけで、そうでなかったところは経営者に問題が元々あったので、逆に今回の過剰債務を機に経営者の交代を求めていこうと考えているようです。

救済型M&A

その中で「救済型M&A」という概念が提唱されています。

中小企業では経営者は経営者と事業を一体と考える傾向があることから自力再生を行おうと考えることが一般的かと思います。
しかし経営者に事業を進めるための限界がある場合、事業価値が高いうちに経営者を交代させ、事業を再生させるとともに経営者の再チャレンジを図れるようにしなければなりません。
対象企業の債務が過大な場合、銀行からすると債務免除を行っても経営者に問題があれば再カットになる可能性があること、また資本性劣後ローンなどのメザニンでは経営に対してコミットメントできないことから、中々難しいようです。
他方、経営者を交代するにしても、債務が過剰の場合、スポンサーも二の足を踏んでしまうため、そのままの状況では引き受け手がなくなってしまいます。
そのため、金融機関の合意を得たうえで過剰な債務の整理を行いスポンサーがM&Aを行い救済を行う必要がある(「救済型M&A」)と考えられていますが、金融機関から自主的な債務免除が見込めない場合、債務を整理する手段としては法的整理、私的整理の二択となってきます。

法的整理の場合は商事債権も対象に含めてしまうため、取引を停止せざるを得なくなることで、関係者に迷惑をかけてしまいます。
また裁判所が関与することでに社名が公表されてしまうことで、信用問題が生じ、今後の事業継続に対して影響を及ぼしてしまうか可能性が否定できません。
他方、私的整理であれば上記のような問題はないため手段としては望ましいのですが、全員一致の原則があることから、解決までに時間がかかってしまいます。
私的整理にもさまざまな種類がありますが、エリアや金融機関によると前置きがされた上ですが、中小企業再生支援協議会を利用した私的整理のスキームの方が「稟議を上げやすい」という内部事情で選好されているような印象を受けました。

さて上記を踏まえると、コロナ以前から事業が厳しかった経営者がコロナ後を考えると、金融機関との交渉による債務免除は厳しそうです。
金融機関が支援せず、かつ経営者の問題で自力再建が行えないといずれ資金がショートしてしまい破綻してしまいます。
反面、緊急支援で資金ショートのデッドラインが伸びたのであれば、対応を行うための猶予期間ができたことにより、スポンサー探索と中小企業再生支援協議会スキームを含めた救済型M&Aを考えてみるのも一つでしょう。

経営者にとってのメリット

もちろん救済型M&Aを行っても経営者に対してメリットがなければ進める動機が発生しないでしょう。
早期に救済型M&Aを行うことにより債権者へ分配する原資が確保できること、また経営者の下に一定の生活資金を残すことで資産の散逸を図ることができます。
事業性があり時間がある方が事業と経営者の将来を考えてくれるスポンサーが現れる可能性が高くなります。
金融機関が「債権放棄してでもこの会社を残さなければならない」と判断すれば別ですが、そうでなければ廃業する方向に対応がシフトされてしまい、債権をサービサーに譲渡されてしまうことになるでしょう。
その段階に至る前に自発的に動くことが必要なのではないでしょうか。
また資金繰りがひっ迫してくると、会社と経営者との間で資金のやり取りが生じたり、金融機関以外の第三者からの個人的な借り入れが発生してしまうことがあります。
この状況だと全員の合意が必要な私的整理を行おうとしても、特定の債権者(この場合で言うと個人的に借り入れた第三者)に対して頒布弁済を行ってその人にだけ全額返済を行うという事ができないため、私的整理が成立しなくなる可能性があります。
そのまま破綻した場合、借りた人に対しては弁済ができなくなってしまいますし、私的整理ができないことにより他の取引先に迷惑をかけてしまいます。
存続を長引かせることで問題を拡大するよりは、上述したように早めの救済型M&Aを取ることで、経営者と会社の将来を考える相手と一緒になり、一定の資産を手元に確保できる可能性が高まるでしょう。
コロナ前から事業に不安を感じている企業や経営者にとっては、むしろ会社と自分個人の進め方を考えるいい機会になると思います。

なお私的整理などに関する事業再生(企業再生)については以下のコラムも参考にしてください。
弊社では大手法律事務所と救済型M&Aをベースにした企業再生にも取り組んでおりますので、ご関心ある方はお気軽にご相談ください。

企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)
事業承継時の「経営者保証に関するガイドライン」の特則
「経営者保証に関するガイドライン」とは

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