公開日:2021年7月9日 /最終更新日:2024年7月24日
M&A譲渡時の役員退職金について
役員退職金とは
文字通り役員が退職する際に支払われる費用です。
功績倍率法では最終報酬月額×勤続年数×功績倍率が損金算入されます。
功績倍率とは、代表取締役は3.0、平取は2.0、監査役は1.5を目安に、それぞれの役職に応じて損金算入できる金額が変わってきます。
(例えば勤続年数、最終報酬月額が代表取締役と平取が同じでも目安として平取の1.5倍まで損金算入することが認められる、という趣旨です)
二重否定が利用されているため、分かりづらいものの、末尾に国税庁の当該サイトを抜粋しているのでご確認ください。
なお功績倍率については昭和55年5月26日の東京地裁判決(高裁、最高裁で確定)などをもとに判断されているようで、当局が明文化していることでない(確定ではない)ことはご留意頂いたほうがいいと思います。
役員退職金を利用することのメリットデメリット
M&Aの譲渡対価を売り手側に払うに際して、譲渡対価の一部を役員退職金で支払うことがあります。
これは売り手側が代表取締役を兼ねていることが多いこと、また退職金にすることで税制控除枠を使うことができることから総額を株式で譲渡するよりも一部を役員報酬とすることによって手取り額が増えるためです。
また買い手側からしても上記のように役員退職金は損金算入できることから、追加で持ち出しが発生することがないため、広く利用されています。
メリットとしては税制控除枠を最大化できるというところでしょう。
例)
譲渡対価が2,000万円で資本金が500万円の法人。
代表取締役(役員報酬は800万円、勤続年数は10年)1名の会社の場合を考えてみましょう。
この場合、役員退職金として1,500万円支払い、株式を500万円で支払うことで税制控除額が最大化されます。
株式取得コスト(資本金)=譲渡対価となり、退職所得は(1500万円ー40万円×10年)×1/2=550万円となり、所得税率はこの退職所得に対しての課税となるからです。
では逆にデメリットは何があるでしょうか。
デメリットとしてはまずは損金算入が認められない可能性があるという事でしょう(実務上、遭遇したことはありませんが)。
また中小企業M&Aの場合、売り手側が代表取締役であることが多い、という事は先ほどお伝えした通りですが、多くの場合、残留して引き続き経営をやってほしいと言われることが多いです。
その際に経営上の主要な地位から外れていないと、役員退職金ではなく役員賞与と見なされてしまい、損金不算入・源泉徴収漏れが譲渡対象企業で発生し、売り手側においても給与所得と見なされ、課税対象とされてしまいます。
仮に継続して関与してもらうのであれば、役職はもちろん、報酬もそれまでの半額以下にするなど経営から外れているという事が外見的にわかる状況にしておいた方がなお安心でしょう。
また退職金として支払う現金を対象会社が保有していないと成立しないため、買い手から対象会社への貸付けなど、テクニカルな対応が必要になってくることがあります。
税務アドバイスについては顧問税理士とも相談していただく必要がありますが、弊社においても単純な株式譲渡ではないスキームのアドバイスをさせて頂くようにしておりますので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
参照(国税庁サイト)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
第7款 退職給与
(業績連動給与に該当しない退職給与)
9-2-27の2 いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第34条第5項((業績連動給与))に規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同条第1項((役員給与の損金不算入))の規定の適用はないことに留意する。(平29年課法2-17「十二」により追加)
(注) 本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。
(役員に対する退職給与の損金算入の時期)
9-2-28 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「三十二」、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(退職年金の損金算入の時期)
9-2-29 法人が退職した役員又は使用人に対して支給する退職年金は、当該年金を支給すべき時の損金の額に算入すべきものであるから、当該退職した役員又は使用人に係る年金の総額を計算して未払金等に計上した場合においても、当該未払金等に相当する金額を損金の額に算入することはできないことに留意する。(昭55年直法2-8「三十二」、平19年課法2-3「二十二」、平26年課法2-6「三」により改正)
(使用人兼務役員に支給した退職給与)
9-2-30 法人が退職した使用人兼務役員に対して支給すべき退職給与を役員分と使用人分とに区分して支給した場合においても、法第34条第2項《役員給与の損金不算入》の規定の適用については、その合計額によりその支給額が不相当に高額であるかどうかを判定する。(平19年課法2-3「二十二」により改正)
(厚生年金基金からの給付等がある場合)
9-2-31 退職した役員が、その退職した法人から退職給与の支給を受けるほか、既往における使用人兼務役員としての勤務に応ずる厚生年金基金からの給付、確定給付企業年金法第3条第1項《確定給付企業年金の実施》に規定する確定給付企業年金に係る規約(以下この章において「確定給付企業年金規約」という。)に基づく給付、確定拠出年金法第4条第3項《承認の基準等》に規定する企業型年金規約(以下この章において「確定拠出企業型年金規約」という。)に基づく給付又は適格退職年金契約に基づく給付を受ける場合には、当該給付を受ける金額(厚生年金基金からの給付額については、公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第63号)附則第5条第1項《存続厚生年金基金に係る改正前厚生年金保険法等の効力等》の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第1条《厚生年金保険法の一部改正》の規定による改正前の厚生年金保険法(以下この章において「旧効力厚生年金保険法」という。)第132条第2項《年金給付の基準》に掲げる額を超える部分の金額に限る。)をも勘案してその退職給与の額が不相当に高額であるかどうかの判定を行うものとする。(昭51年直法2-39「5」により追加、平2年直法2-6「四」、平15年課法2-7「二十三」、平19年課法2-3「二十二」、平26年課法2-6「三」により改正)
(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
(被合併法人の役員に対する退職給与の損金算入)
9-2-33 合併に際し退職した当該合併に係る被合併法人の役員に支給する退職給与の額が合併承認総会等において確定されない場合において、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、合併の日の前日の属する事業年度において未払金として損金経理したときは、これを認める。(平14年課法2-1「二十」により追加、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(合併法人の役員となった被合併法人の役員等に対する退職給与)
9-2-34 9-2-33は、被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者又は被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対し、合併により支給する退職給与について準用する。(平14年課法2-1「二十」により追加、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(退職給与の打切支給)
9-2-35 法人が、中小企業退職金共済制度又は確定拠出年金制度への移行、定年の延長等に伴い退職給与規程を制定又は改正し、使用人(定年延長の場合にあっては、旧定年に到達した使用人をいう。)に対して退職給与を打切支給した場合において、その支給をしたことにつき相当の理由があり、かつ、その後は既往の在職年数を加味しないこととしているときは、その支給した退職給与の額は、その支給した日の属する事業年度の損金の額に算入する。(昭49年直法2-71「14」、平16年課法2-14「九」、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(注) この場合の打切支給には、法人が退職給与を打切支給したこととしてこれを未払金等に計上した場合は含まれない。
(使用人が役員となった場合の退職給与)
9-2-36 法人の使用人がその法人の役員となった場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となった時に使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、退職給与としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する。(昭55年直法2-8「三十二」、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(注) 9-2-35の(注)は、この取扱いを適用する場合について準用する。
(役員が使用人兼務役員に該当しなくなった場合の退職給与)
9-2-37 使用人兼務役員であった役員が、法第34条第1項《役員給与の損金不算入》に規定する使用人としての職務を有する役員に該当しないこととなった場合において、その使用人兼務役員であった期間に係る退職給与として支給した金額があるときは、たとえその額がその使用人としての職務に対する退職給与の額として計算されているときであっても、その支給した金額は、当該役員に対する給与(退職給与を除く。)とする。
ただし、その退職給与として支給した給与が次の全てに該当するときは、その支給した金額は使用人としての退職給与として取り扱うものとする。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平23年課法2-17「十八」により改正)(1) 当該給与の支給の対象となった者が既往に使用人から使用人兼務役員に昇格した者(その使用人であった期間が相当の期間であるものに限る。)であり、かつ、当該者に対しその昇格をした時にその使用人であった期間に係る退職給与の支給をしていないこと。
(2) 当該給与の額が、使用人としての退職給与規程に基づき、その使用人であった期間及び使用人兼務役員であった期間を通算してその使用人としての職務に対する退職給与として計算されており、かつ、当該退職給与として相当であると認められる金額であること。
(使用人から役員となった者に対する退職給与の特例)
9-2-38 法人が、新たに退職給与規程を制定し又は従来の退職給与規程を改正して使用人から役員となった者に対して退職給与を支給することとした場合において、その制定等の時にすでに使用人から役員になっている者の全員に対してそれぞれの使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額をその制定等の時に支給し、これを損金の額に算入したときは、その支給が次のいずれにも該当するものについては、これを認める。(昭55年直法2-8「三十二」、平19年課法2-3「二十二」により改正)
(1) 既往において、これらの者に対し使用人であった期間に係る退職給与の支給(9-2-35に該当するものを除く。)をしたことがないこと。
(2) 支給した退職給与の額が、その役員が役員となった直前に受けていた給与の額を基礎とし、その後のベースアップの状況等を参酌して計算されるその退職給与の額として相当な額であること。
(個人事業当時の在職期間に対応する退職給与の損金算入)
9-2-39 個人事業を引き継いで設立された法人が個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与の額を損金の額に算入する。(平19年課法2-3「二十二」により改正)
関連ブログ
企業の成長の手段とPEファンドについて
種類株式について(資本政策を考えるにあたり)
【解説!】事業承継時に焦点を当てた 「経営者保証に関するガイドライン」の特則について
債務超過企業の取る経営戦略について(私案)
東京プロマーケットに上場する意義とは
個人が資産を築くには?
コメント