債務超過企業の取る経営戦略について(私案)

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公開日:2021年2月11日 /最終更新日:2021年7月8日

債務超過に陥った企業はどうすべきでしょうか。


「PLは年間打率、BSは通算打率」
という趣旨のことをスカイマークの会長でインテグラル代表の佐山展生さんが仰ったと記憶しています。
趣旨としては損益計算書を見て単年度決算だけで企業を判断するのではなく、貸借対照表(バランスシート)もきちんと見て、それまでの打率がどうだったのかを判断しなければならない(逆に考えると、全てがBSに表れている)と理解しています。
またこれは別の経営者の方が仰っていましたが、「バランスシートは結果ではあるが、どのようなバランスシートにしたいのかという目標をもって経営をしなければならない」という箴言もありました。
会社としてあるべき形を考えたうえで、それを目指した経営を数字の上からも目指そうという趣旨であると理解しています。

斯様にバランスシートの重要性は、高名な経営者は警句を以って重要性を強調していますが、反面一部上場企業でも、経営企画部の方から「うちの経営陣、典型的なPL脳で全然バランスシートのことを理解していないんです」と嘆きにも似た愚痴を聞いたこともありますので、重要性の理解が全ての経営者に浸透していないというのは仕方のないことかもしれません。

前置きが長くなりましたが、債務超過に陥ってしまったという事は、今までの経営結果によるものであるという事実をまずは受け止める必要があると思います。
現実を深刻に受け止めることで、問題に真摯に向き合い、課題を解決するための覚悟と方策がうまれると考えられるからです。

さて、では債務超過企業はどうしたらいいのか、どういうことが解決手段として考えられるでしょうか。

1.利益を積み重ねることで債務の解消を図る

これは当たり前に行われていることなので、特に言及する必要はないでしょう。
瞬間風速的にマイナスになり、たまたま債務超過になっただけ、ということであれば、本業に再度回帰を行い、トップラインを伸ばし、利益を積み上げていけばいいでしょう。
ただしそれはあくまでも単年度で何らかの事象が発生し、営業利益は黒字であったものの、特別損失が発生してしまった、などの場合に検討できることであり、営業赤字が累積して債務超過に至ってしまった場合は恒常的な課題があると判断せざるを得ないため、別のことを考える必要があります。

 

2.増資などのエクイティを入れ構造転換を図る

通常、運転資金として融資を受けていると思います。
運転資金として融資を入れるのは、資金繰りを安定化させるためです。

さて、この運転資金から構造転換を図るための資金をねん出した場合、場合によっては構造転換が進む前にキャッシュアウトが起きてしまう可能性があります。構造転換を行っても、すぐにはキャッシュを生まないからです(退職金に充てることでコストカットはできるかもしれませんが一時的には支出の方が大きくなります)。
JALの再生を行った経営共創基盤代表取締役の冨山和彦さんは長期的なリスクキャピタルについては「払いきり」「もらいきり」の性格であるエクイティ性の資本で賄うべきである、と著書(「コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画」)の中で言い切っています。
会社を持続させる性格のお金と、会社の構造を変えるお金は分けて考えるべきで、危機に直面していなければ内部留保から捻出して問題ないけれども、資金ショートする可能性がある場合は混同して支出してしまうと、資金繰りに影響を与えてしまい、会社を存続危機にさらしてしまう可能性があるというように理解いたしました。

さて、上記を踏まえて考えると、構造改革をエクイティを入れて行えるかどうかということは、まずはスポンサー企業を見つけられるかどうか、というように換言できるかもしれません。

スポンサー企業が見つかれば第三者割当増資により、長期投資を行うことができるでしょう。
場合によっては先方の販路を活かしながら売り上げを増大させて行くことも可能かもしれません。
ただし、どうしても一社に頼ってしまうと依存度が上がってしまい、それについて難色を示される方もいると思います。

ではもう一つの手段としてですが、東京プロマーケットに上場ということも実験的に考えられると思います。

通常、東証一部や二部はもとよりマザーズやジャスダックにおいても、債務超過の企業は上場廃止の理由となります。他方、東京プロマーケットはプロ投資家(金融機関や金融資産で3億円持っている個人)しか株式の売買(正確には買うこと)ができないため、上場要件は非常に緩くなっており、債務超過であっても形式基準に違反することはありません。

東京プロマーケット東京プロマーケットのメリットデメリットはこちらをお読みください)はジャスダックやマザーズなどの準備段階と位置付けられているとされていますが、今までこの市場から他の市場に鞍替えした企業は50数社中3社しかなく、また上場時にファイナンスしている事例も少ないため、私はこの見方には懐疑的です。なぜなら特に東京プロマーケットを経由しなくても実力のある企業は新興市場に上場できていますし、あえて上場費用を別途支払う必要があるとは思えないからです(他にも経営者保証が外せるなどのコメントがありますが、上場できる企業なら経営者保証なしのプロパー融資で借りられていると思いますし、採用も容易になると言われていますが、新興市場に上場できないと思われてしまい、感度の高い人を逃す可能性もあるのではないでしょうか)。

ここで、ただし・・・という話になってきます。仮に累積債務が大きく、解消に何年もかかるような債務超過企業が東京プロマーケットに上場できるのであれば、どうでしょうか。
流動性もなく市場で資金調達することはあまり期待できないと思いますが、見かけ上の債務超過は解消できますし、株価も市場で値が付いているため第三者割当増資は行いやすくなるかもしれません。
この場合、債務超過の解消と構造改革のためのエクイティの調達がしやすくなるでしょう。

ただしこれは本質的な解決にならない上、上場費用や維持コストは発生するため、あくまでも体勢を立て直すためのエクイティ調達と割り切った方がいいでしょう。
魔法の杖はないのですから。

勿論このほか、以前のブログでも記載したようにDDSや会社更生法、民事再生法など他にも様々な手段もあります。
現在、債務超過に陥った原因が構造的な営業赤字によるものであれば構造改革も行うことを視野に入れる必要があります。
そのためには単なる債務の減免だけでは難しいこともあるでしょう。
現在陥ってしまった債務超過の理由を真摯にかつ具体的に分析することで合理的な選択肢も浮かんでくるはずです。

運転資金であるキャッシュが枯渇しないうちにできることを考え動くべきでしょう。

弊社ではM&Aによる事業再生を含めて相談させていただくことが可能ですので、債務超過にお悩みの企業経営者様も遠慮なくご相談ください。

 

なお私的整理などに関する事業再生(企業再生)については以下のコラムも参考にしてください。

企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)
事業承継時の「経営者保証に関するガイドライン」の特則
「経営者保証に関するガイドライン」とは

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