東京プロマーケットに上場する意義とは

Pocket

公開日:2021年2月22日 /最終更新日:2021年12月12日

東京プロマーケットとは

東京プロマーケットについてこの前のブログで触れて見たので、東京プロマーケットで上場することに対しての私見を書いて見たいと思います。ネガティブな表現も多々あるかもしれませんがご容赦ください。

まず、東京プロマーケットとはなんのか、ということを東証のサイトより引用いたします

TOKYO PRO Marketの母体となるTOKYO AIM は、2008年の改正金融商品取引法により導入された「プロ向け市場制度」に基づき、株式会社東京証券取引所グループとロンドン証券取引所の共同出資により創設された株式会社TOKYO AIM取引所による運営マーケットとして、2009年6月に開設されました。
当マーケットは、日本やアジアにおける成長力のある企業に新たな資金調達の場と他市場にはないメリットを提供すること、国内外のプロ投資家に新たな投資機会を提供すること、日本の金融市場の活性化ならびに国際化を図ることを目的とし、ロンドン証券取引所の運営するロンドンAIMにおけるNomad制度を参考として「J-Adviser 制度」を採用するなど、機動性・柔軟性に富む市場運営の実現を目指しており、2012年7月からはTOKYO PRO Marketとして、TOKYO AIMの市場コンセプトを継承し、東京証券取引所が市場運営を行っております。

東京証券取引所が運営する新しい株式市場「TOKYO PRO Market」とは?PDF

TOKYO PRO Marketの主な特徴

項目TOKYO PRO Market
開示言語英語又は日本語
上場基準数値基準なし
上場申請から上場承認までの期間10営業日
(上場申請前にJ-Adviserによる意向表明手続きあり)
上場前の監査期間最近1年間
内部統制報告書任意
四半期開示任意
主な投資家特定投資家等
(いわゆる「プロ投資家」)

 

マザーズやジャスダックのような新興市場が個人投資家を含めた投資家を相手にするとすると、東京プロマーケット(以下TPM)は金融証券取引法(以下「金商法」)に定められている「プロ投資家」を対象にしているため、マザーズやジャスダックに定められている上場維持のための「形式要件」も定めておらず、比較的、「ゆるく」上場を行うことができると言われています(YouTubeでの解説もありましたのでリンクを貼ります)。

ではTPMに上場する意義、メリットやデメリットはどういったものなのでしょうか。

以下は「東京プロマーケット 完全攻略」からの引用となります。

東京プロマーケットならではの上場メリット

株式上場には多くのメリットがありますが、東京プロマーケットならではの上場メリットはどういった点にあるのでしょうか?

上場までのスピードが早い

東証一部やマザーズなどの主だった株式市場で上場するには、早くても3年はかかります。これは上場審査にあたって2期分の監査証明が必要になり、監査証明に先立って会計処理の整備などが必要になるためです。

しかし東京プロマーケットでは、直近の事業年度1期分の監査証明でよいとされており、上場の条件が緩和されています。そのため、上場までのスピードが早く、既に監査法人の監査を受けているケースでは決断してから1年以内の上場も可能です。

上場に係る形式基準がない

株式市場の上場のためには、形式基準と実質基準の両方を満たさなければなりません。東証やマザーズなどの一般的な株式市場では、形式基準として株主の数や純資産、企業の時価総額などの要件が設定され、細かく条件付けされています。

例えばマザーズでは、形式基準として株主数は200人以上、時価総額は10億円以上などの要件があります。しかし東京プロマーケットではこの形式基準がありません。すなわち、株主がオーナー一族だけの場合でも上場は可能です。

上場要件が緩和されたことで、上場のハードルが大きく下がっているのも東京プロマーケットのメリットです。

 

準備期間が少ないことによるコストの低下

一般的に株式上場の際には初年度に五千万円、毎年のランニングコストとして五千万円がかかると言われています。この内訳は以下の通りです。

  • 上場審査料
  • 新規上場料
  • 公開申請書類作成費
  • 監査法人に対する監査報酬
  • 有価証券届出書や目論見書

この他にも上場準備中の見えないコストとしては社内の管理体制や会計処理の準備などにかかるコストなどもあります。これらを合わせると、平均で約五千万円ほどになるというわけです。

また、上場までの時間がかかるほど、顧問となる監査法人や会計事務所、弁護士事務所に対する報酬などのランニングコストがかかることになります。上場までの期間を短縮することで、ランニングコストを抑えることができます。一般的に東京プロマーケットの上場準備コストは、二千万円から三千万円と言われています。

 

維持コストも安く済む

一般的な上場後のコストには以下のようなものがあります。

  • 上場手数料
  • 監査法人に対する監査報酬
  • 株式事務代行手数料
  • 開示書類作成関連費用
  • IR関連費用
  • 株主対策費用

一般的な株式市場では、年に4回決算を行い、四半期報告書を作成して情報開示しなければなりません。全ての費用を合わせると年間で五千万円ほどが上場コストとして発生すると言われています。

しかし東京プロマーケットでは四半期開示が任意です。この他、内部統制報告制度なども任意なため、このコストも削減できます。

東京プロマーケットのデメリット

一方で東京プロマーケットには弱点も指摘されています。

投資家が制限されることで資金の流動性が下がる

東京プロマーケットはプロ投資家等のみが株式を購入することができるため、国内の一般投資家は市場に参入することができません。この制度によって形式基準の緩和や上場コストの削減など、他の市場とは異なる形態を実現させています。

一般投資家が参入できないことによって流動性が下がっている点は、デメリットであると指摘する人もいます。

上場の際に資金調達をしにくい

一般的な株式市場では、上場するまでは企業の株を経営者など一部の人が保有しています。
上場時にその株を放出する(売出しを行う)ことや新株発行(公募増資)を実施することにより、経営者などに創業者利益(キャピタルゲイン)をもたらしたり、会社にとっての資金調達が実現したりします。
しかし東京プロマーケットは、現時点では流動性が低いことから、上場時の公募売出しを実施しても想定した資金を集めることが難しいというデメリットがあります。

東証に上場したことで得られる信頼感や企業のブランド化による事業の拡大といったメリットの方が大きいと捉えるかどうかによって、デメリットをどう解釈するかが変わってくると言えるでしょう

スピードが早く上場できると言うのは確かにメリットなのでしょうが、そもそもなぜ「上場をするのか」という目的が重要だと思います。

ここで、なぜ上場するのか、を一度考えてみましょう。

現在、特段問題なく運営されていて、資金は金融機関からデット(借り入れ)で調達でき、従業員は募集したら集まるのであればあえて上場する理由は(会社の経営上は)ないでしょう。
もちろん証券会社などから「上場したら資金は集まるし募集も容易になる!」と勧誘はあるでしょうが、非上場企業で資金調達ができていたり、募集ができている企業はいくらでもあります。「代表者の連帯保証が外れる!」との訴求もあるでしょうが、代表者連帯保証についての金融庁のガイドラインも出ていることもあり、これも本論にはならなくなってくるでしょう。内部統制が上場の過程で整うと言うのは確かにメリットではありますが、それは内部統制を整えるための目的であり、上場を目的とするのは本末転倒でしょう(他にも手段はあるので)。

そもそも上場を行うと言うのは、資金を市場から集め、会社の成長のためにエクイティとして入れてもらう、と言うことが目的であり、それでオーナーの個人資産を増やすであったり(否定はしません)、企業の知名度を上げる(これも否定はしません)ということは、その手段の中の一つの派生的な結果であると思料します。
しかしその副次的産物のために上場を行い、結果として上場コストが発生したり、従業員を含む利害関係者と目的が不一致をして混乱を生じたり、せっかくうまくいっていた企業経営であるにも関わらず外からの資本を入れオーナーシップが薄れてしまうのは本末転倒でしょう(しかもTPMに上場して資本調達した例や金額は少ないため、できるかどうか自体疑問です)。

なんのための東京プロマーケット(TPM)上場なのか

上場を行ったら、会社はオーナーの私有物ではなく、公器となります(英語ではその名の通りPublic companyと言われます)。
上場を行う目的としては、調達したエクイティで株主コストよりも高い収益率を求める必要があります。
現代経営論では株主コストよりも借り入れでのコストが低いとされていますし、その上でなおエクイティで資本調達するのであれば、今より収益性を上げるための「使い切り」のような、構造改革のために調達しないとロジックが通らないでしょう。
そうではなく、オーナーが従来のままのような経営を継続したいというのであれば、かえって煩わしいことも増えるでしょう。

現実に53社中9社(15%超)がその後上場廃止を行っていることを鑑みると(マザーズなどへの鞍替えは除く)、「上場」という手段を目的としてしまった、上場コスト(上場には数千万でその後も継続してかかります)や機会費用など無駄な費用が発生し、結果としてなんらメリットがなく、上場を廃止してしまったのではないかと思われます。
ただし反面、マザーズやセントレックスなどへ鞍替えできている企業もあるため(とはいえ今現在で3社だけですが)、全否定を行うつもりもありません。

上記のようなファクトを見ると私としては現状、TPMへの上場を目的とすることは否定的です。
仮に上場を目的とするのであれば、資金調達がしやすいマザーズやジャスダックでいいとおもいますし、その余力がないのであれば、市場で調達を行えないマーケットに上場することが合理的だとは思えないからです。
なぜならプロ投資家がいるマーケットよりも、個人投資家などがいるマーケットの方が市場のモメントがより大きくなるため、PERが上振れする可能性があります(調達できる金額が上がる。それがいいかはここでは置いておきます)。しかしそこで調達できないのに「プロ」から調達しないといけない必然性があるのが疑問です。プロ投資家にエクイティの必要性を説明できるのであれば、第三者割当増資でも対応できるわけで、上場コストを支払い、時間をかける必要があるのか、ということも論点として考えないといけません。

もしTPMに上場したい企業があるとして、一定の合理性があるとすると、「マザーズ などへの上場を目指しているものの及ばなかった」といういわゆる滑り止めという中での上場か、あるいは株式の価格だけ形式的に決めて、その価格を目安に第三者割当増資を行う、ということが考えられます。
あるいは先日ブログに記載したように、債務超過を会計論的に解消するという、本質論ではないけれども手段としてのアクションとしては一定の合理性があると考えられます。
(債務超過に陥った企業に対する事業再生については、別に記載しています。文末にリンクを掲載していますのでご確認ください)

また近々、東証が市場を再編し、新興市場へ上場できる要件が時価総額40億とするため、そこに至らないけれども上場したいという企業向けの選択肢になるとも思います。ただし時価総額40億に満たないのに上場すべきなのか、という議論はあるでしょう。つまり市場から評価されていないのにも関わらず、上場コストをかけて上場して、結果として機関投資家に相手にされなくてもいいのか、という議論です。

経営を行うのに正解はないと思いますが、資本の調達というのは手段の一つであると思います。ただしそれのみを目的としてしまうと「上場ゴール」と思われてしまい長期的に株主から相手にされなくなるでしょうし、無駄な費用の発生しかしないなど本末転倒な結果になってしまうでしょう。

なんのために経営を行うのか

 

私は経営をする中で、「なんのために経営を行うのか」という目的を持ち、そのために戦略を考える必要があると考えます。

「上場」による資本の調達や知名度や内部統制の向上はあくまでも「手段」であり、必要性を慎重に検討する必要があるでしょう。また「形式要件はない」と言われていますが、一年で上場できない企業は実際にありますし、その間も費用は発生します。その費用を人の採用に当てて売り上げを上げた方が結果的に良かった、ということは往往にしてあると思います(機会損失につながります)。

なんのために経営を行うのか」
「そのためにどうするのか」
「その手段を考える」

もし「上場」という言葉だけに心を惹かれた際には、上記のことを思い出していただき、気持ちと手段を照らし合わせていただくと、なおいいのかなと思います。
また経営をするためにどうしたらいいのか、ということでお悩みであれば、そのためのお手伝いを弊社は果たして行きたいと思います。

TPM含め、お困りのことがありましたらご相談ください。
逆に必要性があると思えば弊社も積極的に対応させていただくこともございます。

なお余談ですが、TPMに上場を行うためにはJ-Advidiserという東証から認定されたアドバイザーをつけることが必要なのですが、今までTPMに上場した企業のアドバイザーの中で、アドバイザーに登録している野村證券、大和証券、SMBC日興証券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券などのいわゆる知名度の高い証券会社が入っておりません。
もともと証券会社ではないところがアドバイザーに多数入っているのはなぜなのか、という気もします(あえて名前は出しませんが・・・)。

もし主幹事に野村証券や大和証券がつくのであれば、そもそもTPMではなくマザーズやジャスダックを目指すのか、目指せる企業しか相手にしないのではないのか、と勘ぐっちゃいますよね。
参考動画がありましたが、ほんまか?って思いますよね。会計上のメリットしか感じないですしほぼポジンショントークですよね。。)

 

なお会計上、上場しないと債務超過が解消されない(「負債が多い会社でも上場できる」という甘言のまま上場できるかは別にして)という法人については以下の通り、事業再生という選択肢もありますのでご参考にしてください。弊社でも企業再生(事業再生)ワンストップサービスを提供しております。

ご参考:事業再生(企業再生)に関するコラム一覧

企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)
事業承継時の「経営者保証に関するガイドライン」の特則
「経営者保証に関するガイドライン」とは

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

過去ブログ抜粋

  1. 銀行融資姿勢の変化と中小企業

  2. 【買い手向け】今、話題のAIによるM&Aの注意点!

  3. 企業再生スキームとM&A

  4. 「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場4社との比較!

  5. モラル最悪!? M&A仲介の営業担当者残酷日記

  6. 「数倍の価値はあったのに」「そんな…」160年続いた家業、仲介業者に“一晩のうちに買い叩かれた”あまりに低すぎる譲渡額【税理士が解説】、についてM&A仲介が解説