M&A後、売り手を拘束する競業禁止義務とは

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公開日:2023年4月4日 /最終更新日:2023年4月4日

会社を譲渡した後に売り手を拘束する競業禁止義務とは

買い手からもよく聞かれますが、競業禁止義務についておさらいのため触れてみたいと思います。

M&Aにおいては、買収する企業だけでなく、売却する企業の経営者(以下「売り手」)にも競業禁止義務が課せられます。
意外と知られてないのか、買い手も競業禁止義務についてアドバイスをもらっているのでしょうが、アドバイスする人たちもよくわかってないような説明をしているようなので、今回は売り手が競業禁止義務を課される場合について解説します。

まず、売り手が競業禁止義務を課される場合は、主に以下のようなケースが考えられます。

【事業譲渡】売却された事業と同様の事業を行わないように求められる場合

売り手がM&Aによって事業を売却する場合、売却された事業と同様の事業を行わないように求められることがあります。
これは売却された事業において、売り手が持っていた機密情報や顧客リストなどが買い手に引き継がれるため、その情報を利用して同業他社と競合することが禁止されるためです。
この場合、禁止期間や禁止範囲などが契約書に明示され、売り手はこれに従わなければなりません。

【退職の場合】買い手企業に対する競業禁止

売り手が退職し、同業他社で新たな職に就く場合、買い手企業に対する競業禁止が課せられることがあります。
これは売り手が買い手企業の機密情報や営業秘密を知っているため、これを悪用して買い手企業に対して競争することができる可能性があるためですこの場合も、禁止期間や禁止範囲が契約書に明示され、売り手はこれに従わなければなりません。

以上のように、M&Aにおいては売り手も競業禁止義務が課せられることがあります。
売り手が禁止された行為を行った場合、買い手企業に損害が生じることがあり、それによって契約違反に該当するため、契約書に記載された内容を遵守することが重要です。
また売り手が禁止された行為を行わないようにすることは、買い手企業との信頼関係を築くためとても重要なことです。
売り手が競業禁止義務を守らないことによって、買い手企業は損害を被る可能性があります。
そのためM&Aにおいては、売り手が競業禁止義務について正確に理解し、契約書に基づいて行動することが重要です。

契約書に定めがない場合

では定めがない場合はどうでしょうか?
ここで会社法を見てみましょう。

第21条
1.事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項 の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。
2.譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。
3.前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

契約書に年数の明記がない場合で「契約書に定められていない場合はその他国内の法令に従う」と国内法に従うとされていた場合、役員法21条が適用されると考えることが普通でしょう。
その場合20年間(!)という期間にわたり同一の市町村や隣接する市町村の区域内で同一の事業を行ってはいけないとされます。
結構長期間ですよね。
したがって売り手が他地域で簡単に同一の事業を起こせない場合、会社法を適用する形でクロージングするのも一つかもしれません。
20年という期間を明示して契約を結ぶ際にハレーションが起きるかどうかというのは考慮する要素の一つかもしれません。
逆に会社法が定める範囲で足りるのであればことさら声高に売り手に起業禁止の明文化を求める必要性があるかも考慮してもいいかもしれませんね。

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