中小企業の財務DD(デューデリジェンス)で気を付けるべきこと

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公開日:2023年4月5日 /最終更新日:2023年4月5日

中小企業決算の特殊性

以前のコラム「デューデリジェンス(DD/買収監査)について」が大変好評だったので今回は掘り下げて中小企業の財務DDについて掘り下げたいと思います。
中小企業の財務DDについては「中小企業M&Aにおける財務デューデリジェンスのすべて(著者:久米 雅彦)」という本が中小企業M&Aの実務において大変面白いです。
今回は内容の解説に触れた上で、実務についても触れたいと思います。
デューデリジェンス(以下、DD)について触れている本は様々ありますが、本書は中小企業決算の特性に触れ、会計基準と税務基準に峻別して説明しています。
その意味で、会計士などの専門家というよりも、中小企業M&Aを行う買い手や仲介向けの内容となっています。
Amazonのコメントを見ると、特に会計士と思われる専門家からの否定的なコメントがありますが、EBITDA分析によるバリュエーションによるものだったりしますので、他の専門書で学べばいい話かなと考えています。

中小企業の決算書

非常に大雑把なくくりですが、本書について

①オーナー経営者による「所有と経営が分離していない」こと
②ガバナンスの不足により監査ができていないこと
③会社法に基づく会計決算書と税法上に基づく税務申告決算書が同一視されている

の3点が大きな特徴だと思いました。

順に見てみましょう。

①オーナー経営者による「所有と経営が分離していない」こと

交際費や役員報酬の決定について、オーナー経営者の恣意性が反映されると言い換えることができるでしょう。
実際の収益力を判断する際に不要な交際費や生命保険料などを損益に加味することで、正常収益力を判断する必要があります。
また信用情報調査会社ではないですが、役員報酬の増減でオーナー経営者が当該法人の収益力を感覚的ないしは暗黙裡に把握している可能性があります。
結果として出てきている利益だけではなく、実質的な利益(損益)を判断する必要があります。
特に中小企業経営者の場合は税金を払いたくないという理由で見せかけの収益を低く抑えるインセンティブが働いているので、その点についても紐解いていく必要があるでしょう。

②ガバナンスの不足により監査ができていないこと

棚卸資産や在庫などにたいする実態の把握がされていないと、資産の過大計上(もしくは過少計上)が行われている可能性があります。
以前のコラム、「粉飾決算の見分け方~粉飾決算をしてみよう!~」でも記載しましたが、売上の架空計上、商品在庫の架空計上、仮払金の過大計上、減価償却の未計上、グループ会社での付け回し等で粉飾(逆粉飾)することは容易です。
粉飾決算の場合は以前のコラムでも紹介いたしましたが(「資金繰りでお悩みの経営者は何をすべきか」、必要とされる運転資金と手持ち現預金が見合っているか突き合せてもいいと思いますし、在庫の回転率でみてみてもいいでしょう。
逆に逆粉飾の場合は、実際の利益を証明してもらう必要があり、かつ今まで利益を過少申告していたことから税務リスク(買収後の税務調査及び追徴など)が生じる可能性があります。
その場合、契約で調整するのか価格で調整するのか色々と考えないといけませんが、合意形成はなかなか難しい可能性があります。

③会社法に基づく会計決算書と税法上に基づく税務申告決算書が同一視されている

これは中小企業経営者はピンとこないのではないでしょうか。
会社法に基づく決算書は株主や取引先を保護するために保守的にかつ損失の早期計上、未実現利益の排除など、利益を小さく保守的に算定されていることが求められています。
他方税務申告書の場合、法人税法上の取り決めに則って申告手続きを行うため、損金算入の厳格性などが求められており、損金を少なく課税の厳格化に拠っています。
買い手企業からすると税務申告ベースで作られた決算書は回収不能である売掛金や廃棄処分をしていない商品があってもそれらを減額していないため、バランスシートが実際よりも多くなっている可能性があります。
また②と絡みますが、減価償却をしないことで見せかけの利益を多く出している可能性もあるでしょう。
これらは単純に故意というだけではなく②と同様にガバナンスの不足やあるいはオーナー経営者の無知から発生している可能性があります。
したがって出てきた申告書をうのみにしてはいけませんし、とはいえ発覚した誤りについて居丈高に批判してしまっては自覚がない売り手オーナーの気分を損ねてしまうでしょう。

実際の実務のケース

実務のケースでもオーナー経費や相場より多い役員報酬などは修正後のPLに反映させたり、所有している不動産が重要な場合、時価(少なくとも路線価)評価を行うようにしています。
また実際にあったケースでも融資のために巨額の架空資産が計上されていたケースもあったりしました。
反面、利益率を低く見せているケースもあります。
中小企業のM&Aの場合は仲介がいいと言われるケースはまさにこう云ったところに現れていると思います。
これらについて仲介があらかじめ理解して交通整理して説明しないと、双方の理解が行き違い感情的になってしますよね。
よく「買収監査を税理士に任せる」という買い手もいますが(それはそれでいいのですが)、総勘定元帳を見て税務申告の適切さだけを判断したり、運転資金などの妥当性を経験から判断するだけではあとでトラブルになる可能性もあるのではないでしょうか。

以上みてきましたが、こと「M&Aを成功させる」という目的を踏まえると、「気分を損ねないまま実態を指摘する」というのは確かに難易度が高いと思います。
指摘するだけなら頭ごなしに行うこともできますが、「適正に」「M&Aを実行し」「実行後も関係を良好に保つ」という要素を満たそうとすると、やはり著者が言っているように泥臭いコミュニケーション力が求められるでしょう。

その意味では中小企業ということを念頭に置いたうえで財務DDを行うということは、一つのスキルなのではないでしょうか。
もちろん弊社の様な仲介会社を入れることで上記ような泥臭い人間関係が円滑に行くことがありますので、ぜひご相談ください。

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