【中小企業M&A:売り手向け】「手離れしやすい(売りやすい)会社」とは?

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公開日:2024年6月5日 /最終更新日:2024年7月24日

3年連続で増加する中小企業M&A業界

MAARオンラインの発表によると、2023年の中小企業M&A件数は「減少した」ものの4015件と、3年連続で4000件を超えたとのことです。
これらは顕在化して把握されているM&Aの件数であり、実際はさらに多くの事業承継などのM&Aが行われていると考えて間違いないでしょう。
さてM&Aが一般化して市場が活況を呈すること自体はいいことだと思いますが、売り手の皆様には一つ問題が出てくると考えられます。
それは「会社を売りたい人が多くなると、売ろうとした際に他の会社と比較されてしまう」ということです。
もちろん現在でも買い手の方が売り手より圧倒的に多いのは変わらないのですが、買い手の増加率よりも売り手の増加率が大きくなってくると、売り案件の比較対象が増えてきます。
数年前と現在で比べると、同じ売り上げや財務内容の同じ企業であれば、希少性が相対的に低下してしまい、当時と同じ価格では売れなくなってしまう傾向が出てきていると言えるでしょう。
その中で買い手に御社を選んでもらうにはどうしたらいいのか、今回は「手離れしやすい(売りやすい)会社」について触れてみたいと思います。

現在の相場観 東京都事業引継ぎ・支援センターの場合

中小企業M&Aの売買を行う際の価格についてどのように決めるのでしょうか?
例えば、東京都事業引継ぎ・支援センターでは価格の算定について以下のように述べています

上記のような点を加味して、その会社の実力として、実際の利益としてはいくらなのかを表したものです。
評価倍率については、つい5年ほど前までは、実質利益の3~5倍、すなわち営業権(のれん)は営業利益の3年分とか5年分といわれていました。

景況や業種、成長性によっても異なりますが、実質利益の1~3年分(※)をのれん代として計上するケースがあります。
(※年買法で算出したのれん代はあくまで目安の数字ですので、詳細についてはM&Aアドバイザーなどの専門家にご確認ください。)

この書き方だとよくわからないと思いますが、数式にすると以下の通りです。

企業評価額=時価純資産+実質利益×評価倍率(1~3倍)
(実質利益は役員報酬や経費、節税費用など調整)

例えば時価純資産が1億円、営業利益に役員報酬や節税費用など足し込んだ金額が5000万円だった場合、譲渡される(売れる)と見込まれる価格は1億円+5000万円~1.5億円=1.5億円~2.5億円のレンジで収まると考えられます。

東京都事業引継ぎ・支援センターは公的な立場が強い組織なので、インターネットなどで「うちなら営業利益の〇年分で高く売れます!」と根拠のない煽り文句をガンガン出している一般的なM&A仲介会社と比べると、今の相場観を踏まえて入り口で適切に説明を行っているといえるでしょう。

現在の相場観と今後

東京都事業引継ぎ・支援センターの記載内容についてはおおむね、現在のトレンドを踏まえたものになっていると思います(書き方は即物的な気もしますが)。
今後も売り手企業の増加が予想されるため、単純に売買される金額は、マクロ環境が大きく変わらないのであれば、一年後二年後売却を行うより「今」売却をした方が高く売れる可能性が高いと思います。

また先ほど東京都事業引継ぎ・支援センターの売買価格の目線感についてご紹介しましたが、我々仲介会社にアプローチしてくる買い手の相場観もご紹介したいと思います。

買い手側の売買価格目線

譲渡価格=ネットキャッシュ(手持ちで使える現預金有価証券など)+EBITDA(営業利益+減価償却費等)×2~3倍
*手数料込

と先ほどの東京都事業引継ぎ・支援センターの算定よりもさらに強気な(売り手に対しては厳しい)目線で検討する企業が増えています。
先ほどはベースは時価純資産でしたが、ネットキャッシュとなるとさらに資産価値が評価されず、主としてキャッシュフローから企業価値を見ていると言えるでしょう。
このような買い手企業が増えてくると、どう見ても数千万円で売れたらいいなと思う会社のオーナーが、「手残り1億あれば売る」と豪語してもそれは厳しいよなあ…と思ってしまいます。
今後も売り手が増加してきて、買い手の増加率が相対的に鈍化してしまう場合、上記の「2~3倍」という係数がさらに低くなっていく可能性があるといえるでしょう。
なお上記の金額の中に予算という縛りの中から、手数料を加味する買い手が増えてきているようです。
この手数料は買い手が支払う手数料なので、直接売り手には関係ないのですが、仲介会社が買い手からもらう手数料が大きければ大きいほど、仲介会社が売るために価格を下げる要因になる影響が大きいと考えておく必要があるでしょう。

「手離れのいい(売りやすい)」会社を作るには?

売り手が増加して、会社の譲渡価格が下がってきていることについてはここまで読み進めていただきご理解いただけたと思います。
とはいえ売りづらくなってきたからと言ってそのままにもできないでしょうし、「手離れがいい」会社を作り、買い手に選んでもらうことがより重要になってくるでしょう。
この「手離れのいい」会社というのは、突き詰めて言えば「高く売れる(売りやすい)会社」にもつながる話なので、金額・売りやすさの両にらみで考えて対策をしてもらうことが売り手様にとっていいのかなと思います。

売りやすさ・価格を上げる要素

①業績が良好であること。具体的には黒字、純資産がプラス(若干であれば債務超過も可)
②M&Aが活発に行われている業種に属している
③借入金が少ない(土地などの資産が多くても借り入れが大きくなってしまうと敬遠される傾向がある)
④赤字であっても一過性であったり赤字の原因が明確である(買い手が対策可能であれば許容される)
⑤社長への依存度が高くない会社(他にキーマンがいて、自走可能)

です。

①で記載しているように業績がいいのはもちろんなのですが、③であげているように、土地などの固定資産が大きく、その分負債も大きくなってしまうと、上場企業を中心に資本効率性の観点から忌避されるケースが多い印象です。
自社で本社ビルや設備を所有するのであれば、賃貸などで費用化したほうが運営しやすいので、現在、不動産を過剰に保有している場合は証券化や売却してのリースバックのような形で
バランスシートを軽くしていくことも考える必要があるのではないでしょうか。
また④については、代表者が会社の弱点を知っていて、自分では対策できないがパートナーがいれば対策・改善できるという点をポジティブに評価する買い手がいるのも事実です。
逆に「なぜかわからないが赤字になっている」という法人を必要とする人は少ないのではないでしょうか。
⑤については代表者がいなくなってしまう後のことを不安視する買い手がいることから、キーマンが残留して運営を行うことを期待されています。
ただこの点については一定期間のロックアップなどを契約に盛り込むことで買い手に理解を求めることもできるでしょう。
なお②の「M&Aが活発に行われている業種」ですが、一般的に

医療・介護福祉業界
製造業界
不動産業界
建設業界

で中小企業M&Aが活発に行われている印象です。
特に人手が必要とされる業種が顕著に行われているようですが、会社を売却するために人手を確保するというのも本末転倒かもしれません。

売りづらい・価格を下げる要素

先ほどの「売りやすさ・価格を上げる要素」との逆になりますが、

①M&Aがあまり活発でない業界に属している
②譲渡希望額が市場と乖離しすぎている高すぎる会社
③社長への依存度が高すぎる会社(社長がいないと回らない)
④慢性的な赤字で借入金が多い、または債務超過額が大きすぎる
⑤資金ショート寸前の会社

⑤については譲渡時期との問題もあるのですが、第二会社方式の事業譲渡など、事業再生系で考えた場合はこの限りではないと思います。
ただ事業再生を行っている仲介会社が少ないため、弊社のように事業再生に対応した会社でないと門前払いで断られてしまう可能性が高いと思います。
④については通常、M&Aを行う場合売り手側は連帯保証の解除を求めると思いますが、なるべく連帯保証を解除しろと言っている「経営者保証ガイドライン」でも
債務超過額が大きかったり赤字の会社はこの限りではないような書きぶりのため、連帯保証を解除どころか引き継げないところで実務的に足踏みされてしまう可能性があります。
そのため⑤と同様に事業再生も検討する必要があるかもしれません。
③については自走可能か、社長がいきなりいなくならないか、という点が買い手が不安になる点です。
この点は売り手社長が何年間は残るかというロックアップ条項などで対処していくことが必要になると思います。
②についてですが、あまり市場と乖離する金額で交渉をしたい売り手様の気持ちは尊重するものの、あまりにも市場水準と乖離している場合、仲介会社も含め、売り手がよくわかっていな人なのではないか、
と思われる可能性があるため、あまりお勧めしません。
冒頭申し上げたように、売り手が増えて「比較」されてしまう対象が増えてしまう中で、市場水準を明らかに超えて金額を提示する売り手がどう思われるかは少し考えてもいいと思います。
①についてはもうどうしようもない部分もあるため、だからこそ弊社のようなM&A仲介会社を経由して広く買い手を探索していくことが必要になるのだと思います。

会社との終活

企業(法人)は半永久的に続きますが、個人はそのかぎりではありません。
なぜなら個人には寿命があるからです。
そう考えるとどこかでバトンをだれにどうわたすのかという区切りを考えなければならないでしょう。

そして、どうせわたすのであれば、綺麗にいい相手に渡せるのが一番だと思います。
それが社内なのか社外なのかという問題はありますが、社外にバトンを渡すのであれば、会社内部が社内従業員よりわからないでしょうから、なおさら渡しやすい状況にしておく必要があるでしょう。
譲渡金額だけがすべてとは思いませんが、評価が高ければうれしいと思うのは人の常です。
適切に評価してもらうための準備をすることは、即誰かに譲ることを意味しませんが、結果として会社の自律性が高まるのであれば、早めに準備するに越したことはないのではないでしょうか。
弊社でも高く評価されるためのお手伝いを行いますので、是非お気軽にご相談ください。

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