建設業のM&A

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公開日:2021年12月14日 /最終更新日:2021年12月14日

建設業界のM&Aの特徴

M&Aは様々な業界で活発になっていますが、特にM&Aが活発な業界であり、体感としては全体の20%程度を占めていると感じられます。
国土交通省によれば全国に47万社あるとされ、全体の母数も多いと言えるでしょう。

建設業界とは建物を作る建築の他、土地や水路の工事を行う土木工事まで包括的に施工をする業界です。
建築と建設との違いは、建築は建築物の施工を行う企業を指すのに対し、建設は建築工事の他、ダム建設や道路の施工を行う土木工事も含みます。
そのため建設業界とは建築業界は土木工事を行うかそうでないかという点で違いがあります。
また後程触れますが、官公庁ビジネスを扱うためBtoBビジネスが主体という点も大きいでしょう。

また固有の特徴として、他の業界と比較しても高齢化が非常に進んでおり、従事者のうち年齢が55歳以上が35%を占めるのに対し、29歳以下が10%と労働力の不足に悩んでいます。
このことも後継者の不足による事業承継が行われる理由となります。
他方、隣接業種が多いことから買い手が多いという事も特徴です。

M&Aのニーズ

M&Aのニーズとして多いのは、買い手のエリア戦略として未展開のエリアにビジネスを広げ、水平統合を図っていきたいという理由が挙げられます。
その他、隣接業種から事業領域を広げるための参入であったり、先ほど述べたように慢性的に人材不足の業界であるため、M&Aにより人材の確保を行おうという意図があります。

買い手が気を付けるべき点

建設業界の仕組みは独特のため、ここからは初めて異業種からの参入を検討されている買い手が気を付けるべき点を特に記載します。
逆に建設業で譲渡を検討されている企業は、後々トラブルにならないよう、該当する点があれば事前に説明を行うことでトラブルを回避しやすくなると思いますのでご確認ください。

建設業界の特徴は冒頭申し上げた通り、一般的な企業と違い取引先が官公庁であるという事が挙げられます。
また許認可ビジネスであることから、許認可を取るために有資格者が必要となります。
特に経営管理責任者は必須のため、M&A後にも継続して残ってもらう必要があります。
買い手側が管理責任者を派遣できるのであれば問題ないのですが、異業種からの参入でそれが期待できない場合、この点について事前に売り手と調整を行っておく必要があるでしょう。

また買い手側が気を付けておくべきこととして、譲渡対象会社の実態の精緻な把握を行う必要があります。
というのは建設業の特徴として官公庁が取引先であると記載しましたが、官公庁が入札を行うにあたり「経審(経営審査事項)」と呼ばれる評点が入札結果に影響してくるからです。
官公庁としては経営が安定している企業に落札して安定して発注したいため、このような仕組みとなっているのですが、評点が経営状況や経営規模などによってポイント付けされてしまうことから、建設業社が決算書を良く見せようとするインセンティブが働き、結果として粉飾が行われてしまうリスクがあります。

一例としてですが貸借対照表で「未成工事支出金」を不必要に計上することがあります。
これは費用を繰り延べして計上すべきものを未成工事支出金として資産に計上することで、決算書の見栄えを良くし経審のポイントを上げるためです。
これを見破るためには決算書3期を比較しきちんと推移しているのか金額などチェックし、怪しいようであれば買収監査時に月次の進行表などで確認するなどの対応が必要です。
上記のような計上方法も「工事完成基準」の際に計上されるため、建設業界で原則適応とされている「工事進行基準」が適用されているのか工事完成基準が適用されているのか、会計方式についても確認しておく必要があるでしょう。

またビジネスの実態の把握のため、「工事経歴書」と呼ばれる、発注者、工事形態、発注高、工期、エリアなどが記載されている記録を確認することも必要でしょう。
同業者であれば自社でも行っていることなので、譲渡対象に工事経歴書を提出して内容を確認してもらえればわかると思います。

その他の注意事項ですが、粉飾決算の他、譲渡対象が談合や発注者へのリベートを行っているのかということも確認しておくべきでしょう。
談合やリベートを行っていた場合、今までと同様に商慣行を引き継ぐのかは買い手の判断になってきます。
事前にヒアリングを行っておくことで譲渡後の運営をイメージしておいた方がよいでしょう。

以上、異業種参入を希望する買い手向けの注意事項でした。

まとめ

建設業のM&Aは母数が多いこと、高齢化に伴う後継者不足が多いこと、とはいえ隣接業界の多さから異業種からの参入希望や水平統合、人材の獲得のためM&Aのニーズが多い業界でもあります。
反面、官公庁を相手にしている許認可が必要な業過であるため、独特な商慣習や必要な資格者など留意すべき点が多く、トラブル防止のため特に異業種から参入される買い手は気を付けておくべき点が多いでしょう。

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