公開日:2021年12月10日 /最終更新日:2024年7月24日
2021年の振り返りと2022年予測
2021年政府のコロナ対策と倒産状況
新型コロナウィルスの第5波において、他国よりも感染者が急激に増加したことは記憶に新しいと思います。東京オリンピックが開催される中不安も大きかったですが、政府のワクチン接種対策が進み感染者が急激に抑えられるとともに、経済対策も融資の拡大や各種助成金などスピードを重視した対策が取られました。
それにより不正受給の問題なども顕在化しましたが、公平性よりも迅速性を重視した対応が功を奏し、新型コロナが原因の倒産件数は月100件を超えているものの、全体としての倒産件数は55年ぶりに6000件割れになるのではないか、と帝国データバンクが予測しています。
(20211209「会社ぐるみで…やばいことしたな」HIS子会社がGoToを不正利用の疑い【調査報道23時】)
(20211106「不正受給・過払い18億円 コロナ助成金と持続化給付金、検査院抽出調査」)
2021年は「歴史的低水準」55年ぶり6000件割れの可能性、倒産予備軍企業の動向に注目
こうした情勢下ではあるものの、全国における2021年通年の倒産件数は2年連続で7000件を下回るのが確実で、6000件を割り込む可能性も出ている。年間倒産件数が5000件台となれば、1966年の5919件に次ぐ55年ぶりの歴史的な超低水準となり、企業倒産の発生が極めて抑制された状況を反映している。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)や返済リスケジュールなど、無条件に近い企業の資金繰り支援策の内容が年内に方針転換するとは考えにくく、そのため年末にかけても倒産が急増する可能性は低いとみる。
反面、コロナ対策とはいえ大規模に融資が行われたことによる中小企業の過剰債務問題も指摘しています。
全国信用保証協会連合会によれば1月~2月は代位弁済件数も1300件前後であったものの、徐々に増加をしており、10月は1806件と4割ほど増加してきています。
多くの中小企業でコロナ融資の返済が本格化している中で代位弁済件数が増加していることは、業績の回復が伴っていない中で返済が開始されていることを示唆しており、緊急事態宣言が明けてからも資金繰りなどに影響が出ている企業が増加してきていることがうかがえます。
またその予備軍も膨大になることが予想されます。
2021年日本政策金融公庫中小企業貸し出し状況(コロナ対策を中心に)
次の政策金融公庫の貸し出し状況をご確認ください。
多くの中小企業が公庫に融資を依存していると思いますが、公庫の貸出額はこの1年で倍近くまで膨らんでおり、そのほとんどは新型コロナウィルス感染症対策に充てられています。
(公庫の令和2年度末の融資残高は8兆2181億に対し、新型コロナウィルス感染症と同資本強化の合計額は約4兆1000億円)
貸出先の内訳をみると各分野で貸出額は増えているものの、物販、サービス業での伸びが著しいことから、これらの分野で貸し出しが増加していることがうかがえます。
逆にいうと、物販やサービス業の分野で特に運転資金への資金需要が高まったと推察されることから(令和元年から令和2年にかけて公庫の設備融資は減少したのに対し、運転資金融資は2倍以上に増加)、コロナ融資の返済が開始・進行するにつれ、資金繰りへの影響が高まると考えられます。
特に飲食業では客足が戻っているところと戻っていないところの二極化がすすんでいるようで、読売新聞のニュースでも飲食業界の苦境について取り上げられていました。
(20211203「忘年会シーズンなのに…自粛ムードで居酒屋は閑古鳥「歓送迎会もどうなることか」」)
変異ウィルスの動向への不安と共に、行動変容など構造的な変化も指摘されており、対応できている企業とそうでない企業の二極化が垣間見えます。
日本生命保険が10月1~13日、インターネットで男女計7774人を対象にアンケートを行ったところ、お酒を酌み交わしながら職場の上司や同僚と親睦を図る「飲みニケーション」について、「不要」と回答した人が62%に上り、2017年の調査開始以来初めて「必要」(38%)を上回った。
明治大の堀田秀吾教授(コミュニケーション論)によると、以前から職場の飲み会を「仕事の延長」ととらえ、参加を避ける人は多かったという。堀田教授は「コロナ禍で飲酒の機会が制限されても、仕事を進めるのにさほど支障がないことがわかり、飲みニケーションを敬遠する風潮が加速したのではないか」と分析する。
景気動向指数は「足踏み」としつつも改善傾向にありますが、サプライチェーンの影響を受けていることから、先日のような原油の乱高下や製造地域でのコロナ感染者の増加などのカントリーリスクなどにより影響を受けてしまう可能性もあるでしょう。
マクロ経済動向が資金繰りに及ぼす影響も考慮して対処する必要があります。
*2021年12月15日追記
日本経済新聞「飲食店の客足、回復伸び悩み 19年比26%減」によると客足は伸び悩み、忘年会シーズン前なのにもかかわらず落ち込んできているようです。
本コラムを書いた時よりネガティブな方向かもしれません。
政府の動向は?
帝国データバンクのまとめでもあるように、政府は単なる資金繰り支援から私的整理など存続から整理・統合を行うための土台整備にシフトしているように思えます。
この点については9月8日のコラムでも記載しましたが、「中小企業の私的整理ガイドライン」を改定するという動きを政府が見せていたこととも整合性が取れます。
国内では変異型ウイルスのオミクロン株による感染拡大も懸念されるものの、経済活動自体は総じて正常化に向けて舵を切りつつある。それに呼応して、官民の中小企業支援も緊急対応の意味合いが強い資金繰り支援から、私的整理の議論も含め、早期の事業再生を後押しする「本業支援」に切り替わる過程にある。ただ、こうした枠組みは既存債権の放棄など債権者に痛みが伴うため、実際には同じ経営不振企業でも実抜・合実計画が策定可能な将来性のある企業では引き続き手厚く支援される一方で、金融支援に頼りきったままの企業では法的整理などハードランディングも含め、これまでよりもシビアな判断が下される可能性が高い。そのため、ゼロゼロ融資の申請期限が終了する来年3月を境に、再建困難な不振企業で倒産が増加するシナリオが想定される。
無尽蔵な貸し出しはいわゆる「ゾンビ企業」を増加させ、経済成長を低下させる可能性があるとして、生産性を上げるために整理統合することが考えられます。
先日のコラムでも触れましたが、中小企業庁がインセンティブを使って中小企業のM&Aを推し進めているのはまさにその観点です。
(20211206コラム「政府が中小企業M&A支援を行う背景」)
また国会内の政策調査レベルでは保証協会の求償権放棄などについても触れられていることから、過剰な債務を処理できるような環境を作っていこうとしているのは間違いありません。
(「中小企業の過剰債務問題と今後の政策の方向性 ~コロナ禍で苦境にある中小企業の財務と事業再構築への課題~」)
なお岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」という政策テーマについても個別に検討する必要があると思います。
従来は経済成長と市場経済の経済原理を重視していたので、今後も中小企業の統廃合を推し進める流れが継続するだろうと考えられました。
しかし岸田政権は財政規律を維持しながら「分配」も重視するとのことなので以前の政策と変わってくる可能性があります。
自民党税調の議論や政府の税制大綱などの議論を仄聞したり、看護師・保育士・介護士など公的セクターの賃金を見直そうという動きを見る限り、企業にとっての負担重視という流れは起こり得ると考えられます。
財政規律を求めるのであれば税負担は高まるため、景気は悪化して売り上げは下がるでしょうし、特定セクターの賃金の見直しは労働市場の全体の賃金を上昇させるためです(このほかにも同一労働同一賃金や最低賃金の見直しなども想定されます)。
また公庫も政府から政府の一般会計から出資や財政投融資から借入れを受けており、保証協会は公庫から保証を受けていることから、保証協会が求償権を安易に放棄した場合、まわりまわって政府の財政問題の議論にもつながりかねません。
そのため保証協会の求償権放棄の議論がどこまでできるのかという点は不透明になる可能性があります。
なお政府は「分配」も行うとのことですが、財政規律を考慮すると政府が重要視していないセクターでは分配の恩恵も被れない可能性があります。
その場合、帝国データバンクが指摘する通り、「金融支援に頼り切ったままの企業」についてはシビアな状況に直面する可能性がさらに高まると考えれます。
ただし財政健全化を図るのか財政出動を行うのかという点については自民党内で議論が分かれているようなので、政府動向だけではなく自民党内の意思決定も判断材料になってくると思いますが、コロナ前の財政出動下において恩恵をあまり受けていなかった企業であればやはり厳しい状況というのは変わらないのではないでしょうか。
(20211201「財政議論の最高顧問に安倍元首相 再建派は風前のともしび」)
(202107「自民に“財政”2組織が発足 財政再建派と積極財政派が攻防」)
賃上げ税制についても賞与を含めた給与総額で税制控除ができるようになりました。
ただこれも固定費自体は上昇してしまうことや生産性が変わらなくても賃上げの期待を従業員が持ってしまう可能性があるため、経営を行うにあたってはプレッシャーになると考えられます。
またどの程度本制度が継続するか、という点も気がかりです。
いずれにせよ従業員から賃上げ期待が起きる中で、先ほど例に挙げたような運転資金を過剰に借入れしている企業にとってはプラスに働かない可能性が強いでしょう。
(20211210「賃上げ税制、基本給案頓挫 「首相演出」も不発―税制改正」)
赤字企業が賃上げした場合、以下のように補助金などで優遇することも考えているようですが、赤字企業が賃上げを行うことは現実的とはいいがたく(補助金が不採択になった場合、資金ショートする可能性がさらに高まるため)、中小企業の実効性については疑問が付きます(太線筆者)。
政府としては、民間企業の賃上げを支援するための環境の整備に全力で取り組みます。
第1に、従業員お一人お一人の給与を引き上げる企業への支援を強化するため、企業の税額控除率を抜本的に強化することを検討し、今年末の税制改正大綱で決定いたします。
第2に、税制の効果が出にくい、赤字の中小企業の賃上げを支援するため、ものづくり補助金や持続化補助金において、赤字でも賃上げした中小企業への補助率を引き上げる特別枠を設けます。
第3に、人的資本への投資を抜本的に強化するため、3年間で4,000億円規模の施策パッケージを、新たに創設し、非正規雇用の方を含め、職業訓練、再就職、ステップアップを強力に支援することとし、一般の方からアイデアを募集し、良いものに仕上げてまいります。
第4に、中小企業の賃上げの環境を整備するため、下請Gメンの倍増を図り、取引適正化のための監督を強化いたします。
第5に、政府調達において、賃上げを行う企業に対して、加点を行うなど、調達方法の見直しを行います。
なお余談ですが、高市政調会長が財政政策検討本部の案を話した翌日に、財務省が額賀元財務大臣が財政健全化推進本部を立ち上げるからとの話になったようで、政府与党内での綱引きの強さがうかがわれます。
仮に積極財政を行うとしても意思決定には時間がかかりそうです。
まとめ
2021年は政府の対応が素早く、資金供給を潤沢にできたことにより全体としての倒産件数を減らすことができました。
ただしコロナ融資の返済が進むにつれ、売り上げが回復していない企業の運転資金がショートしてきていることが顕在化してきています。
また特定のセクターによっては運転資金の借り入れが過大となっている企業が多数いる可能性があります。
そう考えると金融支援の縮小に伴いさらに倒産件数が拡大していく可能性があるでしょう。
特に行動変容に対応できていなかったり、景気動向に左右されてしまう業態の場合なおさらですし、政府の政策を見ても中小企業の負担が増える可能性があると考えられることから、将来に不安な企業は余力のあるうちに対応を検討するべきと考えられます。
運転資金について3~5ヵ月程度あればM&Aにしても私的整理にしても色々と対応できる選択肢があります。
したがって現金が残っているうちから経営の立て直しを含めたすべての選択肢を検討しておくことで、会社や会社に伴う従業員や無形資産などを存続させることができるのではないでしょうか。
なお私的整理などに関する事業再生(企業再生)については以下のコラムも参考にしてください。
*2021年12月17日追記
同日朝日新聞が配信した「日銀、コロナ対策の縮小決定 大規模緩和は維持」によると、中小企業支援のための融資は6ヵ月継続されるようです。
運転資金の借り換えができ、かつ半年間の間に売り上げなどが上昇してきている企業にとっては朗報ではないでしょうか。
厳しいとされている飲食業やホテル業などについてGotoなどの施策でカンフル剤を打ち正常化へ変えようと考えているのかもしれません。
ただし同日に「オミクロン株への水際対策 1月以降も措置継続を検討 政府」との政府発表も出ているため、Goto施策が行われるかどうか、というところが論点になるでしょう。
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