公開日:2021年10月1日 /最終更新日:2024年7月24日
岸田文雄内閣と中小企業とM&A
岸田文雄宏池会会長が激戦の自民党総裁選の末、第27代自民党総裁に選出されました。
おめでとうございます。
今回は岸田総裁が総理大臣に選出される前提で、中小企業の経営環境にどのような影響があるのかということについて思考整理的に記載してみたいと思います。
なお本ブログは政治的な党派性に基づいて記載しているものではなく、何らかの政治信条を示したりするものでもないことを予め明言しておきます(あくまでも今回の総裁選により中小企業に影響を及ぼしそうなこととM&Aについて、です)。
なお政策については岸田候補(当時)の総裁選のためのサイトより引用しています。
「新しい日本型資本主義」 〜新自由主義からの転換〜
「成長」と「分配」の好循環
私は、かねてより、「新しい日本型の資本主義」を創ると申し上げてきました。
経済には、成長と分配の両面が必要です。正に「成長なくして分配なし」です。しかし、同時に、分配なくして消費・需要の盛り上がりはありません。「分配なくして次の成長なし」も大いなる真実です。
規制緩和・構造改革などの新自由主義的政策は確かに我が国経済の体質強化と成長をもたらしました。他方で、富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断も生んできました。成長のみ、規制緩和・構造改革のみでは現実の幸せには繋がっていきません。
今こそ、成長と分配の好循環による新たな日本型資本主義の構築が必要です。そのため、「新しい日本型資本主義」構想会議(仮称)を設置し、ポストコロナ時代の経済社会ビジョンを策定し、「国民を幸福にする成長戦略」と「令和版所得倍増のための分配施策」を進めます。
これまでの政府の経済政策
「新自由主義」を標榜した小泉内閣では、サプライサイド(生産側)を強化することで経済力が上がるという「セイの法則」に準拠した考えでした。
そのため規制緩和や構造改革を進めることで日本経済の回復を図ろうとしました。
反面、当時経済成長を行なってきた中国と人件費切り下げなどで真っ向から争ってしまったことから、工場の流出や人件費の切り下げによるデフレーションなどが生じ、「失われた20年」に突入してしまいました。
その後の支持率を落としていく自民党にから政権を奪ったのは民主党政権でしたが、公約としていた「埋蔵金」は発掘できず、「事業仕分け」などの支出削減を徹底し財政再建を行おうとした反面、円安を容認せず円高を放置したことで、失業者が増加し、さらにデフレが進んでしまっています。
上記の経緯を踏まえ、安倍内閣では「トリクルダウン理論」により、まず富めるものが富み、そこから末端まで豊かになっていく、という考えで政策方針が立案されました。
例えば「第一の矢」による金融政策がそれです。
日銀の圧倒的な量的緩和による「第一の矢」は確かに株価向上による資産効果や円安誘導により雇用が増加するなど大きな効果がありました(その効果は現在まで生じています)。
他方、「第二の矢」である財政政策が乏しく、「第三の矢」である規制改革などが行われなかったことから、金融政策に終始してしまい、かつ消費増税も行なってしまったことから、資産にアクセスできる層が豊かになっただけ終わってしまいました。
特に一般的な労働者は当初目指していた「2%のインフレーション」も起きず、実質賃金が伸びず、社会保険料などの社会保障費が上昇していったことから、実質的な購買力も低下してしまっています。
上記のような歴史的経緯により経済格差が発生して拡大しているという認識で、岸田総裁は冒頭にあるような「新しい日本型の資本主義」を提唱したのだと思います(さすがに総裁選で協力を受けようとしていた、安倍さん麻生さんが主導したアベノミクスの直接的な批判は回避していますが)。
ところで岸田総裁はご存知の通り「尊敬している人」として池田勇人首相を挙げています。
池田首相は「減税、社会保障、公共投資」を軸とした「所得倍増計画」により日本の中間層の所得を増やすことで、「完全雇用の達成」「所得格差の是正」「福祉国家の実現」を目指しました。
結果としては様々な歪みも生じましたが、7年間で国民の所得を倍増させることができました。
以上を踏まえ、「令和の所得倍増政策」ともニックネームをつけた岸田総裁の経済政策について個別にみていきたいと思います。
成長戦略岸田4本柱
科学技術立国
10兆円規模の大学ファンドを年度内に設立。
投資・研究開発・人材育成など未来への投資を積極的に応援する大胆な税制を実現。
再生可能エネルギーの一本足打法ではない、原発再稼働などを含む「クリーン・エネルギー戦略」の策定。経済安全保障
我が国の戦略的「自律性」と「不可欠性」を確保するため 「経済安全保障推進法」(仮称)を策定。
DFFT(自由で信頼あるデータ流通)を推進。
経済安全保障・DFFTを担当する専任大臣設置デジタル田園都市国家構想
5G の早期展開など、地方におけるデジタル・インフラの整備。
テレワーク、自動運転など、デジタルの社会実装により、二地域生活を振興。
全ての方がデジタル化のメリットを享受できよう、デジタル推進委員を全国に展開。人生100年時代の不安解消
働き方と関係なく、充実したセーフティーネットを受けられるよう、働く方は誰でも加入できる「勤労者皆社会保険」を実現。
この点で中小企業に対して影響のありそうなのは
・原発の再稼働
・テレワーク、デジタルインフラ
・勤労者皆社会保険
でしょうか。
原発稼働により、電気代が下がる可能性があることは直接的にポジティブな影響が出ると思います。
また河野ワクチン担当大臣のようなラディカルな再生エネルギーのシフトが当面なくなったのであれば、そこにかけるコストが発生しない(先送りになる)という点でポジティブでしょう。
テレワークやデジタルインフラという点は評価が難しいところです。
遠方でも社員が業務に参加できるようになるなど、働き型の自由度が上がるという点ではポジティブですが、他方、地方でも優秀な人材が大手の企業で就業できる機会が増えるということで、社員を取り負けてしまう可能性が発生してしまいます。
この点は共感できる経営方針、代表者のブランド(キャラクター)、扱っている商品やサービスの魅力を訴求していく他なく、発信力で劣ってしまう企業は長期的には不利に働いてくるでしょう。
反面、労働力が都会に流れるのが一時的に遅れるのであれば地元での採用対象が増えるという点でプラスです。
いずれにせよ対策は必要になってくるでしょう。
勤労者皆社会保険については国民年金と社会保険の枠を取り払うという趣旨ですが、企業負担が増えるという点では単純にマイナスになってくると思います。
話はずれますが社会保険料が対象になる給与も財政再建のため今より下がってくるのであれば、併せて企業負担も増加するため、人件費をいかに減らせるか(生産性を高められるか)は喫緊の課題となってくるでしょう。
後ほど触れますが、最低賃金の上昇もさることながら、全体的に賃金が低かった層の「相場(という言い方は不適切ですが)」が上がってくると考えられるからです。
高付加価値商品やサービスを提供しているのであれば、コストを吸収ないしは転嫁できるので問題ないと思いますが、差別化できないサービスや商品を提供しており、提供のために労働集約(人手だけ)で行なっている企業は、競争力が維持できず、淘汰される可能性がさらに強まってくると考えられます。
分配施策岸田4本柱
三方良しの経済を実現する「下請けいじめゼロ」
大企業に対し、長期的な視点から、株主だけでなく、従業員も、取引先も恩恵が受けられる「3方良し」の経営を強く要請。
四半期開示の見直し、非財務情報の開示充実、下請取引に対する監督体制の強化。子育て世代の教育費・住居費を支援
子育て世帯の中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる、「令和版所得倍増」を目指す。
特に、子育て世帯にとって大きな負担となっている住居費・教育費について、支援を強化。あなたの所得が増える「公的価格の抜本的見直し」
看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士など、賃金が公的に決まるにも関わらず、仕事内容に比して報酬が十分でない皆様の収入を思い切って増やすため、「公的価格評価検討委員会(仮称)」を設置し、公的価格を抜本的に見直し。
公的分配を担う財政の単年度主義の弊害是正
企業に長期的視点を求めることと同様、政府も、科学技術の振興や経済安保などの国家課題に計画的に取り組む。
個人としては上記の政策はポジティブに捉えています。
ただし中小企業経営に大きな影響がある政策もあると考えており、それは公的価格の抜本的見直しであると考えています。
確かに今まで冷遇されてきた職業の人たちに政府が焦点を当てる事自体は賛成ですが、中小企業経営からすると、この層は労働力を確保するためのセグメントでもあったと思います。
このセグメントの賃金が「公的価格」により引き上げられるということは、今まで支払っていた賃金では採用できない、もしくは採用者の質が下がってしまう可能性が高くなる、ということです。
最低賃金の引き上げであれば目に見える形ですが、このセグメントから採用を行なっていた企業は採用相場が変わってきてしまうことから、利益の減少が見込まれるでしょう。
場合によっては「公的価格」に社員が流出してしまう可能性もあることから、採用のための費用(紹介料)が発生することで、スポットでコストが発生する可能性があるでしょう。
上記を踏まえると、労働者に対しては格差是正で暮らしやすくなりますが、経営者層、特に生産性が低く安価な労働力に依存している会社にとっては、自社に投資をして機械化を進め、効率化を図り生産性を高められるないと淘汰される圧力がさらに増すと言わざるを得ないでしょう。
政策と政局
また岸田さんは今でこそ、コロナ危機のための投資を行うべきということで10兆円規模のファンド創設を皮切りに財政政策について主張していますが、元々は財政均衡派でした。
より積極的な財政タカ派の高市さんを政務会長に据えたことで、当面財政政策を緊縮化させることはないと思いますし、国産半導体を政府主導で作るべしと唱えている「半導体戦略推進議員連盟」の会長である甘利さんが幹事長として入閣していることから、日本への投資を行なっていくと考えられます。
他方、今回の人事で大物閣僚とは言い難い財務大臣の配置や腹心に伝統的な財務省的価値観(財政均衡論)を持っている代議士を置いていることから、積極的な財政拡大が継続されないのではと市場が判断してしている可能性があります。
実際、日経平均株価は10月1日現在で29,000円を下回り、28,771.07円でした。
現在時点で組閣は終わっていませんが、今回の総裁選の功労者である甘利さんの属する麻生派、というよりも甘利さんに近い人たちが重要ポストにつき始めていることで、麻生派内で争いが起きる可能性があります。
また若手をまとめた福田さんを総務会長という重要ポスト(通常は重鎮がつくポスト)に据えたことで、細田派内でも対立が起きそうな印象が残るなど、政策とは別に政局により政治が流動的になる可能性があります。
加えて、財務・金融などで省庁をグリップできない場合、中小企業ではコロナ融資の返済は始まりつつありますが、返済猶予継続など措置を政府主導で進められない場合、キャッシュが尽きてしまう企業が続出してしまう可能性も考えられます。
本ブログは政局について詳細に触れることは避けますが、仮に政治が流動的になった場合、投資を含めた政策実行が中途半端になり、手をつけやすい(支持率を上げやすい)「公的価格」など、中小企業の経営に影響が出そうなところから先に手をつける可能性があると思います。
その場合、コスト上昇から先に変化が発生してしまうでしょう
抜本的な人件費の見直しによる生産性の向上
備えあれば憂いなしで事前に想定される可能性について対応するに如くはないと思いますので、人件費が今後上昇していくことに耐えられないと御懸念されるのであれば、早めに投資を行うなどして対応されたほうがいいと考えます。
なおここでは触れませんでしたが、経済活性化生活として「ウィズコロナ」を総裁選で主張されていたので、おそらくワクチン接種者について補助を出すなどの政策をとると思います。
今まで苦労されてきた飲食や宿泊、旅行業の方は受け入れに備えて動いてもいいかもしれません。
これも早期に投資を行い、早期に対応できる体力がないと取り負けてしまう可能性があります。
なおイスラエルのようなワクチン接種が進んでいる国の様子を見ると、日本も接種が進んでいるものの、未接種者を中心にもう一度コロナ感染の波が来ることが想定されます。
もしそうであれば、政府が緊急事態宣言を出す(Gotoなどの支援施策が止まる)可能性があるため、早めに動いて売り上げを確保することが必要になってくるでしょう。
M&Aを用いた事業構造の変化と「M&A支援機関登録制度」
上記のような経営環境の変化に対し、単独では対応が難しいということであれば、M&Aによって事業構造を変え、環境変化に対応していくことも考えるべきかもしれません。
具体的には大きな資本と連携しグループとなることで、環境変化に対応するための投資などを行なったり、販路などの経営資源を利用するということです。
なお弊社は9月30日付で中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」へ登録いたしました。
政府は中小企業の経営資源の集約化を円滑に行うため、「中小M&A推進計画」を策定しましたが、その一環として弊社のようなM&A支援機関を登録制にすることで、従来のような苦情を起こす仲介会社を顕在化させ淘汰させようという趣旨です(そこまで露骨なことは書いていませんが)。
他方、支援機関制度に登録し、きちんと対応を行う企業を使ってM&Aを行なった場合は国から手数料に対して補助金が出るなどのインセンティブがあります。
言い換えると弊社でM&Aを行った場合、手数料部分に対し国から補助金が出ます。
もちろん弊社は中小企業庁の定める「中小M&Aガイドライン」に沿った対応を行うよう心がけておりますので、今後の経営環境について御不安な方はお気軽に弊社までご相談ください。
M&A仲介については以下のブログも参考にしてください。
小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」についての解説
「M&A仲介への不信感4選」
仲介かFASか
「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場会社との比較!
M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!
売り手がM&Aを始める前に確認すべき5つのこと
【年倍法】M&Aの「価格」と「価値」の違いとは
「御社を買いたい人がいるから売ってくれと言われているが本当か」問題
M&A仲介会社の「業界最安値」手数料問題とは
仲介会社が入る意味とは
「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」
「中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方」
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