M&A仲介会社には絶対に転職するな!

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公開日:2024年1月26日 /最終更新日:2024年7月24日

M&A仲介会社へ転職したら

「M&A〇〇会社(実際の会社名)+しつこい(迷惑、電話などなど)」という会社名で検索されて訪問される方が多い弊サイト、迷惑営業を受けている会社の関係者以外にも、そういった業界に入りたいと考えている学生や社会人も訪問すると思われるので、中の人の目から見た実感を記載してみたいと思います。

M&A仲介業界の採用・転職状況

まず外観を見てみましょう。2023年のM&A仲介会社の特徴ですが、

・上場企業を中心に採用は引き続き活発化(理由としては営業予想=営業マンの人数×平均成約単価×成約率というKPIのうち、本社で管理できる営業マンの人数を上げることで株主にアピールできるから)

上場M&A仲介の平均年収の高さから他業界からの流入は変わらず

最大手上場企業を中心に退職者が相次ぎ、退職者が独立していてさらにすそ野が広がり、独立したブティックも採用を開始

・異業種からもM&A仲介(事業承継)に対する参入は継続していること

などがあります。
そのほか、少子化が進み、若手のボリュームゾーンが減っていることで、20代や30代の男性はM&A仲介への転職について取り合いになっていたり、
業界固有の高額のインセンティブ報酬要素もあり、売り手市場になっているといえます。

上記の理由から、転職の際に支度金(一時金)が支給されるなど、昔の寿司職人の採用のようなバブル感が出ている…という状況です。
そういわれると、若い人なら求められるといってみたくなりますよね…?

参考までにですが、若い男性だけではなく、このほか、M&A仲介や本業のDDなどに携わる士業(弁護士や公認会計士、税理士)はもちろん、転職市場の人材紹介会社やテレアポ業者、DM業者、「M&Aの成約したことがないのにいっちょ語りをして認知度を上げたい謎の自称ジャーナリスト」のような魑魅魍魎が寄ってきているような状況になっている、というのが弊業界を俯瞰した客観的な感想です。
(後述しますがもちろんまともな人もいます)

現在のM&A仲介業界とは

インナー情報もあるのでご紹介できない情報もあるのですが、ここ数年でM&A仲介担当者をとりまく環境はかなり変わったと思います。

理由としては、

前述のようにM&A仲介会社が増え競合が増えた中小企業庁に登録しているだけでも3,032社。2024年1月現在)
コロナなどにより「いい売り手」という、買い手がつきやすい企業が減っている
上記と関連するが、「事業継承」という観点からも後継者がいない企業が減っている(後継者がいる企業が増えている)
④買い手の目線が厳しくなってきている

などがあげられます。
担当者は増えて競争は激しくなってきているのに、買い手の目線が厳しくなっている中で、「売れる」ような案件がなければ、それは状況は厳しくなりますし、担当者から見たらなおさらレッドオーシャンになりますよね。
また数が増えることで、M&A仲介会社の営業に対して「迷惑」と拒否反応を起こす会社も増えているので、なおさらです。
弊社のように非上場の会社であれば時間をかけて対応できるので、少しはましなのですが。

買い手探しも、ここまで割り切ってじゃんじゃん買い手候補にアプローチすればそれもでありなのでしょうが、弊社もさすがに売り手様の信用を考えるとそこまで割り切れないなあというところはあります(「来月までに相手がいないと倒産してしまう」みたいな案件はもちろん別です。何を重視するかはもちろん案件によって変わります)。

また最近、M&A仲介業者で「給与の遅配」の話もちらほら聞くようになり、人だけ増やしている会社は危険な可能性があると思います(後述します)。

株価は企業の先行指標といいますが、新興・老舗の上場企業を見ると、やや不安になってしまう向きもあろうかと思います(1,2,3,4,5)。

採用数を増やしている会社はなぜ危険?

今のトレンドとして、採用数を拡大している会社が多いのですが、当職はネガティブです。
理由としては大きく分けて二つで、

①運転資金の資金繰りが悪化し、担当者や売り手(買い手)に迷惑をかける可能性があること

②業界のレベルを下げること

の2点です。
順に説明していきます。

①の「運転資金の資金繰りが悪化し、担当者や売り手(買い手)に迷惑をかける可能性があること」についてですが、先ほど申し上げたように、多くの会社は「売り上げ=営業マンの数×平均単価×成約率」という方程式で考えます。
例えば現在営業マンが10人で、平均単価が2000万円、成約率が50%の会社があったとします。この場合、来期の売り上げ見込みは10人×2,000万円×0.5なので、1億円と計算できます。
これを株主に対して「来期は売上を2倍にします!」というには、平均単価や成約率が変わらなければ営業マンの数を2倍の20人に増やせばいいわけですよね。簡単!

…もちろん簡単ではないというのは経営者ならわかると思うのですが、どうしてもリードタイムが発生しますし、雇った人間が今いる人たちと同様にできるのか、という問題があります。
M&A仲介は不動産仲介に似ていますが(不動産仲介のほうが管理物件でフローが入ってくるので安定する業態だと思います)、当職も拡大のために営業マンを増やしたのに、思ったより売り上げが上がらなく、固定費がかさんで倒産しそうだという相談を受けてまいりました。
ここで固有名詞は出せないのですが、思ったように売り上げが上がらず遅配に至ったりしているようなM&A仲介があるとうわさで聞くのはそういう理由だと思います。
また②とも関連するのですが、質の悪い担当者が増えていて、売り上げを上げるために採用しても「はずれ」をひいたことで上記の成約率が下がってしまい、計画が達成できないという状況もあるようです。
そうすると案件を受託した仲介会社も資金繰りが悪化してしまうため、せっかく信用頂いてお預かりした案件も、資金繰りを良化するために売り手をだましてでも成約する、というインセンティブが出てしまう可能性も高いでしょう(資金繰りにかかわらずそういう姿勢の会社もあるようですが)。

②の「業界のレベルを下げること」ですが、これは先ほど挙げたように、資金繰りのために売り手や買い手をだましてでも成約させようというインセンティブが働いてきます。そのため業界の品質が下がってしまい、個社の悪い口コミが広がることでM&Aを敬遠する人が増えてしまうでしょう。
また「使えない」と思われた担当者が業界内で滞留してしまうこともあります。
先ほどの段落で上げたように、一時金を払ってでも採用するために営業マンを入れ込みたい状況なので、わずか数カ月でも「M&A仲介会社にいました!」という営業であればまだ引く手あまたのようです

ただM&Aを発掘から一貫してやった担当者、あるいはM&Aに携わった売り手様買い手様はご共感いただけると思いますが、息の長い交渉の中で、それぞれの思惑の交錯やDDや意思決定の助言(役割分担の観点からDDの実施は専門家にお願いします)、最終的なクローズ条件の調整の助言など、担当者も含め利害関係者すべてが心身をすり減らしながらゴールに向かっていく手続きと考えているので、それらを経験しない人たちが「経験者です」という顔をして、新規採用を行っている各社に散らばるというのは、やはりM&A仲介業者の質の低下、ひいては業界のレピュテーションの悪化につながるのを危惧してしまうのは私だけではないのではないでしょうか。

実際、キラキラした名前の新興某社、創業メンバーがいなくなってしまったようですが、「M&Aを一件決めたら部長になれる」という状態とも聞いています。
おそらく教える人がいなくなっているので、少しでも経験がある人がいれば、その人を管理職にして下を教えてマネジメントしようということなんでしょうが、もはや野戦任官の末期戦ですね…(創業したばかりなのに)。

M&A仲介業界に来るべきでない理由

上記のようにマーケットが不安定な中で転職や就職で参入するメリットがあるのかを考えてみましょう。
就職(転職)した先が教育体制が取れていなかったり、コールしか教えなかった場合、そもそもやれる案件が獲得できない会社だと自分自身のスキルが付きません。
また某上場企業の社長のように「世の中、金や金や金や!」と言っているところだと、志や夢をもって転職しても、スタイルの違いによって思いが満たされない可能性が高いことは承知しておいた方がいいでしょう。

また就職・転職後のキャリアのことも考える必要があるでしょう。
ある程度貯金ができてハッピーリタイア!というのもちょっと前は現実的でしたが、現在それができるかは不分明です。

なぜなら会社によると、後輩が案件や買い手を見つけてきても上司がいっちょがみしてインセンティブを取っていくという話も仄聞します。
「公正な評価」といわれて入社しても上司先輩に霞を取られてしまうので、納得感がないこともあるかもしれません。
(イメージとしては下図の通りです。ルーベンスの世界です)

また新卒で入ってくることはなおお勧めしません。

詳しくはこちらのNoteにお願いしますが、新卒を採用してコールセンターを作り、上述の運転資金の理由などから大量解雇したケースがあるからです。
解雇自体はどの業界どの会社もリスクとしてあると思いますが、コールセンターで解雇されるとせっかく新卒カードで配属されたのにそのカードを失うだけでだけでなく、スキルが身につきません。
金融機関などであれば昔からの企業が多いですし、そういうところであれば最初に半年一年などの座学の研修などあるので、まだ第二新卒時にアピールできることも大きいのかなと思いますが。

そのほかの理由としては、M&A仲介業界に入った後のキャリアプランがまだ確立していないことです。

確かにこの業界に入ってサーチファンドを経由して経営者になった人や、買い手の経営者から評価されて買収先企業の役員になった人も周りにいます。
しかしそれらは例外で、基本的に「営業マンとして使い捨て」の会社が多いので、なかなかそういうセカンドキャリアを意識的に狙うのも難しいでしょう。

そうすると転職先ないしは入社先の会社に不満があった場合、他のM&A仲介会社に転職か自分で起業かのいずれかになります。
当職などは自分でこの仕事に向いていると思い起業したのでいいのですが、やむにやまれず起業した人も散見されますので(その後見えなくなりましたが)、そういう人たちを考えると中途で転職でもリスクだと思いますが、新卒だとなおその後が難しいので止めておいたらいいのではないか、と思う次第なのです。
(もちろん当職のように一二社挟んで起業して拡大している人もいますので100%やめておけ、という話ではありません)

それでもM&A仲介業界を目指す人に

ここまでネガティブな発言をしてきましたが、個人的にこの業界に「入ってよかった!」と思われるような出来事がありました。

①経営者と直接接でき、その都度ドラマがある(経営危機を助ける相手を見つけたり事後を託せる若手にバトンを渡す手伝いができたり、その過程で愚痴などいろいろ聞いたり)
②各業界のビジネスモデルを知れる(理解しないといけない)
③日本の国内法や財務会計の知識を深める(深めないといけない)
営業(人)としての胆力や交渉力を広げられる(広げないといけない)

など様々な経験やスキル知識の拡大がありました。
そういった個人の能力や経験知識などの拡張ができる業界としては大いにお勧めできると思います。

ただ給与面だけで見るのはあまり感心しません。
たしかに大手上場会社の業績など見るとそう思う向きも分かります。
またこの業界は高給やインセンティブが悪目立ちしますが、中小企業庁の公表している資料など見ると最低手数料の中央値はおそらく500万円以下のように思われます。
インセンティブ率や報酬額が高い会社はありますが、そういう会社に入っても恒常的に高い年収になるかは別の話ですし、そうでない期間にモチベーションが保たれるのかという問題があるからです。

なおこれは余談ですが、上場M&A仲介会社では基本給とインセンティブ率については逆相関があり、基本給が高い会社ほどインセンティブ率が低いとか、インセンティブ率が高い会社だと目標未達の場合、ノルマが翌年に持ち込まれ、達成しないとインセンティブが満額支払われない、などの話を聞きます。
…当職が仲介した不動産仲介業界でも「昔はやっていたけど、最近はこういうのはやらへんねん」と言ってましたが、M&A仲介業界ではまだやっている会社があるんですね。

さらにそれでもM&A仲介会社を目指す人に

ここまでお読みいただいたうえでもM&A仲介会社に入りたい!と思われる方はよほどのマゾヒストかスイッチが入った人なのでもはや止める言葉はないでしょう。

その上でこの業界に入りたい人にアドバイスをするとするなら、

・新卒採用

そうはいってもやめておけ。
少なくともM&A仲介営業が向いてないと思ったときに元の業界に戻れるくらいの専門性はつけておけ。
さもないとコールセンターに放り込まれたりして使い捨てられるぞ。

・中途採用

きちんと構造が整理され、教育がしっかりした会社に行け。
固有名詞を出すと(ほめるところだから出します)日本M&Aセンター様なんかは研修がしっかりしていると聞いています。
ただし同社は社内で買い手と売り手に分かれてしまったため、分業化が起きたり、社内政治が発生したりしているという話も聞いており、一貫したスキルが付きづらくなっているようです。
また日本M&AセンターからMACPにいったら化けた、みたいな話も聞いたりします(発掘からクロージングまで一貫なので)。
従って日本M&AセンターもしくはそこからのMACPなのかなと思いますが、日本M&AセンターMACPも専門誌で報道されていたりするので、自己責任でご判断ください。
また社風も合うあわないはもちろんあると思います。
でも見たことも聞いたこともない会社に飛び込みで行くよりもいい先かなと思います。

当職も信頼できる仲介会社の代表者たちと情報交換を行っているので、就職・転職でお悩みの皆様はお気軽にご相談ください!

<2024年4月8日追記>

本文中でマンパワー主体のコールが案件発掘の要素の一つと書いていますが、先ほどM&A支援機関登録事務局から迷惑営業の注意喚起が各社に入りました。
迷惑コールをものともしない会社は当局から排除される可能性がある(信用の低下や買い手・売り手は補助金の対象ではなくなるなど)ことから、人を抱えて固定費が高い会社はつらいことになりそうです。
逆に税理士などとリレーションを持っているコールだけに頼らなくていい日本M&Aセンターなどにとってはプラスでしょう。
従ってそういうリレーションがない会社にこれから入るのは結構厳しい状況になるかもしれません。
メールについては以下、参考までにご確認ください。

お世話になっております。M&A支援機関登録事務局です。
平素より中小M&Aに係る支援に御尽力いただき、誠にありがとうございます。

事務局においては、登録M&A支援機関に係る支援の実態についての情報提供窓口を設置しておりますが、情報提供の内容としては、営業先が契約締結を断ったのにも関わらず、営業行為を継続する行為等の営業行為に係るものが多く寄せられております。

「中小M&Aガイドライン」においては、M&Aに必ずしも詳しくない中小企業の意思決定を適切にサポートし、依頼者の利益のために善意管理注意義務や職業倫理に基づいた支援を実施することをM&A支援機関に対して求めているところです。

こうした趣旨を踏まえると、契約締結に向けた営業行為についても依頼者となりうる中小企業の意向に沿って行う必要があると考えており、このため、今年度以降、営業に係る情報提供が寄せられた場合には、当該情報提供に係る登録M&A支援機関に対して通知し、注意喚起することといたします。

とりわけ、複数回の情報提供が寄せられる等、潜在的な依頼者である中小企業の意向に沿わない営業行為が組織的に許容されていると疑われる場合については、ガイドラインにおいて求めている「職業倫理」の醸成等が不十分との疑念が生じることとなりかねず、こうした場合には、M&A支援機関登録事務局としても追加的な対応を検討していくこととなります。

以上、引き続きよろしくお願いいたします。

 

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