【事業再生】特定調停スキームとは

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公開日:2021年3月4日 /最終更新日:2021年3月5日

特定調停スキームとは

M&Aとは少し離れてしまいますが、「事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用」について、日本弁護士連合会から手引きが出されており、弊社の企業再生(事業再生)ワンストップサービスとも共通する部分が出てくるので、当職の整理もかねて記載してみたいと思います。

日本弁護士連合会は,「中小企業等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(以下「金融円滑化法」といいます。)が終了したことへの対応策の一つとして,簡易裁判所の特定調停制度を活用したスキームを円滑に運用するため,2013年(平成25年)12月5日,その対象,手続等を明確にした「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引き」を公表しています。金融円滑法は当時「貸し剥がし」が問題だと金融担当大臣の亀井静香大臣の肝いりで制定され、中小企業を救うために融資を行うよう金融機関に対して働きかけい救われた企業も多い反面、本来は市場から淘汰されるべき企業の延命も促してしまったとの論調でした。金融円滑法は時限立法でしたが、終了時期が近付くにつれ延長され、終了後も「法律が終わったからと言って、貸し剥がしをしてはいけない」という趣旨のコメントが政府から出されていたと記憶しています。

日本弁護士連合会は金融円滑法が終了し、金融機関の査定が厳しくなり、退場すべき企業が多く出てくること、またそれらに対して簡易裁判所を用いて、スムースに再生を支援するためのスキームを策定したものと理解しております。

特定調停スキーム(事業再生視線型)の概要・要件

日本弁護士連合会の発行している手引きからの引用です。

1 特定調停スキーム(事業再生支援型)の概要
本手引における特定調停スキーム(事業再生支援型)とは,金融機関に過大
な債務を負っている事業者の主たる債務及び保証人の保証債務を一体として,
準則型私的整理手続の一つである特定調停手続により整理するものです。事業
者については,リスケジュール,資本性借入金への転換(DDS)又は債務免
除による方法(いわゆる第二会社方式による債務免除を含む。)で事業の再生
を図るものです。保証債務については,経営者保証に関するガイドライン(以
下「経営者保証GL」といいます。)に準拠します。
特定調停手続は,特定債務などの調整の促進のための特定調停に関する法律
(以下「特定調停法」といいます。)に基づき,裁判所の関与の下,公正かつ
妥当で経済的合理性を有する内容の調停を成立させるための手続であり(特定
調停法第17条第2項,同第18条),経営者保証GLにおいても,私的整理
ガイドラインの各手続と同様に,利害関係のない中立かつ公正な第三者が関与
する私的整理手続及びこれに準ずる手続(準則型私的整理手続)として位置付
けられています(経営者保証GL7項(1)ロ)。

簡単に書くと、法人が借り入れている債務は各種ガイドラインなどに則り、リスケや借換えや免除などを行って、会社が経営できるような状態まで持っていく。
中小企業では経営者が連帯保証に入っていることが多いと思いますが、経営者保証に関するガイドラインに準拠させる。
これらを適切かつ公平に成立させるために裁判所の調停手続きを利用する、というという事でしょうか。
なお経営者保証に関するガイドラインについては以下の通りです。
経営者が再起を図れる、あるいは厳格に金融機関から債権行使をされるよりも負荷が軽くなるようにしています。

経営者保証に関するガイドラインは、経営者の個人保証について、

(1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援します。
第三者保証人についても、上記(2),(3)については経営者本人と同様の取扱となります。

特定調停スキーム(事業再選支援型のメリット)

 

メリットについても触れらていますので同様に見てみましょう。

(1) 事業者(主たる債務者)及び保証人のメリット
① 取引先を巻き込まないことが可能であること
② 迅速に事業を再生することができること
③ 経営者保証GLを利用して一体的に保証債務の整理を行えること
(2) 対象債権者のメリット
① 経済的合理性が確保されていること
② 裁判所が関与すること
③ 資産調査や事前協議が実施されること
④ 債権放棄額を貸倒損失として損金算入が可能であること

支援協を用いた私的整理の場合と比べると(2)ー②が違う以外、ほぼ同じメリットであると考えられます。
反面、コストは(弁護士報酬などの実費は除くと)裁判所にかかる印紙代の発生というところでしょうか。

特定調停スキーム(事業再生支援型)の要件

要件についても引用してみますが、これはかなり利害関係者ごとに要件定義を行っています。
また「全て充たす必要がある」ということで、私的整理よりも厳しくなっていると言えるでしょう。

特定調停スキーム(事業再生支援型)を利用するに当たっては,次の事項
を全て充たす必要があります。なお,個別の要件の解釈や認定については,
対象債権者との協議により,柔軟に解釈等が可能な場合も考えられます。

4
(1) 対象事業者及び保証人について
① 経営改善により,約定金利以上は継続して支払える程度の収益力を確
保できる見込みがあること(一定の事業価値があること)
※事業価値がない場合には,「事業者の廃業・清算を支援する手法とし
ての特定調停スキーム利用の手引」の利用が適することがあります。
② 主たる債務者である事業者(法人,個人を問いません。)が,過大な
債務を負い,既に発生している債務(既存債務)を弁済することができ
ないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないこと
が確実と見込まれること(事業者(主たる債務者)が法人の場合は債務
超過である場合又は近い将来において債務超過となることが確実と見込
まれる場合も含みます。)
(注)上記の「既に発生している債務(既存債務)を弁済することができ
ない」とは,破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法第2条
第11項,第15条,第16条,第30条第1項)と同様の状態にあ
ることを前提としており,また,「近い将来において既存債務を弁済
することができないことが確実と見込まれる」とは,民事再生手続開
始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあ
るとき」(民事再生法第21条第1項,第33条第1項)と同様の状
態にあることを前提としています。
③ ②の状況にある主たる債務者である事業者が自助努力のみではその状
況の解決が困難であり,次のとおり一定の金融支援が必要と合理的に
予想されること
ア 再生計画案の内容として,既存債務につき,金融機関による全部
若しくは一部の免除,弁済期限や利息の変更(リスケジュール),
又は,資本性借入金への転換(DDS)が必要と予想されるもので
あること
※事業者が信用保証協会による保証付融資を利用している場合,再
生計画案の内容として,その求償権放棄等が必要と予想されるも
のであること
イ その他再生計画案に対する対象債権者の同意を得るために特定調
停手続が必要と見込まれること
④ 保証人の保証債務の整理も同時に進める一体型の場合には,保証人に
ついて,経営者保証GLの3項及び7項(1)ニの要件を充足すること
(例えば,弁済について誠実である,財産状況等を適切に開示してい
る(経営者保証GL3項(3) ),免責不許可事由のおそれがない(経
営者保証GL7項(1)ニ)など
(2) 対象債権者について
事業者(主たる債務者)に対して金融債権を有する金融機関(信用保証協
会を含みます。以下,同じ。)及び保証人に対して保証債権を有する金融機
関を対象債権者とすること。ただし,事業者(主たる債務者)又は保証人の
弁済計画の履行に重大な影響を及ぼすおそれのある債権者については,金融
債権又は保証債権を有する債権者以外でも対象債権者に含めることができま
す。
(3) 法的再生手続(民事再生など)がふさわしい場合でないこと,すなわち,
次のいずれにも該当しない場合であること
① 手形不渡り又はそれに相当する電子記録債権の支払不能が出ることが予
想されること
② 個別の債権回収行為を防ぐ必要があること
③ 対象債権者間の意見・利害の調整が不可能又は著しく困難であること
④ 否認権行使や役員の責任追及などの問題があること
(4) 一般的に,私的再生手続がふさわしいと考えられる場合であること,すな
わち,次のいずれにも該当する場合であること
① 事業者の事業に収益性や将来性があるなど事業価値があり,関係者の支
援により再生の可能性があること
② 過剰な債務が主な原因となって経営困難な状況に陥っており,自力によ
る再生が困難であること
③ 法的再生を申し立てることにより当該事業者の信用力が低下し,事業価
値が著しく毀損するなど,再生に支障が生じるおそれがあること
(5) 経済的合理性
事業者の主たる債務及び保証人の保証債務について,破産手続による配当
よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど,対象債権者にとって経済的
な合理性が期待できること
なお,経営者保証GLが適用される場合には,以下の①の額が②の額を上
回る場合には,破産手続による配当より多くの回収を得られる見込みがある
と考えられます。
① 主たる債務の再生計画案及び保証債務の弁済計画案に基づく回収見込額
の合計金額
※第二会社方式の場合には,会社分割(事業譲渡を含む。)後の承継会
社からの回収見込額及び清算会社からの回収見込額並びに保証債務の
弁済計画案に基づく回収見込額の合計金額
② 現時点において主たる債務者及び保証人が破産手続を行った場合の回収
見込額の合計金額
(6) 優先債権等の弁済
事業者(主たる債務者)及び保証人に対する優先債権(公租公課,労働
債権)が全額支払可能であり,特定調停の対象としない一般商取引債権が
金融機関の理解を得て全額支払可能であること(別会社への債務引受を含
む)
(7) 事業者(主たる債務者)の再生計画案が,次の①から⑦までの全ての事
項が記載された内容であること
① 事業者の概要
② 財産の状況
③ 経営が困難になった原因
④ 事業改善の具体的内容・方針
⑤ 財産状況及び資金繰りの見通し
⑥ 事業者の弁済計画
⑦ 対象債権者に対して要請する主たる債務の減免,期限の猶予その他の
権利変更の内容
※公正かつ妥当で経済的合理的を有する内容の調停事項にすることが必
要です。「公正」とは公平で,かつ,法令に反しないこと,「妥当」
とは事業者の経済的再生のために適切な,それにふさわしいものであ
ることを指します。「公平」は,形式的な平等を求めるものではあり
ません。
※債権放棄等(実質的な債権放棄及び債務の株式化(DES)を含
む。)の要請を含む再生計画の策定を支援する場合は,債権者と協議
の上,次の要件を誠実に検討すること
ア 経営者責任の明確化を図る内容とすること
※本手引は,中小企業を主な対象としていますので,経営者が引き
続き経営に携わることも想定されています。責任の程度,対象債
権者の意向等を踏まえ,役員報酬の削減,貸付金の放棄,株式割
合の減少などにより経営責任の明確化を図ることが考えられます。
イ 株主責任の明確化も盛り込んだ内容とすること
※いわゆる第二会社方式の場合には,旧会社は清算しますので,株
主責任の明確化は図られることになります。
(8) 保証人の弁済計画案
保証人の弁済計画が,次の①から④までの全ての事項が記載された内
容であること
① 財産の状況
② 保証債務の弁済計画(原則として,調停成立時から5年以内に保証
債務の弁済を終えるものに限る。)
③ 資産の換価及び処分の方針
④ 対象債権者に対して要請する保証債務の減免,期限の猶予その他の
権利変更の内容
(9) 事前協議及び同意の見込み
対象債権者との間で事業者の再生計画案及び保証人の弁済計画案の提
示,説明,意見交換等の事前協議を行い,各対象債権者から調停事項案に
対する同意を得られる見込みがあること

対象事業者(債務者)について色々と記載していますが、

①金利以上の返済が行えるようになること
②債務超過でなくとも利用できること
③債務超過であっても返済可能と思われるとスキームが利用できない

の三点がポイントになってくると考えられます。
特に債権者は債権放棄を行使されたくないので、③について争われるように思います(債権者は返済可能と主張することで、債権放棄を避けたい)。
また他に気になる部分としては、「手形の不渡りではないこと」や「事業者及び保証人に対する優先債権(公租公課、労働債権が全額支払い可能であり、特定調停の対象としない一般商取引債権が金融機関の理解を得て全額支払い可能であること(別会社への債務引き受けを含む)」でしょうか。
前者については政府で手形という制度を廃止しようとしていますが、現実にはまだ商慣習としての存在が大きいため、気をつける必要があります。
後者については、金融機関が債権放棄をした際に、債務免除益が発生し、課税対象となってしまいます。つまり債務免除益が大きければ大きいほど、税金を支払う必要が生じ(繰越欠損金がなければ)、現金の手出しが生じてしまいます。
逆にいうと、支払い余力がない場合、制度が運用できない可能性があるかもしれません。

この他、断片的に気になった点を拾っていきます。

・対象債権者との十分な事前調整の必要性
代理人弁護士は特定調停手続きの申立て前に十分に対象債権者と協議を行うとされています。
「弁済について誠実である」ことが申立ての要件なので、当然と言えば当然でしょう。
逆にいうと事業者が単独で手続きを行う場合でも債権者との事前協議は必要であるため、経験や知識が豊かな弁護士を選定することが望ましいでしょう。

・信用保証協会が対象債権者に加わる場合の留意点
保証協会は多く使われていると思いますが、保証協会は手続きで必要な財産目録や弁済計画の策定にあたって、「外部専門家」の税理士や公認会計士の関与を求めています。
つまり申立人側で顧問税理士や顧問会計士を関与させて弁済計画を策定しても「外部専門家」と認められず、コストが無駄になってしまう可能性があります。
そのため、先ほどと同様に個別説明やバンクミーティングを行う必要があるでしょう。
その他、保証協会の内規で定めている返済計画に適合するかであるとか、求償権放棄の基準に該当するかなどの事前調整、地域産業にとって債権放棄が利益になるのか、日本政策金融公庫が認めるのか、事業者と保証人は一体整理をしなければならないなどの問題があることから、やはり先ほどと同様に知識や経験が豊富な弁護士が介在したほうがトラブルは少なくなると思います。

上記のように裁判所を交えながら私的整理を行えるという点は、倒産や破綻、あるいは法的整理よりもメリットが多く、当事者にとって、私的整理よりも納得感があると思います。
ただし裁判所を介在させることから、要件についてはより厳密になっていますし、先ほど記載したような事前の手続きについても複雑です。
さらに債務免除後に優先債権(税金や労働債権)を支払えるのか、という事も現実的には問題になってくると考えます。

弊社では上記の問題も含めワンストップで対応するためサービスを提供いたします。
再生手続を行わなければいけないのは分かるが不安だ、と思われた方は、遠慮なく弊社までお問い合わせください。

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