種類株式について(資本政策を考えるにあたり)

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公開日:2021年4月9日 /最終更新日:2021年4月9日

種類株式について

本項目では会社法に定める種類株式について記載します。
色々と業務の中で話していても「優先株式」は知っていても、それ以外の種類株式をご存じない方が多い印象です。
確かに普通に経営を行っていくだけでは普通株式だけで問題ないと思いますが、会社をスケールさせていく過程で例えば大手資本やファンドなどと資本業務提携をしていく際に、資本政策を検討するにあたり、知っていた方がいいのになと思うことがあるからです。またこの辺、「コンサル」を名乗っている人たちでも深くは知らないことも多いので、自分の頭の整理も踏まえて記載します。

種類株式とは

ウィキペディアから引用すると、「種類株式とは、会社法108条に基づき、株式会社が剰余金の配当その他の権利の内容が異なる2種類以上の株式を発行した場合の各株式をいう」と定義されています。
いわゆる普通株式以外に別の権利が付与されることがその趣旨で、例えばすべて譲渡制限をつけている株式しか発行していない場合は、全ての株主に同等の権利が発行されていないため、この定義には該当しないのですが、ここでは普通株式以外の特色がある株式、というように考えて頂ければと思います。

種類株式の種類

では、種類株式にはどんな種類の株があるのでしょうか?
まずはウィキペディアから種類株式について記載している個所を引用します。
個別に見ていきましょう。

剰余金の配当規定(1号)

当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱い(地位の優劣)を内容とするもの(108条1項1号・2項1号)。この規定により、配当において他の株式より優越的な地位が認められる株式は優先株式、標準的な地位に置かれるものを普通株式、劣後的な地位に置かれるものを劣後(後配)株式と呼ぶ。

「優先株式」というような言葉が市場でも流通しているので一番なじみがあるかもしれません。
優先株式であれば配当について普通株式よりも優先して受け取られる権利が付与されています。
これにより出資者は普通株式よりも低いリスクで出資を検討することが可能です。株式市場では配当を優先する代わりに後述する議決権制限規定を付与した株式も流通しています。
これは多くの株主(特に個人投資家)は会社の経営について口を出すよりも、配当目的で株式を購入しているため、そのニーズにこたえていると言えるでしょう。
劣後株式はあまりなじみにしませんが、出資者と会社側(既存株主)との力関係で決まるものと思われます。

残余財産の分配規定(2号)

当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱い(地位の優劣)を内容とするもの(108条1項2号・2項2号)。剰余金の配当と同じく優先株式、普通株式、劣後株式がある。

運用の一例として、「残余財産の分配に関し、当該株式の払込金相当額を限度として普通株式に優先する」と定めることが考えられる。これにより当該種類株主は投下資本の回収をより確実にすることが可能になる。

これも1号と同様に残余財産について優劣を規定しています。
ベンチャーキャピタルやファンドなどから出資を受ける場合、彼らもリスクは減らしたいでしょうから残余残債の分配規定に対して優先権のある株式に対し、第三者割当増資で引き受けるという事はあり得るでしょう。
反対に既存株主からすると不利益になるため、今後の成長の確実性を踏まえて対応していくことが必要かもしれません。

議決権制限規定(3号)

株主総会において議決権を行使することができる事項の制限を内容とするもの(108条1項3号・2項3号)。無議決権株式も可能であるが、その場合でも、その株主は種類株主総会では議決権を行使することができる。

公開会社においては議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えたときは直ちに発行済株式総数の2分の1以下にする措置を取らなければならないとされている(115条)。しかし非公開会社においては、このような規制はなされていない。

先ほど出てきた権利の制限に関する内容ですね。
「種類株主総会」とは聞きなれない言葉ですが、特定の種類株式を所有している株主が集まって行う株主総会です。
無議決権株式を取得している株主で集まって種類株主を行うという趣旨ですがそれだと意味がなくなるので、通常は定款で「A種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときであっても、当該種類株主総会の決議を要しない」など記載することでわずらわしさを防ぎます。

譲渡制限規定(4号)

譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要することを内容とするもの(108条1項4号・2項4号)。譲渡制限株式という。

種類株式発行会社がある種類の株式の内容を譲渡制限株式とする定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、原則として当該種類の種類株主を構成員とする種類株主総会など一定の種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない(111条2項)。

なお、譲渡制限株式は全部の株式の内容とすることもできる(107条1項1号・2項1号)。日本の会社法では、その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社を公開会社とする(2条5号)。

非公開企業の場合、もともとこの譲渡制限規定が付いていることが多いです。
特に今は株券不発行会社が多いので、勝手に売買されると株主が分らなくなってしまうからです(株券があればわかるのか、と言えばそれも難しいですが)。
譲渡制限がついている企業のM&Aを行う場合、実務的には株主総会を開き、譲渡を認める旨の決議を取り、M&Aを行います。

取得請求権規定(5号)

当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができる内容のもの(108条1項5号・2項5号)。取得請求権付株式という。

運用の一例として、議決権の制限された優先株式に取得請求権を付し、取得の対価として普通株式を交付すると定めることが考えられる。これにより優先株主は、必要に応じて保有優先株式を(議決権のある)普通株式に転換し、会社経営に参加する、ということも可能になる。

当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、取得対価とする他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法を定款に定めておく必要がある(108条2項5号)。取得対価として会社の他の株式、現金、新株予約権社債等を設定することが可能である。

なお、取得請求権付株式は全部の株式の内容とすることもできるが(107条1項2号・2項2号)、取得対価として、その会社の他の株式を設定できるという部分が異なる。このような取得対価の設定が全部の株式に付す取得請求権規定に設定できないのは、取得対価となる他の株式が観念できないからである。
取得請求権付株式」も参照

株主が会社に対して株式を買い取ることを定めた規定です。
例で挙げられているのは、最初は議決権のない優先株で出資を受けていましたが、既定のリターンに満たなかったため、株主から優先株式を買い取るよう求められその対価として普通株式に転換するようにされたというイメージでしょうか。
もっと具体的にいうと、例えばベンチャー企業で出資を受けたいが、他の株主から口を出されるのは嫌。
そのため議決権無しの優先株式の第三者割当増資で出資を引き受けたが、出資する側はリスクであるため、既定の利益が出なかった場合にこの権利を行使し、普通株式を交付する条件で買い取らせ、議決権行使の割合を高め経営に参画する、といった形です。
他にも相続人に対し、経営者となる人間以外は取得請求権と無議決権をつけ、口は出せないけれどもいつでも買い取ってもらえるようにする、というスキームもあるようです。
(ただそこまでやらなければならない場合、何かしらでもめそうですが…)

取得条項規定(6号)

当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる内容のもの(108条1項6号・2項6号)。取得条項付株式という。

取得請求権付株式では取得に関してアクションを起こすのが「株主」であるのに対し、取得条項付株式では取得についてアクションを起こすのが「会社」である。

種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式の内容を取得条項付株式とする定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意も得なければならない(111条1項)。

当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法を定款に定めておく必要がある(108条2項6号)。金銭以外に、他の株式、社債、新株予約権等も取得対価として交付が可能である。

なお、取得条項付株式は全部の株式の内容とすることもできるが(107条1項3号・2項3号)、取得対価として、その会社の他の株式を設定できるという部分が異なる。理由は上記の取得請求権と同様で取得対価となる他の株式が観念出来ないからである。

これはシンプルですね。
会社が株主から株式を取得する規定です。
これも組み合わせにより議決権あり⇒議決権無しなどに実質的に差し替える、という事が可能になるのでしょう。
ただし特に金銭で買い上げる場合、予め計算方法で定めておかないとトラブルになる可能性があることを念頭に置いておく必要があります。

全部取得条項規定(7号)

当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得することができる内容のもの(108条1項7号・2項7号)。全部取得条項付株式という。株主総会の決議より、会社がその全部を取得することができる定めのある株式である(171条)。スクイーズアウト(少数株主の追い出し)において用いられることが多い。

種類株式発行会社がある種類の株式の内容を全部取得条項付株式とする定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、原則として当該種類の種類株主を構成員とする種類株主総会など一定の種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない(111条2項)。

TOBなどでよくあるスクイーズアウトですね。
語弊があるかもしれませんが、会社側と考えが合わない株主をどう追い出すか、という事です。
スクイーズアウト自体は会社法の改正後やりやすくなっており、政府もやりやすいように制度を整えてきたと言えるでしょう。

全部取得条項付種類株式を利用する手法についてですが、

既発行株式の全部を、全部取得条項会社法第108条1項7号)付種類株式とする定款変更を行う。次に株主総会決議によって全部取得条項付種類株式を取得し、取得の対価を他の種類の株式とする。この際、少数株主の株式が全て端数になるような比率に取得の対価を設定すれば、少数株主の所有する株式は端数処理(会社法第234条1項2号)によって消滅する[2]「新たな種類株式を発行するために必要な定款の変更」「全部取得条項付種類株式の取得に関する決定」は、いずれも会社法で特別決議を要する事項とされている。そのため、スクイーズアウトに先がけ、大株主が議決権の3分の2以上を得る目的で、株式公開買付け(TOB)・大株主を引受先とする第三者割当増資を行うことが多い[要出典]

少しわかりづらいので具体例で書いてみます。
株主Aさんは1000株、Bさんは200株、Cさんは100株持っていたとします。
経営者でもあるAさんはBさんとCさんが色々と口を出してくるので何とかして排除したいと考えていました。
Aさんは約77%の株式を所有しているため、特別決議もできます。
そこでまず定款を変え、全員の株式を全部取得条項付種類株式とし、株主総会を開いて特別決議を行い、1000株に対して新しい株式1株を与えるようにしました(価値は1000株=1株で変わりません)。
そうするとAさんは1株、Bさんは0.2株、Cさんは0.1株となり1株を下まわってします。
会社は端株について金銭で買い上げる形になり、実質Aさんだけがオーナーとなります。

ただここまでやる場合、株価算定でもめる可能性は高く、その場合は裁判所で妥当性を争う形となりますので、実施の際にはお気を付けください。

拒否権規定(8号)[編集]

株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする内容のもの(108条1項8号・2項8号)。

黄金株」も参照

いわゆる「黄金株」というものです。
定款で定めた内容について拒否権を行使することを可能とし、株主総会で例えば役員の改選が認められたりしても、拒否権規定を持っている株主が一人でもいた場合、その決議を拒否することができます。
国連の安全保障理事会の拒否権みたいなものでしょうか。
創業オーナーが保有して、他の株主や取締役とこじれ少数派となっても、この拒否権規定のある種類株式を所有していれば実質的に支配を継続することが可能です。

役員選任権規定(9号)[編集]

当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することができる内容のもの(108条1項9号・2項9号)。指名委員会等設置会社及び公開会社は、役員選任権規定についての定めがある種類の株式を発行することができない(108条1項ただし書)。

先ほどの「黄金株」が安全保障理事会の常任国だとするならこちらは選帝侯会議みたいなものでしょうか。
同族会社やオーナー会社が合併してできた会社などではあるかもしれません。
(実務ではまだ見たことはありません・・・)

 

以上、駆け足で種類株式を概観してきましたが、一つだけ取り入れるでも、複数組み合わせることでもさまざまに経営の意思決定に影響してくると思います。
特に思いをもって立ち上げられた会社が、大手資本と資本業務提携を行うことで乗っ取られてしまうのではないか?と考えられているオーナー経営者の方は、上記をご参考にしていただいて最適な資本政策を取っていただければと思います。
もし現在進められている方で気になる方は、弊社のM&Aセカンドオピニオンサービスをご利用いただき、ご相談ください。
資本政策についてはまた別途記載していきたいと思います。

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