コロナと資金調達と資本性劣後ローンの活用と

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コロナ禍の資金調達で資本性劣後ローンに焦点が当たっている背景

現在は小康状態となりましたが、一昨年より発生した新型コロナウイルス感染症により、多くの事業者が大幅な売上高減少と収益低下に見舞われました。
多くの企業は運転資金の借り入れによりコロナ禍を乗り切ろうとしています。
しかし借り入れが増えても売り上げが回復せず、固定費の支払いなど運転資金に借入金が充てられるだけでは、債務の増大により自己資本が毀損し、債務超過や過大な債務に悩まされることになるでしょう。

財務省がまとめた21年4~6月の法人企業統計によると、資本金1000万円以上1億円未満の企業(金融・保険業を除く)の借入金総額は約184兆円と1年前より10・6%も増えており、東京商工リサーチが8月上旬に行った調査で、「過剰債務」と回答した中小企業は35・7%と大企業の16・7%を20ポイント近くも上回っています。
(実に三分の一の中小企業が「過大な債務を抱えている」と認識しています)

政府は上記のような状況を踏まえ、今後、事業を再開・回復させる過程において、返済によるキャッシュアウトが翌月から発生する一般的な借入れではなく、資本の充実を図ることが必要になってくると考えています。
もちろん上場企業であれば株式市場で資金調達をすることは可能です。
しかし中小企業が株式市場にアクセスして資金調達をするというのはかなり難易度が高いため別の手段を取らざるを得ません。

上記より、金融庁は従前より資本性ローンについての指針を出しておりましたが、さらに踏み込み、金融機関が「資本性借入金」を積極的に活用できるよう、金融庁としての考え方を明確にするため、監督指針を改正しました。

資本性劣後ローンの「劣後」と出資との類似性

資本性劣後ローンについては後で金融庁の定義や公庫のサービスを事例として説明させて頂くとして、ここでは先に「劣後」について解説したいと思います。
「劣後」とは何に対して「劣後」するのでしょうか。

一般的に法人や個人が破綻した場合、破綻時の債務は「債権者平等の原則」によって処理されます。
具体的には、1人の債務者に対し複数の債権者がいる場合、債権者間に優劣はなく、その持っている債権額に応じて、債務者の総財産から平等・公平に債務の返済を受けられなければならない(比例配当)という原則です。
ここで「劣後姓」がある場合、優先順位が繰り下がります。

具体的な事例で考えてみましょう。
A社から5000万円、B社から5000万円借りているX社という法人があったとします。
X社は破綻してしまいましたが、残った資産を売りさばいて8000万円返済に充てられる原資があったとしましょう。
「債権者平等の原則」に沿えば、8000万円をA社B社に対して同額ずつ分配し(A社とB社が同額の債権を持っているため配分比率が1:1になる)、A社もB社は4000万円ずつ分配を受けられます。

ここでB社からの借りている5000万円は劣後債だとします。
この場合、A社よりも回収が劣後してしまうので、A社が先に5000万円を回収し、残りの3000万円をB社が回収します。
このように「劣後」とは他の債権者に対して、弁債順位が劣後してしまうという趣旨です。

ただし弁済が劣後してしまうだけですと他の債権者よりリスクが大きくなってしまいます。
そのため利息を通常の金利より高くするなどし、債権者側もリスクとリターンのバランスを取っています。

この考え方は株式会社の出資者(株主)の立場に近いと思いませんか?
株主も出資している会社が破綻してしまった場合、まず債権者が融資している資金を返済し、残った資産を分配します。何も残らなければ株式は無価値になります。
他方、出資先が利益を上げれば利益を原資に配当を得られますし、上場している会社であれば株の値上がり益も考えられるでしょう。
リスクも大きいですがリターンも融資に比べたら大きくなります。

そのような株式との類似性のある融資を「資本性」があるローンとし、「資本性劣後ローン」「資本性ローン」と呼称しています。
(ここでは一般化のために株式会社で考えましたが合同会社の社員持分なども同様の考え方になります)

また「資本性」「劣後」で他の債務よりも弁済の優先順位が下がることから、資金の貸し手の金融機関に対して自己資本相当の扱いとするよう金融庁からの指針も出ています。
資本性劣後ローンで資金調達をしておけば、同額で借入れを行うよりも自己資本が高いとみなされ、融資がされやすくなります。

例えば、資産が3000万円、長期借入金4000万円の会社があったとします。
この場合、単純に1000万円の債務超過になりますが、長期借入金のうち3000万円が資本性劣後ローンだったと仮定します。
金融機関から見ると資本性劣後ローンの3000万円については破綻時にも弁済順位が劣後するため、追加で貸し出す金額については優先的に弁済を受けられることから、3000万円の自己資本があるとみなし、実質2000万円の資本超過と見なすことが理論上可能になります。
(会計上と実務上の問題については最後の方で再度取り上げます)

以上より、資本性劣後ローンで融資を受けておいた方が追加で融資を受けやすいと考えられています。

資本性劣後ローンについての金融庁の指針と公庫の扱い

以上を踏まえ、金融庁の指針と公庫の取り扱っている資本性ローンについて見てみましょう。
金融庁のwebから抜粋した一般的な条件については以下の通りです。

[償還条件]
・償還期間が5年超
・期限一括償還(又は同等に評価できる長期の据置期間が設定されていること)

[金利設定]
・資本に準じ、配当可能利益に応じた金利設定
―業績連動型が原則
―債務者が厳しい状況にある期間は、これに応じて金利負担が抑えられるような仕組みが講じられていること

[劣後性]
・法的破綻時の劣後性が確保されていること
(又は、少なくとも法的破綻に至るまでの間において、他の債権に先んじて回収されない仕組みが備わっていること)

 

日本政策金融公庫

また金融庁の指針を受けて日本政策金融公庫も新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)の扱いについて公表しているので、それも抜粋してみます。

ご利用いただける方 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた法人または個人企業の方であって、次のいずれかに該当する方
  • J-Startupプログラムに選定された方(注1)または独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合(注2)から出資を受けた方
  • 中小企業再生支援協議会の支援を受けて事業の再生を行う方(注3)または独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合(注4)の関与のもとで事業の再生を行う方(注5)
  • 上記1および2に該当しない方であって、事業計画書を策定し、民間金融機関等による支援を受けられる等の支援体制が構築(注6)されている方(注7)
資金のお使いみち 事業を行うために必要な設備資金および運転資金
融資限度額 7,200万円(別枠)
ご返済期間 5年1ヵ月、7年、10年、15年、20年のいずれか
ご返済方法 期限一括返済(利息は毎月払)
利率(年) ご融資後3年間は0.50%
ご融資後3年経過後は、毎年直近決算の業績に応じて、2区分の利率が適用されます。
税引後当期
純利益額
期間
5年1ヵ月
期間
7年
期間
10年
期間
15年
期間
20年
0円以上 2.60% 2.60% 2.60% 2.70% 2.95%
0円未満 0.50% 0.50% 0.50% 0.50% 0.50%
担保・保証人 無担保・無保証人
その他
融資条件など

限度額については国民政策事業か中小企業事業で変わってくるのですが、融資限度額の範囲内で、長期(5年以上20年以下のパターンに設定されています)の融資期間後、一括で返済してもらう設定になっています。
また利息についても利益に応じて決まるという設定としており、利益が多ければ利子も増える(利益が出たら配当を出すという意味で)という意味で、先ほど申し上げたように株式のような設計となっているのがお分かりになるのではないでしょうか。
もちろん破綻時に弁済が劣後する、というところも同様で、金融機関からすると自行の債権が(劣後ローンと比べて)優先的に回収できるため、安心して融資がしやすくなります。
反面、通常の融資とは異なりリスクが大きくなるため、事業計画書の提出や毎期毎に報告を出すなど、対応が厳しくなっています。
これは株式会社が出資者(株主)に対して四半期開示を行い経営状況を説明していくのに似ているのではないでしょうか。

資本性劣後ローンによる融資を受けるべきか

結局、通常の融資と劣後ローンどちらを活用すべきか、という悩みは尽きないと思います。
コロナ前に業績がよく、コロナが収束して業績が回復すると考えるのであれば(外食のように政府の規制がかかったような業種やホテル、旅行業など)、資本性劣後ローンによる資金調達はありだと思います。
ただし元々業績が悪くなってしまった企業の場合、運転資金の不足分に充ててしまうと結果の先延ばしになってしまうため、もし資本性劣後ローンで調達するのであれば、設備投資資金も含めて調達すべきでしょう。
生産性をあげ、返済を後回しにすることでキャッシュをためたり、金融機関からの返済(場合によっては繰り上げも)に充て資金流出を止め、事業の拡大を図っていけるのであれば問題ないと思います。
反面、単なる現状維持であればあまり意味はなく、確かに「資本性」の要素はあるものの、決算書の貸借対照表には「長期借入金」で計上されることが示すように、債務の膨張に終わってしまいます。

コロナ前は順調にやっていた外食やホテルのような業種については、売上が回復するための時間を得るために資金を調達するという考え方でしょうし、コロナ前から順調ではなかった全業種については生産性を上げられるのであれば資金調達を受けるべき、という考え方になると思います。
資金調達を行っても生産性が回復しないのであれば、現在の事業のやり方について問題がある可能性があるため、資金調達以外の方法を考える必要があるでしょう。

劣後姓の説明のところで「会計上と実務上の問題」という事について触れましたが、会計上は自己資本が厚くなるように見えますが、実務上は債務が増えており、どの時点で返済を求められるのかという事にすぎません。
したがって返済の見込みがないまま資本性劣後ローンの融資を受けてしまってもステークホルダーが増えてしまうだけになってしまいます。

今後の展望について

現在、日本のワクチン接種率は急速に上がってきており、ワクチン先進国だったイギリスを抜きました。
また経口投与型の治療薬も開発されつつあり、遠からず新型コロナ感染症が経済にダメージを与えない程度にコントロールできるようになると思います。
ただしいつその時期がくるのか、という事が問題です。
ワクチン接種最先端だったイスラエルでも未接種者を中心に感染感染拡大の波が来ていました。
また重症化率は低かったようですが接種者にもブレークスルー感染が起きていたとのことで、日本ももう一度、感染の波が来ることが想定されます。
政府も対応は進めていますが、急激な感染拡大が発生した際、再度、緊急事態制限などが起きる可能性があります。
他方、そのまえに経済活性化政策でGo to travelなどの補助金対策が行われる可能性もあるため、それらのコロナによるイベントを想定しながら資金調達や生産設備への投資、業態転換を行っていく必要があると考えられます。
(波がないに越したことはないのですが、経営を行う以上はネガティブな事象も想定した方がいいでしょう)

その手段として資本性劣後ローンでの調達について真剣に考えるべきですが、融資調達が問題解決となるのかどうかについても併せて考えるべきだと思います。

色々と頭を悩ませるフェーズではありますが、政府の支援策をうまく活用しながら、資金調達や自社への投資を行いながら波を乗り切り、波が収まった後は鍛えられた筋肉質の会社に生まれ変われるようお手伝いができればと考えております。

M&A仲介については以下のブログも参考にしてください。
また買い手側は以下のブログの資金調達を融資ではなく資本性劣後ローンに読み替えてM&Aを進めていくと面白いのでは?と考えています。機会があれば別途取り上げたいと思います。

日本政策金融公庫を使ったスモールM&Aのための資金調達!・・・と疑似PEファンドの組成?

 

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