小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」についての解説

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公開日:2020年10月22日 /最終更新日:2021年7月8日

M&Aプラットフォームの一つであるBatonzさんより「小規模M&A向け表明保証保険」のリリースが出ました。
この件、面白いので弊社でも少し解説させてください。

https://batonz.co.jp/news/2020-10-21/

【小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」とは】

中小M&Aにおいて、売り手の表明保証違反を理由とした買い手の損害を補償するための保険です。「バトンズDD(企業調査)」を実施した場合、追加費用なしで自動付帯されます。「バトンズDD(企業調査)」で事前にリスクを把握し、「バトンズDD(企業調査)」で発見できなかったリスクによる損害が事後に発生した場合に保険で補償されますので、買い手は安心してM&Aをすることができます。買収契約書の表明保証条項のうち、財務と労務に関わる項目が補償対象となり、300万円を上限として補償を受けることができます。

以前、弊社コラムでも買収監査について記載いたしましたが、買収監査(DDとも呼ばれます)とは何か、教科書的におさらいしてみましょう。
買収監査とはM&Aを行うにあたり、企業価値を評価するために財務や労務、法務などの運営状況を確認し、企業評価を行う事であり、買収監査が行われたら正式に譲渡価格を買い手が提示し、双方合意したら譲渡契約が締結されるという極めて重要なフェーズになります。
弊社では「未来に向けた地図の共同作成」と位置付けておりますが、一般的には金額や条件の最終決定を行うための作業と考えられています。

では「表明保証」とは何でしょうか。
シティユーワ法律事務所様から引用すると「表明保証とは、一定の時点(通常は、契約時とクロージング時)における契約当事者に関する事実、契約の目的物の内容等に関する事実について、当該事実が真実かつ正確である旨契約当事者(特に売主側)が表明し、相手方に対して保証するものである。表明保証違反の場合、クロージングしないことができる、解除することができる、代金額を調整することができる、表明保証違反の当事者に補償請求をすることができる等の条項(の一部)が規定されることが通常である。」と定義されております。
つまり買収監査を行うことで金額を決めるのですが、その買収監査時に出された資料や説明が適切でないと損害を与えてしまう可能性があるため、その資料や説明が正しいという事を保証することであり、その表明保証が正しいことも契約で定めるわけです。

ではここで表明保証が不適切でその後、損害が発生した場合はどうするのでしょうか?
例えば、従業員の給与や残業代はきちんと支払っていると買収監査時に説明していたにもかかわらず、サービス残業は発生していた、などです。

この場合、「表明保証違反」に該当し、賠償ないしは補償、価格の減額(賠償や保証は売り上げになるため、価格の減額が一般的です)を行いますし、一般的な株式譲渡契約書ではその点についての記載が必ずあります。

前置きが長くなりましたが、今回の小規模M&A向け表明保証保険は、この表明保証を保険によっても担保するという事です。
通常、M&A案件は複雑で個々の企業によるスペシャリティというか、個別の要素が強いため一般化することは難しく、高額の案件について高額の買収監査費用と高額の保険料を支払って担保する、と思われていました。
この敷居の高さこそがM&Aをコモディティ化させず、何か大変難解なものだと思わせてきた理由の一つだと思います。

今回、バトンズさんは「小規模のM&Aはだいたい買収監査を行うポイントは同じやろ(こういう言い方ではないでしょうが)」と割り切り、共通する部分を網羅する買収監査の質問票などをおそらく作成し、買収監査のコモディティ化を行ったと考えられます。
そしてここからが保険としてユニークなところなのですが、保険を売るのではなく、買収監査におまけで保険が付いてくる(付帯保険と言います。カードに勝手についてくる傷害保険みたいな感じですね)スキームを取り、冒頭のように買収監査で担保できる範囲について300万円を上限として保険をセットさせました。

もちろんM&Aは同じものがないのですが、ある程度共通するところは定型の保険で、そしてそれ以上の金額や範囲については任意保険で、という、自動車で言うと任意保険と自賠責保険(これもよく考えたら指定工場で車検を受けないと入れないですよね)のような位置付けにしたと私は理解しましたし、SNS上で代表の大山さんともやり取りをしましたが、この理解で間違いないと思います。

なおこの小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」(というより表明保証付帯保険付き買収監査、と言った方が正確だと思います)の料金はなんと39万8千円。
インターネットで費用を検索すると、一般的な買収監査が小規模でも100万円からと書かれているのに対してその半額です。
買収監査だけを考えても大分費用対効果は高いと思われますよね。
もちろん定型な買収監査で読み取れないところを保険化してしまうというスキームでもある可能性もあるため、万全を期したい上場系の大企業に適しているのか、というとそうでもない部分はあるかと思いますが、中小企業や個人にとっては十分な内容だと思います。

私としては今回のバトンズさんのスキームはかなりエポックメイキングなことだと認識しており、買収監査(DD)の標準化とコモディティ化により、今まであったM&A仲介のトラブルなどは軽減できると思いますし、さらにマーケットの活性化につながると思います。
他方、トラブルの多い仲介は損害率(損害率は支払われた保険金の発生額に比例します)が分るので、このDDに参加させてもらえなくなる仲介は悪質な仲介だと認識され、淘汰される可能性もあります。また差別化ができない公認会計士(税理士)や弁護士はさらに薄利多売になってくると考えられます。
また仲介の話に戻りますが、買収監査で顕在化したトラブルが起きる要因については特別補償などで担保するなどの調整が必要になりますが、これができない仲介も淘汰されるでしょう。

逆にバトンズさんはトラブルが少ない(あるいは補償できる)案件が多いという事でさらにブランド力が高まり、プラットフォーム内での案件も集約するでしょうし、プラットフォーム外からもDD及び保険の利用について問い合わせは増えると思います。

弊社もこの流れについてはきちんと押さえたうえで、M&A市場の活性化に貢献していきたいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いします。

余談ですが、以前、損害保険会社に勤務していた身としては、引受保険会社である東京海上日動火災社の懐の広さを感じました。
さすがガリバー。
併せて注視していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

 

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