公開日:2024年1月30日 /最終更新日:2024年7月24日
「正直不動産」とM&A仲介
NHKでもドラマの第二クールが始まった「正直不動産」、山Pや福原遥さま方が不動産市場の裏や特殊事情のトラブルにぶつかって、コミカルに「嘘をつかず」解決していくストーリーです。
不動産を個人的に扱っている当職からしても大変面白く、ドラマで出てくるネタも知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らないよなあと思いながら毎週家族で見ています(受信料払っていてよかった!)。
「コミカルに」というのも、まじめに取り扱うとディープすぎて沈鬱になるので、笑いを取りながらやらないとドラマとしてはシリアスな社会派ドラマになってしまうというのもあるでしょうしね。
(しかし登坂不動産楽しそうですね。スタッフが多くて収益構造が心配になるのですが)
「正直不動産」で扱われた直接取引と仲介の必要性
さて直近18巻19巻では直接取引について扱われました。
仲介手数料を高いと思った顧客が実際に直接取引をやろうとするが、実際に取り掛かると事務コストが膨大になり、リスクも自分自身で背負ってしまうので仲介の重要性を知る…というストーリーです。
そうはいっても当職が言うと、「それはお前のポジショントークだろ!」というご指摘もあると思いますので実際にあった事例などを踏まえてお伝えします(事例は特定されないようにあいまいにしています)。
直取引と危険な買い手
事例1 実は乗っ取り屋だった
売り手は売上げ数億の許認可の会社です。
コロナやコンプライアンス上の問題で一時大口取引先から取引を中断され資金ショートを起こす可能性が極めて高い状況でした。
売り手の代表は資金ショートを回避すべく、知り合いの買い手に救済のためのM&Aを求め相談に行きました。
買い手側はペライチ…A4一枚の株式譲渡契約書で債務や連帯保証の引継ぎを行う代わりに株式を譲渡するという契約を締結しました。
その契約の条件自体は妥当だと思われましたが、問題はその後です。
売り手個人の不動産も売却するように圧力をかけ、条件が過剰にエスカレーションしていったようです。
そんな中、弊社に他の買い手探しを依頼されたのですが、期間もタイトですが、そのまま進めると二重売買になる可能性が起きてしまいます。
「どうしても(最初の買い手に)売りたくない」という売り手の気持ちは尊重しますが、とはいえ他の買い手に売却すると他の買い手にも迷惑が掛かってしまうため、民事再生などの裁判所が関与したスキームを使わざるを得ないのかなと考えています。
もちろん弊社であればそのような買い手は紹介しませんが、仮に買い手がそのようなことを譲渡後に言い出しても、解除条項がないペライチのような契約書でやり取りはしないため(今回であれば信義則違反がヒットするでしょう)、売り手の被害は限定された可能性はあります。
事例2 買い手が詐欺師だった
これは弊社で扱った案件ではないのですが、東北の某老舗企業の事例です。
コロナの影響で債務超過に陥っていました。
M&A仲介会社に相談して大手の製菓メーカーとのM&Aが成約直前までいっていたようです。
その話を聞きつけた買い手が直接話を持ち掛け、自分が大口顧客を紹介できると話を持ち掛け、一部株式を所有することを条件に役員に就任することになりました。
結果として大口顧客などを紹介することはできなかったので、あとでケンカ別れになったという話を聞いています。
もちろん売り上げは上がらないので、もともと話があった大手製菓メーカーとやり直すことはできませんし、その後も苦境は継続していると思います。
これに関する事例は多く、買い手をネットで検索してみたら詐欺師だったなどはざらにあります。
今はインターネットでマッチングすることも多いですが、プラットフォーマーはその辺がまだざるな可能性があるので、第三者的な視点がある仲介が入って見極めることも必要でしょう。
(例えばBatonzというプラットフォームがありますが、当職だけで3者詐欺師だと通報したことがありますが、どの程度通報しようという仲介がいるかは不明です。疑わしきは罰したほうがマーケットは清浄になると思うのですが)
なぜなら下手な買い手を紹介するとまともな仲介会社なら責任問題になると思うので注意深く対応するはずだからです。
事例3 後出しで条件が変えられた
これも弊社ではなく他社の事例です。
買い手自体は当職も知っていてあまりいい印象は無かったのですが、上手くいくなら弊社が横槍を入れる必要もないので静観していました。
ただ譲渡後に、聞いていない条件が追加されたということで(事例1に似ています)、売り手が怒ってブレイクしたとのことです。
これは100%買い手が悪いと思うのでその仲介には大変気の毒だったと思いますが、売り手からすると逆にその仲介がいたことで反対売買を行い白紙に戻すことができたので、事例1と比べるとマシだったと言えるでしょう。
なおこの買い手は昔はBatonzに生息して実名掲載企業でもありましたが、その仲介会社は別のプラットフォームで会ったようです。
Batonzが浄化されていることが分かりますね。
(事例2の買い手もBatonzの実名登録企業からはいなくなりましたね。東北の企業とは別の案件をM&Aした成約事例がPRTimesで残っているので、何かトラブルがあって詐欺師であることが発覚して浄化されたのでしょう)
事例4 相手が仲いい取引先(買い手)だったが直接やったら乗っ取られた
X(旧ツイッター)で手数料を惜しんだ売り手の顛末が書かれています。
・譲渡対価は役員借入金の分割返済
・M&A前にDD名目で買手が職場に来て勝手に従業員に指示を出す。従業員は譲渡済みと勘違い
・ネットバンキングを掌握される
・弁護士を立てるも無意味
・ケチらずにしばちょに頼めば良かった!(今ココ) <教訓>
・M&Aの交渉に仲良しとか関係ないし、むしろマイナス
これもカネが絡むと人間関係も変わるという身もふたもない話ですが、「M&A交渉に仲良しとか関係ない」は言いえて妙ですね。
クールにリスクとバランスを考えながら対応するのが仲介の役割だと思うからです。
ちなみに当職が交渉過程の佳境にある時、常に思い出すのがダイの大冒険のマトリフ師匠とポップのセリフです。
仲介が熱くなったり目先の金(手数料)で頭がいっぱいになるとうまくいくものもいかなくなりますし、何回仲介をやっても山が三つあるのでその際に対応するクールさや経験が必要になります。
余談ですがダイの大冒険はポップ視点で見ると教養主義というか成長譚として面白く読めるので皆様ぜひ。
仲介の入る意義
上記の事例を見てもらい、M&Aとはかなりリスクが高い商取引であることがお分かりいただけたと思います。
仲介担当が入ることで
①相手の見極めによるリスクの低減
②交渉過程におけるすり合わせと全体最適
③トラブルが発生した場合の是正・修復・離脱
の対応が可能です。
そのうえで、どういう担当者が入るかによって交渉過程が大きく左右されるので、やはり経験や実績をもとに任せるかどうか判断すべきでしょう。
最近だとファンドに流しておしまい!と考えている担当者や会社も増えているようですが、ハードな交渉を行った経験がある担当者の方がトラブルに対応できるので信頼できるのではないでしょうか。
最後にもう一度「正直不動産」に戻ると、仲介は上記のメリットを提供しながら、買い手や売り手と一緒に、M&Aを行う「価値や意味をすり合わせながら創り出すこと」に尽きるのではないでしょうか。
手数料を払いたくない(安い方がいい)というのはもっともなのですが、それで先ほどの事例のように大きく損をしてしまうのと比べたらよほどいいのではないでしょうか。
そういえば今日(1月30日)は正直不動産2の放送日ですね!
皆さん、夜10時からです。
一緒に見ましょう!
なお正直ではなさそうなM&A仲介の営業電話にお悩みの皆さんやそちらの業界への転職を考えている皆様はこちらのコラムもどうぞ。
「最低手数料」問題についてはこちらもどうぞ。
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