公開日:2024年1月12日 /最終更新日:2024年7月24日
医療法人の事業承継のポイント
株式会社との違いや注意点を解説
医療法人は、病院や診療所などの医療施設を運営する法人ですが、一般的な株式会社とは異なる特徴や制度があります。医療法人は、どのように設立され、どのように運営され、どのように承継されるのでしょうか?また、医療法人化することには、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
この記事では、医療法人の事業承継に関するポイントとして、医療法人の定義や種類、株式会社との違いや注意点について解説します。
医療法人の定義と種類とは
ここでは、医療法人の定義や種類、個人病院・診療所との違いを説明します。
医療法人とは
医療法人とは、医療法の定めにより、病院・医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設することを目的として、設立される法人です。設立には定款または寄附行為を作成し、診療業務に必要な施設や資産を有して各都道府県知事から認可を得なければなりません。この法律に基づいた定款または寄附行為により、名称・所在地・役員の任期・会議の種類など運営に必要なルールが決められています。医療法人でない場合は、その名称を用いてはならないと定められています。
医療法人の目的
医療法人の目的は、医療を提供する体制の確保を図り、国民の健康維持に寄与することです。私人である個人事業主とは異なり資金の集積がしやすく、医療の高度化を図れます。
医療法人の非営利性
医療法人は、すべての医療法人が非営利法人であるとされています。しかし、これは法的な意味での非営利法人であり、実際には医療法人も営利活動を行っています。医療法人は、医療サービスの提供により収益を得ていますが、その収益の一部は医療法人の財産として積み立てられます。この財産は、医療法人の目的に沿った事業に使用されることが前提ですが、その範囲は広く、医療施設の改修や新設、医療機器の購入、医療研究や教育、医療福祉事業などに充てられます。また、医療法人の役員には、適正な報酬を支払うことができます。このように、医療法人は、非営利法人であるという形式をとりながら、実質的には営利活動を行っていると言えます。
医療法人と個人病院・診療所の違いとは
個人病院や診療所(クリニック)は、営利目的の活動が可能です。財産や収入は経営者個人に帰属するため、自由に使えます。それに対して医療法人は個人である医師とは別人格になるため、経営で得た財産はすべて医療法人に帰属します。収入は医療法人から報酬という形で受け取るので、経営者といえども勝手に銀行口座から引き出したり使ったりできません。非営利組織という位置づけであり、公益性が求められます。
2つの違いを以下にまとめました。
|個人病院(診療所)|医療法人|
|:–|:–|
|開設時|各種届出のみでよい|都道府県知事の認可が必要|
|開設できる数|1ヶ所のみ|分院の開設が可能|
|業務の範囲|病院・診療所|病院・診療所 介護老人施設など|
|登記|不要|必要|
|決算日|12月31日|1年以内で自由に決定できる|
|決算書の提出|不要 ※青色申告者は必要|必要|
|役員報酬|なし ※売上-経費が利益になる|1年固定で自由に決定できる|
出典:日本医療法人協会「医療法人制度について」をもとに作成
医療法人の種類
医療法人は、大きく分けると社団医療法人と財団医療法人の2種類あります。2018年の調査における医療法人の総数は5万3944で、そのうち約99%(5万3575)が社団医療法人です。
社団医療法人と財団医療法人
ここでは主に2007年4月1日以降に適用された改正医療法を基に、社団と財団の違いを解説します。
社団医療法人とは
病院や診療所などの開設を目的として設立される法人です。設立には金銭・不動産・医療機器などの出資または拠出と、2ヶ月以上の運転資金が必要とされています。社団医療法人の社員は、株式会社における株主に該当する存在です。理事は株式会社における取締役と同様の存在で、医療法人の日常的な業務の運営にあたります。
社団医療法人の特徴は、社員が出資持分を有することです。出資持分とは、医療法人にある資産に対して、出資額に応じて得られる財産権のことです。出資持分ありの医療法人は、定款にて「社員の退社に伴う出資持分の払戻し」および「医療法人の解散に伴う残余財産の分配に定め」を設けていることが条件です。出資持分なしの医療法人は、これらの定めがなく、医療法人の解散時には残余財産は国や地方公共団体などに帰属します。社団医療法人の社員は、社員総会において、社員1人につき1個の議決権を有します。社員総会は、医療法人の最高意思決定機関であり、医療法人の重要な事項について決議します。
財団医療法人とは
病院や診療所などの開設を目的として設立される法人です。設立には金銭・不動産・医療機器などの寄附と、2ヶ月以上の運転資金が必要とされています。財団医療法人の社員は、株式会社における株主に該当する存在ではありません。財団医療法人は、寄附者やその指定者以外には社員を有しません。理事は株式会社における取締役と同様の存在で、医療法人の日常的な業務の運営にあたります。財団医療法人の特徴は、社員が出資持分を有しないことです。出資持分とは、医療法人にある資産に対して、出資額に応じて得られる財産権のことです。財団医療法人は、出資持分の定めがなく、医療法人の解散時には残余財産は国や地方公共団体などに帰属します。財団医療法人の社員は、社員総会において、議決権の分配について定款で自由に定めることができます。社員総会は、医療法人の最高意思決定機関であり、医療法人の重要な事項について決議します。
医療法人と株式会社の違い
医療法人と株式会社の違いは、次の3つの点に大きく分けられます。
– 出資持分の有無
– 剰余金の配当の可否
– 議決権の分配
出資持分の有無とは、医療法人にある資産に対して、出資額に応じて得られる財産権のことをいいます。出資持分ありの医療法人は、定款にて「社員の退社に伴う出資持分の払戻し」および「医療法人の解散に伴う残余財産の分配に定め」を設けていることが条件です。出資持分なしの医療法人は、これらの定めがなく、医療法人の解散時には残余財産は国や地方公共団体などに帰属します。株式会社の場合は、出資者である株主に対して株式の発行や譲渡などにより財産権が付与されます。
剰余金の配当の可否とは、医療法人の収益のうち、経費や負債の支払いなどに充てた後に残る金額を出資者に分配することができるかどうかをいいます。医療法人は、すべての医療法人が非営利法人であるとされ、出資者に対して剰余金の配当を行うことはできません。株式会社の場合は、営利法人であるため、株主に対して配当金を支払うことができます。
議決権の分配とは、医療法人の最高意思決定機関である社員総会において、各社員が持つ投票権のことをいいます。出資持分ありの医療法人は、社員1人につき1個の議決権を有します。出資持分なしの医療法人は、議決権の分配について定款で自由に定めることができます。株式会社の場合は、株主の議決権は持ち株枚数に応じて付与されます。
医療法人の事業承継スキーム
医療法人の事業承継スキームは、出資持分の有無により大きく異なります。出資持分ありの医療法人は、出資持分の移転や払い戻しにより事業承継を行うことができます。出資持分なしの医療法人は、医療法人の解散や合併、事業譲渡などにより事業承継を行うことができます。以下では、それぞれのスキームの概要とメリット・デメリットを紹介します。
医療法人の事業承継スキーム
出資持分の移転による事業承継
出資持分ありの医療法人は、出資持分の移転により事業承継を行うことができます。出資持分の移転とは、医療法人の社員が自らの出資持分を他の社員や第三者に譲渡することをいいます。出資持分の移転には、医療法人の定款に定められた承認や同意の手続きが必要です。出資持分の移転により、譲受者は医療法人の社員となり、出資持分に応じた財産権や議決権を有することになります。出資持分の移転による事業承継のメリットは、次のとおりです。
– 医療法人の解散や合併などの手続きが不要である
– 医療法人の財産や施設の評価額が低く抑えられる
– 医療法人の業務や組織の継続性が高い
出資持分の移転による事業承継のデメリットは、次のとおりです。
– 譲渡者は出資持分の譲渡代金に対して所得税や贈与税が課税される
– 譲受者は出資持分の譲受代金に対して相続税や贈与税が課税される
– 譲受者は医療法人の社員となるため、医師や歯科医師である必要がある
出資持分の払い戻しによる事業承継
出資持分ありの医療法人は、出資持分の払い戻しにより事業承継を行うことができます。出資持分の払い戻しとは、医療法人の社員が自らの出資持分を医療法人に返還することをいいます。出資持分の払い戻しには、医療法人の定款に定められた承認や同意の手続きが必要です。出資持分の払い戻しにより、返還者は医療法人の社員から退社し、出資持分に応じた財産権や議決権を失うことになります。出資持分の払い戻しによる事業承継のメリットは、次のとおりです。
– 医療法人の解散や合併などの手続きが不要である
– 医療法人の財産や施設の評価額が低く抑えられる
– 返還者は出資持分の払い戻し代金に対して所得税が課税されない
出資持分の払い戻しによる事業承継のデメリットは、次のとおりです。
– 医療法人は出資持分の払い戻し代金に対して所得税が課税される
– 医療法人の資金繰りが悪化する可能性がある
– 返還者は医療法人の社員から退社するため、医師や歯科医師でなくてもよい
出資持分の移転や払い戻しによる事業承継は、医療法人の形態を変えずに事業を継続することができるスキームです。しかし、出資持分の評価額や税負担などの問題があります。また、出資持分なしの医療法人は、このスキームを利用できません。そこで、次に紹介する合併や事業譲渡といったスキームが考えられます。
医療法人の事業承継スキーム
医療法人の合併による事業承継
医療法人の合併とは、2つ以上の医療法人が一つになることをいいます。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併とは、一方の医療法人が他方の医療法人を吸収して存続することで、新設合併とは、両方の医療法人が解散して新たな医療法人を設立することです。合併による事業承継のメリットは、次のとおりです。
– 医療法人の規模や資本力が拡大する
– 医療サービスの多様化や高度化が図れる
– 経営効率や競争力が向上する
合併による事業承継のデメリットは、次のとおりです。
– 医療法人の解散や設立の手続きが必要である
– 医療法人の財産や施設の評価額が高くなる可能性がある
– 医療法人の業務や組織の統合に伴う調整や摩擦が発生する可能性がある
医療法人の合併には、医療法人の種類や出資持分の有無によって、異なる手続きや条件が必要となります。例えば、出資持分ありの医療法人同士の合併では、出資持分の払い戻しや移転が必要となります。また、社団医療法人と財団医療法人の合併では、財団医療法人の寄附者の同意が必要となります。合併の際には、医療法人の形態や特性を十分に理解し、適切な方法を選択する必要があります。
医療法人の事業譲渡による事業承継
医療法人の事業譲渡とは、医療法人が自らの事業用資産の全部または一部を他の医療法人に譲渡することをいいます。事業譲渡による事業承継のメリットは、次のとおりです。
– 医療法人の解散や設立の手続きが不要である
– 医療法人の財産や施設の評価額が低く抑えられる
– 医療法人の業務や組織の継続性が高い
事業譲渡による事業承継のデメリットは、次のとおりです。
– 譲渡者は事業譲渡代金に対して所得税や贈与税が課税される
– 譲受者は事業譲渡代金に対して相続税や贈与税が課税される
– 譲受者は医療法人の社員となるため、医師や歯科医師である必要がある
事業譲渡には、医療法人の定款に定められた承認や同意の手続きが必要です。また、譲渡される事業用資産には、医療法人の財産だけでなく、従業員や患者の情報なども含まれる場合があります。その場合、従業員や患者の権利や利益を保護するために、適切な対応や説明が必要となります。事業譲渡の際には、医療法人の業務や関係者の状況を把握し、適切な方法を選択する必要があります。
医療法人の事業承継におけるまとめ
医療法人の事業承継は、株式会社とは異なる特徴や制約があり、様々な方法があります。医療法人の種類や出資持分の有無によって、事業承継のスキームや手続きが変わります。また、医療法人の事業承継には、税制上の優遇措置が適用されないことや、認定医療法人制度の活用が可能であることなど、注意すべき点や活用すべき点があります。医療法人の事業承継には、専門的な知識や経験が必要です。医療法人の事業承継を検討する際には、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
弊社においても医療法人の事業承継についてお手伝いしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
また厚生労働省においても医療法人に対して関連情報を提供しておりますので、そちらもご確認ください。
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