公開日:2023年5月22日 /最終更新日:2024年7月24日
食品製造業・卸のM&A動向
食品製造業・卸は日本の重要な産業であり、国民の食料の安定供給や国産農林水産物の需要創出に貢献しています。
しかし近年は原料価格高騰や物流コスト増加などの環境変化に直面し、収益性や競争力の低下に悩まされています。
そこでM&Aを活用して事業規模や商品力を強化し、新たな市場や顧客ニーズに対応する動きが活発化しています。
食品製造業と食品卸の市場規模や動向
農林水産省の食品産業動態調査によると、食品製造業の生産額は2022年に25.9兆円で、前年比0.6%減少しました。
業種別では、その他食料品製造業が6.9兆円で最も大きく、次いで畜産食料品が5.8兆円、パン・菓子が4.9兆円となっています。
新型コロナウイルス感染症の影響で外食需要が落ち込んだ一方、内食需要が高まりました。
そのため、冷凍食品やレトルト食品などの加工食品や、健康志向や機能性に関心の高い商品などが好調でした。
一方、経済産業省の商業動態統計によると、食品卸売業の販売額は2022年に53.4兆円で、前年比0.8%減少しました。
日本経済新聞社の2021年度日本の卸売業調査によると、食品卸売業の売上高は前年度比1.5%増となりました。
外食向けが苦戦したものの、自宅での食事が増加し、スーパーやコンビニエンスストア向けの売り上げが伸びたからです。
しかし小売業を中心に業界再編が進みプレイヤー数が減少したり、小売業のPB品強化などによる介在余地の減少したりするなど、厳しい環境に置かれています。
食品製造業と食品卸の課題とトレンド
食品製造業・卸は原料価格高騰や物流コスト増加などのコスト面での課題に加えて、人口減少や消費者ニーズの多様化などの市場面での課題も抱えています。
特に原料価格高騰は深刻であり、米国や中国など主要国の景気回復や需給逼迫により穀物や油脂など主要原料が高騰しています。
また物流コスト増加はコロナ禍で海上輸送費用が急騰したことや国内でも人手不足や運賃値上げなどにより引き起こされています。
これらの課題に対応するためには、価格転嫁や生産効率化などの対策が必要ですが、それだけでは不十分です。
より根本的な対策としては、事業規模や商品力を強化し、新たな市場や顧客ニーズに対応することです。
そのためにM&Aを活用することを検討してみてはいかがでしょうか。
M&Aを活用することで以下のメリットが期待できます。
- 規模拡大によるコスト削減や資金調達力向上
- 商品ラインナップやサービス内容の充実
- 新規市場や新規顧客へのアクセス
- 技術やノウハウの獲得
- 経営資源の集中
食品製造業と食品卸におけるM&A事例
近年では食品製造業・卸間だけでなく、異業種間でもM&Aが盛んに行われています。
以下は代表的な事例です。
- 双日:2022年3月に日本ハムグループから子会社であるマリンフーズを買収しました。
- カルビー:2020年2月にサツマイモの調達・販売を手掛けるポテトかいつかを買収すると発表しました。
ジャガイモを使ったスナックの国内市場が成熟するなか、同社を活用してサツマイモを使ったスナックなどの商品開発につなげ成長の持続を狙うとのことです。
食品製造業と食品卸のM&Aで買手が求めるポイントと注意点
以上からわかるように、M&Aは食品製造業・卸において重要な戦略ツールです。しかしM&Aは成功するも失敗するもあります。成功するためには買手側が以下のポイントを重視する必要があります。
- 買収対象企業と自社とのシナジー効果
- 買収対象企業と自社との文化的・組織的な適合性
- 買収対象企業と自社との価値観や目標の共有
- 買収対象企業の財務状況や評価額の妥当性
- 買収後の統合プロセスやガバナンス体制の設計
これらのポイントを踏まえて、買収対象企業を選定し、交渉し、実行することが重要です。また、買収後も統合を円滑に進めるためには、買収対象企業の従業員や取引先などのステークホルダーとのコミュニケーションや関係構築が欠かせません。
まとめ
食品製造業・卸は、原料価格高騰や物流コスト増加などの環境変化に対応するために、M&Aを活用することが有効です。
M&Aにより、コスト削減や商品力強化などのメリットが期待できます。
しかしM&Aは成功も失敗もする可能性があります。
成功するためには、以下のポイントを重視する必要があります。
- 買収対象企業と自社とのシナジー効果
- 買収対象企業と自社との文化的・組織的な適合性
- 買収対象企業と自社との価値観や目標の共有
- 買収対象企業の財務状況や評価額の妥当性
- 買収後の統合プロセスやガバナンス体制の設計
買収後も統合を円滑に進めるためには、買収対象企業の従業員や取引先などのステークホルダーとのコミュニケーションや関係構築が欠かせません。
一方、M&Aに失敗する原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 買収対象企業の粉飾や不正会計が発覚する
- 買収対象企業の評価額が下がり、減損損失を計上する
- 投資対効果が見合わず、買収金額を回収できない
- 買収対象企業のコンプライアンス問題やイメージ低下に巻き込まれる
これらの原因を避けるためにも事前の調査や評価を入念に行うことや、買収後のフォローアップを徹底することが重要です。
M&Aをご検討されている経営者の方は是非お気軽に弊社までお問い合わせください。
ご参考
- 農林水産省「食品製造業・小売業の適正取引推進ガイドライン」1
- 食品製造業・小売業の間で発生するM&Aに関する課題や優良事例を紹介しています。
- 牛乳・乳製品製造業や豆腐・油揚製造業などの業種別のガイドラインもあります。
- 農林水産省「食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 食品産業の経営課題等に関する意識・意向調査結果」2
- 食品製造業、食品卸売業、食品小売業及び外食産業の事業所を対象に、コロナ禍の影響や事業継続、事業承継などに関する意識や意向を調査しています。
- M&Aに関する質問も含まれており、事業方針や課題、戦略などについての回答が見られます。
- 厚生労働省「営業許可制度の見直し及び営業届出制度の創設に関するQ&A」3
- 食品衛生法等の一部を改正する法律に基づき、食品製造・卸に関する営業許可制度や営業届出制度を見直しています。
- M&Aによる営業許可や届出の変更や廃止などに関する手続きや注意点などが記載されています。
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