公開日:2023年5月22日 /最終更新日:2024年7月24日
中小企業の規模拡大で生じる「壁」と対策
日本経済を支える中小企業は現在さまざまな課題に直面しています。
その中でも人員増加に伴って起こる組織や人事の課題は特に重要であり、適切な対策が求められます。
本記事では中小企業が規模拡大する際に直面する「30人の壁」「50人の壁」「100人の壁」と呼ばれる3つの段階と、それぞれの段階で必要な対策について解説します。
30人の壁
30人の壁とは社長が全ての社員と直接コミュニケーションを取れなくなり、組織の一体感や方向性が失われるという状況を指します。
社長は経営に集中できず業務の負担が増えます。
社員は役割や責任が明確でなく、業務の効率や品質が低下します。
これは一人で管理できる、あるいは覚えられる名前や顔が30人程度であるというところに起因するのかもしれません。
この段階で必要な対策は以下の通りです。
- 経営理念やビジョンを明確に伝え社員と共有する。
社員が自分たちが何のために働いているかを理解し、モチベーションを高める。 - 経営に専念し業務は部門ごとに分担する。
社長は経営戦略や方針を決め、部門長やリーダーに権限や責任を委譲する。
社長は部門間の連携や調整を行う。 - 社員は自主的に業務を行い成果を報告する。
社員は自分の役割や目標を明確にし、部門長やリーダーからフィードバックや評価を受ける。
社員は自己成長やキャリアアップを目指す。
50人の壁
50人の壁とは、社長が全ての業務を把握できなくなり、管理体制や評価制度が必要になるという状況を指します。
社員間のコミュニケーションや情報共有が不十分になり、ミスやトラブルが発生します。
社員の能力やモチベーションに差が生じ、離職率が上昇します。
この段階で必要な対策は以下の通りです。
- 管理職やリーダーを育成し、権限や責任を委譲する。
社長は管理職やリーダーに対して目標設定や指導・支援・監督を行う。
管理職やリーダーは部下に対して指示・教育・助言・評価を行う。 - 管理体制や評価制度を整備する。
社長は組織構造や業務プロセスを見直し、効率化や改善を図る。
社長は社員の能力や成果に応じた報酬やキャリアパスを提供する。 - コミュニケーションや情報共有を積極的に行う。
社長は社内外の情報を透明化し、社員と共有する。
社員は部門間や上下間のコミュニケーションを活発化し、チームワークを高める。
またこのほか、法令上の問題として、
- 衛生管理者と委員会の設置
- 産業医の選定
- 健康診断報告書の提出
- ストレスチェックの実施
が必要になります。
他にも、「障害者雇用」や「休憩室の設置」なども対応する必要が出てきますのでご注意ください。
100人の壁
100人の壁とは、社長と社員の距離が広がり、信頼関係や組織風土が崩れるという状況を指します。
組織構造や業務プロセスが複雑化し、非効率や無駄が増えます。
市場ニーズや競争環境に対応できなくなり、競争力や成長力が低下します。
この段階で必要な対策は以下の通りです。
- 社長は社員と対話し信頼関係や組織風土を築く。
社長はオープンドアポリシー(扉開放政策)やMBWA(Management By Walking Around:歩き回って管理すること)などで気軽に話しかけられる存在となる。
社長は社内イベントや交流会などで親睦を深める。 - 社長は組織構造や業務プロセスを見直し、効率化や改善を図る。
社長はフラット(平坦) で柔軟(フレキシブル) な組織づくりを目指す。
社長はPDCAサイクル やカイゼン などで業務改善文化を醸成する。 - 社長は市場ニーズや競争環境を分析し、柔軟で革新的な事業戦略を立てる。
社長はマーケティング やSWOT分析 などで市場動向や自社強み・弱み・機会・脅威 を把握する。
社長はイノベーション やデジタルトランスフォーメーション などで事業変革へ挑戦する。
以上が中小企業が規模拡大する際に直面する3つの段階とそれぞれの対策です。
これらの対策は一朝一夕では実現できませんが、中小企業庁 や経済産業省 などからさまざまな支援制度が提供されています。
例えば「事業再構築補助金」 では、「新市場進出」「事業・業種転換」「事業再編」「国内回帰」または「規模拡大」等へ挑戦する中小企業等の挑戦を支援するための補助金制度です。
また「中小企業・小規模事業者のための人材確保・育成支援事業」 では、「人材確保」「人材育成」「働き方改革」の3つの分野において、中小企業・小規模事業者が実施する取組に対して助成金や補助金を交付しています。
これらの支援制度を活用することで、中小企業は規模拡大の壁を乗り越えることができるでしょう。
まとめ
本記事では、中小企業が規模拡大する際に直面する「30人の壁」「50人の壁」「100人の壁」と呼ばれる3つの段階と、それぞれの段階で必要な対策について解説しました。
これらの対策は、中小企業が組織や人事の課題を解決し、競争力や成長力を高めるために重要です。
しかしこれらの対策のほかにM&Aを対策手段として考えてみてもいいのではないでしょうか。
M&Aとは、自社と他社との間で株式や資産を取得し、経営統合や事業譲渡を行うことです。
M&Aを行うことでまとまった人員を得ることができますし、場合によっては経営ノウハウを獲得することが可能になります。
もちろんM&Aを行うことでデメリットが起こる可能性もありますが、中小企業が規模拡大や事業変革を実現するためには有効な手段です。
しかしM&Aは単なる手段であり目的ではありません。
M&Aを行う前には自社の強み・弱み・機会・脅威を分析し、自社の目指すべき方向性や目標を明確にする必要があります。
中小企業は日本経済を支える重要な存在です。
しかしその立場は安泰ではありません。
市場ニーズや競争環境は常に変化しています。
成長過程において上記のような「壁」が生じてきますし、また経営環境の変化に対応し成長し続けるためには、規模拡大の壁を乗り越えるだけでは不十分です。
中小企業は自らイノベーション(革新) を起こし、デジタルトランスフォーメーション(デジタル化) を推進し、サステナビリティ(持続可能性) を確保しなければなりません。
そのためには、自社だけではなく他社とも連携し協力しながら新たな価値創造へ挑戦していく必要があります。
本記事では中小企業が規模拡大する際に直面する壁と対策について解説しました。
この記事が中小企業経営者の皆様に少しでも参考になれば幸いです。
M&Aをご検討されている経営者の方はお気軽にお問い合わせください。
参考
- 中小企業庁:2021年版「中小企業白書」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/index.html
- 経済産業省:令和3年中小企業実態基本調査速報(要旨) https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20210330005/20210330005-1.pdf
- 中小企業庁:中小企業・小規模事業者のための人材確保・育成支援事業 https://www.chusho.meti.go.jp/jinzai/index.html
- 中小企業庁:事業再構築補助金 https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html
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