M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!

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公開日:2020年11月21日 /最終更新日:2024年7月24日

失敗しないM&Aを行うための21のポイント!

このブログでは初めての会社売却を行う売り手様向けに、M&Aを失敗させないための21のポイントを時系列に沿って整理しています。

1. M&Aを進めるに当たっての落とし穴

M&Aとは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略で、直訳すると「合併と買収」という意味になりますが、現在は事業承継の手法としても広く使われております。現在は政府の支援もあり、中小企業でも、会社経営の手段として一般化してきていると言えるでしょう。また事業承継の手段としてもよく使われており、会社内や一族内でで後継者を探すごとが難しかったりした場合、創業者一族がイグジットし、大手資本グループと一緒になって経営や事業を行っていく事も一般的になっています。しかしながら売り手様にとっては初めての経験であり、買い手側は何度もM&Aを行うことでノウハウの蓄積ができて来ますが、初めての売り手様と、ノウハウのある買い手では交渉力に差が出てしまうことから、売り手様が望むような結果につながらず、M&Aが失敗してしまったと感じてしまうこともままあるのではないでしょうか。

2.M&Aで会社を売却する際のよくある失敗例とその回避方法

我々M&A仲介会社だけではなく、M&Aを何度もやっている事業会社の担当者もよく「M&Aを何度行っても、一つとして同じケースはなかった」と言います。
これは全く同じ企業は一つとしてないからであり、タイミングや介在する人間、当事者の感情などによりM&Aの過程で千差万別のアクシデントが発生するからです。
ただしよくあるアクシデントについては以下の通りパターン化できます。
個別に抑えていけば「一生に一度M&Aを経験するかどうか」という初めての売り手様にとっても、事前にトラブルを回避やすくなりますし、M&Aを成功に導く可能性が高くなるでしょう。

さて会社を売却することを検討した売り手様がM&Aを実行するまで、大きく分けると一般的には以下の8ステップに分けられると思います。

A.アドバイザー選定前

1.M&Aを行うかどうかの検討をせず廃業を決めてしまう
2.行う場合の時期を設定しない
3.M&Aを行う目的を明確化しない

B.アドバイザー選定時

4.FAや仲介の選定誤り
5.価格設定の誤り

C.ソーシング

6.情報漏洩の発生
7.M&Aを行う中での業績の悪化
8.ターゲット企業選定の誤り
9.条件変更

D.トップ面談

10.不誠実な対応
11.選定企業誤り

 

E.買収監査(デュー・デリジェンス)

12.債務の見落とし
13.資料の不備・提出の遅れ
14.インタビューでの不誠実な対応
15.感情の不安定化

F.譲渡契約

16.契約書の条件の見落とし
17.役職員との見解の不一致
18.税金対策

G.譲渡実行

19.重要物品引き渡し

H.PMI等

20.偶発債務の発生
21.譲渡後の運営トラブル

 

大きく分けると上記のように分けられると思います。
さてそれではステージごとの順番に確認・解説していきましょう。

A.アドバイザー選定前

このステージは売り手の皆様がそもそもM&Aを行うかどうかを漠然と検討しているステージです。
M&Aを行うきっかけは、事業承継を考える時期が来たのかもしれませんし、セミナーや人づてに他社がM&Aを行っているという事を聞いて興味を持たれたのかもしれません。
ではこのステージでどのような失敗が発生するのかを見てみたいと思います。

1.M&Aを行うかどうかの検討をせず廃業を決定

そもそもM&Aを検討しないというケースです。
廃業自体は経営の選択肢の一つなので判断として尊重できますが、仮にM&Aを行った場合、従業員や取引先を引き継ぐことが可能となりますし、譲渡対価としていくらか入ってくる可能性があります。
反対に廃業の場合は従業員を解雇し、取引先との契約を打ち切る必要がありますから、退職金や違約金などの費用が発生する可能性があります。
仮に法人に純資産があったとしても、M&Aを行う場合と廃業してしまう場合では、株主であるオーナーの手取りとして残る分が減る可能性は極めて高いと考えられます。
M&Aによる事業承継は現在、かなり一般化してきており、政府も進めていく方向性を明確にしておりますので、以前と比べてかなり敷居が低くなってきていると考えられます。

また「ハゲタカ」や「乗っ取り」というイメージが先行していましたが、現在、中小企業のM&Aを行う企業の目的としては、人手不足による従業員の確保や、速やかな拠点の確保といった目的が掲げられており、それらの目的を達成することからも、円満な承継を目指していることがほとんどです。
この点については不安もあるかと思いますが、実際にM&Aを行った事例も含めてご案内させていただきますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

2.M&Aを行う場合の時期を未設定

これは「いつリタイアしたいのか」「いつまでなら事業が継続できるのか」と明確にしないままM&Aを行う場合に起こりえる失敗です。
例えば健康の関係で1年は継続できますが、それ以上の継続は難しいとしましょう。
仮にそういった会社があった場合、いつからM&Aでお相手を探すことが望ましいのでしょうか。

 それは「今」です。

納得感のあるM&Aを行う場合、いかにスムースにいっても半年程度見て頂くことが多いです(もちろん特殊事情による例外はあります)。
もし複数の企業を比較検討して考えたい場合、大きい企業であるほど先方の意思決定も遅くなるため、面談に進むまでに2か月、そこから買収監査などで2ヵ月、契約書の作成や譲渡契約、お金の振り込みなどで2ヵ月、企業によっては引き継ぎや着金などに1ヵ月遅れて入金などありますので、これだけでも7ヵ月です。
さてここで何か後述するようなトラブルがあり破談になったとします。
その場合、また1から探してこないといけませんし、仮に候補が複数あったとしても、買収監査のタイミングからやり直すことになるため、1年はあっという間に過ぎてしまいます。

もし「まだ1年ある」と悠長に構えてしまった場合、実際に相手方企業や条件などを交渉する期間が短くなってしまい、期限のデッドラインを持っている売り手側が不利になり、交渉で相手方有利になってしまう可能性があります。
以上より、期限が決まっているM&Aの場合、早期に検討を始めることが望ましいです。

では、これが2年後、3年後の場合はいかがでしょうか。
やはりこの場合も、検討自体は今から始めたほうがよろしいでしょう。
というのも、業界によっては売り上げが下がることが予想される業界がありますし、その場合、将来になればなるほど、譲渡価格が下がってしまう可能性があります。
また従業員の退職や経営環境の悪化など、突発的な事象が発生してしまう可能性もあることから、「今」から探し始めておいて、M&Aを行ってもそのまま役員で残って経営を続けるなどの選択肢はあることから、早めに動いたほうが、直前で慌てて動くよりもいい条件で検討することができるでしょう。
自分で考えている譲渡時期や条件と客観的に見た場合の有利不利は異なっている可能性もあるため、相談ベースでアドバイザーに聞いてみて、経営判断の一つにしてもよろしいのではないでしょうか。

3.M&Aを行う目的を明確化せず

これは「何のためにM&Aで会社を売るのか」と言い換えられるのかもしれません。
譲渡理由は、経営に疲れた、事業の選択と集中、従業員の行く末が心配だ、後継者不足、運転資金の不安などという理由から、アーリーリタイア、創業者利益の獲得、業態転換など様々です。
ここでもし、「従業員のため」にM&Aを検討したとします。ところが相手方企業を選ぶ基準が「譲渡価格」となった場合どうでしょうか。
そこが異業種でM&Aを行ったのに上手く行かなかった場合、撤退して買収した会社を廃業させてしまうことは十分考えられます。
また価格が高ければ当然それだけのリターンを買収後に出さないといけないので、労働環境も変わってしまう可能性があるでしょう。
その場合、「従業員のため」という目的には合致しなくなってしまいます。

もちろん「価格優先」であればその前提で考えればいいので問題はありません。
もし「価格」を主眼とするのであれば、高めの金額でもM&Aを行う相手方を探す時間については平均より長めに取っていただく必要性があるでしょうから、売却時期は長めにとっていただき、並行してその間、経営を現状通り、しっかりやっていただく必要性があるでしょう。

上記のように何を優先するかにより、相手方の選定もそうですし、動き方も変わってくることから、事前に目的を整理しておくことが重要だと考えます。
目的を整理しておけば、後述するの「当初決めていた条件を変えてしまう」という失敗例を未然に防止することにもつながると考えます。

B.アドバイザー選定時

さてここのステージはM&Aを行う事、その時期と何のためのM&Aを行うのか、という事が定まったステージです。
しかし一般的に自社を売る、ということは初めてのことが多いため、どのようにしたら良いのか悩まれて当たり前でしょう。
ここではアドバイザー選定を行う際に起こりえる失敗例について記載していきます。

4.FAや仲介の選定誤り

今では直接、自社をM&Aされるという方も増えてきています。
ただ弊社ではM&Aを行う際(特に初めての場合)に個人単独で行うことについてはネガティブに考えております。
理由としては、後程述べる価格設定の妥当性の判断ができるかどうかということや、感情的にならずに条件交渉ができるのか、相手方が言っている妥当性の判断、契約書のチェックなど個人でカバーできない部分は多々あると思います。
またM&A仲介やブティック業界が昨今にぎわっているのも一定の経済合理性があるから必要とされていることを考えると、目先のコストだけを考えて否定することも難しいのではないでしょうか。
裏を返すと、FAや仲介をつけないことで思い込みや硬直的な判断を行ってしまい、M&Aを行う機会を逃す可能性があります。

では選定する前提でFAと仲介、どちらが良いのでしょうか。
FAはFASとも呼ばれ、売り手側(もしくは買い手側)だけについて、アドバイスを行います。
仲介は売り手側買い手側双方に入って交渉の仲介を行います(弊社も基本的にこの方式です)。

日本の中小企業M&Aで多く行われている形態は後者の仲介の形式が多いです。
というのも、日本の中小企業M&Aの値決めでは、将来収益ではなく、現時点での「時価純資産価額」をベースに会社の値段を決める方法がスタンダードになったことにあります。
DCF法を使うような将来収益はいくらでも絵が描けるので、売り手は積極的に将来価値を算定しますし、買い手は保守的に見たがるでしょう。
しかし日本の中小企業M&Aマーケットの場合、時価純資産額+数年の将来の収益で会社の値段を決める方式であれば、負債の評価は争いがないことから、価格交渉の幅が極めて小さいのです。
そうなると仲介形式の方が人間関係を含め話がまとまりやすくなることから、成約率も仲介方式の方がFAよりも高く、日本で定着してきていると言えるでしょう。
成約を前提にするのであれば仲介の方がよいのではないでしょうか。

とはいえ仲介も色々な仲介がいます。
別のブログでも記載しましたが(「M&A仲介への不信感4選」)、

①レベルが極端に低い
②至らない部分が目につく
③勝手にプロセスを省略
④ゴリゴリ話を進める

上記のようなM&A仲介の場合、トラブルを招く可能性が高いことから避けたほうが無難です。
担当者のレベルを確認する際は、実際に行ったM&Aの事例の件数や内容について聞くようにした方がいいでしょう。
嘘やごまかしがあればそこで気が付くと思いますし、嘘をついたりごまかしたりするような担当者に大事な会社の譲渡を依頼することなどできないでしょう。

また仲介手数料も譲渡後の手元に残る現金に対して大きく影響を与えることから、仲介会社の手数料体系も事前に調べることが必要です。
これらについても、希望譲渡価格を先に考えたうえで、「仮に成約した場合手数料がいくらになるのか」を事前に複数社聞いてもいいかもしれません。
この点に来ましてもブログ(「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場4社との比較!)に記載しておりますので、事前に手数料体系(特に「最低手数料」)を仲介会社に確認してから判断したほうが望ましい結果につながると考えます。
もし「最低手数料は?」と聞いて言葉を濁したりとか、ありえないような高額の譲渡価格を前提として計算するような会社であれば、会社の方針として最低手数料で収益を上げようとしている可能性があるため、御社の譲渡価格を上げてまで交渉しようとしない可能性が高いです。
(契約を取るためにありえないような高額の譲渡価格を持ち出してきている可能性があります)

その場合、利益相反が行われてしまう可能性が高いので、慎重に仲介会社や担当者を選ぶようにした方がいいと思います。

なおここでご注意いただきたいのが、仲介を選定する際に専任契約を結ぶか否か、という事があります。
弊社としては情報管理の観点から独占契約を締結したほうが望ましいと考えております。
複数の業者から同じ買い手に同じ案件が持ち込まれてしまった場合、どうしても売り急いでいると思われてしまい、条件交渉をされてしまうでしょう。
基本的に専任契約が望ましいのですが、とはいえ専任契約を解除することも想定しないといけないこともあります(仲介会社のやる気がない、いつまでたっても決まらないなど)。
その場合、仲介会社によっては専任解除のペナルティがかなり厳しく、実質、専任外しができないような契約条件になっているというケースも聞いたことがありますので、専任契約を締結する際は、解除の場合のペナルティについても確認したほうがよいでしょう。

その点についてもあいまいに返答する仲介会社は断ってしまって構わないと思います。

5.価格設定の誤り

譲渡価格をどう設定するのか、というのは悩ましい問題です。
私もある業界の過去5年間の成約事例の価格を見てみましたが5倍くらい変わることもしばしばです。
ただ買い手企業は「相場感」を持っており、その範囲内で一番高い条件で探すようにした方が望ましいことはいうまでもありません。

もちろん売り手様はできるだけ高く売りたいというお考えは分かりますし、弊社も譲渡対価に比例して報酬が増えるので利害関係は基本的に同じです。
ただしここでありえない金額で引き受けてしまった場合、売り手様にとってのリスクにもなってしまいます。

というのも、売るためには買い手を探さないといけませんが、買い手も予算の枠組みの範囲で買収を検討するため、根拠もないのに青天井というわけにはいきません。
そうすると不必要に多くの買い手にアプローチする必要が出てきますし、アプローチする件数に比例して、相手方を探す期間が延びてしまいます。
その場合、情報漏洩の可能性が出たり、高額すぎる売り手と認知されてしまうでしょう。

弊社は全業種において過去5年間の成約価格(目安がどれくらいか)というデータベースにアクセスできるので、その範囲内でなるべく高い金額でお引き受けしたいと考えております。

ただ仲介会社の中には「できるだけ低く引き受けたい」と考える悪い仲介もいるので、仲介会社の選定は本当に難しいです。
彼らが「できるだけ低く」と考えているのはシンプルで、その方が早く譲渡できる=売り上げにつながるからです。
弊社よりも高い最低手数料や、レーマン方式のテーブルを採用している企業は、「安く仕入れてすぐ売る」という、回転を重視したビジネスモデルを構築しているところもあります。

そのような会社の仲介を受けて雑に扱われてしまったら、何のために思い入れのある会社をM&Aまでして譲渡したのか、というお話にもなりかねません。
価格、値決めの問題は大変難しいところもありますが、売り手様のお気持ちや、買い手の考えだけではなく、仲介の思惑も働いていることを踏まえて決定する必要があるでしょう。

ただし価格は一度出してしまうと、上げるのも下げるのも評判に関わってくる可能性があるので非常に取り扱いが難しいところがありますので慎重にご検討ください。
弊社では相談無料で対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

C.ソーシング

M&A仲介会社、FASが決まりM&Aのアドバイザリー契約も締結しました。
さて、いよいよここから御社を譲渡する先を探して、M&Aを行う準備を始めることになりました!
このステージで起こりえる失敗事例について検討していきましょう。

ここから先の失敗事例については、経営に対しても影響を与える可能性が大きいものが出てきます。
慎重に進めつつ、実際にトラブルが発生してしまったら失敗事例と対策を確認してみてください。

6.情報漏洩の発生

M&Aで情報漏洩が起きる可能性については細心の注意を払う必要があります。
というのは会社を売却していることが従業員や取引先、金融機関などに知られてしまった場合、従業員への士気に影響するでしょうし、場合によっては取引の変更などが起きるでしょう。
金融機関の場合は返済条件に影響が発生する可能性もあります。
従業員の士気が低下して退職などを招いた場合は、採用費などが発生し直近収支に影響を及ぼすでしょうし、取引の変更などで売り上げが低下した場合も同様です。

収支に影響が出た場合、M&Aが行われたとしても、収支が悪化してしまったという事で、譲渡価格にマイナスの影響を与えてしまうでしょう。
そのため、M&Aを検討していることは極力最低限の関係者にとどめる必要があります。

仲介会社はまず最初に匿名概要書(ノンネームシート)と呼ばれる、御社が特定されない範囲で検討してもらえる資料を作成し、買い手を探していきます。
その段階であれば御社名は出ていないことから、仲介会社及び買い手から情報が漏洩されることはないでしょう。

次に買い手が興味を示した場合、仲介会社と買い手企業との間で秘密保持契約(NDA、CAとも呼ばれる)を締結して企業概要書(IM)と呼ばれる、御社の情報がまとまった資料を提示します。
仮に情報漏洩が発生するとすると、このタイミングで買い手側から漏れ出るケースがあり得ます(仲介会社が故意に情報を漏洩するインセンティブは働かないため)。

ここで売り手様がとりえる手段は2つです。
事前に情報を漏洩しそうな先をオミットすること。
仮に情報が漏洩したと思われるような打診があっても無視すること、です。

というのも、SNSが発達して企業が自社の評判を気にしている現代において、次回からもM&Aの提案が行われなくなる可能性を冒してまで情報漏洩を冒すという事は考えづらいです。
その中で、「御社が(売られているので)買いたい」という話が別のところから発生したとします。
その場合、他のM&A仲介会社が案件を獲得するためにブラフで連絡をしてきている可能性が高いです。
もし仮に漏洩したのであれば信用問題になったうえで、毅然と否定した上で、それでも引き下がらないという事であれば漏洩先をただすために、「どこが買いたいと言っているのか」という事を聞いてもよいでしょう。
というのは買い手が情報を漏洩する場合、「買いたいから」という理由か評判を下げる理由くらいしかなく、仲介会社が持ち込んだ先と一致しているのであれば前者である可能性が高いので、今依頼している仲介会社経由でクレームを申し立てるという方法もあるでしょう。
ただ現実問題としては言った言わないレベルの話であり、影響も売り手が認めないのであれば、噂話レベルにしかならないため、現実的には大きな影響は発生しないという事を踏まえて対処したほうが合理的だと思います。

結論としては、仮に売りに出ているという情報が出たとしても毅然と否定する、という対処がよろしいと思います。

7.M&Aを行う中での業績が悪化

M&Aを進めていくと、譲渡することに考えが行ってしまい、本業の経営についておざなりになってしまうことがあります。
ただこれも経営者の雰囲気が変わることにより、従業員への士気への影響やそれに伴う収益の悪化などにつながる可能性があります。
また売却の目的とも関連してきますが、買い手によっては一緒にやっていくパートナーを探している場合もあります。

もしそういった相手方から興味を持たれたときに、売り手様の経営に対するモチベーションが低下していたらどう思われるでしょうか。
M&Aはあくまでも経営の一手段でしかないので、M&Aを行っているからと言って、全てが解決するわけではありません。

今後出てくる買収監査やその後の最終条件提示できちんと交渉する機会も出てきます。
M&Aを行うと決めた以上、さらに収益を上げるという姿勢で臨まれ、業績を上げていけば、その後の条件交渉の際のカードも増えるでしょう。

また震災やコロナのような天変地異的要因であれば、これはやむを得ない理由に該当すると思いますので見合わせてしまうことも検討する必要があるでしょう。

8.ターゲット企業選定の誤り

当初の段階でM&Aを行う目的を明確化しない場合に起こりえます。
目的を持たずに場当たり的にアプローチしてしまうことで、上記で述べたような漏洩リスクが高まる可能性がありますし、「なぜこの企業を選んだのか」が伝わらなかった場合、先方も買収する動機付けが働かない可能性があります。
上記のような問題が発生する原因は、売り手様の目的がはっきりしない場合ももちろんですが、仲介会社、FASが業界内の買い手候補について精通していない場合も同様の問題が発生します。

まずは売り手様がどういう会社が相手先として望ましいのか、なぜそういった会社にアプローチしてほしいのか、という事を理解した上で仲介会社やFASに伝えましょう。
そして仲介会社がその要望に応えらえるか、答えられないとしたらその理由は何なのか、という事も併せて確認してみたらいいと思います。
仲介会社の力不足なのか、元々の譲渡目的や希望に無理があるのか、無理があるとするなら、再度修正を行い、検討していってもよろしいかと思います。

せっかく当初に、なぜM&Aを行うのか、という目的をきめたのだと思いますので、その目的を果たすために、仲介会社やFASと意思疎通をしながら、アプローチ先を狭めていけばいい結果につながるでしょう。

9.打診途中での条件変更

M&Aも相手がある話で、偶然に左右されることも少なからずあります。
適正な価格で、同じように買い手にアプローチしていても、その時の経営環境次第でやらないと決めていたことが後でやるようになったり、その逆にM&Aをやるときめいたのに年間予算の関係で中止してしまい、やらなくなってしまったという事は往々にしてあります。

M&Aの買い手を探していく中で不安に思ってしまうことは多々あると思いますが、一番まずいケースは、話が早く進むため、一度ストップさせて当初出している金額よりも条件を上げてしまう、という事でしょうか。
この場合、買い手側からの信頼は無くなってしまうでしょうし、相手に入っている仲介会社やFASも不信感を抱くでしょう。
また買い手としてのプレーヤーも規模によってはそれほど多くないことから、希望する条件どころか同じ条件で話をしようと思う買い手が現れなくなってしまう可能性があります。

もし低く価格を出しすぎてしまったため、すぐ話が来たという疑念を持たれたのであれば、取り下げ・価格の再設定を行うのではなく、しばらく待ってみて複数社から話が入ってくれば、オークション形式でより高い金額を出す会社にお願いしたいという話をすれば違和感を与えることなく、希望する金額に近づけていくことができるのではないでしょうか。

話が進んでいく中で疑心暗鬼になることはありますが、その時の不安な気持ちや、現在の状況などの説明を求めれば、しっかりとした仲介会社であれば現在の状況をきちんと説明してくれるはずですので、疑問点を率直に担当者にぶつけてみましょう。
その結果納得できなければその時にどうするのか、という話だと思います。
もしそれでも納得できない、騙されている、と感じた場合、セカンドオピニオンを求めてみるという事は一つの手段だと思います。

D.トップ面談

さてM&Aをする目的や金額などきちんと決め、担当者も適切に動いたことから、御社と面談したいという買い手企業が現れました。
初期的な情報を見て、経営を引き継げるのか、あるいは引継ぎ相手として選んでもらえるのかという考えをすり合わせるために、双方が顔を合わせて面談を行う機会が与えられました。
この場で起こりえる失敗事例はどういったものあるでしょうか。
以下のケースについて検討していきたいと思います。

10.不誠実な対応

「会社を買われる」ということは売り手様ご自身の人生について、今までと大きな変化が起きてしまうため非常にナーバスになってしまいます。
そのため色々思うところがあることはよく理解していますが、一番トラブルになるのは、聞かれた事実関係についてきちんと回答しないという事でしょうか。

これは不安から、会社を実態よりよく見せようという気持ちから起きるのかもしれませんし、お気持ちについては分かります。
ただ後で買収監査を行った際に、各種資料からだいたいの経営状況は察せられるものですし、特に買収相手が同業他社であれば事業構造が分るので、なおさらです。

その際に不信感を持たれてしまうと、交渉の材料にされてしまい金額を下げられる要因となってしまいますし、場合によっては破談になるでしょう。

むしろ悪い点は積極的に開示するとともに、自分だったらこうする、あるいはこうすればよくなるが、こういう理由で手を付けることができていなかった、と伝えたほうが買い手からの信用は上がるでしょう。
場合によっては引き続き経営パートナーとしてみてもらえることも実際にあります。

また必要以上に卑屈になったり、卑下する必要もないと思います。
相手方がくみしやすいと思い、条件交渉を仕掛けてくる可能性が高くなるからです。

むしろ今まで築いてきた会社を誰に対して、どのように譲渡するのか、という事を中心に考え、面談自体は商談の一つとして、自然体で臨めばいいと思います。
売り手様が、相手方と考え方が合わないと思えば話を断るカードは保持しているので、あくまでも経営者として対等の関係で接し、条件についても是々非々で交渉に応じたらいいと考えます。

11.独占交渉を与える企業選定の誤り

8と重複しますが、複数の企業と面談した場合、どの企業に独占交渉権を与えて先に交渉を行うのかというフェーズに移ります。
買い手企業が一社しかない場合は仕方がないのですが、複数手を上げてきた場合、どの企業と先にやるかで後々影響が出てくるでしょう。

例えば、交渉権を獲得したいがために過大な金額で手を挙げた企業と、適正なレンジと思われる範囲で手を挙げた企業があったとします。
売り手様からしたら当然前者と交渉したいと思います。
ただ買い手が過大だと認識している場合、交渉過程で金額を下げてくる可能性は十分にありますし、それが理由で決裂することは十分にあります。
もちろんここと決裂したからと言って、後者の企業と交渉は可能ですが、後者の企業はなぜ決裂したのか気になるでしょう。
もしかしたら決裂理由や決裂してしまったこと自体に対してあまりい印象を持たず、当初、先方が考えていた評価よりも期待が下がってしまうこともあるかもしれません。
結果論ですが、その場合であれば、当初から後者の企業と交渉を行っていればよかったという可能性もあります。

この問題を回避するためには、仲介やFASの役割が非常に重要になってきます。
というのは彼らは経験として、買い手がどういう企業なのかという傾向を知っているはずだからです。
事前に企業の傾向が説明されていれば、事前に別の企業と交渉を行うという選択肢が生まれるでしょうし、結果として円満に終わり納得感を得られるのであればそのM&Aは「成功」だったと考えることもできます。
特に買収監査時に、買い手が求めてくる資料を出さなければなりませんし、その過程で売り手様の事業環境は丸裸にされてしまうので、ここでの相手選びもかなり慎重に行う必要があります。

E.買収監査(デュー・デリジェンス)

さてM&Aの相手方としてふさわしい企業も面談で見極めました。
いよいよここからは買い手が、本当に売り手様の企業は、今の条件で買収するにふさわしいかどうかを判断するフェーズになります。
今までは売り手様が相手方を選ぶ立場だったのですが、ここからは買い手側が主導して判断していくことになります。
ここからのフェーズは中身の話が多くなってくるため、かなりナーバスになるタイミングでもあります。
では何に対して注意してを行くべきかを順に検討していきたいと思います。

12.自社債務の見落とし

買収監査で見られるのは、帳簿に乗っていない簿外債務がどの程度あるのか、ということです。
それによって買い手方がリスク量を検討し、買収の可否、金額の変更などを検討していきます。

ではその際に売り手様は何が必要でしょうか。
まず会社の状況を買い手に対して丁寧に伝える必要があります。
特に買い手が意識するのはサービス残業の有無や退職金の未積み立てなどです。
売り手様がこれらの事象の発生を把握していなかった場合、買い手様にとって、そもそもの会社の価値が課題に評価されたまま買収してしまうことになってしまうでしょう。
また債務が発覚した場合、トラブルになってしまいます。

何を買収監査で調査するのかは買い手様の判断になってきますが、調査内容に対して正確に回答することは売り手様側の帰責事由になってきますので、把握している範囲で正確にご回答いただければトラブルは避けられます。
仮に債務が発生していることが事前に分かれば、条件変更やトラブルが発生した場合の条項を契約書に盛り込むことで回避できることができます。

もしご不安になった場合、担当者にもご相談いただいて、「買い手と協力して解決していく」、というスタンスで対応していけばトラブルも回避できると思います。

13.資料の不備・提出の遅れ

買い手によりますが、法人ごとの譲渡の場合、膨大な資料を求められることがあります。
中小企業のM&Aの場合、オーナー社長が対応することが多く、どうしてもマンパワーが不足してしまうことは私も十分理解しています。
ただし買い手側からすると、書類がないと判断できないことも事実です。

その際に重要な書類に一部抜け漏れがあったり、そもそも資料が提出できないというだけの回答を行ってしまうことはあるかと思いますが、買い手側からすると不信感を抱いてしまうのも事実だと思います。
特に買収監査で弁護士事務所などが入っている場合、M&Aの成立よりも法的リスクを回避するというインセンティブが通常よりも働いてしまうことから、M&A自体をやめようというようなレポートが提出されてしまう可能性もあります。

不備や提出の遅滞が不信感へつながってしまうわけですね。
上記を回避するためには資料を一部だけでも迅速に出すとともに、遅れている理由(例えば顧問税理士に資料を出してもらうために時間がかかっているなど)を担当者から買い手側に伝えてもらい、理由について納得してもらいながら進めていくことでしょう。

買い手側もM&Aを成立させる前提で費用をかけて依頼を行っているので、よほどのことがなければ、それだけで感情的になるという事はないと思います。
むしろこのフェーズで感情的になるのは売り手様側の傾向が強いです。

ただ買収監査はいずれ終わりますので、ここで感情的になって一からやり直すのか、そもそもやめてしまうよりも、担当者に愚痴を言いながらでも資料を集めて進めていった方が建設的だと思います。
経験のある担当者であれば事前にどの程度のボリュームの依頼が来るかもわかっているはずですので、心の準備をして対応していけばよろしいかと思います。

14.インタビューでの不誠実な対応

これも10と重複する部分はありますが、買収監査でのインタビューの相手は、買い手の代表者ではなく、弁護士や公認会計士、あるいはその双方というケースが多いです。
かれらは13で出していただいた資料を基に、想定される法務的、財務的な問題について主として、買い手方の経営者や代表がいる前で、インタビューを行います。
インタビュー時間も買い手側の設定によりまちまちですが、半日から1日というケースもあります。

事前にヒアリングシートをメール等で受領し、そこに対して書いた回答について、質問を受けることもあります。

ここでは買い手側は起こりえる問題の顕在化や回避が可能かを図っています。
このフェーズに限らないのですが、不誠実な回答をしてしまうと、印象が悪化してしまい、買収価格ではなく、そもそもの買収自体に対してネガティブな評価をされる可能性があります。
(不誠実な回答だと、リスクが評価できないため買収の判断自体ができない、と思われてしまうのでしょう)

これはM&Aが成立してもしなくても、信用問題につながる話であることから、誠実に回答していただければと思います。
またインタビュー時は担当者が売り手側に同席することが多いので、質問の趣旨についてよくわからないなどのことがあれば、担当者にも意図を聞いたうえで正確に回答するようにしていただければと思います。
(こういうフェーズもあるため、やはり担当者の経験や質というのは重要になってきます)

15.感情の不安定化

13でも触れましたが、人間が行う以上、どうしても買収監査時に起こりえる可能性があることから再度記載しました。
感情的になってしまい、売り手様が話を壊してしまう可能性があるという事です。

このフェーズでは買い手側もM&Aを成立させるために費用や時間を捻出していますし、企業によっては取締役会決議を受けて進めているケースもあります。
したがって買い手サイドはこの話を壊したくない中で、社内的な決済を通すために行っているという状況がほとんどだと思います。
また売り手様も予期していないトラブルの芽も、ここで顕在化しておけば契約後のトラブルを減らすことができますし、ひいてはM&Aを行ったことで、さらに会社が発展するような計画を作ることができた、という事にもつながると思います。

このフェーズで感情的になっても解決することはほぼないので、粛々と進めていくように気持ちを落ち着けていきましょう。
もし間に入っている担当者の動きや説明が悪く感情的になるという事であれば、担当を変えてもらうことも方法のひとつかもしれません。

仲介会社やFAS会社も、話が壊れるくらいなら担当者を変えて進めたほうが合理的だと思うからです。

なお買収監査については別にブログ(【売り手様向け】買収監査(DD)とは)でも記載しておりますので、よろしければご覧になってください。

F.譲渡契約

さて、買い手側にすべて資料を出し、インタビューも終えました。
後は買い手側がどう判断するかです。
買収監査のタイミングから専門的な用語や細かい実務的な話が出てきてうんざりされてきたかもしれません。
しかしすべてはここで譲渡契約書(株式譲渡契約書はSAPともいわれます)を作成し、条件を詰めるために行われてきたことでした。
このフェーズでどのような失敗事例が発生するのかを見ていきたいと思います。

16.契約書の条件の見落とし

M&Aは一つとして同じものはないため、契約自体も個別の契約が採用されます。
ここで取り交わされる契約書は譲渡価格だけではなく、その後のトラブルが起きたときに誰がどうするのか、売り手様がどの程度まで補償するのか、という事が規定されています。
またその他にもアーンアウト条項を付けてそのまま継続して代表をしてもらい、事前に決めた目標を達成したら追加で株式代金を支払う、であったり、分割して譲渡対価を支払うなどの取り決めを行うこともあります。
これらの条件が付く場合は譲渡後の収益予測が不確実であるために留保条件として付くことが多いと考えられます。

これらについては専門性も高いことから、担当者や顧問の士業に相談することも一つでしょう。
また後でトラブルになりそうなことは契約書に予め落とし込んでおくべきであると思います。
例えば継続して代表として働く場合の期間や報酬、個人や他法人で所有している不動産を使う場合であれば賃貸契約の締結、役員借入金については法人と代表個人の金銭消費契約等、あとでトラブルになる可能性がある権利関係についてはこのタイミングで双方合意の上で書面に落とし込んでおく必要があります。
また譲渡対価の振り込みの時期や振込先などもこの際に契約書に盛り込んでおきましょう。

なお冒頭で収益予測が不確実なため留保条件が付くこともあると記載いたしましたが、もし金額にこだわらず、価格で調整することによって条件を確定させる(例えばもう経営はやりたくないので金額を下げてでも残らない、など)という事は交渉の一つになります。
そのためには当初から申し上げていたように「何のためにこのM&Aを行いたいのか」が明確にしておく必要があるでしょう。
ご自身の目的をはっきりとさせ、その目的に沿うような条件とすることができるのか、担当者経由で買い手側と交渉を行えるかどうかを検討してもいいかもしれません。

17.役職員との見解の不一致

実は多くの従業員や、場合によっては役員も会社の譲渡が知らされるのはこのタイミングとなります。
なぜなら条件がまとまっていない状況では、破談になる可能性もあることから、情報を秘匿するために譲渡することを共有しないことが中小企業のM&Aの場合は一般的であるからです。

さてここで問題となるのが、M&Aを行うこと自体、またM&Aを行う先に対して、役職員の共感を得られない、という可能性です。
株式の売買自体は株主の権利ですが、一緒に働いていて、突然知らされてしまうため、動揺してしまうのも無理ならざるところでし、想定されるトラブルは、役職員が消極的な反対を示して、会社を辞めてしまう可能性があることです。
その場合、採用を行う必要があるので、採用費が発生しますし、買い手側の収支計画も限られてくるでしょう。
もしキーパーソンが辞めてしまう場合、そもそもの問題になってしまう可能性がありますので、まずは離職を回避する努力を行うと同時に、離職した場合の手当てをどうするのか、を検討する必要があります。

離職を防ぐ方法としては、それまでの関係性もあると思いますが、キーマンに対しては一般にアナウンスする前に、今回の背景や必要性を説明する必要があると思います。
もちろんその際に、金銭的な理由で、という事ではなく、役職員を含めて会社を発展させるためにM&Aを行ったという説明をする必要があるでしょう。
場合によっては買い手側の担当者、役職者に同席してもらうことも必要かもしれません。
人間がかかわることなので正解はないのですが、今後の不安を早期に解消することが望ましいと思います。

次にキーパーソン以外で離職者が増えた場合です。
この場合、事前にある程度離職者がいることを想定して、契約書の条件に盛り込んでおくという方法があると思います。
もし盛り込んでおかない場合で、買い手が耐えきれないほど退職者が出た場合は、条件を再度見直して覚書対応などで担保するなどになるでしょう。

このタイミングでM&Aの撤回、ということは特に売り手様からしたら耐えられない(会社の経営継続に影響を及ぼす)レベルだと思いますので、トラブルを発生させない、発生してもまとめるという事が必要になってくるでしょう。
この場合も担当者と協力を行いながら、解決に向けて相談を行い、解決をしていくことが重要になってくるでしょう。

18.税金対策の失念

譲渡対価をどのように受け取るのか、という事も考える必要があるでしょう。
今回は個人が株式対価を受け取る前提で考えます。

例えば資本金1000万円のA社の株式の譲渡対価が2億円で、Bさん個人に入ることで合意したとします。
この場合、税金は2億円ー1,000万円に対してかかってきます。
ただしここで一部を退職金として受け取るケースを考えてみましょう。
役員報酬や勤続年数により功績倍率法による損金算入の対価は変わってきますが、仮に退職金で支払われる金額が5,000万円だとします。

その場合、5,000万円を退職金でうけとり、2億円のうち5,000万円を控除すれば、1.5億円から1,000万円を控除した1.4億円に対してのみ税金がかかるので、買い手側からすると同じ金額を支払うだけですが、売り手様からするとメリットが全然違ってきます。

税金に対するアドバイスは独占業務であることから具体的にアドバイスすることはできませんが、有利になるようなアドバイスを一般論として行うことは可能です。
もしこの点について担当者が無知な場合、気が付かないところで発生しなかったであろう税金が発生する可能性があるので、税理士も含めて色々と相談してみたらよろしいかと思います。

この点についてはSTRコンサルティング様も動画で開設しているので、見て頂いても損はないと思います。

G.譲渡実行

おめでとうございます。
諸々のトラブルを回避・手当して、ついに譲渡実行までたどり着きました!
譲渡契約の調印時の失敗事例についてみてみましょう。

19.重要物品引き渡しの際のミス

契約書に調印を行い、着金を確認した後、法人の実印や通帳、鍵、その他重要な資料などを引き渡すセレモニー的な要素も伴うフェーズです。
なお着金については買い手側の社内的な決済手続きにより、1か月後になるというケースもあるため、事前に確認しておいた方がトラブルの要素は減るでしょう。

このフェーズでトラブルになることはあまりないのですが、笑い話ではありませんが、振込先が誤っているため、着金できなかったというケースがあります。
金額が小さく、かつ中小企業オーナー同士の話であれば、その場で訂正印を押して是正してしまうこともあります。
とはいえあまり気持ちのいい話ではないので、仲介会社やFASが入っている場合は、振込先の通帳と照らし合わせて念を入れて確認することも必要でしょう。

H.PMI等

PMIとは、”Post Merger Integration”の略で、日本語では「ポスト・マージャー・インテグレーション」と呼ばれています。
M&Aを行った際に、その統合効果を最大化するための統合プロセスのことをいい、M&Aの実行後において、シナジー効果を実現し、企業価値を向上させるための統合プロセス全体を意味しています。
通常、経営権は買い手企業に移っており、役職員として残るという契約でない限り経営に売り手様が関わることはないでしょう。

しかしながらこのフェーズでもトラブルが起きる可能性があります。
この点について見て行きましょう。

20.偶発債務見落とし

12で述べた「債務の見落とし」がここで顕在化する可能性があります。
実際に売り手様が把握しておらず、買い手が見落としてしまうという事はあり得ます。
それは労働災害やサービス残業など、探せばわかったかもしれないものの他、譲渡前に食中毒や従業員がケガをさせてしまっていた等、売り手様自身が知りえなかった事象もあり得るからです。

譲渡契約書には、売り手様が買い手に対し、最終契約の締結日や譲渡日等において、対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するという、「表明保証」条項を付けることが一般的です。
買い手からすると、表明保証がされていたにもかかわらず、あとで偶発債務が発生してしまった場合、知っていればその債務を控除した金額でM&Aを行っただろうに、売り手の表明保証に不備があったという事で、補償を求めてくることが多いです。

判例も認めた例、認めなかった例、一部認めた例とケースは分かれていますが、売り手様に責任があった場合、賠償を促す方向であるのは間違いないでしょう。
このフェーズでのトラブルを回避するためには、表明保証責任を果たすために、知りえる限り把握して、問題があればそれを買い手に対して伝えておくこと。
また保険加入により、損害が発生した場合の補償金を負担するという手段があります。

Batonzでは買収監査(DD)に表明保証保険を附帯することで、買い手の損害を補償するスキームを販売しています。
費用は買い手持ちになるため、買い手がこの買収監査を行わなければこの保険も使えないのですが、買収監査を行わせて表明保証保険を使わせる代わりに、何かあった時の売り手様のリスクを下げるという交渉も一つの方法かもしれません。

ただしこの保険は廉価な分、上限が低いため注意が必要です。
大規模なM&Aの場合には保険会社が一から組成するような表明保証保険もありますが、中小企業のM&Aで、想定される偶発債務が低い場合であればBatonzの表明保証保険に追加できる任意保険もあるようなので、そちらの併用も検討することも一つの解決方法かもしれません。

Batonzの表明保証保険についてはこちらのブログ(小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」についての解説)でも記載しておりますので、ご確認ください。

21.譲渡後の運営トラブル

譲渡後に取引先から反発を受けたり、役職員が買い手と上手く行かなくなってしまうケースです。
前者については買収監査時にチェンジオブコントロール条項など、契約上、株主が変わったりした場合取引が打ち切られるような契約がないか確認することが通常のため、法的なトラブルは基本的には起こりえない前提ですが、昔から人間関係で付き合ってきた取引先であれば、やはり急にオーナーが変わってしまうことで感情的になってしまうこともあるかもしれません。
後者も最初は良くとも、やはり今までと同じ環境でずっと継続してやっていけるわけではないことから、感情的な揺れが生じてしまうことは十分考えられます。

上記については、一定程度割り切ることも一つだと思いますし、買い手にもある程度は受容してもらって運営してもらうことも必要であると思いますが、もしそこまでドライになれないという事であれば、引き続き期間を1年や2年などとして、徐々にフェードアウトしていくやり方もあるかと思います。
この点については売り手様が何のためにM&Aを行うのかという事はもちろんですが、買い手の考えもあるため、トップ面談時に考え方をすり合わせておく必要があると思います。

 

以上、大変長くなりましたが、M&Aを行う際に起こりえる一般的なトラブルを、時系列で記載してみました。
もちろんこれらが起こりえるトラブルのすべてではなく、ほんの一例にしかすぎません。
この他に想定される事例としては、

・株券が紛失していたため、官報に掲示して株券不発行会社にしないといけない
・買い手が融資が下りず資金調達ができなかった
・バリュエーションを行ったが、小規模事業者共済などの扱いで意見が分かれた
・少数株主から反対が出たため、スクイーズアウトをしなければならない
・連帯保証が外せなかった
・過去に粉飾(逆粉飾を含む)を行っていたが、是正せぬままここまで来てしまった
・税務会計基準で決算書を作っていたため、買い手の財務会計基準と著しく乖離してしまった
・減損損失、資産除去債務、ポイント引当金等が発生してしまった
・プロジェクトの損益管理ができておらず赤字になると指摘された
・追徴課税リスクが発見された
・多額の架空債権、架空在庫が発見された
・チェンジオブコントロール条項はついていなかったため話を進めたところ、主要取引先が買い手のライバル会社という事が判明した
・事業に関連しない資産(私的利用の高級車、絵画、ゴルフ会員権など)が多額に上ったため個人での買取が必要
・M&Aを行った場合、行政に対して補助金の返還義務が生じる

など数え上げたらきりがありません。
特に中小企業であれば、税務会計基準で決算書を作っていることがほとんどでしょうし、私的利用の高級車や絵画やゴルフの会員権などはむしろ付き合いのうち、として計上されていてもおかしくないでしょう。

私がここで述べたいことは、起こりえるトラブルをすべて予見する必要はないと思います。

本文中に繰り返し何度か述べましたが、要約すると以下の4点、

・何のためにいつまでにM&Aを行うのか
・それに対して適切にアドバイスをしたり動けるM&A仲介会社と担当者を探し当てることができるか
・感情的にならずに、かつ冷静にM&AフローをM&A仲介会社の担当者と協力して進めていくことができるか
・買い手に対してもパートナーとして卑屈にならず、丁寧に対応できるか

を忘れずに対応していけば、M&Aを「成功」させることができるでしょう。
ここまでお読みいただいて、弊社にご関心頂ければ幸いです。
上記に限らず、何でもお気軽にお問い合わせください。

<2021年3月1日追記>
他社で現在進行しているM&Aについて、「本当にこれでいいのか?」「誤ったことを伝えられていないか」等、多数のご相談が寄せられていることから、「M&Aセカンドオピニオンサービス」を開始いたしました。
交渉の過程で買い手や仲介に対し、ご不安になられている売り手様、相談するにも相談する先がない売り手様はお気軽にご相談ください。

 

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