2026年最新:事業譲渡と株式譲渡、手残りが増えるのはどっち?節税・負債・従業員の「現場の正解」
「M&Aですか。株式譲渡形式でやりましょう」
もしあなたが相談した仲介会社にそう言われたなら、少し警戒が必要かもしれません。
代表の五十嵐です。私はこれまで数多くの財務戦略を練ってきましたが、「株式譲渡という安易な選択をしたために、本来払わなくていい負債を背負わされたり、手残りを数千万円単位で失ったりしているオーナー」をあまりにも多く見てきました。
日本のM&Aの約9割が株式譲渡で行われるのは、手続きが単純で仲介会社にとって「効率が良い」からです。しかし、市場が成熟した2026年現在、買い手の目はかつてないほど厳しくなっています。自分自身の身を守り、利益を最大化するために、「事業譲渡」という選択肢を正しく理解しておくことは不可欠です。
これは私だけの意見ではありません。中小企業庁も中小M&Aガイドライン第3版において、仲介者・FAが策定すべき業務範囲として以下を明記しています。
<仲介契約・FA 契約の内容の主なポイント>
⚫ 業務範囲・内容
例えば、次のような形が考えられる。
・譲り渡し側・譲り受け側のマッチングまで
・バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)やデュー・ディリジェンス(DD)まで
・株式譲渡や事業譲渡といった具体的なスキーム(手法)の策定まで
・クロージング(決済)まで
・PMI(M&A 実行後における事業の統合に伴う作業)まで
経験のあるM&A担当者であれば、この「スキーム策定」はプロとして避けては通れない基本中の基本です。しかし、現実はどうでしょうか。本コラムでは、多くの仲介会社が語りたがらない「事業譲渡」の真実と、現場のメリット・デメリットを徹底比較します。
その上で他の仲介会社のホームページでよくあるような株式譲渡と事業譲渡の比較をAPPENDIXで記載しておりますので、関心ある方はそちらもご確認ください。
なぜ、多くの仲介会社は「事業譲渡」を積極的に勧めないのか?
ネットで検索すると、事業譲渡は「手続きが複雑」「税金が高い」といったネガティブな情報ばかりが目立ちます。しかし、それらはあくまで「表面上の理由」に過ぎません。
プロの視点から言えば、事業譲渡が敬遠される真の理由は、仲介会社が決して口にしない<b>3つの不都合な真実</b>に集約されます。
① 彼らにとっての「生産性」の問題:工数が3倍、でも利益は同じ
株式譲渡は、いわば「会社という箱」をそのまま渡すだけです。対して事業譲渡は、外科手術のように「どの資産を残し、どの契約を移転させるか」を一つひとつ切り分けなければなりません。
名義変更の山: 車両、不動産、特許、さらには数百件の顧客契約の巻き直し。
従業員との面談: 一人ひとりに転籍の同意を取る労力。
在庫の棚卸し: 1円単位での精査。
担当者の本音:「事業譲渡を1件成立させる間に、楽な株式譲渡なら3件成約できる。わざわざ面倒な道を選ぶメリットが会社(仲介会社)にない」
② 「レーマン方式」の呪い:負債を引くと彼らの報酬が減る
多くの仲介会社が採用している「レーマン方式」の手数料体系。これは「譲渡対価」の金額に連動します。 ここで大きな矛盾が生じます。
株式譲渡: 負債も丸ごと売るため、見た目の金額(総額)が大きくなり、仲介会社の手数料も増える。
事業譲渡: 負債を切り離し、中身の「純粋な価値」だけで売るため、総額が下がり、仲介会社の手数料も減る。
担当者の本音:「オーナーの手残りを増やすために負債を削る(事業譲渡にする)と、自分のボーナスが減ってしまう。だから『株式譲渡が一般的です』と誘導する」
③ 圧倒的な「財務スキルの欠如」:営業マンにスキームは組めない
M&A仲介会社の多くは「営業のプロ」であっても「財務のプロ」ではありません。事業譲渡を成功させるには、高度なBS(貸借対照表)の分析と、税務的なシミュレーションが不可欠です。
のれんの魔法: 事業譲渡なら、買い手は支払った対価を5年で損金算入できる。この「節税メリット」を価格に転嫁する交渉ができるか?
磨き上げの欠如: どの資産を会社に残せば、オーナー個人の所得税が最も抑えられるか、計算できているか?
担当者の本音:「スキームを提案して税理士に突っ込まれるのが怖い。定型文通りの株式譲渡で進めるのが一番安全だ」
「事業譲渡」が救いとなった2つの現場実例
【実例1】債務超過でも雇用を守り抜いたケース
多額の負債を抱え、仲介会社からは「清算(倒産)しかない」と言われたケース。株式譲渡をしようにも、買い手は借金ごと引き受けるリスクを嫌い、誰も手を挙げませんでした。
財務戦略のキモ: 会社を丸ごと売るのではなく、利益が出ている「特定の店舗・事業」だけを事業譲渡で切り出しました。
結果: 買い手は「負債ゼロ」の優良事業だけを取得でき、売却益は旧法人の債務返済に充当。事業と雇用は100%守られ、オーナー個人の連帯保証についても、法的に整理することで過酷な追及を回避できました。
▶ 詳細:社員をバラバラにしたくないオーナーへ。大逆転の実例
【実例2】バックオフィスを切り離し、現場に専念したケース
高齢のオーナーが、不動産管理業務(バックオフィス)の負担に限界を感じていたケース。会社全体を売ると「引退」しか選択肢がありませんでしたが、オーナーは「現場の営業だけは続けたい」と願っていました。
財務戦略のキモ: 「管理部門」だけを大手企業へ事業譲渡。旧法人はそのまま存続させ、不動産所有権や営業権はオーナーの手元に残しました。
結果: 買い手側は取得した事業価値(のれん)を5年で償却できるため、実質的に株式譲渡よりも高い価格での譲渡が実現。オーナーはバックオフィスのストレスから解放され、現在も存続法人の役員として、資本力を背景に得意の営業に邁進されています。
【小括】なぜ「事業譲渡」を検討のテーブルに乗せるべきなのか
ここまで見てきた通り、事業譲渡は単なる「売却手法の一つ」ではありません。それは、「残すべきもの」を守り、「不要なリスク」を切り離すための高度な戦略的選択です。
✅ 負債・リスクの遮断 株式譲渡では避けられない「目に見えない負債(簿外債務)」を買い手に引き継がせない、クリーンな取引が可能になります。
✅ 手残りの最大化 買い手側の「のれん償却」という節税メリットを正しく譲渡価格に反映させることで、結果としてオーナーの手残りを増やせる可能性があります。
✅ 柔軟な出口戦略 会社を丸ごと売って引退するだけでなく、「一部を売って一部を残す」といった、オーナーの人生設計に合わせた自由な設計が可能です。
仲介会社が「面倒だから」「効率が悪いから」と敬遠する裏側には、これだけのオーナー側のメリットが隠されています。もちろん、税務面や手続きの簡便さで株式譲渡が有利なケースも多々あります。大切なのは、どちらか一方を押し付けられるのではなく、両方のシミュレーションを比較した上で、納得して選択することです。
頭ごなしに「株式譲渡」しか説明しない担当者、本当にその人のことを信じられますか?
理論武装のために、以下は株式譲渡と事業譲渡の違いをまとめています。
ここまで読み進めていて、もっと深く知りたい方は是非ご覧ください。
Appendix:事業譲渡の教科書的な基礎知識
ここからは、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」等に基づいた、制度上の正確な定義と違いを解説します。
1. 事業譲渡の定義と株式譲渡との根本的な違い
事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部、または全部を他の会社に譲渡する手法です。
最大の特徴は、譲渡の対象(資産、負債、契約、従業員)を「個別に選択できる」点にあります。
事業譲渡(参考資料7(5)「事業譲渡契約書サンプル」参照)
譲り渡し側が、譲り受け側に対し、自社の事業を譲渡する手法である。譲渡の対象となる財産(承継対象財産)を選択でき、譲り渡し側の法人格から切り離すことができるため、簿外債務・偶発債務リスクを比較的遮断しやすいが、手続には(土地、建物や機械設備等といった)承継対象財産の特定や、(不動産登記手続等の)対抗要件具備、許認可の取得等の作業が必要になる。
なお、個人事業主の中小 M&A は、事業譲渡(営業譲渡)の手法を用いることが通常である。
2. 制度上のメリット・デメリット(詳細比較)
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、株式譲渡と事業譲渡の性質の違いを明確に定義しています。ここではガイドラインの要点とともに、現場で重要となる実務上のポイントを整理します。
【売り手側の視点】
| 項目 | メリット(利点) | デメリット(懸念点) |
|---|---|---|
| 事業譲渡 | ● 不採算部門の切り離し: 特定部門だけを売却し、本業の立て直しや資金調達が可能です。 ● 法人格の維持: 会社が残るため、社名を残して別事業を継続したり、売却益を新事業の元手にできます。 ● 分散株主への対応: 所在不明株主がいて株式譲渡が困難な場合でも、株主総会の特別決議で実行可能です。 | ● 税負担の複雑性: 譲渡対価は「法人」に入るため法人税がかかり、個人へ移す際にさらに所得税の検討が必要です。 ● 手続きの膨大な工数: 資産の名義変更、取引先との再契約、従業員の転籍同意など、実務負担が重くなります。 |
| 株式譲渡 | ● 手続きの簡便さ: 株式移転のみで完了し、個別の名義変更や許認可の取り直しが原則不要です。 ● 税務上の優位性: 個人オーナーの場合、譲渡益に対して一律20.315%の分離課税で済むため、手残りが計算しやすいのが特徴です。 | ● リスクの丸抱え: 過去の未払残業代や簿外債務など、会社の「負の遺産」もすべて買い手へ引き継がれます。 ● 余剰資産の処分: 買い手が不要な資産(自宅や私用車等)も引き継がれるため、事前の整理が必要です。 |
【買い手側の視点】
| 項目 | メリット(利点) | デメリット(懸念点) |
|---|---|---|
| 事業譲渡 | ● 簿外債務のリスク回避: 必要な資産と負債だけを選別して取得するため、目に見えない借金を引き継ぐリスクを遮断できます。 ● 節税効果(のれん償却): プレミアム分を5年間で損金算入できるため、大きな法人税の圧縮メリットがあります。 | ● 許認可の取り直し: 原則として許認可は承継されず、新規取得が必要です。その間の営業空白期間がリスクとなります。 ● 追加コスト: 不動産の取得税や登録免許税が改めて発生し、資産譲渡に対する消費税の負担も生じます。 |
| 株式譲渡 | ● 事業の即時継続: 会社を丸ごと取得するため、許認可や契約をそのまま維持でき、即座に運営を開始できます。 ● 欠損金の引き継ぎ: 要件を満たせば、対象会社が持っていた「繰越欠損金」を引き継ぎ、将来の税負担を軽減できる場合があります。 | ● 偶発債務への不安: 買収後に発覚する法務・税務トラブルのリスクをすべて背負うことになります。 |
<ご参考>
中小M&Aガイドライン第三版における株式譲渡と事業譲渡の比較についても引用します。
ア 株式譲渡
一般的に「株式譲渡」は、許認可等の再取得や登記手続等が不要で手続が簡便で
あること、株式取得後合併等をした場合において一定の要件を満たしたときは対象企
業の欠損金を引き継ぐことができること等のメリットがある。
他方、デメリットとしては、未払残業代等の簿外債務や賠償義務、不要な余剰資産
の引継ぎリスク等が生じ得る。
なお、株主である経営者個人の税金については、株式譲渡の場合、譲渡益に対す
る分離課税(税率20.315%)で課税関係が終了する。
株式譲渡契約書については、参考資料7(4)「株式譲渡契約書サンプル」を参照さ
れたい。
イ 事業譲渡
「事業譲渡」は、取得する資産・負債の取捨選択により株式譲渡で挙げた簿外債務
等のリスクを限定することができること、所在不明株主の存在や株式の分散等により
株式譲渡の手法で M&A を行うことは困難でも株主総会特別決議の可決承認が可能
な場合には有効な手段であること、資産調整勘定(のれん)が生じた場合には損金算
入することができること等のメリットがある。
他方、デメリットとしては、資産等の個別の移転手続が必要となること、不動産を取
得する場合には不動産取得税・登録免許税が生じること、また、許認可等についても
原則、取り直す必要があること(なお、登録免許税・不動産取得税の特例、許認可承
継の特例は後述する。)等が生じ得る。
また、事業譲渡の場合、減価償却資産等は消費税の課税売上に該当するため、
課税事業者である場合には消費税等の課税関係についても留意が必要である。
なお、株主である経営者個人の税金については、事業譲渡の場合、譲渡対価は法
人に帰属するため、益金に対し法人税等の課税が生じる。その後、株主である経営
者に配当又は役員報酬等で還流をする場合には、総合課税(税率15.105%~55.
945%)の対象となることから、分離課税となる役員退職慰労金の支給と併せて検討
することもあり得る。
事業譲渡契約書については、参考資料7(5)「事業譲渡契約書サンプル」を参照さ
れたい。
【専門家の視点】中小M&Aガイドライン第3版による比較
ガイドライン第3版(118ページ)では、両スキームの違いについて以下のように言及されています。
ア 株式譲渡
一般的に「株式譲渡」は、許認可等の再取得や登記手続等が不要で手続が簡便であること、株式取得後合併等をした場合において一定の要件を満たしたときは対象企業の欠損金を引き継ぐことができること等のメリットがある。
他方、デメリットとしては、未払残業代等の簿外債務や賠償義務、不要な余剰資産の引継ぎリスク等が生じ得る。
なお、株主である経営者個人の税金については、株式譲渡の場合、譲渡益に対する分離課税(税率20.315%)で課税関係が終了する。イ 事業譲渡
「事業譲渡」は、取得する資産・負債の取捨選択により株式譲渡で挙げた簿外債務等のリスクを限定することができること、所在不明株主の存在や株式の分散等により株式譲渡の手法で M&A を行うことは困難でも株主総会特別決議の可決承認が可能な場合には有効な手段であること、資産調整勘定(のれん)が生じた場合には損金算入することができること等のメリットがある。
他方、デメリットとしては、資産等の個別の移転手続が必要となること、不動産を取得する場合には不動産取得税・登録免許税が生じること、また、許認可等についても原則、取り直す必要があること等が生じ得る。
また、事業譲渡の場合、譲渡対価は法人に帰属するため、益金に対し法人税等の課税が生じる。その後、株主である経営者に資金を還流をする場合には、総合課税の対象となることから、分離課税となる役員退職慰労金の支給と併せて検討することもあり得る。
ガイドラインにある通り、事業譲渡では法人から個人へ資金を移す際の税率が課題となります。
しかしここで「役員退職慰労金」を戦略的に組み合わせることで、所得税を抑えつつ法人側でも損金算入し、トータルの手残りを最大化する道が開けます。
こうした「教科書の一歩先」のシミュレーションこそが、出口戦略の成否を分けるのです。
| 比較項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 特定の事業・資産・負債を選択 | 会社丸ごと(全て継承) |
| 売り手の税金 | 法人税(約30〜34%) | 所得税(一律 約20.3%) |
| 買い手の税務 | のれんの5年償却が可能 | 償却メリットは原則なし |
| 負債のリスク | 選別して切り離し可能 | 簿外債務含め全て継承 |
「ガイドラインに基づく比較も基礎知識として重要ですが、2026年現在の税制改正(ミニマムタックスなど)の影響も無視できません。最新の税務リスクについてはこちらの分析をご覧ください。」
→ リンク: 2026年M&Aの罠「ミニマムタックス」で後悔しないために。株式譲渡の税率27.5%から資産を守る3つの実務
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※本記事は2026年1月時点の税制・法令に基づいています。実際の案件検討にあたっては必ず税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
執筆:五十嵐 悠一(日本財務戦略センター 代表取締役)
京都大学経済学部卒業。大手損害保険会社を経て、東証上場M&A仲介会社にて活躍後、日本財務戦略センターを設立。中小企業庁「M&A支援機関」登録。現場主義の財務コンサルタントとして、延べ百社以上の経営改善・事業承継に携わる。
参考文献・出典まとめ
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」: PDF全文(2024年8月改訂) (業務範囲・スキーム策定: p.38 / 定義・比較: p.48,118)
- 自社実例: 「社員をバラバラにしたくないオーナーへ。大逆転の実例」
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