「私が辞めたら、あいつらはどうなるのか」。その問いに、私は「今まで以上の幸せがあるのでは」と、答えたい。
日本財務戦略センター代表の五十嵐悠一です。 これまで多くの経営者様の「去り際」に立ち会ってきましたが、どの方も最後に必ず、最も切実な表情で口にされるのは、譲渡代金のことではありません。
それは「残される社員の雇用と生活」についてでした。
「親代わりのつもりで接してきた」。
そんな大切な社員を、見ず知らずの他社に預けて本当に大丈夫なのか。
その不安こそが、M&Aを躊躇させる最大の要因であるのは間違いないでしょう。
しかし経営者の本当の役割は、会社を「存続させる」こと、そして「社員の未来」に責任を持つことです。
例えば資金繰りの悪化を一人で抱え込み、解決を先送りにすることこそが、実は社員を最も危険な崖っぷちへ立たせている可能性につながります。
現実を見つめ直し経営と従業員の将来を考える必要があるでしょう。
今回ご紹介するのは、「もしあの時動かなければ、バラバラになっていたはずの組織」を救った、兵庫県での真実の物語です。
関西の名門が「地獄」の淵から全員残留を果たした再起劇
関西、都市間エリアでもその名を知られたある建設会社の事例です。
長年、高い施工精度で地域インフラを支えてきましたが、近年の状況はあまりに過酷でした。
大手受注先からの不当な「買い叩き」に加え、コロナ禍による工事中断と資材高騰が追い打ちをかけます。
私たちが相談を受けた当初、60代の社長はまだ多くを語らず余裕すら浮かべる状況でした。しかしそれは最後の虚勢でした。
面談を重ね、再建への道を深く詰めていくにつれ、目を覆いたくなるような壮絶な真実が明らかになっていったのです。
資金繰りに行き詰まっていた社長は、一発逆転を狙い、ある工務店から土地を購入していました。
その工務店にマンション工事を発注し、完成させて転売し、譲渡利益を出す。
実はそれが最後の望みでした。
しかし実はそれは詐欺にあったも同然な状況だったのです。
というのも、工事は途中で放棄され、マンションは未完成のまま放置。引き渡しができなくなったことで、巨額の負債だけが残りました。
この致命的な打撃を隠し、社員に給料を払い続けるためには運転資金が必要です。
社長は不本意ながらも融資を受けるため「粉飾(固定資産の過大評価)」に手を染めていました。
しかしうすうす金融機関も実態を察知したのでしょう。
コロナ融資などを行う代わりに、定期預金を拘束するなどの縛りがかかり、その後、金融機関からは、容赦ない「貸し剥がし」が始まります。
社長は、最後、絞り出すような声で私に言いました。
「五十嵐さん、どうしていいかわからへんねん。でも、何も知らずに働いているあいつら(社員)や取引先に迷惑をかけることが申し訳ないんや」
この時になってようやく、社長は現在の会社の状況を正直に申告してくれたのです。
私は提案しました。「廃業や夜逃げは、社員も社長もご家族を最も不幸にします。今の状況をすべて詳らかにした上で、プロの手を借りた『正しい再生』を選びましょう。貴社の『現場の腕』を必要とするスポンサーを探す。これが、社員と会社を救う唯一の道です」と。
ここから、私と優秀な弁護士チームによる、緻密な救済劇が始まりました。
まず行ったのは、スポンサーとなる受け皿の起業の探索です。
先方には現状の状況を説明し、事業再生を行う前提であれば事業と役職員を引き受ける旨の了解を取り付けました。
その次は「法に則った適切な債務整理」です。金融機関等の債権者に対し、実態を誠実に開示した上で、事業継続を前提とした法的スキームを提示。
差し押さえ等による現場の停止という最悪の事態を回避しました。
同時に、社長が最も心を砕いたのが「長年支えてくれた取引先への信義」でした。
一方的な通知で混乱を招くのではなく、スポンサー企業とともに一社一社に対して最後まで誠実な対話を尽くすことで、サプライチェーンを繋ぎ止め、将来への道筋を整えました。
交渉のテーブルで、社長は魂を削る思いで訴え続けました。
「私はどうなってもいい。しかし、信じてついてきてくれた社員だけは助けてほしい。本人が残留を希望する場合には、役員を含め全員を新会社で受け入れてほしい。これだけは譲れません」
スポンサーも了承し、M&A(事業譲渡)が成約。結果として、残留を希望した役員・従業員は、一人欠けることなく新会社へと引き継がれました。
これは社長が正直に現状を当職に伝えてから3か月程度の出来事です。
成約から1年後。かつての恐怖から解放され、以前と同じ馴染みの仲間たちが誇りを持って腕を振るっています。
驚くべきことに、成約後1年で黒字化したとスポンサー企業からも喜びの連絡が入ってきました。
もともと地力のある会社だったので、一緒に建て直す相手がいたら利益を出すことなど難しいことではなかったのです。
「あの時、一人で悩んでギャンブルに走ったり廃業を選んでいたら、この光景はなかった。あいつらがバラバラにならず、今も同じ現場で笑い合えている。それが私の、最後の仕事だったんだな」
社長が最後に見せた涙は、重責から解放された安堵と、愛する社員を守り抜いた創業者としての誇りに満ちていました。
M&Aは「身売り」ではなく「社員を守るための戦略」
現在、国も「従業員の雇用維持」を最優先事項としています。中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」においても、譲受側(買い手)に対して従業員の処遇や雇用維持への配慮が強く求められています。
参考資料:
※「従業員の雇用維持や処遇への配慮は、円滑な事業承継の鍵である」と明記されています。 中小企業庁:中小M&Aガイドライン(第3版)
また、レコフデータの調査によれば、成約したM&Aの大多数において雇用継続が条件となっており、多くの場合、譲渡後の方が福利厚生や給与体系が改善する傾向にあります。
2026年。M&Aは「会社を救い、人生を守る」ための積極的選択です。
今回ご紹介した兵庫県の事例が教えてくれるのは、「どれほど絶望的な状況であっても、一人で抱え込むのをやめ、正しく専門家を頼れば、必ず道は拓ける」という事実ではないでしょうか。
「『いずれ考えよう』。その先送りが、社員の人生と貴社の価値を、取り返しのつかない形で損なっているかもしれません」
今日知る「現在地」が、明日からの経営の景色を変え、社員を救う唯一の鍵となります。追い込まれた状況でも、相談したことで道が拓けた事例は数多くあります。まずは「社員はどうなるか」を一緒に考える時間だけでも、お気軽にご連絡ください。決算書は必要ありません。
日本財務戦略センターは、そんなオーナー様の「社員への愛」を形にするための、最後にして最強の砦となります。
五十嵐 悠一(日本財務戦略センター 代表取締役)

































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