公開日:2021年9月14日 /最終更新日:2024年7月24日
スモールM&Aの資金調達
M&Aを行う際に問題となってくることの一つに、M&Aを行うための資金調達をどうするか、という点があると思います。
大企業であれば現預金を利用したり、取引先のメインバンクから融資を行えば足りますが、今回は良くお問い合わせがある、小規模事業者やそれに類する個人がM&Aを行う場合について、日本政策金融公庫(以下、公庫)を利用する前提で検討してみたいと思います。
またそれだけの記事だと面白くないので、もう一歩進め、今後M&Aを積極的にやっていきたい個人や小規模法人が初期に法人を新設し、そこで融資を受けることでPEファンドのような動きができないか、という点についても触れていますので、ご興味ある方は最後までお読みいただけたら幸甚です。
日本政策金融公庫とは
ウィキペディアからの引用ですが、日本政策金融公庫は、行政改革の中の政策金融改革の一環として、国民生活に深くかかわる国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行の国際金融等業務の合わせて4つの政策金融機関が統合されて発足した金融機関です。
事業は、国内金融業務として、
国民生活事業(旧国民生活金融公庫) – 国民一般の資金調達支援
中小企業事業(旧中小企業金融公庫) – 中小企業の資金調達支援、信用保険制度
農林水産事業(旧農林漁業金融公庫) – 農林水産事業者の資金調達支援
の三つの事業の柱があり、また
危機対応円滑化業務 – 金融秩序の混乱、大規模な災害等による被害への対処
も担います。
市中銀行は営利法人であることから、市中銀行の業務を圧迫するのではなく、補完する形で事業に取組む方々等を支援する政策金融機関であり、利息や融資承認という点で使いやすい金融機関です。
公庫の融資制度
「国民生活事業」と「中小企業事業」の二つが事業承継というM&Aに活用できる融資制度になっているようです。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/jigyoukeisyou.html
詳細については上記リンクを確認して頂きたいのですが、それぞれ上限(7,200万円、7億2千万円)はあるものの、融資対象として事業承継や経営権の確保(M&A)などを行うための融資と謳っていることから、上記の融資制度を利用していただくことになるでしょう。
公庫のメリット・デメリット
まず公庫自体が事業承継に対して積極的な姿勢であることです。
設立自体が市中銀行で及ばない部分を補完するための、いわゆる政府系金融機関として設立された経緯があり、政府が事業承継を含めたM&Aを促進していることから、公庫自体もM&Aに積極的に取り組んでいます。
数字で見ると、2019年度の事業承継・集約・活性化支援資金の融資件数(国民生活事業)のうち、第三者承継に係る融資707件であり、MAARの記事によると2019年のM&A件数は顕在化されているだけで約4,100件であることから、顕在化していないものも含めるとM&A全体の件数が8,000件、うち6割がスモールM&Aと仮定すると、20%弱くらいのウェイトになりますから、積極的に融資を行っていると言えるのではないでしょうか。
ただしその内訳をみると融資額は500万円以下が60~70%と多く、1000万円以上の融資の割合は20%程度とやや寂しい状況です。
新規創業の場合1,000万円程度の融資が受けられることからもこの点については500万円で足りる案件が持ち込まれているのか、あるいはほかに理由があるのかを検討する必要があると思います。
なお707件のうち2割は民間金融機関との協調融資を行っていることから、上限についてはより多いのかもしれません。
また事業承継を行った法人は5人以下の小規模法人が多いことから、いわゆる会社組織として固まっているような法人でなくとも融資を受けられている、という事はプラスではないでしょうか。
またもう一つのメリットとしては無担保融資が全体の9割を占めていることです。
政府もガイドラインで個人からの連帯保証を取らないようにしていますが、いまだ連帯保証を取ろうとする金融機関が多く、それがネックとなって事業承継が進まないのも現実にあると思います。
公庫の無担保融資を利用することでさらに勝手がよくなるのではないでしょうか。
公庫を使った疑似LBOスキーム?(疑似PEファンド?)
さてここから先はするかどうか、できるかどうかを含めてのM&Aスキームですので、興味本位に読んでいただければと思います。
PEファンドなどがよく行っているスキームにLBOというものがあります。
以下は日本政策投資銀行からの引用になりますが、
LBOとは
LBO(Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)の略)とは、M&Aの形態のひとつで、借入金を活用した企業・事業買収のことを指します。
一定のキャッシュフローを生み出す事業を、借入金を活用して買収するもので、買い手(多くの場合はエクイティを提供するスポンサー)は少ない資金で企業・事業を買収することができます。一般的には、多額の借入金をともなうことから、対象となる事業には安定的なキャッシュフローを生み出すことが求められます。所謂バイアウト・ファンドは、リターンを最大化するために借入金を積極的に活用するため、LBOによるM&Aの中心的なプレーヤーとなっています。
簡単にいうと毎年1千万円(簡略化のため税引き後にします)利益を生む会社があり、この会社が1億円で売られているとします。
また簡略化のため、資産は0と仮定します。
この会社を1億円で買収した場合、毎年のリターンは1億円に対して1,000万円残るので10%です。
まあまあ悪くないですよね。
さてここで自分は1,000万円しか出さず、9,000万円借りてきたとします。
利息は簡便化のために200万とすると、手元に残るのは800万円(1000万円ー200万円)となります。
これだけ見ると一見損したように思われますが、よく考えてみてください。
実際に自分自身が出した資金(エクイティ)は1,000万円だけなので、1,000万円だして800万円のこるのであればなんと80%の利回りになります!
(このほか返済が進んで売却したら利益がさらに出る、などありますが別のページで説明しているのでここでは割愛します)
融資を使って上記のスキームを行うと同じことができますが、今後も売買を進めていくことを考えると、「非公開法人に投資を行う会社」を公庫より融資を受けて創業し、その融資とエクイティを買収資金とすることで実際にPEファンドが行っていることを自分自身の裁量でできるのではないか、という思考実験をしてみたいと思います。
もう少しわかりやすく言うと、1000万円で売られている会社があるとします。
単純に1000万円融資を受けて買収してしまうと、会社を売却する際に個人に資金が入ってきて、税金の関係でやりづらくなってしまいます。
そのため法人を設立し、その法人で1000万円の創業融資を受け、その資金で1000万円で売られている会社を買収します(子会社化)。
そうすることで、買収した会社を成長させ第三者に譲渡した場合はその譲渡益が新設した法人に入ってくるので、次の買収もしやすくなります。
また同時に、融資を受けて買収することで手持ち資金のキャッシュアウトが少なくなることから、資金効率よくM&Aを進めていくことが可能になるのではないでしょうか。
おそらく一般的な金融機関ではM&A自体の融資はあるとは思いますが、実際に融資を申し込むとM&Aの実績を見られてしまうでしょう。
他方、公庫であれば初めてM&Aを行う場合でも融資は受けやすいのではないでしょうか。
その上で、さらに先のことも考えて「非公開企業に投資を行う法人」を新設し、その法人で融資を受けて買収することで、成長の仕方やスピードも変わってくるのでは?という趣旨でした。
ご興味頂いた方は是非お問い合わせください。
M&A仲介については以下のブログも参考にしてください。
「M&A仲介への不信感4選」
仲介かFASか
「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場会社との比較!
M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!
売り手がM&Aを始める前に確認すべき5つのこと
【年倍法】M&Aの「価格」と「価値」の違いとは
「御社を買いたい人がいるから売ってくれと言われているが本当か」問題
M&A仲介会社の「業界最安値」手数料問題とは
仲介会社が入る意味とは
「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」
中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方
コメント