NPO法人のM&Aはできる? 営利法人との違いとM&A

特定非営利活動法人(NPO法人)は、社会貢献を目的とする非営利組織ですが、事業継続や拡大のためにM&A(合併・買収)や事業承継を検討するケースが増えています。
NPO法人は利益を出すことは可能ですが、剰余金を配当として構成員に分配することはできず、給与や報酬の支払いには適正な範囲での制約があります。
本記事では、日本財務戦略センターの視点から、NPO法人のM&Aの可能性、営利法人との違い、株式会社とのM&Aができない理由、事業譲渡の傾向を解説します。

NPO法人はM&Aできるのか?

NPO法人は、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づき設立され、非営利活動を通じて社会課題の解決を目指します。
大前提として、NPO法人同士のM&Aは可能です。
NPO法に基づき、吸収合併(一方が存続し他方が消滅)や新設合併(新たな法人を設立)の形態で合併が行われます。
合併には社員総会の4分の3以上の賛成と所轄庁の認証が必要で、債権者保護手続きも求められます。
一方、株式会社などの営利法人との合併はできません。
その理由は、NPO法人と営利法人の目的やガバナンス構造の違いにあります。
NPO法人は非営利活動を目的とし、出資持分が存在しないため、株式や持分の譲渡を伴う合併が法的に不可能です。

利益の取り扱い

給与・報酬の支払いは可能、配当は禁止

誤解されることが多いのですが、NPO法人は事業継続や活動拡大のために利益を出すことは可能です。
また介護事業や教育プログラムの収益から、役員やスタッフに給与や報酬を支払うこともできます。
ただし報酬は「法人の目的に反しない適正な範囲」に限定され、過剰な報酬は非営利性の観点から問題となる可能性があります(役員報酬は開示されます)。
一方、剰余金を配当として構成員(社員や役員)に分配することは禁止されています。
剰余金は団体の目的達成や事業運営に再投資する必要があります。
この点が、株主への配当を主目的とする株式会社などの営利法人との大きな違いです。

税制優遇と営利法人への転換不可

「認定NPO法人」に認定されたNPO法人は、寄付者に対する税額控除や法人自身の非課税措置などの税制優遇を受けられます(内閣府NPOホームページ)。
この優遇は非営利性を前提としており、NPO法人が株式会社などの営利法人に転換することはできません。
解散時の残余財産は、他の公益法人や国・地方公共団体に帰属する必要があり、営利法人への移転は禁止されています。

NPO法人のM&Aの傾向

NPO法人と株式会社の間で合併ができないことや、営利法人への転換が制限されることから、いわゆるM&Aや事業承継では事業譲渡が比較的多く採用される傾向があります。
事業譲渡とは特定の事業や資産を他のNPO法人や営利法人に譲渡する形式で、非営利性を維持しつつ事業継続を可能にします。
たとえばNPO法人が運営する福祉事業を他の法人に譲渡するなどです。

他に代表変更という方法もあり、理事長のポストを確保する形でM&Aが進められる事例もあります。
この場合、定款に則った総会を開き、社員や理事なども新理事長との関係がある人たちを入れるなども検討する必要があるでしょう。

NPO法人と営利法人の違い:できること・できないこと

以下は、NPO法人と営利法人(例:株式会社)の主な違いを整理した比較表です。

項目
NPO法人
営利法人(株式会社)
利益の追求
事業継続や活動拡大のために利益を出すことは可能。剰余金は団体の目的に再投資。
利益追求が主目的。株主への配当や利益分配が可能。
給与・報酬の支払い
役員やスタッフへの給与・報酬の支払いは可能(適正な範囲に限る)。
役員や従業員への給与・報酬の支払いが可能。金額や形態に制限なし。
配当としての分配
剰余金を配当として構成員(社員や役員)に分配することは禁止。
剰余金を株主への配当として分配可能。
税制優遇
認定NPO法人であれば寄付金の税額控除や非課税措置を受けられる。
一般的に税制優遇はなく、法人税等の納税義務がある。
合併
NPO法人同士の合併は可能(吸収合併・新設合併)。営利法人との合併は不可。
他の株式会社や合同会社など営利法人との合併が可能。
組織転換
営利法人への転換は不可。残余財産は公益目的に帰属。
他の法人形態(例:合同会社)への転換が可能。
事業譲渡
事業譲渡は可能。営利法人への譲渡も可能だが、非営利性の維持が必要。
事業譲渡は自由に行える。
出資持分の譲渡
出資持分が存在しないため、持分の譲渡は不可。
株式や持分の譲渡が可能。
資金調達
借入れ、寄付金、助成金、事業収入による資金調達が主。出資募集は不可。
株式発行や融資、投資家からの出資など多様な資金調達が可能。

 

NPO法人のM&Aにおける課題

NPO法人のM&Aや事業承継には営利法人同様以下の課題があります。

後継者問題:出資持分がないため、事業承継は人的承継(役員やスタッフの交代)に依存し、後継者の確保が難しい。
資金不足:寄付金や事業収入に依存するため、M&Aに必要な資金調達が課題となる。
情報の不足:M&Aの相手先を見つけるたりM&Aを行うためのノウハウの不足により、適切なパートナーとのマッチングが難しい。

この点については営利法人もNPO法人も大きな違いはないと言えるでしょう。

まとめ

NPO法人はM&Aが可能ですが、NPO法人同士に限られ、株式会社などの営利法人との合併はできません。
利益を出し、給与や報酬を支払うことは可能ですが、剰余金を配当として分配することは禁止されています。
税制優遇による制約から営利法人への転換もできず、営利法人とのM&Aや事業承継では事業譲渡や代表変更が主流です。
日本財務戦略センターでは、NPO法人の特性を踏まえたM&Aや事業承継の支援を提供しており、専門家との連携を通じて持続可能な運営をサポートしています。
NPO法人のM&Aに実績がある弊社へ是非お気軽にご相談ください。

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