この記事の要点
<a href="https://jfsc.jp/research/kaigo-shoukei/">介護の引き取り手は、近くにいる|社会福祉法人は87%、会社でも60%が同じ県――合併241件と、承継の規定が無い指定|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「介護の引き取り手は、近くにいる|社会福祉法人は87%、会社でも60%が同じ県――合併241件と、承継の規定が無い指定」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/kaigo-shoukei/介護の会社を買えば介護の事業がまとめて手に入る、という話ではありません。介護保険法第70条は、指定について次のように書いています。
(指定居宅サービス事業者の指定)第七十条 第四十一条第一項本文の指定は、厚生労働省令で定めるところにより、居宅サービス事業を行う者の申請により、居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行う事業所ごとに行う。
介護保険法 第70条第1項
訪問介護をやっている事業所と、通所介護をやっている事業所と、居宅介護支援の事業所は、それぞれ別に指定を受けています。ひとつの法人がいくつもサービスを手がけていれば、その数だけ指定があります。
そして、誰がその事業をやっているかも、サービスによってまるで違います。

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厚生労働省の介護サービス施設・事業所調査(令和6年10月1日現在)で開設主体の構成割合を見ると、特別養護老人ホームは社会福祉法人が95.7%を占めます。介護老人保健施設と介護医療院は医療法人がそれぞれ75.5%と87.8%です。一方、訪問介護は営利法人(会社)が73.2%、訪問入浴介護は77.3%、訪問看護ステーションは66.8%です。同じ居宅サービスでも、通所リハビリテーションは医療法人が79.2%で、営利法人は0.0%でした。
同じ「介護」でも、担い手がまったく違う事業が並んでいる。
許認可のいる事業を合併で引き継ぐとき、許可がどうなるかは、業種の法律ごとに違います。合併では権利義務が包括的に承継されますが、行政庁の処分に基づく地位がそこに含まれるかどうかは、それぞれの法律の書き方によります。
はっきり書いてあるのが医療法人です。厚生労働省は、医療法人の合併についてこう通知しています。
4 権利義務の承継(法第五十八条の五及び第五十九条の三関係)
(1)吸収合併存続医療法人は、吸収合併消滅医療法人の一切の権利義務(病院開設の許可、公租公課の賦課等当該医療法人がその行う事業に関し行政庁の認可その他の処分に基づいて有する権利義務を含む。)を自動的にかつ包括的に承継すること。厚生労働省医政局長「医療法人の合併及び分割について」(平成28年3月25日 医政発0325第5号)
行政庁の側が、病院開設の許可を例に挙げて「自動的にかつ包括的に承継する」と書いています。社会福祉法人についても、社会福祉法第50条第2項が同じ趣旨を定めています。

株式会社の合併の効力を定めた会社法第750条には、行政処分に触れた文言はありません。ただしこれは、承継されないという意味ではありません。会社法は一般法なので、個別の行政上の地位をどう扱うかは、それぞれの行政法規の側の問題になります。実際、当社が条文を確かめた範囲でも、飲食店と自動車整備は譲渡でも当然に承継、建設は事前の認可、宅地建物取引業は合併で免許が消える、と扱いが分かれています。
介護保険法は全414条あります。この全文を検索すると、「承継」という語が出てくるのは第154条だけです。しかもそれは、医療保険者が合併・分割・解散をした場合の納付金の額の特例についての条文で、事業者の指定とは関係がありません。
介護保険法には、指定について合併等による一般的な承継を定めた規定が見当たりません。
ここから「だから介護の指定は引き継げない」と進むのは早すぎます。法律の本文のほかに政令、省令、指定基準、通知、そして自治体の指定事務があり、それらを合わせて実務が成り立っているからです。ここでは、法律に書かれていないという事実だけを置きます。
介護保険法第71条には、病院・診療所・薬局が居宅療養管理指導、訪問看護、訪問リハビリテーションを行う場合に、指定居宅サービス事業者の指定を受けたものとみなす規定があります。これは医療機関等が介護サービスを行うときの話で、事業を引き継ぐときの指定の承継とは別のものです。一度切り分けておきます。
法律を読んだだけの推測ではありません。厚生労働省が規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループに出した資料(令和6年4月26日)に、そのまま書かれています。
○介護・障害福祉分野におけるサービス事業者が合併・事業譲渡等を行う際に必要となる手続は、介護保険法、老人福祉法、障害者総合支援法では規定していない。
(注)介護保険法・老人福祉法・障害者総合支援法においては、合併等に特有の規制・手続は規定しておらず、指定の新規申請のみを求めています。
厚生労働省 社会・援護局、老健局、障害保健福祉部「介護・障害福祉分野におけるサービス事業者の合併、事業譲渡等」(規制改革推進会議 医療・介護ワーキング・グループ 令和6年4月26日)
合併であっても、求められるのは指定の新規申請である、という整理です。
同じ資料には、もうひとつ目を引く記述があります。
○事業者の合併・事業譲渡等は、会社法等に基づく法人同士の個別契約の類型であり、社会福祉法人同士の合併等を除き、個別の法令で認可等に係らしめていないため、その総数及び実態を正確に把握することはできない。
同資料
介護事業の承継が年に何件起きているのか、国の側でも数えられていません。この記事の後半で数えるのは、まさにその部分です。
法律に書かれていないぶん、実務は通知と事務連絡で形づくられてきました。同じ資料に、その経過がまとめられています。

出発点は平成13年3月28日の事務連絡で、A法人がB法人に吸収合併され、合併の日にA法人の事業所をB法人が引き継ぐ場合は、B法人の事業所として新規に指定の申請を行う必要がある、とされました。
そこから簡素化が重ねられます。平成30年3月6日の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料では、法人の吸収合併が行われ、介護事業所の職員に変更がない等、吸収合併の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、自治体へ行う手続きの簡素化や介護報酬上の実績の通算など、柔軟に取り扱うことが可能とされました。
令和2年8月3日の事務連絡では、吸収合併だけでなく吸収分割・新設合併・新設分割にも広げられ、提出すべき書類は旧法人の事業所が指定を受けた際の内容から変更があった部分についてのみ届け出れば足りるとされています。法人格以外に変更がない場合は、法人格が変わったことが分かる登記事項証明書等の提出で差し支えない、とも書かれています。
ここで使われている言葉は「柔軟に取り扱うことが可能」です。どこまで簡素化するかは、指定権者である自治体の判断に委ねられています。
比較のために、薬局を並べます。保険薬局については、2026年9月1日から新しい取扱いが適用されています。開設者が変わる場合に、新しい薬局の保険指定の日を前の薬局の廃止日までさかのぼらせる「遡及指定」について、全国統一の判断基準が示されました。昭和32年から使われてきた通知が、8月31日限りで廃止されています。
その基準では、調剤録の引継ぎ、患者への調剤の継続、管理薬剤師が同一であること、薬剤師の概ね8割以上の継続雇用といった項目が、要件として並べられています。満たせば認める、という形が全国で共通になりました。
介護には、これに当たるものが見当たりません。実質的に継続して運営されると認められる場合は柔軟に取り扱える、という事務連絡までです。
ここまでは主に営利法人の話をしてきました。社会福祉法人は、そもそも仕組みが違います。持分がないので、株式を売るような形で経営権を渡すことができません。取り得るのは合併と事業譲渡です。
そして、合併の相手も限られています。
第四十八条 社会福祉法人は、他の社会福祉法人と合併することができる。
社会福祉法 第48条
社会福祉法人が合併できるのは、社会福祉法人だけです。株式会社と合併することはできません。合併には所轄庁の認可も要ります(同法第50条第3項)。
社会福祉法人のM&Aについては、当社が別に詳しく整理した記事があります。持分がないこと、経営権の売買という形が成り立たないこと、合併と事業譲渡の実務については、そちらをご覧ください。
なお、厚生労働省は社会福祉法人向けに「合併・事業譲渡等マニュアル」(令和6年9月19日改訂版)を出しています。188ページある詳しいものですが、章立ては「社会福祉法人における合併・事業譲渡等」で通っています。少なくともこのマニュアルは、株式会社を対象としたものではありません。
1章で開設主体の構成割合を見ましたが、これは各社が選んだ結果というだけではありません。法律で設置できる者が限られている事業があります。
第十五条3 市町村及び地方独立行政法人は、厚生労働省令の定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て、養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。
4 社会福祉法人は、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて、養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。老人福祉法 第15条
特別養護老人ホームを設置できるのは、市町村や地方独立行政法人と、社会福祉法人です。株式会社が特養を持つことはできません。特養の開設主体の95.7%が社会福祉法人であるのは、こうした制度の結果でもあります。
一方で、有料老人ホームは老人福祉法第29条により、設置しようとする者があらかじめ都道府県知事に届け出る仕組みで、設置主体の制限はありません。訪問介護や通所介護などの居宅サービスにも、法人の種類による制限はありません。
厚生労働省が「総数及び実態を正確に把握することはできない」と書いている部分を、公表されているデータから数えます。
国税庁の法人番号公表データには、法人が合併によって消滅したことと、その事業を承継した法人の番号が記録されています。ここから商号に介護・福祉に関する語を含む会社を抽出したところ、合併で消滅した法人が352、承継先まで判明したものが346ありました。このうち105は、売り手と買い手が同じ住所にあるか商号の語幹を共有していて、同じ法人グループ内の再編と見られるものでした。残る241を第三者への承継として扱います。
この241件を法人の種類で分けると、社会福祉法人から社会福祉法人への承継が172件、株式会社・有限会社から株式会社への承継が65件で、法人の種類をまたいだ組み合わせは一件もありません。
これを「介護では社会福祉法人が社会福祉法人を選んで引き継いでいる」と読むことはできません。社会福祉法第48条により、社会福祉法人は社会福祉法人としか合併できないからです。合併という手段では、法人の種類を越えられません。社会福祉法人の事業が営利法人に渡る場合は事業譲渡になりますが、それは法人番号のデータには記録が残りません。ここで見えているのは合併だけです。

241件について、売り手の本店所在地と承継先の本店所在地を比べました。同じ市区町村にあったのは97件で40.2%、同じ都道府県まで広げると191件で79.3%でした。県をまたいだ承継は20.7%にとどまります。
ただし、この79.3%は法人の種類で割ると姿が変わります。社会福祉法人どうしの172件では同じ都道府県が149件で86.6%、会社どうしの65件では39件で60.0%でした。全体の数字は、件数の多い社会福祉法人に引っ張られています。
会社だけを取り出した60.0%は、当社が別に調べた飲食の61.1%とほぼ同じ水準です。薬局は41.1%でしたので、それよりは県内に寄っています。
承継先が事業を展開している都道府県の数も見ました。中央値は1で、2県以上に事業所を持つ法人は32.5%でした。
全国のチェーンが全国から買い集めている、という姿ではありませんでした。

介護サービス情報公表システムのもとになる事業所の一覧には法人番号が入っているため、法人番号でそのまま突き合わせることができます。承継先については151法人の事業所数を確認できました。中央値は13事業所で、11〜50事業所を持つ法人が44.4%を占めます。定員の合計が取れた133法人では、中央値が189人でした。
売り手については23法人しか確認できませんでした。合併で消滅した法人は事業所の一覧からも消えるためです。参考として示すと、事業所数の中央値は2、定員の中央値は30人でした。23という数は分布を語るには小さいので、傾向として受け取ってください。
第三者への承継241件を合併の年で数えると、2016年16件、2017年26件、2018年16件、2019年20件、2020年24件、2021年20件、2022年25件、2023年31件、2024年22件、2025年28件でした。2026年の13件は年の途中までです。大きく増えているとも減っているとも言いにくい推移です。
介護事業を引き継ぐという話は、外から見れば「介護の会社を買う」の一言です。しかし中を見ると、指定は事業所ごと・サービスの種類ごとに分かれ、誰がその事業をやれるかも法律で分かれ、引き継ぎの手続きは法律ではなく事務連絡の積み重ねで形づくられていました。
薬局では今年9月に、全国で共通の判断基準が示されました。介護は、実質的に継続して運営されると認められる場合は柔軟に取り扱える、というところまでです。柔軟という言葉は、幅があることと、判断する人によって結果が変わりうることの両方を意味します。
その制度の下で実際に起きていたのは、同じ県の中の、より多くの事業所を持つ法人へ引き継がれていく動きでした。会社どうしに限っても、6割は県内です。
指定は事業所ごと、サービスの種類ごとに出ています。引き継ぐ形を決める前に、どの事業所のどの指定を動かすのかを一覧にしておくと、手続きの量が見えてきます。
株式譲渡であれば指定を受けている法人が変わらないため、指定はそのまま続きます。合併や事業譲渡では、指定を受ける法人が変わるため、事業所ごとに新規の申請が必要になります。どこまで簡素化できるかは指定権者である自治体の判断になるので、早い段階で所管の窓口に確認しておくと、日程が組みやすくなります。
当社では介護事業のM&A・事業承継として手順を整理しています。自社の場合にどうなるかを一度整理したいという段階のご相談も、お問い合わせから承っています。
介護の会社を買えば、介護事業をそのまま引き継げますか。
介護保険法第70条により、指定は居宅サービスの種類ごと、かつ事業所ごとに行われます。ひとつの法人が複数のサービスを手がけていれば、その数だけ指定があります。また、誰がその事業をやれるかもサービスで違い、特別養護老人ホームは老人福祉法第15条により市町村・地方独立行政法人・社会福祉法人しか設置できません。「介護事業」をひとまとめに引き継ぐ、という形にはなりません。
合併では、許可や指定は引き継がれないのですか。
合併では権利義務が包括的に承継され、行政庁の処分に基づく地位もそこに含まれるのが原則です。医療法人については、厚生労働省が「病院開設の許可…を自動的にかつ包括的に承継する」と通知しています(平成28年3月25日 医政発0325第5号)。社会福祉法第50条第2項にも同趣旨の定めがあります。株式会社の合併を定めた会社法第750条に行政処分への言及がないのは、会社法が一般法だからで、承継されないという意味ではありません。
介護保険法には、指定の承継について何が書かれていますか。
介護保険法は全414条ありますが、「承継」の語が出てくるのは第154条だけで、それは医療保険者が合併・分割・解散をした場合の納付金の額の特例についての条文です。指定について合併等による一般的な承継を定めた規定は見当たりません。厚生労働省も規制改革推進会議への提出資料で「介護保険法、老人福祉法、障害者総合支援法では規定していない」「指定の新規申請のみを求めています」としています。
では、実務ではどう扱われているのですか。
事務連絡の積み重ねで形づくられてきました。平成13年3月28日の事務連絡では吸収合併でも新規に指定の申請が必要とされ、平成30年3月6日の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料では、職員に変更がない等、合併の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、手続きの簡素化や介護報酬上の実績の通算など柔軟に取り扱うことが可能とされました。令和2年8月3日の事務連絡で分割や新設合併にも広げられています。
薬局とは、どう違いますか。
保険薬局については2026年9月1日から、開設者が変わる場合に保険指定の日をさかのぼらせる遡及指定について、全国統一の判断基準が示されました。介護には、これに当たるものが見当たりません。実質的に継続して運営されると認められる場合は柔軟に取り扱える、という事務連絡までで、どこまで簡素化するかは指定権者である自治体の判断になります。
社会福祉法人の介護事業を、株式会社が引き継ぐことはできますか。
合併という形ではできません。社会福祉法第48条は「社会福祉法人は、他の社会福祉法人と合併することができる」と定めており、株式会社と合併することはできません。事業譲渡という形は取り得ますが、その場合も所轄庁との事前協議が必要になります。社会福祉法人には持分がなく、株式を売るような形で経営権を渡すこともできません。
引き継ぎ先は、近くの法人が多いのですか。
国税庁の法人番号公表データから合併で消滅した介護・福祉関連の法人352を抽出し、承継先が判明した346のうち同一グループ内の再編と見られる105を除いた241件について本店所在地を比べたところ、同じ市区町村が97件(40.2%)、同じ都道府県まで広げると191件(79.3%)でした。県をまたいだ承継は20.7%です。当社が別に調べた薬局では同じ都道府県が41.1%でしたので、介護はかなり地域内で引き継がれていることになります。
<a href="https://jfsc.jp/research/kaigo-shoukei/">介護の引き取り手は、近くにいる|社会福祉法人は87%、会社でも60%が同じ県――合併241件と、承継の規定が無い指定|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「介護の引き取り手は、近くにいる|社会福祉法人は87%、会社でも60%が同じ県――合併241件と、承継の規定が無い指定」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/kaigo-shoukei/同じ方法で、業種ごとに「許可はどうなるか」と「実際にどこへ引き継がれたか」を数えています。