この記事の要点
<a href="https://jfsc.jp/research/takken-shoukei/">事業は残る。免許だけが死ぬ|不動産会社の合併720社と、宅地建物取引業法11条・76条|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「事業は残る。免許だけが死ぬ|不動産会社の合併720社と、宅地建物取引業法11条・76条」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/takken-shoukei/許認可のいる事業を合併で引き継ぐとき、多くの業種では許可も一緒に移ります。ところが宅地建物取引業は違います。
宅地建物取引業法第11条は、廃業等の届出について次のように定めています。
(廃業等の届出)第十一条 宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当することとなつた場合においては、当該各号に掲げる者は、その日(第一号の場合にあつては、その事実を知つた日)から三十日以内に、その旨をその免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
一 宅地建物取引業者が死亡した場合 その相続人
二 法人が合併により消滅した場合 その法人を代表する役員であつた者
三 宅地建物取引業者について破産手続開始の決定があつた場合 その破産管財人
四 法人が合併及び破産手続開始の決定以外の理由により解散した場合 その清算人
五 宅地建物取引業を廃止した場合 (略)
2 前項第三号から第五号までの規定により届出があつたときは、第三条第一項の免許は、その効力を失う。宅地建物取引業法 第11条
第2項が対象にしているのは第3号から第5号までです。第1号の死亡と第2号の合併消滅は入っていません。届出をしたから免許が失効するのではなく、免許を受けた人や法人がいなくなった時点で、免許そのものが存在しなくなるという整理です。
合併で会社が消えれば、その会社の宅建業免許も消えます。
では、合併した相手の会社が抱えていた取引はどうなるのか。ここにも条文があります。
(免許の取消し等に伴う取引の結了)第七十六条 第三条第二項の有効期間が満了したとき、第十一条第二項の規定により免許が効力を失つたとき、又は宅地建物取引業者が第十一条第一項第一号若しくは第二号に該当したとき、(中略)は、当該宅地建物取引業者であつた者又はその一般承継人は、当該宅地建物取引業者が締結した契約に基づく取引を結了する目的の範囲内においては、なお宅地建物取引業者とみなす。
宅地建物取引業法 第76条
合併存続会社は一般承継人にあたります。前の会社が結んだ契約を終わらせるところまでは宅建業者として扱われますが、そこまでです。新しく取引をするには、存続会社自身が免許を持っている必要があります。
営業保証金も同じ扱いです。第30条は、免許が効力を失ったときなどに「宅地建物取引業者であつた者又はその承継人」が営業保証金を取り戻せると定めています。取り戻せるということは、存続会社の側では供託し直すということでもあります。
この扱いが特別なのかどうかは、他の業種の法律と並べてみないと判断できません。同じように許可のいる事業について、合併したときにどうなるかを条文で確かめました。

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飲食店は食品衛生法第56条で、譲渡・相続・合併・分割のいずれでも許可営業者の地位を承継すると定めています。手続きは届出です。旅館とホテルは旅館業法第3条の3により、都道府県知事の承認を受ければ承継できます。運送業は貨物自動車運送事業法第30条で認可が必要ですが、承継はされます。
医療法人については、厚生労働省が通知で「病院開設の許可、公租公課の賦課等当該医療法人がその行う事業に関し行政庁の認可その他の処分に基づいて有する権利義務を含む」ものを「自動的にかつ包括的に承継する」としています。
薬局と介護は、承継についての規定そのものが見当たらないという形です。当社が別に調べています。
宅建業は、承継しないことが条文に書かれている側にあります。
宅地建物取引業法第3条第2項は、免許の有効期間を5年と定めています。更新の申請をしていれば、有効期間が過ぎても処分がなされるまで従前の免許がなお効力を有します(同条第4項)。
免許は5年ごとに更新を重ねていくものなので、最初に免許を受けた日からの年数が、その会社が宅建業を営んできた長さになります。名簿には免許年月日が記録されているので、7章ではそこから年数を計算しています。
国税庁の法人番号公表データには、法人が合併によって消滅したことと、その事業を承継した法人の番号が記録されています。ここから商号に不動産に関する語を含む会社を抽出したところ、合併で消滅した法人が720、承継先まで判明したものが708ありました。

このうち466は、売り手と買い手が同じ住所にあるか商号の語幹を共有していて、同じ企業グループ内の再編と見られるものでした。割合にすると65.8%です。当社がこれまでに同じ方法で数えた11の業種の中で、この比率は最も高いものでした。運送業が61.1%、飲食が58.2%で続きます。
残る242件を、第三者への承継として扱います。
免許が承継されないことと、グループ内再編の比率が高いことの間に、因果があるかどうかまでは分かりません。持株会社への移行や事業の整理など、不動産業に固有の事情も考えられます。ここでは並べて置くにとどめます。

第三者への承継242件について、売り手の本店所在地と承継先の本店所在地を比べました。同じ市区町村にあったのは79件で32.6%、同じ都道府県まで広げると184件で76.0%でした。県をまたいだ承継は24.0%にとどまります。
当社が別に調べた薬局では、第三者への承継450件のうち同じ都道府県だったのは41.1%で、6割近くが県をまたいでいました。介護は79.3%が同じ都道府県です。宅建業は介護に近い形でした。
国土交通省の宅地建物取引業者の名簿には、免許年月日が記録されています。承継先の会社を社名と本店の所在地で突き合わせたところ、101社について免許年月日を確認できました。

免許を取ってからの年数は、中央値が18年でした。平均は21.1年、最も長いもので60年です。30年以上営んでいる会社が25.0%を占めます。
ここで比べる相手が要ります。宅建業者全体ではどうなのか。名簿にある128,731社について同じ計算をすると、中央値は15.6年でした。30年以上は25.1%です。
引き継いだ側の中央値18年に対し、宅建業者全体は15.6年。差は2年あまりです。
会社を引き継ぐ側は長く営んできた会社だろう、という予想は、少なくともこの数字では強く支持されませんでした。宅建業では、それほど年季の入っていない会社も引き継ぐ側に回っています。
売り手についても同じ方法を試しましたが、名簿で確認できたのは9社だけでした。合併で消滅した法人は名簿からも消えるためです。9社では分布を示せないので、ここでは出しません。
この名簿には従業員数・宅地建物取引士の数・資本金の列もありますが、今回は使っていません。133,600行に対して従業員数の値が13種類しかなく、そのうち「2」が54.9%を占めます。宅建士数は「1」が80.4%、資本金は特定の金額が数千件ずつ並んでいます。少数の値が大量に複製されている形で、会社ごとの実数として扱えないと判断しました。免許年月日と免許番号は、分布が自然で全件に入っているため使っています。
第三者への承継242件を合併の年で数えると、2016年20件、2017年27件、2018年16件、2019年14件、2020年24件、2021年25件、2022年28件、2023年21件、2024年27件、2025年23件でした。2026年の13件は年の途中までです。大きく増えているとも減っているとも言いにくい推移です。
宅建業の免許は、会社に付いていて、会社が消えれば一緒に消えます。合併で引き継げるものと引き継げないものがあるという当たり前のことが、条文の中では、第11条第2項が挙げる号の中に第1号と第2号が入っていない、という形で書かれていました。
その制度の下で実際に起きていたのは、合併の3分の2が同じグループの中での再編であり、第三者への承継は4件に3件が同じ県の中で起きている、という姿でした。引き継ぐ側が特別に古い会社というわけでもありませんでした。
免許が移らないのであれば、会社ごと引き継ぐ形、つまり株式の譲渡を選ぶ理由がひとつ増えます。株式譲渡では法人が変わらないので、免許はそのまま続きます。ただし株式譲渡は法人番号のデータには記録が残らないため、今回の数字には入っていません。ここで見えているのは、合併という一つの経路だけです。
ここまでは合併という一つの経路を見てきました。売る側の立場で読むと、最初に分かれ道があります。
会社そのものを残すのか、事業だけを移すのかで、免許の扱いが変わります。今回数えた720社はいずれも合併で、消滅会社の法人格がなくなっています。その会社が宅建業の免許を持っていた場合、免許は残りません。一方、会社を残したまま株式を譲渡する方法では、免許の名宛人である法人が変わらないので、免許はそのまま続きます。
「宅建業を売る」と一口に言っても、何を引き継ぐのかによって、手続きも、必要な時間も、同じではありません。
小さすぎて相手が見つからないのではないか、という心配をよく聞きます。宅建業については、売り手の規模を測れませんでした。名簿で確認できた売り手は9社だけで、規模を示す列も使えなかったためです。
参考になるのは、同じ方法で調べた他の業種です。運送業では、他社へ引き継がれた会社の車両数は中央値20台で、10台以下は25%でした。一方、運送会社全体では10台以下が44%を占めます。介護でも、引き継がれた法人の1事業所だけの割合は30%で、全体の49%より低いものでした。
合併という形で引き継がれた会社は、母集団の中で特別に小さい側ではありませんでした。ただしこれは、小さい会社に相手が見つからないという意味ではありません。規模の小さい会社は、合併ではなく株式譲渡という形を取ることが多いと考えられますが、株式譲渡は法人番号のデータに記録が残らないため、この集計には現れません。ここで見えているのは、合併という経路を通った会社だけです。
自社の場合にどの形が現実的なのかは、免許の扱い、従業員の雇用、取引先との契約、そして相手をどこに求めるかによって変わります。まず、会社を残すのか事業を移すのかを決めるところから整理すると、その後の手続きが見通しやすくなります。
当社では不動産業のM&A・事業承継として手順を整理しています。自社の場合にどうなるかを一度整理したいという段階のご相談も、お問い合わせから承っています。
合併すると、宅建業の免許はどうなりますか。
引き継がれません。宅地建物取引業法第11条第1項第2号は、法人が合併により消滅した場合にその法人を代表する役員であった者が30日以内に届け出ることを定めていますが、同条第2項で免許が効力を失うとされているのは第3号から第5号までです。第1号(死亡)と第2号(合併消滅)は、免許を受けた人や法人が存在しなくなるため、免許そのものが存在しなくなるという整理になります。
合併した相手の会社が抱えていた取引はどうなりますか。
宅地建物取引業法第76条により、合併存続会社(一般承継人)は、前の会社が締結した契約に基づく取引を結了する目的の範囲内においては、なお宅地建物取引業者とみなされます。ただしその範囲までで、新しく取引をするには存続会社自身の免許が必要です。
営業保証金はどうなりますか。
宅地建物取引業法第30条により、免許が効力を失ったときなどには「宅地建物取引業者であつた者又はその承継人」が営業保証金を取り戻すことができます。取り戻せるということは、存続会社の側では改めて供託するか、保証協会の社員として弁済業務保証金分担金を納付する必要があるということでもあります。
株式譲渡なら免許はそのまま続きますか。
株式譲渡では免許の名宛人である法人が変わらないため、免許はそのまま続きます。役員が変わる場合は変更の届出が必要です。なお株式譲渡は法人番号のデータに記録が残らないため、この記事で数えた720社には含まれていません。ここで見えているのは合併という一つの経路だけです。
他の業種では、合併で許可は引き継がれるのですか。
業種によって違います。飲食店は食品衛生法第56条により届出で承継され、旅館・ホテルは旅館業法第3条の3により都道府県知事の承認を受ければ承継されます。運送業は貨物自動車運送事業法第30条で認可が必要ですが承継はされます。医療法人については厚生労働省が「病院開設の許可…を自動的にかつ包括的に承継する」と通知しています。薬局と介護は、承継についての規定そのものが見当たりません。
合併で消えた宅建業の会社は、どこに引き継がれていますか。
国税庁の法人番号公表データから合併で消滅した不動産関連の法人720を抽出し、承継先が判明した708のうち466(65.8%)が同じ企業グループ内の再編と見られるものでした。残る242件について本店所在地を比べると、同じ市区町村が79件(32.6%)、同じ都道府県まで広げると184件(76.0%)でした。
引き継ぐ側は、長く営んでいる会社が多いのですか。
承継先101社の免許年月日を確認したところ、免許を取ってからの年数の中央値は18年でした。一方、宅地建物取引業者の名簿にある128,731社全体では中央値15.6年です。差は2年あまりで、引き継ぐ側が特別に古い会社だという結果にはなりませんでした。
<a href="https://jfsc.jp/research/takken-shoukei/">事業は残る。免許だけが死ぬ|不動産会社の合併720社と、宅地建物取引業法11条・76条|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「事業は残る。免許だけが死ぬ|不動産会社の合併720社と、宅地建物取引業法11条・76条」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/takken-shoukei/同じ方法で、業種ごとに「許可はどうなるか」と「実際にどこへ引き継がれたか」を数えています。