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整備工場を買った68社は、全部ちがう会社だった

買い集める会社がいない業界――合併112社の行き先と、道路運送車両法82条・83条
2026年9月21日 株式会社日本財務戦略センター

この記事の要点

  1. 自動車整備工場は、全国に92,384事業場あります。整備要員は402,025人なので、1事業場あたり4.4人です。
  2. 整備の認証は事業場ごとに出ていて、事業を譲り渡しても、合併でも相続でも当然に引き継がれます。手続きは30日以内の届出だけで、認可も承認も要りません(道路運送車両法82条・83条)。
  3. 合併で消えた整備会社112社のうち、第三者に引き継がれた68件を引き取ったのは68法人でした。同じ会社が2回買った例は1件もありません。
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※ 他機関(官公庁・調査会社など)の公表数値を含む箇所は、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

1 整備工場は、平均4.4人の職場です

日本自動車整備振興会連合会が毎年、自動車特定整備業の実態調査を公表しています。令和6年度の調査(調査時点は令和6年6月30日)から、業界の大きさを見ます。

全国の自動車整備事業場は92,384、うち指定工場が29,932で32.4%、整備要員は402,025人。402,025を92,384で割ると1事業場あたり4.35人
整備工場の平均は、整備要員4人あまりの職場だった

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事業場数は92,384で、前年度から535増えました。3年続けて増えています。そのうち指定工場、いわゆる民間車検場は29,932で、全体の32.4%です。こちらは158減りました。

整備要員は402,025人です。事業場の数で割ると、1事業場あたり4.35人になります。整備関係の従業員まで広げても562,869人で、6.09人です。

整備工場の平均は、整備要員4人あまりの職場でした。

総整備売上高は6兆2,561億円で、事業場の数で割ると1事業場あたり約6,772万円です。業態別では専業2兆2,483億円、兼業7,716億円、ディーラー2兆9,743億円、自家2,619億円でした。

この調査は、道路運送車両法に規定する自動車整備事業者のうち2割を対象に行われ、有効回答率は40%です。事業場数と指定工場数は全数の値ですが、売上や人員は調査に基づく推計です。

2 認証は、事業場に付いています

整備工場を誰かに引き継ぐとき、認証がどうなるのか。条文から確かめます。

第七十八条 自動車特定整備事業を経営しようとする者は、自動車特定整備事業の種類及び特定整備を行う事業場ごとに、地方運輸局長の認証を受けなければならない。

道路運送車両法 第78条第1項

認証は、会社に対してではなく、事業場ごとに出されます。そして認証の基準は、こうなっています。

一 当該事業場の設備及び従業員が、国土交通省令で定める基準に適合するものであること。

道路運送車両法 第80条第1項第1号

設備と従業員です。場所と人に紐づいた認証だということになります。

3 譲っても、合併でも、相続でも引き継がれます

第八十二条 自動車特定整備事業者について相続、合併又は分割(中略)があつたときは、相続人(中略)、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人又は分割により自動車特定整備事業を承継した法人は、自動車特定整備事業者のこの法律の規定による地位を承継する
2 前項の規定により自動車特定整備事業者の地位を承継した者は、その事由の生じた日から三十日以内にその旨を地方運輸局長に届け出なければならない。

道路運送車両法 第82条

第八十三条 自動車特定整備事業者が自動車特定整備事業を譲渡したときは、譲受人は、譲渡人のこの法律の規定による地位を承継する
2 前条第二項の規定は、前項の場合に準用する。

道路運送車両法 第83条

認可も承認も要りません。届出は30日以内です。

許可や認証のいる業種の中では、軽いほうです。他の業種と並べます。

合併や譲渡のときに許可がどうなるかを8業種で比べた表。自動車整備は道路運送車両法82条83条で譲渡でも当然に承継し30日以内に届出、飲食は食品衛生法56条で譲渡でも当然に承継、旅館ホテルは承認、運送は認可、建設は事前の認可、医療法人は自動的かつ包括的に承継、薬局と介護は規定が見当たらない、宅地建物取引業は承継せず免許が失効する
整備は、譲っても当然に引き継がれる側にある

事業の譲渡でも当然に承継されるのは、今回条文で確かめた範囲では自動車整備と飲食(食品衛生法56条)でした。飲食の届出期限は「遅滞なく」で、日数が書かれていません。整備は30日以内と決まっています。

旅館とホテルは旅館業法3条の3で承認、運送は貨物自動車運送事業法30条で認可、建設は建設業法17条の2で事前の認可が要ります。宅地建物取引業では、合併で法人が消えれば免許も消えます。

4 ただし、民間車検場の指定には規定が見当たりません

整備工場のうち32.4%は指定自動車整備事業者、いわゆる民間車検場です。この指定は、認証とは別の条文で定められています。

第九十四条の二 地方運輸局長は、自動車特定整備事業者の申請により、自動車特定整備事業の認証を受けた事業場であつて、(中略)国土交通省令で定める基準に適合する自動車の検査の設備を有し、かつ、確実に(中略)自動車検査員を選任して(中略)検査をさせると認められるものについて、指定自動車整備事業の指定をすることができる

道路運送車両法 第94条の2第1項

同条2項では、認証の第78条2項から4項と、第80条1項の欠格要件の一部が準用されています。しかし、先ほどの第82条・第83条にあたる承継の規定は、指定については見当たりません。指定自動車整備事業者に準用する規定を並べた第94条の9も、挙げているのは第81条(変更と廃止の届出)と第89条で、第82条と第83条は入っていません。

82条と83条が承継すると書いているのは「自動車特定整備事業者の地位」であって、「指定自動車整備事業者の地位」ではありません。

認証の承継は条文に書いてある。指定の承継は、書いてある場所が見つからない。

当社が別に調べた薬局と介護でも、同じことが起きていました。薬機法の薬局の章にも、介護保険法にも、承継の規定がありません。指定や許可が引き継がれるかどうかは、条文だけを読んでも決められない領域があります。実際にどう扱われるかは、事業場を管轄する運輸支局に確かめることになります。

5 合併で消えた整備会社を数えました

国税庁の法人番号公表データには、法人が合併によって消滅したことと、その事業を承継した法人の番号が記録されています。商号に整備に関する語を含む会社を抽出したところ、合併で消滅した法人が112、承継先まで判明したものが111ありました。

合併で消えた整備関連の法人112のうち承継先が判明した111件の内訳。グループ内の再編が43件38.7%、第三者への承継が68件61.3%
合併の4割は、同じ企業グループの中での再編だった

このうち43は、売り手と買い手が同じ住所にあるか商号の語幹を共有していて、同じ企業グループ内の再編と見られるものでした。割合にすると38.7%です。残る68件を第三者への承継として扱います。

抽出には商号の語を使っています。「モータース」で自動車教習所(モータースクール)が4件混じっていたので、これは除いて集計しました。

6 68件を引き取ったのは、68の会社でした

1回しか登場しない買い手の割合。自動車整備は68件を68法人が引き取り100%、宅建97.0%、飲食96.6%、建設95.4%、介護94.1%
68件を引き取ったのは、68の会社だった

68件を引き取った法人の数を数えると、68でした。同じ会社が2回登場した例は1件もありません。

当社が同じ方法で調べた他の業種では、1回しか登場しない買い手の割合は宅建97.0%、飲食96.6%、建設95.4%、介護94.1%でした。整備は100%です。

整備工場を買い集めている会社は、いませんでした。

引き取った側の商号に整備を示す語が入っていたのは4件、5.9%だけでした。残りを見ると、自動車販売やディーラー、タクシー・運送、石油や商事といった商号が目立ちます。ただし商号から業種は確定できないので、ここは目安にとどめます。

7 引き取り手は、同じ県の中にいました

第三者へ承継された68件のうち、同じ市区町村の法人が24件35.3%、同じ都道府県が55件80.9%、県をまたいだ法人が13件19.1%という棒グラフ
引き取り手は、同じ県の中にいた

68件について、売り手の本店所在地と承継先の本店所在地を比べました。同じ市区町村にあったのは24件で35.3%、同じ都道府県まで広げると55件で80.9%です。県をまたいだ承継は19.1%でした。

他の業種と比べると、同じ都道府県だった割合は建設79.4%、介護79.3%、宅建76.0%、飲食61.1%、薬局41.1%です。整備の80.9%は、その中で最も高い数字でした。

ただし68件という数は多くないので、1〜2件の違いで数字が動く点には注意が要ります。

8 調べてみて

整備工場は平均4.4人の職場で、その認証は、譲っても合併でも相続でも引き継がれます。制度の側から見れば、渡すときの障害が少ない業種のひとつです。

実際に起きていたのは、68件の承継を68の別々の会社が引き取るという動きでした。整備工場を買い集めている会社は、この記録の中にはいません。

数えられたのは合併だけです。会社ごと株式を譲る形や、事業場を個別に譲る形は法人番号のデータに記録が残りません。その数は、外からは見えません。

9 自社の工場を引き継ぐなら

引き継ぎ方は3つに分かれます。会社ごと株式を譲るなら、認証の名義人である法人が変わらないので、そのまま続きます。事業を譲渡する場合も、道路運送車両法83条により認証は承継され、30日以内に届け出ることになります。相続と合併も82条で同じ扱いです。

確かめておく点が3つあります。ひとつは指定自動車整備事業の指定で、承継の規定が条文に見当たらないため、民間車検場をやっている工場では運輸支局への確認が要ります。

もうひとつは、認証の基準が設備と従業員に置かれていることです(80条1項1号)。引き継いだ後も基準を満たしている必要があるので、整備士が何人残るかは早い段階の論点になります。整備士保有率は業界全体で82.8%、平成20年度の87.2%から下がり続けています。

3つめは、廃止の届出を出すと認証が失効することです(84条)。畳むと決めて届け出た後では、認証は残りません。

当社では自動車整備業のM&A・事業承継として手順を整理しています。自社の場合にどうなるかを一度整理したいという段階のご相談も、お問い合わせから承っています。

よくある質問

整備工場を譲渡すると、認証はどうなりますか。

道路運送車両法第83条により、自動車特定整備事業を譲渡したときは、譲受人が譲渡人の地位を承継します。認可も承認も要りません。第82条2項が準用されるので、その事由が生じた日から30日以内に地方運輸局長へ届け出ることになります。相続・合併・分割の場合は第82条で同じ扱いです。

民間車検場の指定も、一緒に引き継げますか。

指定自動車整備事業の指定については、承継の規定が条文に見当たりません。第82条・第83条が承継すると定めているのは「自動車特定整備事業者の地位」で、指定は第94条の2という別の条文で、認証を受けた事業場について地方運輸局長が行うものとされています。準用規定の第94条の9にも、第82条・第83条は挙げられていません。実際の扱いは管轄の運輸支局に確認することになります。

認証は会社に出ているのですか、工場に出ているのですか。

第78条1項により、認証は事業の種類および特定整備を行う事業場ごとに受けるものとされています。認証の基準も、第80条1項1号で「当該事業場の設備及び従業員」が国土交通省令の基準に適合することとされており、設備と人に紐づいた仕組みになっています。

整備工場は全国にどれくらいありますか。

日本自動車整備振興会連合会の令和6年度調査(調査時点は令和6年6月30日)で、事業場数は92,384、そのうち指定工場が29,932で全体の32.4%です。整備要員は402,025人なので、1事業場あたり4.35人になります。整備関係の従業員まで含めると562,869人で6.09人です。

合併で消えた整備会社は、どこに引き継がれていますか。

国税庁の法人番号公表データから合併で消滅した整備関連の法人112を抽出したところ、承継先が判明した111のうち43(38.7%)が同じ企業グループ内の再編と見られるものでした。残る68件について本店所在地を比べると、同じ市区町村が24件(35.3%)、同じ都道府県まで広げると55件(80.9%)で、県をまたいだ承継は19.1%でした。

引き取っているのは、どんな会社ですか。

68件を引き取ったのは68法人で、同じ会社が2回登場した例はありませんでした。買い集めている会社は、この記録の中にはいません。商号に整備を示す語が入っていたのは4件、5.9%だけで、自動車販売やディーラー、タクシー・運送、石油や商事といった商号が目立ちます。ただし商号から業種は確定できないので目安です。

引き継ぐときに確かめておくことはありますか。

認証の基準が設備と従業員に置かれているため、引き継いだ後も基準を満たす必要があります。整備士が何人残るかは早い段階の論点になります。整備士保有率は業界全体で82.8%で、平成20年度の87.2%から下がり続けています。また廃業の届出を出すと認証は効力を失うので(第84条)、届け出た後では認証は残りません。

この集計に含まれていないものはありますか。

合併だけです。会社ごと株式を譲る形や、事業場を個別に譲る形は法人番号のデータに記録が残らないため含まれていません。また母集団は商号に整備に関する語を含む法人で、「モータース」で自動車教習所が4件混じっていたため、これは除いて集計しました。

参照した資料

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この調査の設計・分析・執筆

五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)

株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科卒業。損害保険ジャパンを経て、東証上場のM&A仲介会社で中小企業の譲渡案件に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。日本CFO協会認定 プロフェッショナルCFO M&Aエキスパート、中小企業庁 M&A支援機関登録事業者、一般社団法人M&A支援機関協会 正会員、中小M&Aガイドライン第3版 遵守宣言済。

本調査では、建設業法をはじめとする各業法の条文の読み取り、国土交通省の建設業許可業者数調査の集計、法人番号公表データの抽出設計、および原稿を担当しました。同じ方法による調査に飲食の承継の調査宅建業の承継の調査があります。

株式会社日本財務戦略センター 〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町1-1-8 神山ビル3A

この調査は、6業種の1本です

同じ方法で、業種ごとに「許可はどうなるか」と「実際にどこへ引き継がれたか」を数えています。