「会社を売りたい」
その決断を誰にも知られたくないと願う経営者は少なくない、というより一般的には当たり前でしょう。。
会社を売却していることが知られたら取引先が離れる可能性がありますし、従業員が動揺し、競合がつけこむ可能性が高まるからです。
M&Aの交渉が漏れれば、一瞬で企業価値が崩れるリスクがあります。
そこで欠かせないツールとして活用されているのが、ノンネームシートです。
ノンネームシートの役割
ノンネームシートとは、
「企業名を伏せ、概要だけを伝える」ことで、買い手の興味を引く最初の資料です。
・業種・事業内容
・売上・利益のトレンド
・店舗展開や独自の強み
・売却希望価格の目安
これらを抽象的にまとめ、特定を防ぎがながら興味を持ってもらうという、なかなか塩梅が難しい存在でもあります。
買い手を探すため、秘密保持契約(NDA)締結前の「安全な打診」を目的としています。
興味を引くことと特定されないこと、この相反する2つの要件を両立させるのが、M&A仲介の妙技と言ってもいいのではないでしょうか(他にもいろいろありますが)。
2025年9月――「特定されるノンネームシート」がまさかのブログコメント欄に
飲食関連ブログのコメント欄に、M&A仲介会社がノンネームシートのGoogle Driveリンクを投稿。アクセス制限なし
「特定のメニューに特化した専門店」「メディア露出多数」「フランチャイズ展開」と、直近3年の売上・経費・営業利益を詳細に記載して投稿しました。
Googleで検索すれば、数分で企業名が特定できる内容を不特定多数の人(買い手ですらない)がみられる状況になってしまったわけです。
なぜこんなことが起きたのか
問題の本質:2つの「理解不足」
この事件は、単なるミスと一笑に付すわけにもいかず、構造的な問題と考えるべきでしょう。
一言で言えば、M&A仲介の根本的なスキル不足が露呈したのです。
① 買い手ソーシングの「数撃ちゃ当たる」思考
M&A仲介は「相性の良い買い手」を丁寧に探すビジネスであると言えるかもしれません。
しかしこの担当者は「大量リストに一斉送信すれば、誰か食いつくはず」というテレアポ営業の感覚で動いていたのでしょう。
確かに母数が増えればその分マッチングが確率論的には上がりますが、情報漏洩リスクも線形に増加します。
「誰に」「どこに」送るかの精査を放棄した結果、機密情報が公衆の面前に晒されてしまった。
言い換えれば自分が楽をするために売り手を危険にさらしたと断じざるを得ないでしょう。
② ノンネームシートの「役割」を理解していない
「興味を引くため」に、具体的なメニュー名、メディア露出、詳細な財務数値を盛り込む。
――これが最大の誤りです。
ノンネームシートは、「特定されないこと」を最優先に設計されるべきものです。
「この会社、気になる」と思わせるのは、初期的には抽象的な魅力で十分なのです。
情報を盛れば盛るほど、特定リスクが高まってしまいます。
ましてやオリジナリティを大々的に打ち出してしまえばなおさら特定される可能性が高まります。
そのバランス感覚が、完全に欠落していたのです。
専門家の警鐘
M&Aに詳しい Blue Works Law の土取義朗弁護士はこう指摘します。
「ノンネームシートは特定されないことが大前提。
興味を引くために情報を盛りすぎれば、売主の信頼を裏切ることになる。
公開された情報が拡散されれば、取り返しのつかない風評被害を生む」
まさにその通りでしょう。
なお当該仲介について、どこの仲介か伝手で把握したのですが、買い手からも評判が悪く新卒が無茶苦茶な条件を言ってくるとのことで、売り手の情報は漏洩するわ、買い手には無茶苦茶いうわで仲介業務が成立するのかという疑問が湧いてやまないのですが、本当、この業界、色々な会社がありますね…。
最後に
M&Aは、売主の人生を預かる仕事です。
「数撃ちゃ当たる」は一見近道に見えますが、その雑な対応では絶対に成立しないと言っても過言ではないでしょう。
ノンネームシートは、「興味を引く」と「秘密を守る」の、絶妙なバランスの上に成り立つ資料です。
あなたの会社が、「やっつけ営業」の犠牲にならないようプロの目利きを持つ仲介を選んでください。
万一のトラブル時:苦情申し立ての窓口
M&A支援機関が中小企業庁に登録されている場合、不適切な対応に不満があるときは、中小企業庁の相談窓口へご連絡ください。
登録機関は、相談を制限する秘密保持条項を設けても、中小企業庁への相談を妨げてはならないことになっています。
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