大手上場M&A仲介企業敗訴! 競業避止義務から何が見えるのか:M&A仲介の光と影
M&Aキャピタルパートナーズ((MACP)は着実な実績やM&A仲介上場大手4社として日本を代表するM&A仲介会社と知られており、また華やかな高年収と厳格な社内統制も併せて知られています。
平均年収3000万円超、30代前半で2000万円、部長職なら4000万円超とも言われる当該企業は、若手ビジネスパーソンにとって「一攫千金の舞台」として今でも魅力的ですし志望している人が多いのも頷けます。
しかし、今回、当該企業はダイヤモンド社の記事で元社員の独立を巡る泥沼の訴訟や探偵による監視などが描かれ、ダークな一面も露呈してしまいいました。
2025年5月の東京地裁判決で、当該企業が元社員に課した競業避止義務が無効とされ、約3億円の損害賠償請求が棄却された事件は、業界に衝撃を与えています。
今回のブログでは、日本財務戦略センターの視点から、当該企業の概要と敗訴に至る経緯を物語りつつ、無理な競業避止義務がもたらすレピュテーションリスクを教訓として紐解きます。

高年収と厳格な統制:当該企業の二つの顔
当該企業は2005年に設立された、東京証券取引所プライム市場に上場するM&A仲介の大手です。
2024年9月時点の有価証券報告書によると、従業員数は約250人で、全国の中小企業オーナーに事業承継や成長戦略を提案し、M&A成約件数で国内トップクラスを誇る代表的な企業と言って差し支えないでしょう。
公式サイトでは「顧客第一」を掲げ、専門知識と交渉力を武器に、M&Aのプロフェッショナル集団をアピールしています。
そして実績からみたらそのアピールは、そん色ないものと思われます。
ただ、ネット上の社員口コミやXの投稿からは、当該企業の魅力と課題が浮かび上がります。
まず従業員にとって最大の魅力は高年収ではないでしょうか。
2023年の有価証券報告書で平均年収が約3040万円と公表され、口コミでは「20代後半で1500万円」「30代前半で2000万円、部長職なら4000万円超」との声があります。
「同年代の10倍稼げる」「実力次第で億超えも可能」と、成果主義の環境が評価されています。
また企業文化として「若手に裁量を与える」「M&Aの専門性を磨ける」とのポジティブな声も目立ちます。
ある社員は「顧客との信頼構築を通じて成長を実感できる」と語り、Xでも「業界で即戦力になれるスキルが身につく」と評価されています。
一方で過酷な労働環境も指摘されています。
口コミでは「深夜までの長時間労働」「高圧的な営業ノルマ」「上司の厳しい管理」が常態化し、「ワークライフバランスはほぼない」との不満が散見されます。
Xでも「高年収は命を削る代償」と呟かれ、厳しい環境が話題になっています。
さらに当該企業の統制は異例の厳しさです。
報道によれば、賞与の一部を「繰り延べ支給」とし、退職時に条件を満たさないと没収する制度を導入しているとのことです。
元社員の動向を監視するため、探偵によるGPS追跡やSNSチェックまで行っていました(現職に対しても動向を監視しているのでGPS追跡を行っているという話はありますが、反面、しっかり管理出来ているともいえると思います)。
この「高年収と引き換えの束縛」が、当該企業の企業文化の一端と指摘されているのかもしれません。
また過度な拘束とインセンティブがいわゆる迷惑電話や迷惑メールにつながっている側面もあるのでしょう。
この辺の事情はM&A仲介業界に関する弊コラムもご参考にしてください。
独立志向と競業避止義務の誓約書
M&A仲介は顧客との信頼関係と専門知識が鍵です。
口コミをみると「3~5年でノウハウを学び、独立を目指す人が多い」「顧客のコネクションを活かして起業するのが夢」との声があり、実際元社員が顧客と信頼関係を築いたうえでノウハウを獲得したうえで独立して設立したM&Aブティックが多数存在します。
SNS上でも当該企業関係者から「業界で即戦力になれる」と自画自賛される一方、「独立を許さない会社の方針が問題」との指摘があります。
M&A仲介に限りませんが、起業する際に資本がいらない業界あるあるなのですが、この独立の動きを抑えるため、当該企業は全社員に入社時に競業避止義務の誓約書を課していたようです。
この誓約書は退職後一定期間、M&A仲介業全般への転職や同業での開業を全国規模で禁止し、違反時には数千万円から数億円の損害賠償を請求する内容のようです。
M&A業界では売り手に対して競業避止義務の文言を入れた株式譲渡契約書を交わすことは一般的ですが、当該企業の誓約書は自分の元社員に対して「範囲が広すぎる」「対価がない」と問題視され、訴訟の火種となってしまったようです。
具体例として、元社員の移動を追跡し、顧客との会食場所や時間を記録。
元社員が新会社のセミナーを告知すると、探偵が会場に潜入し、参加者や内容を確認したとのことです。
さらに、LinkedInやXの投稿をチェックし、競合企業との接触を洗い出していましたとのこと。
現社員には「元社員の不正を報告せよ」との圧力がかかり、賞与に「忠誠」の条件が含まれていたとも報じられています。
この監視は法的・倫理的に問題視されています。
民法第709条や個人情報保護法では、過度なプライバシー侵害は違法で、過去の判例でも過剰な尾行が問題になっているものもあります。
当該企業のGPS追跡はグレーゾーンで、Xでは「スパイ映画のよう」「ブラック企業の極み」(2025年9月)と批判が殺到しました。口コミでも「退職後も監視される恐怖」との声があり、企業イメージに暗い影を落としています。
なんなら印象が悪いので、出た後の社員を締めるより、なるべく企業内に留まる方に力を注いだ方がポジティブだったのではないか、という印象を受けました。
高額訴訟と敗訴の波紋
2022年、当該企業は独立した元社員数名とその新会社に対し、競業避止義務違反や不正競争防止法違反(顧客情報持ち出しの疑い)を理由に、東京地裁へ約3億円の損害賠償を求める訴訟を提起したとのことです。
訴状では、元社員が顧客リストやノウハウを持ち出し、競合事業を開始したと主張し、探偵からの証拠である顧客接触記録を提出しました。
しかし2025年5月の判決は当該企業の敗訴になったようです。
東京地裁は誓約書を「公序良俗違反」(民法第90条)で無効とし、請求を全棄却しました。
敗訴の理由は、誓約書の過度な制限にありました。
M&A仲介業全般を全国規模で禁止し、期間も不明確で、役職員だった社員以外にも適用するのは職業選択の自由を侵害します。
対価の提供もなく、合理的必要性を欠くと判断されましたようです。
情報持ち出しの証拠も不十分で、探偵の監視は「行き過ぎ」として心証を悪化させた可能性があります。
教訓:無理な競業避止義務はレピュテーションリスク
当該企業の訴訟は、高年収の裏に潜む過剰な統制のリスクを浮き彫りにしました。
過剰な競業避止義務は、法的無効のリスクだけでなく、企業イメージを大きく損ないます。
Xや口コミで批判が広がり、優秀な人材の採用や定着に悪影響を及ぼす恐れがあります。
M&A業界に関わらず、退職後の競業避止義務は機密保護に必要ですが、過度な縛りは逆効果です。
もちろん顧客リストの持ち出しなどは契約以前に人間としてどうなんだ、という気はしますが、範囲を広げすぎてしまったことで、敗訴につながってしまったのではないでしょうか。
個人的にはそれらの業界の悪習が広い競業避止義務によって論点が薄まってしまったことが残念だなと思いますし、辞めた後を補足するよりは、辞めないようリテンション率を高める方が効率的な動きができるのではないかと思います。
部長職など役職者以上の縛りや、在籍者に対するストックオプションなどの縛りがあれば、また変わっていたのではないでしょうか。
日本財務戦略センターとして、M&A企業に勧めたいのは、社員のキャリアと企業保護のバランスです。
過度な縛りは訴訟敗北や人材流出を招き、レピュテーションリスクを高めます。
適法な誓約書設計と信頼に基づく企業文化が、持続的な成長の鍵です。
詳細なご相談は当センターサイトまでご連絡ください。

































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