テール条項の落とし穴:中小企業庁の警鐘と驚くべき実例
テール条項(Tail Provision)は、M&A(企業の合併・買収)における仲介契約やファイナンシャル・アドバイザリー(FA)契約において、契約終了後一定期間内にM&Aが成立した場合、仲介会社やFAに対して成功報酬を支払う義務を定める条項です。
この仕組みは自体は、仲介会社が紹介した買い手候補とのM&Aが契約終了後に別のルートで成立した場合、仲介会社が報酬を得られない不公平を防ぐために設けられるもので、一般的なものです。
しかし不透明な契約内容や過度な適用範囲により、特にM&Aが初めての中小企業の売り手側にとっては、予期せぬ手数料負担やトラブルを引き起こすケースが問題視されています。
中小企業庁は、2024年8月改訂の「中小M&Aガイドライン(第3版)」を通じて、テール条項の透明性と公平性を確保するための指導を強化しています。
本ブログでは「こんなケースまで対象になるのか!」と驚く実例を紹介し、トラブル時の連絡先や対策を解説します。
中小企業庁のテール条項に関する警鐘
中小企業庁は、テール条項が中小企業にとってリスク要因とならないよう、以下の点で注意喚起を行っています。
過度に長いテール期間
テール期間が長すぎると、売り手側が新たなM&Aを進める際に、過去の仲介会社への手数料支払いを懸念して行動が制限されます。
中小企業庁は、テール期間を通常2~3年以内(弊社は2年)に設定するようガイドラインで指摘しています。
従ってそれ以上の長期設定は不公平とみなされる可能性があるでしょう。
対象範囲の曖昧さ
テール条項の対象となる買い手候補が不明確な場合、売り手側が意図せず広範な企業とのM&Aで手数料を請求されるリスクがあります。
中小企業庁は、対象を「仲介会社が企業名を明示的に開示し、具体的な交渉(例:企業概要書の送付や面談)を行った買い手候補」に限定すべきとガイドラインで記載しています。
ノンネームシートや業界全体のリストは対象外とするべきです。
契約の不透明性
テール条項が契約書に分かりづらく記載されていたり、説明が不十分だったりして、売り手がその影響を理解しないまま契約を結ぶトラブルが多発しています。
中小企業庁は、仲介会社に対し、契約締結前にテール条項の詳細(期間、対象、手数料算定基準)を書面(契約書のみならず重要事項説明書)で明確に説明する義務を課しています。
不適切な手数料請求
一部の仲介会社が、テール条項を悪用して実質的に関与していないM&Aにも手数料を請求する事例が報告されています。
中小企業庁は、手数料請求には仲介会社が「具体的なマッチング支援」(例:交渉の仲介、企業概要書の提供)を行うことが必要とガイドライン中で強調しています。
専任条項との組み合わせ
テール条項が専任条項(特定の仲介会社に独占的にM&Aを委託する条項)と組み合わさると、売り手の自由度が大きく制限されます。
驚くべき実例:こんなケースもテール条項の対象に?
「こんなケースまで手数料を請求されるのか!」というテール条項が悪用された事例をご紹介しましょう。
これらは中小企業がテール条項のリスクを理解する上で重要な教訓を提供します。
事例1:地元スーパーの事業承継でノンネームシートが原因に
東北地方の地域密着のスーパーマーケットは、事業承継を目的にM&A仲介会社と契約。
買い手候補を数社紹介されたが条件が合わず、1年で契約終了。
その後、独自に地元の同業者と交渉し、M&Aを成立させました。
しかし契約終了から1年半後、仲介会社から「テール条項に基づき成功報酬2500万円を請求」と通知が。
驚くことに、仲介会社が過去に提示したノンネームシートを送った先に成立した相手企業が含まれており、「紹介した買い手候補」と主張されました。
スーパー側は仲介会社レベルではあくまでも匿名で初期的に打診していただけであり、候補先は独自に探して交渉したと反論したが、契約書に「ノンネームシート送付先企業も対象」と記載されていたため、訴訟リスクを避け費用を支払い和解。
事例2:医療クリニックの後継者問題で想定外の請求
関東の個人経営クリニックが後継者不在のためM&A仲介会社と契約。
交渉候補先として医療法人リストを提示されたが、もともとの条件が合わず契約終了。
その後、院長が医師会の会合で知り合った医療法人とM&Aを成立。
しかし仲介会社から「その医療法人は当社が提示したロングリストに含まれる」と、テール条項に基づく1500万円の請求が。
確かに当初提示されたロングリストにはその医療法人が入っていたものの、単にリストが出回っている医療法人が網羅的にリストアップされているだけで具体的な交渉は一切なかった。
最終的に費用を支払い和解。
トラブル発生時の連絡先
テール条項に関するトラブルが発生した場合、以下の機関へ相談することで動きがあるかもしれません。
M&A支援機関登録制度
実質的に中小企業庁と連携しており、不適切なM&A仲介会社で本機関に登録している企業に対して取り消し処分などを行い発表することができるので、登録している企業にとっては大きな牽制ができるでしょう。
M&A支援機関協会
M&A仲介業界の自主規制団体です。
参加企業はM&A支援機関登録制度に登録している団体の1割程度ですが、会員は入会に際し協会の調査権を受け入れることに誓約しているため、トラブル先が会員であればこちらにも相談してみてもいいかもしれません。
中小企業がテール条項で注意すべきポイント
中小企業庁のガイドラインと実例を踏まえ、テール条項に関する注意点は以下の通りです。
テール期間の制限
テール期間は2~3年以内に設定し、それ以上の長期設定は避けましょう。
契約書で期間を明記し、短縮交渉も検討してください。
対象企業の明確化
テール条項の対象は、企業名が明示的に開示され、具体的な交渉(例:企業概要書の送付や面談)が行われた買い手候補に限定。
匿名ベースであるノンネームシートの送付先や、単に業界全体のリストが提示されただけではテール条項の対象外とする条項を盛り込みましょう。
原則的には重要事項説明書でその点については説明されることになっていますので、重要事項説明書の説明が無かったり、そもそも重要事項説明書が出されないような仲介会社は避けましょう。
契約前の詳細説明
上記と関連しますが、仲介会社にテール条項の詳細(期間、対象、手数料算定基準)を重要事項説明書で説明させ、契約書に明記することを求めましょう。
中小企業庁は透明性を義務付けています。
専門家の活用
M&Aに不慣れな中小企業は、弁護士やセカンドオピニオンを活用し、テール条項のリスクを精査。
曖昧な条項を修正する交渉を行いましょう。
結論
テール条項はM&A仲介会社の「仲介飛ばし」を回避し、労力を保護する仕組みですが、それを悪用し、不透明な設定や広範な対象範囲を行うことで、中小企業に想定外の手数料負担を強いる仲介会社の存在があります。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」は、テール期間を2~3年、対象を具体的な買い手候補に限定するよう指導しています。
トラブル時には中小企業庁や日本M&A支援協会に相談し、専門家の支援を受けながら契約内容を精査することで、安全なM&Aを実現しましょう。
現在、テール条項にお悩みの方はセカンドオピニオンという形で、弊社へもお気軽にお問い合わせください。

































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