NPOができるなら、社会福祉法人(社福)や宗教法人だって同じようにM&Aができる。
プロセスは同じものなのだから……。
もしそう考えているとしたら、それは大きな間違いです。
厚生労働省が出している社会福祉法人法に則った合併・事業譲渡マニュアルに則った手段以外の提案がされた場合、立ち止まって考えてみましょう。
例えば…「理事長交代による『実質的な支配』と『法人の私物化』ができますよ」、というような甘い囁きの場合です。
今回は、倫理観のない「M&A」がどういう結果を招いているかをご紹介しながら説明したいと思います。
一方で、私物化や不透明な金銭のやり取りを伴うスキームは、社会福祉法の趣旨に反し、重大なリスクを伴います。
結論から言いましょう。
「社福の私物化はダメ絶対!」です。
実際、社会福祉法人の理事長選任を巡って「3500万円の贈収賄」で逮捕者が出るという事件が起きています。 【外部参考リンク: 福祉法人理事長の変更で4人を贈収賄容疑で逮捕|企業法務ナビ】
なぜ「できること」が「逮捕」に繋がるのか?
誤解しないでいただきたいのは、冒頭にお伝えした通り、社会福祉法人も法律(社会福祉法第48条)上、他の法人との「合併」や「事業譲渡」は認められているという点であり、厚生労働省も経営基盤強化のためのガイドラインを出しています。
しかし、問題はその「中身」です。
1. 法律上「できること」(ホワイトな手続き)
これらは地域福祉を守るための正当な手段です。
社会福祉法人同士の合併: 経営統合によりサービスを維持する。
事業譲渡: 施設や特定の事業を他の法人へ引き継ぐ。
正当なプロセスによる役員交代: 評議員会等の承認を経た、私心のない後継者選任。
実際、厚生労働省の「合併・事業譲渡マニュアル」に沿って進められたケースでは、
- 小規模法人が大規模法人と合併し、施設の維持・従業員の雇用継続を実現
- 保育施設の事業譲渡で、譲渡側が経営資源を集中し効率化
といった成功事例が報告されています(例: グローバルキッズ関連の保育所譲渡、介護業界の吸収合併事例など)。
これらはすべて行政の認可を得ており、公益性を損なわない形で進められています。
2. 法律上「できないこと」(ブラックな手口)
これは後述する理由により、善管注意義務違反や贈収賄を疑われてしまいます。
「理事長の椅子」の売買: ポストと引き換えに金銭を動かす行為(これは贈収賄です)。
法人の私物化: 法人が蓄えた内部留保を、不当な退職金やコンサル料で吸い出す行為。
なぜこんなことが起きるのか?
それは、法人の私物化を企む連中と、手数料さえ入ればいいコンサルタント(仲介も?)業界の誤った商慣習が、本来あるべき意思決定プロセスを無視して暴走した結果です。
この記事では、社福や宗教法人のM&Aがなぜ「特殊」なのか、そしてなぜこの問題が、一般企業のM&Aを検討しているあなたにとっても「対岸の火事」ではないのか、そのドロドロの裏側を暴いていきます。
なぜ「社福の売買」は法律でブロックされているのか?
「社福って言っても、結局NPO(特定非営利活動法人)と同じでしょ?」とタカをくくっている仲介業者は、まず社会福祉法を読み直すべきです。
この法律には、営利企業のM&A(株式譲渡)とは180度違う「鉄の掟」が書かれています。
1. そもそも「売るもの(持分)」が存在しない
株式会社なら個人や法人の財産である「株」を売れば終わりですが、社福にはそれがありません。
【社会福祉法 第22条】 社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人をいう。
解説: 法律上、社福は「公益」のための存在。誰の所有物でもありません。「持分」がない以上、譲渡代金を払って「買う」という行為自体が、そもそもこの法律の枠組みの外にあるんです。国の財産である社会福祉法人の売買はその設立意義から認められません。従って営利目的の代表交代などが行われる場合、退職金や報酬などの金銭が介在してしまうことが多く、それにより違法性が指摘されてしまいます。
2. 理事長へのキックバックは「贈収賄」への特急券
仲介がよく提案する「理事長交代の対価として現金を渡す」というスキーム。
これが一番危険です。
【社会福祉法 第40条(特別の利益供与の禁止)】 社会福祉法人は、その関係者に対し、特別の利益を与えてはならない。
解説: 「退職金」や「コンサル料」の名目で、経営権移動の見返りに金を動かせば、この条文に抵触します。役所に発覚すれば認可取り消し、悪質なら先述の通り「逮捕」です。個人で持っている不動産の売買をして見えないようにすればいい、という人もいますが、貴方それに責任持てますか?
3. 最後は「国」に没収される運命
「高く売って引退資金に……」という淡い期待も、法律が打ち砕きます。
【社会福祉法 第56条(残余財産の帰属)】 解散した社会福祉法人の残余財産は……最終的には国若しくは地方公共団体等に帰属する。
葵の毒解説: 1と重複しますが、最後は国に返すのがルール。個人が私物化できるものではありません。
実録!「社福M&A」に群がった連中の末路
「法律なんて言っても、実際は動いてるでしょ? 本当は知っているんでしょ?」
っている人、言わんとすることはよくわかります。
でも、その「裏道」を通った結果がこれです。
理事長選任を巡る3500万円の贈収賄事件(
)読売新聞:滋賀の事件 評議員を身内で固めて資産を抜き取り、8人が逮捕された事件(
)日税ジャーナル参照
これが、営利企業と同じ感覚で「買いたい社長」と「手数料が欲しい仲介」が手を組んだ成れの果てです。
なお監督官庁は自治体になるので、もしそのような話がありましたら都道府県庁までお知らせください。

「じゃあ宗教法人は?」――免税枠に群がるハイエナと、協会の「原則禁止」宣言
「社福がダメなら、宗教法人ならどうなんだ? あそこも非営利だし、同じようにM&Aできるんじゃないか?」
もしそう考えているなら、これまた大きな間違いです。 というか、2025年に入ってから状況は一変しました。
結論から言いましょう。
宗教法人のM&Aは、業界を挙げた『排除対象』になりました。
1. M&A支援機関協会による「取り扱い注意」の最新通知
最新の業界指針(2025年11月付)では、いわゆる宗教法人M&Aについて、驚くほど厳しい注意喚起が出されています。
「いわゆる宗教法人M&Aは原則として取り扱わないことが重要」 ([M&A支援機関協会 通知 2025-11より引用](cite: 38))
協会がここまで踏み込んだのは、宗教法人の売買が「脱税」「犯罪収益の移転(マネー・ローンダリング)」といった違法行為の温床になっていると判断したからです
「名目は寄附」だろうが「コンサル料」だろうが、実質的に地位を金で売り買いする行為は、宗教法人法の目的を逸脱した「不正な取得」とみなされます
2. 文化庁が目を光らせる「不活動法人」の罠
読売新聞の記事(2025年12月28日)や文化庁の指針にある通り、今、国は「名前だけ残っている不活動宗教法人」の整理を加速させています。
実態: 節税や霊園ビジネスのために「休眠法人」を買い叩く層がいる。
リスク: 文化庁はこれらに対して「解散命令」を裁判所に請求するなどの厳しい対策を徹底しており、せっかく大金を払って「買った」としても、即座に法人格が消滅するリスクが極めて高いのです。
3. 仲介会社への「情報提供」義務の要請
今回の通知で最も恐ろしいのは、協会が会員(仲介会社)に対し、「不正な取引が疑われる相談を受けたら、協会や文化庁に情報提供せよ」と求めている点です
(話は少し変わりますが、コロナの前、中学生の教科書に載っている大名刹が実名で50億という値でノンノンネームシートが出回ったことがあったんですが、あれは本当に売り物だったのだろうか…)
結論:仲介を行っていいものと良くないものがある
社福にせよ宗教にせよ、共通しているのは「本来、売買の対象にならないものに無理やり値段をつけて売ろうとしている」という点です。
こうした法の目的を潜脱する取引を平気で呼びかけるインターネット上の仲介サイトも存在しますが
コンプライアンスを理解せず脱法的に仲介を行ったとして、果たしてそれが違法でないということは言えるのでしょうか。
(そもそも論を言うと社福も昔みたいに買ったところでうまみが…、いえ何でもないです)
そう考えると昔のイメージで、甘い言葉に乗り、贈収賄あるいは法人格消失リスクを冒してまで行う必要があるかどうか、ということを考えるべきではないでしょうか。
もちろん代表者変更自体は定款などに定められている仕組みなので、それを行うこと自体は違法でも何でもありません。
むしろ正当な手続きです。
そこに贈収賄といわれる要素が入るのかどうなのか、そこが問われるということでしょう。
もしそのようなことを求めてくる仲介会社担当者がいるようでしたら、ご注意ください。
世の中にはいろいろな担当者がおりますので。
(ご参考:「M&A仲介の闇|大手担当者が「信頼できない」と言われた理由とは」)
正当な手続きによる「代表者変更」や「合併」は、法人の未来を守るための立派な決断です。
しかしそこに『裏金』や『不透明なコンサル料』が介在した瞬間、それは社会貢献ではなく犯罪の片棒を担ぐ行為に変わります。 あなたの目の前にいる担当者は、その「境界線」を本当に理解していますか?
その承継案、「適正」ですか?それとも「リスク」ですか?
社福・宗教法人の承継は、一歩間違えれば贈収賄や認可取り消しに直結する「聖域」です。しかし「売買」ではなく「公益の継続」を目的とした適正な手続きであれば、問題なく進められます。
具体的には:
- 厚生労働省マニュアルに基づく合併・事業譲渡(行政認可必須)
- 理事長の正当な選任・交代(贈収賄なし) これらを遵守すれば、経営の安定化や地域福祉の維持に寄与します。
一方、不透明なコンサル料やキックバックを伴うものは、贈収賄や特別利益供与禁止に抵触するリスクが高く、避けるべきです。


































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