日本財務戦略センター代表 五十嵐 悠一
ニュースで、銀行の応急室で、あるいは決算報告の席で、「長期金利(新発10年物国債利回り)が一時2.185%を付けました」と聞いたとき、経営者であれば、誰しも自社の今後の適用金利が気になるのではないでしょうか。
2026年1月13日、新年早々の長期金利の上昇のニュースには、多くの経営者が言いようのない不安、あるいは「かつて経験したことのある胸騒ぎ」を覚えているのではないでしょうか。
それもそのはず、2.185%という数字は、日本経済が「金融危機」の泥沼にいた1999年以来、実に27年ぶりの水準です。
しかし2026年の今、我々が直面しているのは、当時とは全く異なる性質の、より巧妙で根深い構造変化です。
本稿では、マクロ経済学の視点も含め、この「27年ぶりの事態」が中小企業経営に何を突きつけているのかを解説していきたいと思います。
Ⅰ. 名目成長率と金利の「デッドヒート」:ドーマー条件の視点
経済学には、債務の持続性を示す「ドーマー条件」という概念があります。簡潔に言えば、「名目成長率(g)が名目金利(r)を上回っていれば、借金は実質的に縮小していく」という理屈で、国の財政を判断する際に使われます。
1. 1999年:出口のない「負の逆転」
27年前、長期金利が2%台を推移していた時、日本はデフレの真っ只中でした。名目成長率は-1.5%前後のマイナス。つまり g < r でした。
税収が減る中で国債利払いを行うのは、穴の開いたバケツで水を汲むようなもので、努力が報われない構造的な絶望がありました。
2. 2026年:膨張する数字の「見せかけの均衡」
現在の2026年は、インフレによって名目成長率は3.5% から4.0%$程度(内閣府・日銀の見通し準拠)まで押し上げられています。
現在、数値上はまだ g > r を保っており、1999年ほどの悲惨さはありません。
しかし、この「g」の上昇は内需の拡大ではなく、円安に伴うコスト高が数字を押し上げただけの「膨張」です。今後、さらに金利(r)が上昇するか、あるいは景気後退で成長率(g)が鈍化してこの関係が逆転すれば、その瞬間に私たちは27年前と同じ「債務が自己増殖する地獄」へと引き戻されます。 現在の2.185%という金利は、その均衡が崩れた時代を象徴する数字と言えるのかもしれません。
Ⅱ. 為替と労働市場:1999年にはなかった「三重苦」
1999年の経営課題は「需要の欠如」という一点に集約されていました。しかし、2026年の我々は、以下の三つの力が同時に働く、より複雑な環境にいます。
為替の負の外部性(円安輸入コスト高): 1ドル160円前後の歴史的円安。1999年の円高局面とは異なり、原材料・エネルギー価格の高騰が中小企業の営業利益を根底から浸食しています。売上が名目上で増えても、それ以上にコストが膨らむ「利益なき繁忙」の正体です。
労働力の希少性: 失業率2.2%という完全雇用。1999年のように「人を削って耐える」という手法は、現代では「即、廃業」を意味します。人件費は今や、金利以上に硬直的で重いコストとなっています。
金利上昇(一時2.185%): ここに、四半世紀ぶりに「金利」というコストが加わりました。
Ⅲ. 資本市場のパラドックス:なぜ「今」会社の評価が高いのか
ここで、非常に興味深いマクロ経済のパラドックス(逆説)が生じています。経営環境がこれほど厳しいにもかかわらず、企業の譲渡価格(バリュエーション)は、27年前とは比較にならないほど高く評価されているのです。
1999年当時、日経平均は1万円台を低迷し、PER(株価収益率)は一部のIT銘柄を除けば低水準。何より「M&A市場」そのものが未成熟でした。
しかし2026年の現在、日経平均が歴史的高値圏にある中で、プライム市場の平均PERは16〜17倍程度で推移しています。これは異常なバブルではなく、企業の収益力がインフレ下で名目的に拡大していることを反映した数字です。
名目利益の膨張: インフレによって「額面上のEBITDA」が大きくなっている。
マルチプルの維持: 資本効率を重視する市場環境により、高い評価倍率が適用される。
人材へのプレミアム: 「求人を出しても人が来ない」時代だからこそ、既に組織として完成している御社の「人材層」には、27年前には存在しなかった莫大な上乗せ価値がついている。
つまり、「経営はかつてないほど苦しいが、会社の値段は過去最高に近い」という、奇妙な窓口が開いているのが、この2026年1月なのです。
Ⅳ. 結論:独力での「存続」から、戦略的な「乗り切り」へ
金利2.185%という数字は、一人のオーナー経営者が、円安、人手不足、そして利上げというマクロのリスクを一身に背負い続けることの危うさを静かに物語っています。
かつての1999年、多くの経営者が「今は耐える時だ」と判断し、結果として資産を毀損させ、社員を守りきれなかった歴史を繰り返してはいけません。現代の経営において、M&Aは「事業の断念」ではありません。それは、「自社の資産を、より高いレバレッジと資本力を持つプラットフォームへ移管し、荒波を回避する」という、極めて高度で知的な経営判断です。
なぜ、この「金利2.185%」のタイミングなのか
金利負担が買い手の意欲を削ぐ前だから: 2.5%、3.0%と金利が上がれば、買い手企業の買収資金コストも上がり、提示額は必ず下がります。
名目利益がインフレで最大化しているから: コスト増が売上の伸びを完全に食いつぶす「前」の数字で、査定を受ける必要があります。
社員の「人生」を資本で守るため: 独力での賃上げに限界を感じているなら、資本力のあるグループに入ることで、社員の処遇を改善し、離職リスクをゼロにできます。
最後に:孤独な決断を、確信に変えるために
銀行の担当者と面談し、金利の数字を突きつけられた後の帰り道。「あと10年、このコスト高と戦い続けられるか?」と自問自答したなら、その直感こそが、マクロ経済の変化を捉えた「経営者の正解」です。
27年ぶりに回帰したこの金利水準は、我々に「独力による持続可能性の限界」と、同時に「出口戦略の最適期」を教えてくれています。
追い込まれた状況で相談した企業様が、適切なタイミングでM&Aを選び、社員を守り抜いた事例は数多くあります。今、金利上昇の波が本格的に押し寄せる前に、一度立ち位置を確認するだけでも、未来が変わります。
日本財務戦略センターは、あなたが27年間守り抜いてきた誇り高き事業を、最も合理的な形で、そして最も高い敬意を持って次世代へ繋ぐお手伝いをいたします。まずは、今の御社の価値が市場でどう見えるのか、冷静な測定から始めましょう。
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日本財務戦略センター 代表取締役 五十嵐 悠一



































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