中小M&Aを成功に導く改革の道筋:中小企業庁の最新プランを日本財務戦略センターが解説!

「中小M&A市場改革プラン」中間とりまとめとは

日本の中小企業は、経営者の高齢化と後継者不足という大きな課題に直面している中、中小企業庁が2025年8月に公表した「中小M&A市場改革プラン 中間とりまとめ」は、事業承継や企業成長を加速させるための具体的な道筋を示しています。
この改革プランは、単に事業を引き継ぐだけでなく、企業の価値を高め、地域経済を支える戦略的ツールとしてM&Aを位置づけています。
本ブログでは、日本財務戦略センターの視点から、このプランの背景、意義、そして今後の方向性を詳しく、かつわかりやすく解説したいとおもいます。

中小M&Aが注目される背景とその意義

日本の中小企業を取り巻く環境は、急速に変化しています。
2024年時点で、70代以上の経営者が多く、60代の経営者も約79万社が今後事業承継を検討する必要があるとされています(中小企業庁「中小企業実態基本調査」)。
特に地方では高齢化が進み、事業承継の遅れが地域の雇用や生活インフラに影響を及ぼす懸念が強まっています。
さらに、人手不足の深刻化やインフレ環境への移行に伴い、生産性の向上や賃上げ原資の確保が喫緊の課題となっています。

こうした中、M&Aは単なる事業承継の手段を超え、以下の3つの意義を持つ戦略として注目されています。

1. **貴重な経営資源の散逸を防ぐ**
後継者不在の企業が廃業に追い込まれると、技術、人材、顧客基盤といった貴重な資源が失われます。
2024年には約6.3万件の企業が休廃業・解散に至り、その約半数が黒字経営だったにも関わらず廃業を選びました。
M&Aを通じて事業を第三者に引き継げば、こうした資源を維持し、地域の生活インフラやサプライチェーンを守ることができます。
たとえば、地方の小さな商店や医療機関がM&Aで存続し、地域住民の生活を支えた事例は、M&Aの社会的価値を象徴しています。

2. **企業の成長と生産性向上を実現**
M&Aは経営者の若返りや企業間のシナジー効果を通じて、売上や利益の拡大を後押しします。
中小企業庁のデータによると、若い経営者の企業は販路開拓や新商品開発に積極的で、売上成長率が高い傾向にあります。
またM&Aを行った企業は、行っていない企業に比べ、売上高や労働生産性が顕著に向上しています(2024年版中小企業白書)。
たとえば製造業と小売業のM&Aで新たな販路を開拓したり、技術の融合で高付加価値商品を生み出したりするケースが目立ちます。
こうした成功事例は、M&Aが企業成長の強力なエンジンであることを示しています。

3. **地域経済の持続可能性を支える**
地方の中小企業は、地域の雇用や生活インフラを支える基盤です。
M&Aによりこれらの企業が存続することで、地域経済の活性化や雇用の維持が期待されます。
特にサプライチェーンの中核を担う企業が廃業を回避することで、取引先への影響を抑え、地域全体の経済循環を守ることができます。
たとえば、地域の食品加工業がM&Aで引き継がれ、取引先の農家や小売店との関係を維持した事例は、地域経済の持続可能性を象徴しています。

しかしM&A市場の急速な拡大に伴い、課題も顕在化しています。
支援機関の質のバラつきや、不適切な譲り受け側によるトラブル(資金吸い取りや経営者保証の未解除など)が、M&Aへの信頼を損なう要因となっています。
このため、中小企業庁は市場の健全化とさらなる普及を目指し、以下のような改革プランを策定しました。

これまでの取り組み:中小M&Aを支える基盤

中小企業庁は、M&Aを円滑に進めるための多様な施策を展開してきました。これにより、M&A件数は2014年度比で大幅に増加し、2021~2023年度も上昇傾向にあります。以下は、主要な取り組みの概要です。

**事業承継ネットワークと診断**
地域の金融機関や商工会議所が連携し、経営者に事業承継の必要性を気づかせる「事業承継診断」を実施しています。
この診断は経営者の悩みに寄り添い、事業承継の第一歩を踏み出すきっかけを提供しています。
2024年度には20.9万件の診断が行われ、潜在ニーズの掘り起こしが進んでいます。
診断を通じて、事業承継・引継ぎ支援センターへの相談につなげる仕組みが、地域でのM&A普及の基盤となっています。

**事業承継・引継ぎ支援センター**
全国47都道府県に設置された公的相談窓口で、M&Aの相談から成約まで一貫した支援を提供しています。
2024年度には2,132件の第三者承継が成立し、特に小規模事業者の案件が多いのが特徴です。
製造業からサービス業まで幅広い業種をカバーし、地方でのM&A普及に大きく貢献しています。
たとえば地方の小さな製造業がM&Aで新たな経営者に引き継がれ、地域の雇用を守った事例は、このセンターの価値を示しています。

**予算・税制支援**
①事業承継・M&A補助金:M&Aの専門家費用、設備投資、廃業関連費用を支援する補助金で、2023年度以降4,000件以上の採択実績があります。
2024年度からは、M&A後の統合を強化する「PMI推進枠」を新設し、シナジー効果の最大化を後押し。

②中小企業事業再編投資損失準備金:M&A後の簿外債務リスクに備える税制優遇を拡充。複数回M&Aを行う企業向けに、損金算入割合を最大100%に引き上げ、グループ化を促進。

③日本政策金融公庫の融資:事業承継やPMIに必要な資金を支援。2024年には貸付限度額を14.4億円に拡充し、小規模案件にも柔軟に対応しています。

**ガイドラインと登録制度**

①中小M&Aガイドライン:M&Aのプロセスや契約ひな形を提示し、支援機関の行動規範を定めています。
2024年8月の第3版改訂では、トラブル防止のため、譲り受け側の信用調査や経営者保証解除の対応を強化。
たとえば契約不履行を防ぐための具体的な条項が追加されました。

②M&A支援機関登録制度:ガイドライン遵守を条件に支援機関を登録し、データベースで実績や手数料を公開。
違反時には登録取り消しも実施し、市場の信頼性を確保します。

③中小PMIガイドライン:M&A後の統合を成功させるための実践ツールや55件の事例集を提供。
たとえばM&A後の経営方針のすり合わせや従業員とのコミュニケーションを重視した事例は、PMIの重要性を示しています。

**広報と啓発**
BSフジの番組やNews Picksの配信を通じて、M&Aの成功事例を広く発信。
マンガ形式の「中小M&Aハンドブック」や「事業承継参考ガイド」も作成し、経営者にわかりやすく情報を届けています。
またサプライチェーン維持をテーマにした事例集や、自治体向けの手引きを公表し、地方での支援体制を強化を試みています。
たとえば地域金融機関が事業承継の先進事例を共有するシンポジウムは、M&Aの機運を高めています。

これらの取り組みにより、M&Aは着実に浸透していますが、潜在ニーズ(約26万社)に対する普及はまだ不十分です。
特に地方や小規模企業でのM&A拡大が課題となっています。

 

#### 改革プランの3つの柱:今後の方向性

中小M&A市場の信頼性向上と普及拡大を目指し、改革プランは以下の3つの軸で施策を展開します。
それぞれの施策を、より詳しく、具体的に見ていきましょう。

1. 譲り渡し側の不安解消とニーズ喚起

M&Aに対するイメージは若手経営者を中心に改善しつつありますが、「従業員や取引先への影響」「売却価格の不透明さ」「経営者保証の解除」といった不安が根強く残ります。改革プランでは、以下のアプローチでこれらの課題に取り組みます:

**潜在ニーズを丁寧に掘り起こす**
事業承継は、経営者にとってセンシティブなテーマです。
地域の金融機関や商工会議所が、経営者の心情に寄り添いながら「事業承継診断」を通じてニーズを引き出す役割を担います。
現在、診断後の相談につなげる割合は約5%に留まりますが、改革プランでは、診断を積極的に行う支援機関を可視化し、予算措置で後押しすることで、この割合を高めることを目指します。
たとえば地域金融機関が経営者と定期的に面談し、事業承継の必要性を丁寧に説明する事例が増えれば、潜在ニーズが顕在化しやすくなります。

**成功事例でM&Aの心理的ハードルを下げる**
M&Aに対する不安を和らげるには、ポジティブな事例を広く知ってもらうことが重要です。
たとえば従業員の雇用を守りつつ賃上げを実現したM&Aや、取引先との関係を維持しながら事業を拡大したケースは、経営者に希望を与えます。
改革プランでは、メディアを活用した広報や、各地でのシンポジウム(M&Aキャラバン)を強化し、公的機関の信頼性を背景にM&Aの魅力を発信。
たとえば、テレビ番組で紹介された地方企業の成功事例は、経営者の意識を変えるきっかけとなっています。

**安心の契約スキームでリスクを軽減**
M&A後のトラブル、特に経営者保証の未解除は大きな不安要因です。
改革プランでは、M&A契約に買戻し条項や損害補償条項を追加し、譲り渡し側のリスクを軽減することを提案。
たとえば経営者保証が解除されない場合に事業を買い戻せる条項を契約に盛り込むことで、経営者は安心してM&Aに踏み出せます。
これらの条項は、実務での実行可能性を考慮しつつ、支援機関や金融機関と連携して普及させる計画です。

**財務状況の事前精査でM&Aの可能性を明確化**
M&Aを検討する際、企業の財務状況や事業価値を正確に把握することが不可欠です。
改革プランでは、公認会計士や税理士による財務分析を促進し、M&Aの可能性や譲渡価格の目安を提示。
たとえば損益計算書の一時的損益を調整し、正常収益力を評価したり、資産の時価評価を行うことで、経営者は自社の価値を具体的にイメージできます。
ローカルベンチマークなどのツールを活用し、支援機関への橋渡しをスムーズにする予算措置も検討されています。

**取引相場の見える化で相場観を醸成**
M&Aの譲渡価格は、業種や財務状況によって大きく異なりますが、非上場企業が多い中小M&Aでは相場が不透明です。
改革プランでは、M&A支援機関登録制度のデータを活用し、業種や売上規模ごとの譲渡価格の参考ツールを開発。
たとえば、製造業で売上1億円の企業が入力すると、類似案件の譲渡価格が参考値として表示される仕組みです。
黒字・赤字、資産超過・債務超過別に表示することで、経営者は自社の価値をより現実的に把握でき、M&Aへの一歩を踏み出しやすくなります。

2. M&A市場の健全化と質の向上

M&A市場の急速な拡大に伴い、支援機関の質のバラつきが課題となっています。信頼できる市場を築くため、以下の施策で質と透明性を高めます:

**支援機関の透明性をさらに高める**
M&Aを検討する経営者が信頼できる支援機関を選べるよう、登録支援機関のデータベースを進化させます。
現在、支援提供地域や手数料体系が公開されていますが、改革プランでは、成約実績や業務内容の詳細を比較可能な形で追加します。
たとえば支援機関Aが過去に製造業のM&Aを10件成約させた実績や、平均手数料を明確に示すことで、経営者は自分に合った機関を選びやすくなります。

**手数料の公正化で競争を促進**
M&A支援機関の手数料は、提供するサービスに応じて設定されるべきですが、算定方法の違いから比較が難しいのが現状です。
改革プランでは、手数料の根拠を明確化し、同一譲渡価格での受取額を比較できるツールを検討しています。
たとえば譲渡価格1億円の場合、支援機関ごとの手数料を差し引いた最終受取額を一覧で示すことで、経営者はコストとサービスのバランスを判断しやすくなります。
これにより、質の高い支援機関が選ばれる競争環境が整います。

**アドバイザー資格で専門性を担保**
M&Aアドバイザーには、財務、法務、倫理など幅広い知識が求められますが、新規参入者の増加でスキル不足が課題です。
改革プランでは、米国のIBBA資格を参考に、M&Aアドバイザー向け試験を創設。
試験では、M&Aの実務、財務・税務、バリュエーション、倫理規範などを問う予定です。
たとえば倫理規範に違反した場合の氏名公表を条件に登録制度を設け、アドバイザーの信頼性を高めます。
これにより質の高い支援が市場に浸透し、M&Aの成功率が向上します。

**地域の支援力を底上げ**
地方ではM&Aアドバイザーが少なく、都市部に約85%が集中しています(中小企業庁調査)。
改革プランでは、事業承継・引継ぎ支援センターを強化し、地方でのM&Aを支える受け皿を整備。
たとえば、地域金融機関や士業をトレーニーとして受け入れ、M&Aのノウハウを伝授。
実際に地域金融機関の社員がセンターで学び、帰任後にM&A支援体制を構築した事例は、地方での支援力強化のモデルケースとなっています。

3. 優良な譲り受け側の増加

M&Aの成功には、成長意欲の高い譲り受け側が不可欠です。以下の施策で、買い手の質と量を高めます:

**複数回M&Aでシナジーを最大化**
複数回M&Aを行う企業は、売上や労働生産性が向上する傾向が強く、グループ化によるシナジー効果が顕著です(中小企業庁調査)。
たとえば、製造業の企業が小売業をM&Aで傘下に収め、販路拡大で売上を伸ばした事例があります。
改革プランでは、税制優遇(中小企業事業再編投資損失準備金)や日本政策金融公庫の融資を活用し、グループ化を促進。
好事例を事例集として公開し、戦略的M&Aの参考にします。

**小規模案件を支えるファンド**
日本のPEファンド市場は拡大していますが、小規模案件への投資は少ないのが現状です。
改革プランでは、地域金融機関の事業承継ファンドや、個人経営者を支援するサーチファンドを強化。
たとえばサーチファンドは、経営者を目指す個人がM&Aで企業を引き継ぎ、成長を牽引する仕組みで、地方の小規模M&Aに新たな可能性をもたらします。

**PMIでM&Aの価値を最大化**
M&Aの成功には、買収前後のPMI(統合後マネジメント)が欠かせません。
M&Aの目的を明確にした企業は、売上成長率が2.0%高いというデータもあります(中小企業白書)。
改革プランでは、PMI推進枠の補助金やガイドラインを活用し、経営方針のすり合わせや従業員とのコミュニケーションを支援。
たとえばM&A前に双方のキーパーソンで戦略を共有した企業は、統合後の成長がスムーズです。

**優良な買い手を積極的に発掘**
従来のM&Aは、売り手側のニーズから始まることが多いですが、改革プランでは買い手側の戦略も重視します。
地域金融機関が優良企業にM&A戦略の策定を支援し、買いニーズを創出します。
たとえば成長意欲の高い企業が自社の強みを活かせるM&A候補を探すプロセスは、戦略的M&Aの新たな潮流を生み出します。

#### 日本財務戦略センターからの視点

中小M&Aは、事業承継の課題を解決するだけでなく、企業の成長や地域経済の持続可能性を支える重要な戦略です。
中小企業庁の改革プランは、地方や小規模企業への支援強化、市場の信頼性向上、優良な買い手の育成という3つの柱で、M&Aの可能性を大きく広げようとしています。
また透明化を進めることで従来の支援機関の対応も大きく変わってくるでしょう。
反面、事業・承継支援センターを悪用しているような支援機関は今までのように有耶無耶にされず、公式に淘汰されていくことになるでしょう。

日本財務戦略センターでは、こうした施策を活用し、経営者の皆様が安心してM&Aに取り組めるよう、きめ細やかなサポートを提供します。
事業の価値を最大化し、未来につなげるためには、早めの準備と専門家との連携が鍵となります。
M&Aのプロセスや支援策について詳しく知りたい方は、当センターの問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

中小M&Aは、企業と地域の未来を切り開く一歩です。
共に新たな可能性を追求しましょう!

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