一線を越えたM&A仲介の存在
「M&A仲介の罠」という朝日新聞藤田記者の上梓したM&A仲介業界内幕本が好評を博しているようです。
M&A(企業の合併・買収)は、契約に基づき信頼を前提に進められるプロセスですが、大きな金額が動くため、不適切な意図を持つ一部の仲介業者や買い手が存在するのも事実です。
本記事では弊社(日本財務戦略センター)が遭遇した事例を通じて、M&Aを検討する中小企業経営者の皆様に注意点を共有します。
なお関係者はすべて仮名とし、特定の企業や個人を連想させないようにしますが、心当たりのある方は自省してください。
また本件は既に中小企業庁や大阪府事業承継・引継ぎ支援センターなどへ情報提供が行われておりますので、関係機関の対応を注視しています。
M&Aの背後に潜む深刻なリスク
M&Aは中小企業の事業承継や成長戦略において重要な選択肢です。
しかし一部の仲介業者が不適切な行為を行うことで、業界全体の信頼が損なわれるケースがあります。本記事では、弊社が経験した事例を基に、注意すべきポイントを解説し、中小企業経営者の皆様に注意すべき点についての材料を提供したいと思います。
なお中小企業庁や舞台となった大阪府事業承継・引継ぎ支援センターには以下で述べる通り情報共有済みですので、今後の進展を注視しています。
某M&A仲介業者の事例
ある地域に拠点を置くM&A仲介業者(仮に某仲介会社とします)の事例です。
この業者の関係者が、大阪府事業承継・引継ぎ支援センターの相談員として関与し、売り手を自社や特定の買い手に誘導していたと疑われるケースが確認されました。
この行為は公正な取引を求めるガイドラインに反する可能性があるため、弊社は中小企業庁および同センターに情報提供を行いました。
本記事ではこうした不適切な行為の事例を紹介し、M&Aを検討する中小企業経営者の皆様に注意を促すとともに、信頼できる業者選びのポイントを共有します。
特定買い手への優遇:公平性を欠いた仲介の実態
M&A仲介業者は、売り手と買い手の間を取り持ち、公正な取引を保証する役割を担います。
特に商工会議所が管轄している大阪府事業承継・引継ぎ支援センターのような公的機関は、中小企業の事業承継をサポートする役割を担うためなおさらです。
特にM&A知識が限られる高齢経営者からの相談が多いのであれば、なおさら高い中立性が求められるでしょう。
しかし一部の相談員が不適切な意図で売り手を特定の買い手に誘導すると、売り手の選択機会が制限され、経済的損失につながるリスクがあります。
大阪府事業承継・引継ぎ支援センターでの事例
某仲介会社の経営層の一人が、大阪府事業承継・引継ぎ支援センターの相談員(仮に相談員Aとします)となっているケースが発覚しました。
経済産業省に仲介会社の役員との兼務が可能なのか問い合わせたところ、「兼務が事実なら公平性の観点から認められないが、引継ぎ支援センターに確認したところ一度退任したと聞いている」との回答がありました。
ただ某仲介会社の内部情報では、現在も在籍しており、普通に社内カレンダーの予定表にもスケジュールを記載していることが確認できました。
また引継ぎ支援センターで紹介を受けた企業への訪問もあったことから、これは身分を詐称して相談員となり、仲介会社である自社や懇意にしている特定の買い手に売り手を誘導していたと疑いが濃厚になりました。
実際、売り手からは「引継ぎ支援センターからを利用してM&Aを行った」との話があったようですので、そこで実質的に兼任していることを説明されてなければ誘導されたと思っても仕方がないでしょう。
中小企業庁のスタンス
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第三版)」では、両手取引(売り手と買い手双方から手数料を得る)の利益相反リスクを明確に警告しています。この件について把握している内部社員からも「特定買い手への優遇は倫理的に問題」との声が上がっており、ガイドラインに違反する可能性があります。
また不適切な仲介は、M&A市場全体の信頼を損なうリスクがあります。
某仲介会社の倫理的問題と深夜の匿名メール
なお相談員A氏は「一身上の都合」で今は事業承継・引継ぎ支援センターを自認したとのことですが、それはその直前に引継ぎ支援センターと中小企業庁のメールでのやりとりを見て、ことが露見するのを恐れいち早く退任したようです(すでに某仲介会社に出戻った模様)。
なお引継ぎ支援センターと中小企業庁とのやり取りと前後し、弊社や協力者に対し、以下のような匿名メールが深夜に送られてきたため我々も警察に相談せざるを得なくなったという事態が発生したこともお伝えいたします。
(このメールの評価は皆様にお任せしますが、個人的には某仲介会社の内部から送られてきたのではないことを強く願います)
差出人も弊社とは無関係の人が勝手に名前を使われていたので消しておきますが 、弊社と某仲介会社はそもそも秘密保持契約(NDA)を締結しておらず、また身分偽装を行うことを知っていたら契約すら締結しないので失当と言わざるを得ないのではないでしょうか。
なお某仲介会社は複数のM&Aプラットフォームからも利用停止処分を受けているようなので、よほどのことがない限りは売り手の皆さまが遭遇する可能性は低いと思いますが、現在でも営業を継続しておりますので、注意喚起を行うとともに、あえて具体的事例をお伝えすることで、売り手様買い手様の判断の一助となりましたら幸甚です。
なお本ブログは実名告発を目的とするものではなく、実際にあった事例をベースに注意喚起を行うものですが、もしこのレベルで某仲介会社が反省もせず、懲りずに上記のようなメールを送ってきたりするなどするのなら、より深い話も出さざるを得ないのかなと思いますので、その際は改めて上梓したいと思います。
中小企業を守るための5つの対策
このような仲介会社から身を守りながら、M&Aを検討するにはどうしたらいいでしょうか。
中小企業経営者の皆様に以下の対策をお勧めします。
- 中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第三版)」に準拠しているか確認
M&A登録支援機関への登録やM&A支援協会への登録の確認のほか、報酬体系や利益相反の開示を確認し不明確な業者は避けてください。 - 評判の調査する
業者の過去の実績や評判を業界団体や信頼できる情報源で確認。 - プラットフォームの利用停止履歴や、Xでの評判をチェック
M&Aプラットフォームの利用履歴や評判をチェック。問題歴のある業者は避ける。
- 専門家の力を借り調べる
弁護士や会計士に契約書やリスクをチェックしてもらい、透明性を確保。
トラブル時に頼りになる弁護士がいるかどうかでも違うでしょう。 - 複数の相談先
大阪府事業承継・引継ぎ支援センターだけでなく、信頼できる民間専門家に相談し、偏った助言を避ける。
いずれの対策もタイムラグや網羅性を考慮するとなかなか難しいところがあります。
大阪商工会議所の担当者も「うちも被害者みたいなもんです」と言っていたとのことなので、いざという時にどこまで頼れるかはわかりません。
そこでM&A支援協会の「特定リスト」加盟制度の必要性がクローズアップされます。 この制度についてはまた別稿を以ってご紹介させてください。
おわりに:中小企業の未来を守るために
一部の不適切な仲介行為は、M&A業界の信頼を損ない、中小企業の事業承継を脅かします。
弊社はこうした課題に対し、中小企業庁や大阪府事業承継・引継ぎ支援センターと連携し、業界の改善に取り組んでいます。
中小企業経営者の皆様は、信頼できる仲介業者を選び、契約内容を慎重に確認してください。
同センターや専門家に相談し、リスクを回避しましょう。
中小企業庁には、ガイドラインの厳格な運用と不適切な業者の排除を期待します。中小企業の未来を守るため、共に賢明な選択をしていきましょう。
相談先
公的な相談窓口をいかに記載しておきます。 もし自分がトラブルに巻き込まれたと思われる方はこちらに相談されるのも一つの手段かと思いますのでご確認ください。 ・中小企業庁「情報提供受付窓口」:jouhouteikyou@ma-shienkikan.go.jp、03-6867-1478 ・M&A支援機関協会「苦情相談窓口」:フォーム(https://www.maa-a.or.jp/inquiry/、03-6737-3610)
2025年9月19日追記
某社に関してまた続報が出てきました。
早々にM&A支援機関登録制度事務局に情報連携されたようですが、また公に詳報が出ましたらご紹介したいと思います。



































コメント