2025年導入のミニマムタックスがM&Aに与える影響とは?

2025年1月から導入された「ミニマムタックス(最低限税)」は、M&Aや事業承継を経営者行う経営者・個人株主にとって重要な税制改正です。
なぜなら株式譲渡による高額な売却益が見込まれる場合、税負担が増加する可能性があります。
今回はミニマムタックスの概要、M&Aへの影響、実務的な対応策を具体例とともに解説し、経営者の皆様が最適な意思決定を行うためのポイントをお伝えします。

 

1. ミニマムタックスとは? 基本を押さえる
ミニマムタックスは、年間の合計所得が3.3億円を超える高額所得者を対象に、譲渡所得(株式譲渡や不動産売却など)の税率を現行の20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)から最大27.5%(所得税22.5%+住民税5%)に引き上げる制度です。
正式名称は「高額所得者に対する最低限税」で、2025年度税制改正で導入されました。

制度の背景

  • 目的: 税負担の公平性を高め、富裕層による過度な節税を抑制。
  • 対象者: 国税庁の試算では、年間所得3.3億円超の個人は全国で数百人程度。M&Aや事業承継で高額な株式譲渡益を得る個人株主が主に影響を受ける。
  • 適用範囲: 譲渡所得(株式譲渡、不動産売却など)が主な対象。給与所得や事業所得への影響は限定的。

具体例で考える税負担の変化
例えば、株式譲渡で10億円の譲渡益を得た場合:

  • 現行(2024年): 税率20.315%で税額約2億315万円。
  • ミニマムタックス適用後(2025年): 税率27.5%で税額約2億7,500万円(追加税負担約5,185万円)。

2. M&Aにおけるミニマムタックスの影響
M&Aでは株式譲渡が最も一般的な手法であり、個人株主にとってミニマムタックスは税負担を大きく変える要因です。
以下に具体的な影響を整理します。

(1) 株式譲渡の税負担増加

  • 影響: 譲渡益が3.3億円を超える場合、税率が20.315%から27.5%に上昇。中小企業のオーナー経営者や事業承継を検討する株主にとって税負担が増加。
  • : 自社株(評価額50億円)を売却する場合、現行では税額約10億1,575万円が、ミニマムタックス適用で約13億7,500万円に増加(差額約3億6,000万円)。

(2) 駆け込みM&Aの加速

  • 影響: 2025年導入前にM&Aを完了させることで、ミニマムタックス適用を回避可能。このため、2024年中のM&A相談が急増。
  • 実務ポイント: 株式譲渡契約の締結から決済まで3~6ヶ月かかる場合も多いため、2024年中の完了には早めの準備が必要。

(3) 他のM&A手法へのシフト

  • 影響: ミニマムタックスの影響を避けるため、事業譲渡、組織再編(合併・会社分割)、第三者割当増資の検討が増える可能性。
  • 注意点: 事業譲渡は消費税や登録免許税が発生し、組織再編は税制適格要件を満たす必要があるため、税務専門家の助言が不可欠。

3. ミニマムタックスへの実務的対応策
ミニマムタックスの影響を軽減するため、以下の対策を検討しましょう。
JFSCの実務経験に基づく具体的なアプローチを提案します。

(1) 2024年中のM&A完了

  • 対策: ミニマムタックス適用前の2024年12月31日までに株式譲渡を完了させ、税率20.315%を適用。
  • 実務例: 譲渡益5億円の場合、2024年完了で税額約1億157万円、2025年以降で約1億3,750万円(差額約3,593万円)。
  • 注意点: デューデリジェンスや契約交渉に時間を要するため、遅くとも2024年9月までに準備開始。

(2) 譲渡益の分散

  • 対策: 株式譲渡を複数年に分割し、年間所得を3.3億円以下に抑える。エスクロー契約や分割払いを活用。
  • 実務例: 譲渡益10億円を2年に分け(各5億円)、各年の所得を3.3億円以下にすることで、税率20.315%を維持。
  • 注意点: 契約書で支払い条件を明確化し、税務当局の追徴リスクを回避。

(3) 役員退職金の活用

  • 対策: M&Aに伴いオーナー経営者が退職し、役員退職金を活用。退職所得控除(勤続年数20年で最大1,500万円、30年で2,300万円)を適用し、税負担を軽減。
  • 実務例: 退職金1億円(勤続30年、控除2,300万円)の場合、課税対象は7,700万円で、1/2軽減後、税額は約1,500万円(譲渡所得同額の税額約2,031万円より低減)。
  • 注意点: 過大な退職金は税務調査で否認リスク。適正額の根拠(同業他社比較など)を準備。

(4) 税制優遇措置の活用

  • 対策: 中小企業事業再編投資損失準備金(2024年改正で対象拡大)や事業承継税制を併用し、税負担を軽減。
  • 実務例: 事業承継税制を活用し、自社株の贈与税を100%猶予。ミニマムタックスの影響を間接的に軽減。
  • 注意点: 適用要件(従業員引継ぎ、事業継続など)が厳格なため、事前確認が必要。

4. ミニマムタックス対応のチェックリスト
ミニマムタックスの影響を踏まえ、M&Aを成功させるための実務的チェックリストを以下にまとめました。

  • 専門家との連携: 税理士、M&Aアドバイザー、弁護士と連携し、税務リスクを最小化。
  • 契約書作成: 税務当局の調査に耐えうる契約書(分割払い条件、役員退職金の根拠など)を準備。

5. まとめ:事前の準備でミニマムタックスの影響を最小化
ミニマムタックスは、2025年以降のM&Aや事業承継において、個人株主の税負担が大きく増えます。
譲渡益が3.3億円を超える高額案件では、税率上昇による影響が顕著です。
譲渡益の分散、役員退職金の活用、税制優遇措置の活用などの対策を講じることで、税負担を軽減しつつ、円滑なM&Aを実現しましょう。
そのためには譲渡スキームの検討など事前の準備が欠かせませんし、トップ面談でその考え方をすり合わせてもいいかもしれません。
日本財務戦略センターでは、ミニマムタックス対応を含めたM&Aの税務戦略を、経験豊富な専門家がサポートします。
無料相談も実施中ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考資料

日本財務戦略センターは、皆様のM&A・事業承継を成功に導くパートナーとして、全力でサポートいたします。

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