
2026年7月15日、国が民泊の扱いを変えました。平成29年のガイドラインで「適切ではない」としてきたゼロ日規制を、条件つきで認める通知が出ています。ただ、この記事で書きたいのは規制の強弱ではありません。民泊と旅館業のあいだには、それ以前から条文の作りそのものに差があります。片方には事業を次に渡す規定が3本あり、もう片方には1本もありません。
<a href="https://jfsc.jp/research/minpaku-hotel-succession-japan/">民泊は畳むしかない。ホテルは渡せる ── ゼロ日規制と承継の条文の差|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「民泊は畳むしかない。ホテルは渡せる ── ゼロ日規制と承継の条文の差」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/minpaku-hotel-succession-japan/通知の正体から確かめます。
「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」(健生衛発0715第1号/国不動第129号/観観産第78号)。令和8年7月15日付で、厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課長、国土交通省不動産・建設経済局不動産業課長、観光庁観光産業課長の3者連名。宛先は都道府県・保健所設置市・特別区の住宅宿泊事業主管部局長です。地方自治法第245条の4第1号に基づく技術的助言にあたります。
転換がどこにあるかは、資料の注記に一行で書かれています。
※ガイドライン(H29.12)では、ゼロ日規制については「適切ではない」としてきた。
これを覆して、こう書き換えました。
届出住宅に係るゼロ日規制は、昨今の施行状況を踏まえ、例えば、後述のようなケースにおいては、それぞれの自治体の判断において、合理的に必要と認められる限度において行うことは可能である。
想定されているのは2つの場合です。住宅地や教育施設の周辺で、宿泊者の頻繁な往来によって静穏な居住環境や清純な環境が損なわれるおそれがある場合。そして、定住人口や地域コミュニティの維持が困難になるおそれがある場合。いずれも、新たな住宅宿泊事業の実施を禁止すること、あるいは営業可能日を土日祝前日等に限定することが挙げられています。
新規だけではありません。
この区域で既に多くの住宅宿泊事業が実施され、現に静穏な居住環境が著しく損なわれているなどの強い必要性が認められ、他に適切な対応策が存在しない場合には、既存の届出住宅に対しても、一定の猶予期間を設けた上で、住宅宿泊事業の実施を禁止したり営業可能日を土日祝前日等に限定したりするなどの制限を設けることも考えられる
過去の営業を遡って違法にするものではなく、条例の施行後について将来に向けて制限する組み立てです。だから「一定の猶予期間を設けた上で」と書かれています。それでも、効果としては営業ができなくなります。
制度の話の前に、実際に何が起きていたかを見ます。
観光庁が公表している届出状況(令和8年7月15日時点)です。
| 件数 | |
|---|---|
| 届出件数(累計) | 65,837 |
| 事業廃止件数 | 23,767 |
| 届出住宅数(現存) | 42,070 |

本記事の内容は、出典リンクつきでご自由に引用いただけます(CC BY 4.0)。コピー用の引用タグは ページ冒頭の枠 にあります。
届け出た3件に1件以上が、すでに退出しています。廃止率36.1%。
自治体別に見ると、差がはっきりします。
| 自治体 | 届出(累計) | 廃止 | 現存 | 廃止率 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市 | 6,201 | 3,945 | 2,256 | 63.6% |
| 広島市 | 691 | 380 | 311 | 55.0% |
| 葛飾区 | 800 | 406 | 394 | 50.7% |
| 札幌市 | 6,075 | 3,034 | 3,041 | 49.9% |
| 台東区 | 2,413 | 1,040 | 1,373 | 43.1% |
| 港区 | 1,490 | 616 | 874 | 41.3% |
| 渋谷区 | 3,052 | 1,207 | 1,845 | 39.5% |
| 新宿区 | 5,496 | 1,721 | 3,775 | 31.3% |
| 京都市 | 1,818 | 503 | 1,315 | 27.7% |

大阪市は届け出た6,201件のうち3,945件が廃止され、残っているのは2,256件。3分の2が消えています。
民泊は年間180日までという制限がよく語られます。実際の稼働を見ると、話が違います。
2026年4月1日から5月31日までの2か月で、全国の宿泊日数は624,088日(前年同期比138.6%)。届出住宅あたりでは17.9日でした。年に換算すると約107日です。

上限は180日。平均は上限の6割にも届いていません。都道府県別で最も多い京都府でも25.0日、東京都が22.8日で、年換算150日・137日の水準です。
つまり多くの事業者にとって、天井が問題になる前に採算が問題になっていた、ということです。廃止率36.1%はその結果と読めます。
なお、この期間の宿泊者626,765人のうち、外国人は391,174人で62.4%でした。届出住宅数は5月31日時点で41,207、報告率は84.7%です。
規制の強弱は、時期によって変わります。変わらないのは法律の構造のほうです。
旅館業法には、営業を次の人に渡す規定が3本あります。
第三条の二(営業の譲渡)
前条第一項の許可を受けて旅館業を営む者(以下「営業者」という。)が当該旅館業を譲渡する場合において、譲渡人及び譲受人がその譲渡及び譲受けについて都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人は、営業者の地位を承継する。
第三条の三(合併・分割)
営業者たる法人の合併の場合……又は分割の場合……において当該合併又は分割について都道府県知事の承認を受けたときは、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人又は分割により当該旅館業を承継した法人は、営業者の地位を承継する。
第三条の四(相続)
死亡後60日以内に知事へ申請して承認を受ける仕組みです。しかも第2項で、申請してから承認または不承認の通知を受けるまでのあいだは、被相続人への許可を相続人にしたものとみなす、とされています。営業が止まる空白期間が出ないように作ってあります。

住宅宿泊事業法には、これに当たる規定がありません。本則79条を通して「地位を承継」という語は1件も出てきません。第3条にあるのは廃業等の届出です。住宅宿泊事業者である個人が死亡したとき、法人が合併により消滅したとき、破産手続開始の決定により解散したとき——いずれも、届け出て終わる規定です。
だから今回の通知は、こう書くことになります。
新たな住宅宿泊事業を実施することが禁止された後に、住宅宿泊事業者(届出者)の変更が生じた場合には、法第3条に基づく届出を新たに行う必要があることから、当該届出住宅において住宅宿泊事業を引き続き実施することはできない。
承継の条文がないので、届出者が変われば新規の届出しかありません。そして禁止区域では、その新規の届出ができない。
ここは誤解が生まれやすいところなので、分けて書きます。
条例によるゼロ日規制は区域にかかります。その区域にある届出住宅は、持ち主が誰であっても営業できません。会社ごと売って届出者である法人が変わらなかったとしても、規制そのものは効きます。
株式譲渡で回避できるのは、承継の問題だけです。整理するとこうなります。
| 禁止区域の中 | 禁止区域の外 | |
|---|---|---|
| 民泊・事業譲渡 | 営業できない | 新規の届出が必要(承継規定がない) |
| 民泊・株式譲渡 | 営業できない | 届出者が変わらないので継続できる |
| 旅館業 | そもそも規制の対象外 | 第三条の二で承継、株式譲渡なら手続不要 |
民泊は二重に詰みます。規制された区域では終わり。規制されていない区域でも、事業譲渡では次に渡せない。株式譲渡で回避できるのは後者だけで、前者は誰が買っても同じです。
通知の宛先は住宅宿泊事業の主管部局長で、対象は届出住宅です。旅館業については、次のように述べるに留まります。
当該地域の都市計画(宿泊施設等に対する立地規制)や、旅館業法第3条第3項による教育施設等の周辺における宿泊施設への許可の運用など、関連する規制との整合に留意されたい
ここで挙げられている手段は、都市計画と旅館業法第3条第3項です。どちらも今回の通知が作ったものではありません。第3条第3項は、学校・児童福祉施設・社会教育施設などの敷地の周囲おおむね100メートルの区域内で、清純な施設環境が著しく害されるおそれがあるときに許可しないことができる、という昭和23年からある条文です。新しい制限は一つも増えていません。
整理します。
| 今回の通知 | |
|---|---|
| 民泊(届出住宅) | 対象。ゼロ日規制を容認。既存にも猶予期間つきで制限しうる。届出者が変われば継続できない |
| 旅館業(許可) | 対象外。既存の第3条第3項と都市計画との整合に留意せよ、と述べるに留まる |
旅館業の側の数字を見ます。厚生労働省の衛生行政報告例(令和6年度)です。
| 施設数 | |
|---|---|
| 旅館・ホテル営業 | 52,946(客室 1,782,232室) |
| 簡易宿所営業 | 44,901 |
| 下宿営業 | 491 |
| 合計 | 98,338 |
1施設あたりの客室は平均33.7室です。
年度中の動きはこうなっています。
| 件数 | |
|---|---|
| 営業許可 | 7,720 |
| 営業廃止 | 2,817 |
| 営業許可の取消 | 26 |

許可の取消は、98,338施設に対して年26件です。割合にすると0.03%に届きません。
民泊は累計の36.1%が退出し、これから区域によっては営業そのものができなくなります。旅館業の許可は、年に26件しか取り消されていません。この差は、規制の厳しさというより制度の性格の差です。許可は、取り上げられにくいように作られています。
ここまでを一本にすると、こうなります。
宿泊業に入るなら、届出ではなく許可のある施設を取得する。そして取得の形は、株式譲渡でも、事業譲渡(第三条の二の承認)でも組めます。民泊にはその選択肢自体がありません。
前の記事で、宿泊業は外国人の買い手にとって運営面の適合性が高い一方、資金面の障壁が大きいと書きました。その資金の壁を越える方法が、「安く始める」から「許可ごと買う」に移った、というのが今回の変化です。
Q. 民泊はもうできなくなるのですか。
全国一律で禁止になるわけではありません。2026年7月15日の通知は、自治体が条例で区域を定めて制限することを認めたものです。どの区域がどうなるかは、各自治体の条例によります。ただし通知は、既存の届出住宅についても一定の猶予期間を設けたうえで制限しうるとしています。
Q. 会社ごと買えば、規制を避けられますか。
避けられません。条例による制限は区域にかかるので、持ち主が誰であっても効きます。株式譲渡で避けられるのは、届出をし直す手間だけです。しかもそれは規制されていない区域での話です。
Q. 民泊の事業を人に譲ることはできますか。
住宅宿泊事業法には、営業の地位を承継する規定がありません。本則79条に「地位を承継」という語は1件も出てきません。事業譲渡や相続では、新しい届出者が新規に届け出ることになります。禁止区域ではその届出ができないため、継続できません。
Q. 旅館業の許可は引き継げますか。
引き継げます。旅館業法第三条の二(譲渡)、第三条の三(合併・分割)、第三条の四(相続)で、いずれも都道府県知事の承認を受けることにより営業者の地位を承継します。相続については、申請から結果が出るまでのあいだ被相続人への許可を相続人にしたものとみなす規定があり、営業が止まりません。
Q. 今回の規制は、ホテルや旅館にもかかりますか。
かかりません。通知の対象は届出住宅(民泊)です。旅館業については、既存の都市計画や旅館業法第3条第3項との整合に留意せよと述べられているだけで、新しい制限は設けられていません。
Q. 簡易宿所なら民泊の代わりになりますか。
簡易宿所は旅館業法の許可であり、届出ではありません。承継の規定も旅館業法のものが適用されます。ただし通知は、住宅地の静穏な居住環境を保護する目的で民泊を規制する場合には簡易宿所等も同様に規制するといった整合に留意するよう求めています。手段は都市計画や旅館業法第3条第3項で、自治体の判断によります。
Q. 民泊の180日制限は、そんなに厳しいのですか。
統計上は、上限に届く前に止まっています。2026年4〜5月の届出住宅あたりの宿泊日数は17.9日で、年換算すると約107日です。最も多い京都府でも25.0日(年換算150日)でした。
Q. 旅館業の許可が取り消されることはありますか。
あります。ただし令和6年度の営業許可の取消は26件で、旅館業の施設98,338に対して0.03%に届きません。
<a href="https://jfsc.jp/research/minpaku-hotel-succession-japan/">民泊は畳むしかない。ホテルは渡せる ── ゼロ日規制と承継の条文の差|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「民泊は畳むしかない。ホテルは渡せる ── ゼロ日規制と承継の条文の差」(2026年9月21日) https://jfsc.jp/research/minpaku-hotel-succession-japan/民泊
旅館業
条文(e-Gov 法令検索で確認)
本稿は、観光庁の公表資料、厚生労働省・国土交通省・観光庁の連名による技術的助言(令和8年7月15日)、厚生労働省「衛生行政報告例」、および e-Gov 法令検索の条文を読んで整理したものです。個別の物件や取引について、可否や結果を判断・保証するものではありません。
ゼロ日規制は各自治体の条例によって定められるものであり、どの区域にどのような制限がかかるかは条例によります。本稿は通知の内容を説明するものであって、個別の条例の解釈を示すものではありません。実際の取引にあたっては、対象区域の条例そのものをご確認ください。
許認可の承継手続や申請の代理は、行政書士法・弁護士法により資格者の業務とされています。本稿は制度とデータを説明するものであって、申請書類の作成や申請の代理を行うものではありません。
記載に誤りがある可能性があります。お気づきの点がありましたら、お問い合わせよりご連絡ください。速やかに確認のうえ対応いたします。
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