破産した宿は、評判が悪かったのか

株式会社日本財務戦略センター|独自調査|2026年9月16日公開

破産した宿は、評判が悪かったのか

破産した旅館とホテルの口コミを、同じ町で営業している同じ業態の宿と並べて数えました。星の付き方に差はあるのか、差があるとしてどれくらいか。あわせて、破産した宿泊業の負債と、記事に書かれた破産の経緯、そして公表されている宿泊業の稼働率と損益の統計を並べ、口コミで説明できる範囲とできない範囲を分けました。

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<a href="https://jfsc.jp/research/hotel-bankruptcy-reviews-japan/">破産した宿は、評判が悪かったのか ── 旅館・ホテルの破産と口コミ・負債・稼働率を数えた|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「破産した宿は、評判が悪かったのか ── 旅館・ホテルの破産と口コミ・負債・稼働率を数えた」(2026年9月16日) https://jfsc.jp/research/hotel-bankruptcy-reviews-japan/
※ 他機関(官公庁・調査会社など)の公表数値を含む箇所は、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

結論

この調査で数えたこと

口コミの比較は、破産した宿泊業109社を起点にしています。このうち倒産記事に施設名が書かれていたのが67社、Googleマップで検索したのが66件、店名と市町村が一致して同定できたのが45件で、星の分布が取れた43施設を比較の対象にしました。

本調査の件数は、台帳で宿泊業と確認でき、かつ施設名が判った宿を数えた下限値です。施設名が記事に書かれなかった宿と、台帳に載らなかった宿は含まれていません。以下の各章の件数は、すべてこの下限値として読んでください。

Googleマップの星の分布には制約があります。ログインをしない状態では、☆1から☆5それぞれの件数(全期間の合計)は読めますが、個別の口コミは新しい順に5件までしか表示されません。そのため本調査の指標はすべて全期間の値で、破産の前と後に切り分けることはできません。閉業の表示がある宿については、口コミは事実上すべて破産の前のものになります。営業中の表示が残っている宿は、破産の後に別の営業者が続けている可能性があるので、集計を分けています。

破産した宿と同じ町の営業中の宿の口コミ(☆1の比率・☆1+☆2の比率・平均点)
図1 破産した宿と同じ町の営業中の宿の口コミ(☆1の比率・☆1+☆2の比率・平均点)(クリックで拡大)

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1 破産した宿の口コミは、同じ町の宿とどう違ったか

破産した宿泊業の法人109社のうち、倒産記事に施設名が書かれていたのは67件で、そのうち66件をGoogleマップで検索しました。店名が施設名と一致し、住所の市町村も一致したのは45件です。一致しなかった21件(店名が違う10件、検索の一覧に無い6件、住所が違う5件)は、別の施設を数えてしまうので集計から外しました。さらに口コミが1件も無い2件を除き、43施設が集計の対象です。

対照は、この45施設それぞれについて、同じ市町村・同じ業態で営業している宿を、検索結果の一覧から抽選で3件ずつ選びました。上から順に取ると評判の良い宿に寄るため、並び順は使わず、種を固定した乱数で選んでいます。点数を見てから選び直すことはしていません。選ばれた135件のうち、口コミのある134施設が対照です。

施設数☆1の比率☆1+☆2の比率平均点口コミ件数
破産した宿(全体)434.9%11.9%3.68115
うち閉業の表示あり295.8%13.9%3.65115
うち営業中の表示143.9%8.7%3.96109
同じ町の宿(対照)1343.4%7.1%4.07304

☆1の比率は4.9%と3.4%で、破産した宿の方が高くなりました。平均点は3.68と4.07です。閉業の表示がある29施設に限ると☆1は5.8%、平均点は3.65で、差はもう少し開きます。営業中の表示が残っている14施設は☆1が3.9%、平均点3.96で、対照に近い値です。

差の大きさは、分布で見た方が正確です。

破産した宿同じ町の宿
☆1が全体の10%を超える21%10%
☆1が全体の5%を超える49%33%
平均点が3.5未満30%10%
平均点が4.0以上23%54%
口コミが100件未満42%31%

☆1が全体の10%を超える宿は、破産した側で21%、対照で10%でした。平均点が3.5を下回る宿は30%と10%です。破産した側に評判の悪い宿が多いのは確かですが、対照の側にも同じ水準の宿が一定数あり、破産した宿の23%は平均4.0以上でした。点数の分布は重なっています。

業態をそろえた比較

対照は同じ業態から選んであるので、旅館とホテルに分けても比較になります。

業態破産した宿の施設数☆1の比率平均点対照の施設数☆1の比率平均点
旅館304.7%3.80923.3%4.17
ホテル127.6%3.35394.0%3.80

旅館では☆1が4.7%と3.3%、平均点が3.80と4.17で、差は小さめです。ホテルでは☆1が7.6%と4.0%、平均点が3.35と3.80で、差が大きく出ました。ただしホテル側は破産した宿が12施設しかなく、数施設の入れ替わりで動く値です。

旅館とホテルに分けた☆1の比率と平均点
図2 旅館とホテルに分けた☆1の比率と平均点(クリックで拡大)

2 口コミの数は、対照の半分以下だった

点数より差がはっきりしたのは、口コミの数でした。中央値は破産した宿が115件、対照が304件で、2.6倍の開きがあります。口コミが100件に満たない宿は、破産した側で42%、対照で31%でした。

口コミ件数の分布
図3 口コミ件数の分布(クリックで拡大)

この差を「客が来ていなかった」と読むことはできません。Googleマップの口コミの件数は、施設の規模にも比例するからです。客室が100室ある宿と10室の宿では、同じ稼働率でも泊まった人の数が10倍違い、口コミの数もそれに従います。本調査で客室数が取れたのは破産した側の3施設だけで、対照については取れていません。したがって、2.6倍の差のうちどれだけが規模の差で、どれだけが稼働や集客の差なのかは、このデータでは分けられません。

規模の影響を減らすために使えるものが2つあります。

1つは業態をそろえた比較です。対照は破産した宿と同じ業態から選んでいるので、旅館どうし、ホテルどうしで比べられます。

業態破産した宿の施設数口コミ件数の中央値対照の施設数口コミ件数の中央値
旅館30122922462.0倍
ホテル12102395295.2倍

旅館では2.0倍、ホテルでは5.2倍でした。業態をそろえても差は残りますが、業態の中でも客室数のばらつきは大きいので、これで規模の影響が消えるわけではありません。

もう1つは、全国の平均の規模を参考値として置くことです。厚生労働省の衛生行政報告例では、令和6年度末の旅館・ホテル営業は52,946施設・1,782,232室で、1施設あたり33.7室になります。日本旅館協会の調査に回答した旅館の1軒あたりの客室数は66室で、こちらは規模の大きい旅館に寄った値です。本調査の宿がこの分布のどこにあるかは判っていません。

なお、☆1の比率と平均点は口コミの件数で割った指標なので、件数そのものの多い少ないからは影響を受けにくくなります。1章の比較は、この意味では規模の差に強い側の指標です。


3 それでも、口コミだけでは説明できない

口コミの差は、あっても1.4倍ほどでした。一方で、破産した宿の財務には、もっと大きな差が出ています。

倒産記事に負債総額の金額が書かれていたのは15社で、中央値は3億円、四分位は1.55億円から7.75億円でした。業態で分けると、ホテルが8社で5.8億円、旅館が7社で2.5億円です。

最盛期の売上高も書かれていた13社について、負債を最盛期の売上高で割ると、中央値は1.25倍でした。四分位は0.56倍から2.22倍で、62%の社は負債が最盛期の売上高を超えています。

では、この負債の重さは、破産した会社に共通のものなのでしょうか。比較のため、同じ台帳から同じ方法で数えた建設会社の破産(184社)を見ると、負債を最盛期の売上高で割った中央値は0.60倍でした。宿の1.25倍は、その2倍にあたります。本調査が見ているのは破産した社だけで、営業を続けている宿の負債の比と比べたわけではないので、宿泊業全体が重いのか、破産した宿が重かったのかは分けられません。

負債と最盛期売上高の比、負債総額の分布
図4 負債と最盛期売上高の比、負債総額の分布(クリックで拡大)

設立年が書かれていた14社の中央値は1984年で、79%が設立から30年以上、43%が50年以上でした。資本金が書かれていた11社の中央値は1,500万円です。いずれも記事が経緯まで書いた社に限った値で、大きく古い側に寄ります。


4 潰れた理由として、記事に書かれていたこと

台帳の宿泊業109社のうち、記事の本文が取れたのは57社、そのうち経緯まで書かれていたのは20件でした。この20件に、計算前に固定した語彙(APPENDIX B)を当てています。1件に複数の原因が当たることがあります。

記事に書かれていたこと件数割合うちホテルうち旅館
コロナ・ゼロゼロ融資の返済1470%77
燃料・光熱費・食材の高騰525%05
宿泊客の減少420%22
施設の老朽化・改装投資の負担315%21
災害(地震・豪雨・台風)315%03
競合(新規開業・民泊・価格競争)15%10
粉飾・不正・横領15%10
後継者不在・代表者の高齢00%00
人手不足00%00
OTA手数料・販売経路00%00
上のどれも当たらない630%

コロナ関連融資の返済に触れる記事が14件で最も多く、燃料・光熱費・食材の高騰が5件、宿泊客の減少が4件でした。宿泊客が減ったという記述より、返済と費用についての記述の方が多く出てきます。

業態で分かれたのは高騰と災害です。燃料・光熱費・食材の高騰は旅館側に偏っています(旅館9件のうち5件、ホテル11件のうち0件)。災害の記述も旅館側に3件あります。

記事に書かれた破産の経緯
図5 記事に書かれた破産の経緯(クリックで拡大)

分母は20件しかなく、6件(30%)には原因の語がありません。ここで数えているのは「記事に書かれた範囲」であって、破産の原因そのものではありません。後継者不在と人手不足が0件なのは、その理由で潰れた宿が無いという意味ではなく、記事がそこまで書いていないという意味です。


5 宿泊業の損益は、どこで差がついているか

口コミと負債だけでは、なぜ評判の悪くない宿が潰れるのかは説明できません。公表されている統計では、宿泊業の損益はいくつかの軸で大きく分かれています。

稼働率が業態で倍ちがう

観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2025年の客室稼働率は全体で61.6%でした。業態別では次のとおりです。

業態客室稼働率定員稼働率
ビジネスホテル75.3%60.9%
シティホテル74.1%60.8%
リゾートホテル56.9%41.0%
旅館38.2%22.4%
簡易宿所29.6%16.2%
全体61.6%40.6%

旅館の客室稼働率は38.2%で、ビジネスホテルの75.3%の約半分です。定員稼働率で見ると旅館は22.4%で、ビジネスホテルの60.9%の3分の1近くになります。旅館は1室に複数人を泊める設計なので定員稼働率は低く出ますが、それでも空いている客室と空いている定員の両方が多いことは変わりません。

従業者の規模で分けると、差はさらにはっきりします。

規模客室稼働率
従業者0-9人35.6%
従業者10-29人70.4%
従業者30-99人71.5%
従業者100人以上70.8%

従業者9人以下の施設は35.6%で、10人以上の施設の70%台と倍近い開きがあります。本調査で破産した宿には旅館と小規模な施設が多く、この規模別の差は1章の比較の背景にあたります。

全国の客室稼働率は2019年の62.7%から2023年に57.0%まで下がり、2024年59.6%、2025年61.6%と戻っています。全体としては戻っていても、業態と規模による差は残ったままです。

業態別・規模別の稼働率
図6 業態別・規模別の稼働率(クリックで拡大)

黒字の旅館と赤字の旅館は、どこが違うか

日本旅館協会の営業状況等統計調査は、会員の旅館151軒の決算を集計したものです。経常利益が黒字だった旅館は70.9%で、黒字の旅館と赤字の旅館を並べると、差の出ている項目が分かります。

指標黒字の旅館赤字の旅館
客室稼働率63.6%54.1%
定員稼働率43.4%35.1%
ADR(1室あたりの平均単価)55,336円60,313円
人件費率28.7%34.5%
減価償却費率6.0%8.1%
支払利息率1.7%2.9%
自己資本比率23.1%▲14.5%
借入金償還年数6.9年75.1年
GOP率(総売上に対する営業総利益)14.6%3.1%

出典:(一社)日本旅館協会「営業状況等統計調査」(令和6年度決算・回答151軒)https://www.ryokan.or.jp/top/news/detail/698

読みどころは単価です。赤字の旅館の方が1室あたりの平均単価は高く、客室稼働率が低い。値下げ競争で赤字になっているのではなく、単価は取れているのに部屋が埋まっていない形です。その上に人件費率が5.8ポイント、減価償却費率が2.1ポイント、支払利息率が1.2ポイント重なり、営業総利益(GOP)の率が14.6%と3.1%に開きます。

いちばん差が大きいのは借入金償還年数で、黒字の旅館の6.9年に対して赤字の旅館は75.1年でした。営業から生まれる利益で借入を返す年数なので、赤字の旅館では事実上返済の見通しが立たないことを意味します。回答した旅館全体でも、長短借入金は総資本の67.4%を占めます。

人件費率は規模でも変わり、規模の小さい赤字の旅館では43.6%に達します。

黒字の旅館と赤字の旅館
図7 黒字の旅館と赤字の旅館(クリックで拡大)

規模が小さいほど、損益分岐点が高い

日本政策金融公庫の小企業の経営指標調査は、融資先のうち従業者50人未満の企業を集計したものです。宿泊業90社の売上高営業利益率は平均-1.0%、中央値1.0%、損益分岐点比率は平均103.4%、借入金回転期間は平均11.7か月でした。客室数で分けると次のようになります。

区分売上高営業利益率(平均)損益分岐点比率(平均)借入金回転期間(平均)
旅館・ホテル全体(66社)-1.7%105.0%13.7か月
観光地旅館 15室以下(9社)-6.2%109.8%15.9か月
観光地旅館 16〜30室(14社)2.5%100.4%13.6か月
観光地旅館 31室以上(5社)4.3%98.6%9.7か月
ビジネスホテル 31室以上(10社)0.5%102.9%12.9か月

観光地旅館では、15室以下が営業利益率▲6.2%・損益分岐点比率109.8%、31室以上が+4.3%・98.6%で、規模の小さい側が損益分岐点を超えられていません。損益分岐点比率が100%を超えるとは、その年の売上が損益がゼロになる水準に届いていないということです。

倒産の集計でも、同じ方向が出ている

帝国データバンクの集計では、2025年の宿泊業の倒産は89件(前年78件)、休廃業・解散が178件で、合わせて267件が市場から退出しました。倒産・廃業のうち三大都市圏以外が75.3%を占めます。同社は、倒産の要因に施設の老朽化や修繕・故障が含まれる件数が直近5年で58件(14.6%)あり、2011年から2015年の8.9%より増えていることを示しています。

稼働が低い、単価は取れているのに部屋が埋まらない、固定費と利息が重い、設備が古くなっても更新の投資ができない。公表統計が挙げているのはこの並びで、客の評価そのものではありません。

それでも、なぜホテルや旅館をやるのか

ここまでの数字だけを並べると、疑問が残ります。固定費と借入の負担がこれだけ重くなりやすい事業を、なぜ続けるのでしょうか。

宿泊業には、ほかの業種と違う点があります。客室という固定資産をいちど作れば、同じ部屋を一日に一組、年間では何百組にも販売できます。稼働率が上がるときに、設備を大きく増やさずに売上を伸ばせる事業です。ただし客室は保存のきかない在庫で、その日に売れなかった部屋は翌日に持ち越せません。前の節で見た「単価は取れているのに部屋が埋まらない」「固定費と利息が残る」という形は、この構造の裏側にあたります。稼働が上がるときの伸びと、下がるときの重さは、同じ仕組みから出ています。

都心のビジネスホテルやシティホテルには、もう一つの面があります。駅前や都心部の限られた土地を、宿泊という形で使えることです。本調査で見てきた稼働率と損益は事業の側の数字で、土地や建物そのものの価値は含んでいません。宿泊事業として返済が難しくなっていても、立地や建物、常連客との関係には値が残っていることがあります。

つまり、宿の破産は「その場所や建物の価値がなくなった」という意味ではありません。事業としての収益と、資産としての価値は、別々に見る必要があります。次の章で見る合併や承継の記録は、事業としては続かなかった宿を、別の運営者が引き継いだ記録でもあります。


6 売られた宿は、どうだったか

破産の手前には、事業を売るという経路があります。

国税庁の法人番号公表サイトから、商号に宿泊業の語を含む法人が合併で消えた記録を集めました。抽出した1,856件から、宿泊業でないもの1,420件(「イン」がデザイン・ラインなどの一部である社が大半)を除き、判断がつかない185件を残置して、251社を集計しています。引き継いだ相手は次のとおりです。

引き継いだ相手社数割合
グループ内の再編10943%
同業の宿泊会社が買った3815%
不動産・開発・建設系が買った146%
その他の事業会社が買った8735%
承継先が判らない31%

最も多いのはグループ内の再編で109社、次がその他の事業会社87社、同業の宿泊会社が38社、不動産・開発・建設系が14社でした。引き継いだ相手が同じ都道府県にある割合は66%(163件/248件)ですが、同業の宿泊会社が買った38件に限ると同じ県内は16件で、県外からの方が多くなります。運送業で見られた「隣の会社に買われる」形とは逆で、宿は県をまたいで買われています。

年別では2020年が13社と落ち込み、2025年は36社でした。

合併で消えた宿泊業の会社と引き継いだ相手
図8 合併で消えた宿泊業の会社と引き継いだ相手(クリックで拡大)

引き継いだ先がその後さらに消えた例も12件あり、消えるまでの年数の中央値は2.4年でした。ただしこのうち大半は、承継先がさらに合併で消えたグループ再編の連鎖です。

東京商工リサーチの調査では、2025年度に事業譲渡をした後で倒産した企業は213件あり、2024年度と合わせた440件のうち旅館・ホテルが31件(7.0%)で業種別の最多でした。形態は特別清算が240件、破産が189件です。事業を譲り渡した後に残った会社を整理する形が、宿泊業でよく使われていることになります。

営業者が替わった宿の口コミは、替わる前から悪かったのか

自治体が公表している旅館業の許可の記録から、施設はそのままで営業者だけが替わった宿を取り出し、じゃらんの口コミを承継の前まで遡って集めました。口コミは1件ずつに投稿日と宿泊年月が付くので、承継の年より前だけを切り出せます。集めた口コミは11,002件、うち承継前が5,431件です。最も古い口コミは2002-04まで遡れました。

承継前の口コミが20件以上ある施設だけで比べると、次のようになります。

施設数☆1の比率☆1+☆2の比率平均点承継前の口コミ件数
営業者が替わった宿51.9%5.8%3.81289
同じ市の宿(対照)160.4%3.7%3.88178

☆1の比率は1.9%と0.4%で営業者が替わった側が高く、平均点は3.81と3.88でほぼ同じでした。施設数が5と16しかなく、営業者が替わった側の値は対照の幅の中に収まります。この範囲では、売られた宿の評判が売られる前から悪かったとは言えません。

作業の中で、別のことが分かりました。営業者が替わった9施設のうち2施設は、掲載そのものが承継の前後で作り直されていて、前の営業者の時代の口コミが残っていません。施設名が変わっただけの宿では、同じ掲載に口コミが続いていました。口コミの履歴がある年で切れていること自体が、営業者が替わった痕跡になっている場合があります。


7 この調査の限界


よくある質問

Q. 破産した旅館やホテルは、口コミが悪かったのですか。

同じ町・同じ業態の営業中の宿と比べると、☆1の比率は4.9%と3.4%、平均点は3.68と4.07で、破産した側の方がやや悪い値でした。ただし破産した宿の23%は平均4.0以上で、対照にも☆1が10%を超える宿が10%あります。点数の分布は重なっていて、口コミだけで見分けられるほどの差ではありません。

Q. 口コミが良ければ、ホテルや旅館は潰れませんか。

本調査の範囲では、平均4.0以上の宿も10施設が破産しています。公表統計では、赤字の旅館は黒字の旅館より客室稼働率が低い一方で1室あたりの単価は高く、借入金償還年数は75.1年でした。客の評価と、借入を返せるかどうかは別の問題です。

Q. 旅館とホテルで違いがありますか。

本調査では、旅館は☆1が4.7%(破産)と3.3%(対照)で差が小さく、ホテルは7.6%と4.0%で差が大きく出ました。ただしホテルは破産した側が12施設しかありません。公表統計では旅館の客室稼働率が38.2%、ビジネスホテルが75.3%で、稼働の水準そのものが業態で倍ちがいます。

Q. 宿泊業(ホテル・旅館など)の倒産は年に何件ありますか。

帝国データバンクの集計では、2025年の宿泊業の倒産は89件、休廃業・解散が178件で、合わせて267件でした。本調査の台帳では、破産手続が始まった宿泊業の法人を109社(2024年3月〜2026年8月)取り出しています。数え方と対象期間が違うため、そのまま比べることはできません。

Q. ホテル・旅館は、破産と売却ではどちらが多いのですか。

本調査で数えた合併は2016年以降の251社で、年に20〜36社です。一方、厚生労働省の衛生行政報告例では、令和6年度中の旅館業の営業廃止は2,817件、新規の許可は7,720件でした。合併は宿がなくなる経路のごく一部で、大半は廃止の届出です。宿の承継の件数については、別稿「宿は、年に何軒売られているのか」で推定しています。

Q. 破産したホテル・旅館の負債はどれくらいですか。

記事に金額があった15社の中央値は3億円で、四分位は1.55億円から7.75億円でした。最盛期の売上高に対する比は13社の中央値で1.25倍です。金額が書かれる社は規模の大きい側に寄ります。

Q. ホテルや旅館が潰れる理由として、いちばん多く書かれているのは何ですか。

経緯が書かれた20件のうち、コロナ関連融資の返済に触れるものが14件(70%)で最も多く、燃料・光熱費・食材の高騰が5件、宿泊客の減少が4件でした。分母が小さく、記事に書かれた範囲の数です。

Q. 赤字の旅館は、値下げをしているのですか。

日本旅館協会の調査では、赤字の旅館の1室あたりの平均単価は60,313円で、黒字の旅館の55,336円より高い値でした。客室稼働率は54.1%と63.6%で、赤字の旅館の方が低くなっています。単価を下げて客を集めている形ではなく、単価は取れているのに部屋が埋まっていない形です。

Q. 口コミの数が少ないのは、客が少なかったということですか。

そうとは限りません。口コミの件数は施設の規模にも比例し、客室数が多い宿ほど多くなります。本調査では客室数がほとんど取れていないため、2.6倍の差のうちどれだけが規模によるものかは分けられていません。業態をそろえても旅館で2.0倍、ホテルで5.2倍の差が残りますが、業態の中でも客室数のばらつきは大きく、これで規模の影響が消えるわけではありません。

Q. このデータは使えますか。

はい。集計データはCSVで配布しています(APPENDIX D)。CC BY 4.0で、出典としてこの記事へのリンクを付けてください。施設名と法人名は含んでいません。


APPENDIX A 調査対象と方法

項目内容
破産の台帳官報の破産公告(官報AI)、東京経済の倒産情報、JC-NETの倒産記事を法人番号で重ねた19,616社。このうち商号または業種の記載から宿泊業と判定した109社(2024年3月〜2026年8月)
施設名の特定倒産記事の本文に書かれた施設名。自治体の旅館業許可名簿との突合は、破産の多い県に法人名つきの名簿が無く成立しなかった
口コミGoogleマップの施設ページの星の分布(☆1〜☆5の件数・全期間)。取得は2026年9月。ログインはしていない。個別の口コミの本文は取得・引用していない
同定施設名+市町村で検索し、店名が施設名と一致し、かつ住所の市町村が一致したものだけ採用。閉業の表示の有無を記録
対照同じ市町村・同じ業態で営業している宿を、検索結果の一覧から種を固定した乱数で3件。閉業表示のある施設と、破産した施設と同名のものは除外
指標☆1の比率=☆1の件数÷全件数、☆1+☆2の比率、平均点=Σ(星×件数)÷全件数、口コミ件数。いずれも全期間の値
負債・売上・設立・資本金・客室数JC-NETの記事本文と、東京商工リサーチ・帝国データバンクの無料公開速報から正規表現で抽出。単位(億・万)を必ず取り、取れない社は欠損
原因計算前に固定した語彙(APPENDIX B)を、経緯の記述がある20件に当てた。数えた後に辞書を変えていない
合併国税庁 法人番号公表サイトの全件データから、商号に宿泊業の語を含む法人の閉鎖事由「合併」と承継先法人番号。引き継いだ相手の型は、商号の語幹の一致・同一住所・商号の業種語で判定
じゃらんの遡り自治体が公表する旅館業許可の記録から営業者が替わった施設を取り出し、じゃらんの口コミ(投稿日・宿泊年月・総合点つき)を承継年より前だけ集計。承継の月が判らないため、承継年の口コミは前後どちらにも入れていない
公表統計観光庁「宿泊旅行統計調査」、(一社)日本旅館協会「営業状況等統計調査」、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」、帝国データバンク、東京商工リサーチ、厚生労働省「衛生行政報告例」。いずれも集計値を引用し、本文の転載はしていない

APPENDIX B 破産の経緯を数えた語彙

計算前に固定し、数えた後に変更していません。1件に複数が当たることがあります。

コード原因拾う語の例
coronaコロナ・ゼロゼロ融資の返済コロナ、ゼロゼロ、実質無利子、借入金の返済負担、緊急事態宣言、外出自粛
kyaku宿泊客の減少宿泊客が減少、利用客の落ち込み、団体客の減少、インバウンドの減少、稼働率の低下、売上高の減少
roukyu施設の老朽化・改装投資の負担老朽化、建物の劣化、改装、改修費、リニューアル、修繕費、設備の更新、耐震
hitode人手不足人手不足、人材の確保、従業員の退職、スタッフの不足
kotou燃料・光熱費・食材の高騰光熱費、燃料費の高騰、電気料金の上昇、食材費の高騰、原材料の高騰、仕入価格の上昇、人件費の上昇
kokei後継者不在・代表者の高齢後継者が不在、事業承継が困難、代表者の高齢・死去・病気
saigai災害地震、震災、豪雨、水害、台風、土砂、噴火、被災
kyogo競合競合、競争の激化、新規参入、民泊、価格競争、大手チェーンの進出
kaseki過大な設備投資・借入・債務超過債務超過、過剰な投資、設備投資の負担、借入金の増加、資金繰りの悪化
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kaseki(資金繰り・債務超過・過大投資)は結果でもあるため、本文の表からは外し、他の原因が1つも当たらない記事だけを別枠で数えています。saigai は宿泊地の被災を拾う目的で入れましたが、「災害」の語は防災や保険の文脈でも当たります。

APPENDIX C 差の統計検定

本文では差の大きさをそのまま書きました。その差が、標本の取り方で出た偶然の幅に収まるかどうかを、施設単位で検定します。検定したのは施設数のある2つだけで、原因の20件、承継の施設、負債の15社、公表統計は件数が少ないか標本の性質が違うため検定していません。

指標破産した宿(n=43)の中央値対照(n=134)の中央値効果量 r(95%信頼区間)p値(Mann-Whitney U・両側)
平均点3.684.07-0.42(-0.60〜-0.23)0.001未満
☆1の比率4.9%3.4%+0.19(-0.03〜+0.40)0.064
口コミの件数115件304件-0.31(-0.48〜-0.14)0.002
指標破産した宿対照比(95%信頼区間)p値(Fisherの正確確率・両側)
平均4.0以上の施設10/43(23%)73/134(54%)0.43倍(0.24〜0.75)0.001未満

効果量 r は順位双列相関で、破産した宿が対照を上回る確率から下回る確率を引いた値です。0なら差なし、−1なら破産側が必ず下、+1なら必ず上を意味します。信頼区間は、両群から復元抽出で選び直す操作を1万回くり返して求めました(乱数の種は固定)。

読み方は3つです。平均点は破産した宿の方が低く、偶然では説明しにくい差です(p<0.001、効果量−0.42)。口コミの件数の差も同じ向きではっきり出ます(p=0.002、−0.31)。一方で、☆1の比率の差は、統計的にははっきりしません(p=0.064、効果量+0.19で信頼区間が0をまたぐ)。本文で「☆1の比率は4.9%と3.4%」と書いた差は、この標本の大きさでは偶然の幅に収まる範囲にあります。平均4.0以上の施設の割合は、破産側が対照の0.43倍(0.24〜0.75、p<0.001)で、こちらははっきり差があります。

検定はいずれも、破産の前後を分けない全期間の値に対するものです。差の有無を示すだけで、口コミが破産の原因であることを示すものではありません。


APPENDIX D 集計データ

この記事の集計データをCSVで配布します。施設名・法人名・所在地の詳細は含みません。CC BY 4.0です。

【引用・転載について】
本記事は、事前のご連絡なしにご自由に引用・転載いただけます(CC BY 4.0)。引用の条件として、当記事へのリンク(出典明記)をお願いします。
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<a href="https://jfsc.jp/research/hotel-bankruptcy-reviews-japan/">破産した宿は、評判が悪かったのか ── 旅館・ホテルの破産と口コミ・負債・稼働率を数えた|株式会社日本財務戦略センター</a>文章での出典表記:株式会社日本財務戦略センター「破産した宿は、評判が悪かったのか ── 旅館・ホテルの破産と口コミ・負債・稼働率を数えた」(2026年9月16日) https://jfsc.jp/research/hotel-bankruptcy-reviews-japan/
※ 他機関(官公庁・調査会社など)の公表数値を含む箇所は、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

出典

五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。日本CFO協会認定 プロフェッショナルCFO M&Aエキスパート/中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員/中小M&Aガイドライン第3版 遵守宣言済です。

本稿は、公開されている口コミの星の分布、官報の公告、倒産情報サイトの公開記事、国の統計と業界団体の公表資料を機械的に集計したものであり、特定の宿についての評価や、破産・承継の推奨ではありません。口コミの本文は取得も引用もしておらず、集計しているのは星の件数だけです。施設名・法人名は集計データに含めていません。
原因の語彙は計算前に固定したもので、記事に書かれた範囲を数えています。相関は因果を示しません。星の分布は全期間の値で、破産の前と後には切り分けられません。
集計や記載に誤りがある可能性があります。お気づきの点がありましたら、お問い合わせよりご連絡ください。速やかに確認のうえ対応いたします。

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