買い手としての上場企業とオーナー企業

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公開日:2020年8月27日 /最終更新日:2020年10月16日

どういった企業が譲受会社(買い手)となるのか、というのは結構気になる論点かと思います。

一長一短はあるかと思いますが、経験的な観点から私見を。

上場企業の場合、公開会社であり、マーケットを通じて広く出資を行なっている(株式の売買が行われている)こともあり、公明正大、客観的に財務資料を出す必要があります(一般的な考え方では)。

そのため株主に説明責任を果たすため監査法人、公認会計士を入れ査定を行う必要がありますし、時価換算や引き当て、減損など中小オーナー企業の税務会計では論点にならなかったところを指摘して来るため、「思っていた譲渡金額ではなかった!」ということがしばしばあります。

ただし買い手としてのシナジー自体は大きい可能性が高いこと、また資金調達能力は高いことが多いため、買い手として魅力的ではあると思いますし、譲渡の説明を行う際に際しても、やはりみんなが知っている(特にいい意味であればなおさら)企業に対しての譲渡であればハレーションも少ないですし、譲渡を行う経営者も残って経営を行うのであれば、安心感も高いのかなあと思います。ただし譲渡後は連結され、公開会社に連結されるため、株主からの評価も受けざるを得ず、今までのオーナー社長としての立場とは変わって来ると思います(譲渡後、意外と馴染んだ方もいらっしゃるので、やってみないとわからないところもあります)。

オーナー企業の場合、バリュエーションについてはそれほど細かく言われないことが多いです。場合によってはお互いに事業構造がわかっているので簿価ベースで判断し、その上で話し合いに入ることが多いので、そこでやれ減損だのやれ引き当てだのという話になることは少ない印象です。

ただしオーナーとオーナーなので、相性がものを言って来ることが多いと思います。譲渡側もオーナーなのでよくわかると思いますが、やはり相性というところが一番大きい要因だと思いますし、譲渡後のトラブルについても考え方や相性の要因が大きいところがあると思いますので、その点について事前に確認すべきだと思います(こちらは譲渡側が)。

弊社は上場企業が相手の場合には事前に提示されるべき事項を伝え感情的なハレーションが起きないように努めますし、オーナー企業が相手の場合には事前にパーソナリティをお互いに伝え、かつ譲渡後、どのように進めていくのかを双方同席の上、打ち合わせをいたします。

両者ともメリットデメリットはありますが、いずれに対しても調整するように努めますので、もしご不安な点がございましたらご遠慮なくお問い合わせいただければ幸甚です。

9.閑話休題 M&A関連書籍雑感

オフィス新設に伴い、自宅に保管していたM&A関連書籍を随時移しております。

色々とある中で、一番最初にM&Aというものに対して興味を持った人が読むと面白い本はなんだろうと思ったときに木俣 貴光さんの書かれた小説、「企業買収」が面白いんじゃないかなと思います。

木俣さんは三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社チーフコンサルタント。早稲田大学政治経済学部卒業後、出光興産、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタントを経て現職とのことで、このほかにも実務向けの書籍などを著されています。

この本のおもしろいところは、実務的なプロセスも把握できながら、その時の力関係や感情の動き(売り手買い手)が鋭敏に描かれており、「そうそう、私の時はここでこうだった(し、こうすればよかった)」と思いながら読めるという事では、実務経験がある人間にとっても面白い本だと思います。

また多くの売り手や買い手にとってはM&Aは初めてであり、また1回うまくいったくらいの買い手も「M&Aって簡単なんだよね」と思って臨んでいることが多いので、その心理状態が分っている我々にとっては「いうほど簡単なものではないので、この本読んでもう少し謙虚に取り組んだ方がお互いいいのに…」と思うこともあります。

なぜ売り手や買い手が自分自身が優位に立っているように錯覚するかというとシンプルで、買い手は「買ってやる」という認識になってしまいますし(これが慣れてきているところだと、「売っていただく」という姿勢になるので、最初のタイミングでのハレーションは減ります)、売り手は利益が出ていれば売らなくてもいいという選択肢を取れることと、他に高く出てくるのではないのかという点、また売り手も完全に自社の内容を把握していないことから、瑕疵が全くない前提で話をするため、本書にあるように後で瑕疵が発見されてしまった場合、立場がだいぶ変わってしまうことがあります。
その意味からすればお互いに謙虚になってやっていった方が、譲渡後もハレーションが減りますし、感情的なしこりを残しても成約可能性が減るだけなのになあと我々のような立場からすると思ってしまうわけです。

少し話がそれましたが、M&Aの一連の流れとその中で発生するブレイク要因と、その都度、登場人物の心理状態がこうも変わるのかという群像劇(といういい方は言い過ぎですが)とみても面白いかもしれません。

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