日本M&Aセンター 契約書偽造・不正計上問題とそこから学ぶべきこと

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公開日:2022年2月16日 /最終更新日:2022年2月25日

*2022年2月25日追記しました

日本M&Aセンター契約書偽造・不正計上問題とは

斯界で日本M&Aセンターで何か大変なことが起きているのでは?と昨年末から一部でささやかれていたことがついに顕在化しました。
仲介会社に限らずM&Aに関わるものとしても、一社会人としても参考になるところは多いと思います
今回は特定の法人について面白おかしく揶揄するのではなく、事象の解説と不正の発生原因について、当該法人の調査報告書を引用しながら、M&A仲介の立ち位置や買い手売り手皆様が付き合う相手を判断するときにどういった点を見たらいいのか、というところを最後に考えてみたいと思います。

日本M&Aセンター契約書偽造・不正計上問題概略

時事通信や朝日新聞がすでに報じていますが、簡単にいうと、本来、成約してから立てるべき売り上げを社内の営業目標のために成約する前に計上していたということです。
上場企業の場合、売り上げを計上するには厳密な基準があるので、これだけでも問題かなと思いますが(調査報告書では運用は可能と結論づけていました)、売上計上の社内承認を行うため、売り手や買い手との間で取り交わす契約書を偽造し、しかも(後述するように全社を挙げているわけではないのですが)組織ぐるみで前倒し計上を行うよう部下に命じている部門長(部長)が複数いたという事が発覚しています。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022021501073&g=eco
https://www.asahi.com/articles/ASQ2G5VQXQ2GULFA00C.html

M&A(合併・買収)仲介大手の日本M&Aセンターホールディングスは14日、成約前の仲介業務の契約書の写しを偽造するなどして売上高を一時的にかさ上げする不正が多数あったと発表した。約80人が計83件の不正に関与し、大半が2020年度以降に発生。厳しい目標設定が背景にあるとみられる。  同社は1991年創業の東証1部上場企業で、事業の売り手と買い手を仲介するなどして報酬を稼ぐ。  外部弁護士らによる調査報告書によると、報酬が出ていない仲介案件が成約したかのように装って売り上げを計上していた。顧客の署名や印鑑をコピペ(コピー&ペースト)するなどして契約書の写しを偽造。不正の多くは部長らが指示したり了解したりしていた。83件のうち13件は成約に至らず、報酬が入らなかったという。

朝日新聞 2月14日ネット記事より

この大規模な有印私文書偽造を伴った「不適切計上」がなぜ起きたのか、という事とそれを他山の石として何を考えたらいいのか、という点について触れていきたいと思います。

 

発覚経緯前段

実は昨年末より日本M&Aセンターで何かおきているのでは?ということは斯界でささやかれていました。
というのも12月20日付で以下のような不穏なIRが出ており、株価も当時3,025円から下落が続いたことで、何か大変なことが起きているのではないか、と考えられていたからです。
(なお株価は2022年2月16日現在では1,826円と4割ほど下落しています)

これが他のM&A仲介会社であればそこまで関心は抱かれなかったのでしょうが、日本M&Aセンターと言えば業界のパイニアにしてガリバー、そして時価総額1兆円企業(当時)でしたので、否応なく関心は高まりました。
まして創業者であり現在の代表である三宅卓代表は業界で自浄作用を働かせるべく昨年新設された一般社団法人M&A仲介協会の理事長にも就任しており、率先垂範を行うべき立場だからです。
特に日本M&Aセンターでは、仲介形式は「利益相反」と言われる要素もあることから、「社内FA」という形を取り、会社としては仲介形式をとるものの社内の従業員は買い手と売り手に分かれM&Aをすするめることで、公平性を担保できるので利益相反にならない、というスタイルを取っていると仄聞していました。
社内で売り手側買い手側にファイヤーウォールがあると思ったにもかかわらず、少なくとも売り上げの形状についてはその垣根がないどころか、部署間同士でも共謀した不正行為が行われていて、管理すべき所属長もむしろ率先して進めていたという事でしたので、なおさら衝撃的でした(詳細については後述します)。

2021 年 12 月 20 日

各 位

会 社 名 株式会社日本M&Aセンターホールディングス
代表者役職名 代表取締役社長 三宅 卓
(コード 番号:2 127 東証第一 部) 問い合わせ先 取締役副社長管理本部長 楢木 孝麿T E L 03-5 220- 545 1

当社連結子会社の売上の期間帰属等に関する調査のお知らせ

この度、当社の連結子会社である株式会社日本M&Aセンター(以下、「日本M&Aセンター」といいます。)の売上の期間帰属等に関して疑義のある事象(以下、「本件事案」といいます。) が存することが判明しました。
当社では、事実関係調査を開始いたしますので、その旨お知らせいたします。

この度は株主をはじめとする当社ステークホルダーの皆様に多大なるご心配をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。

1.調査内容に関して
日本M&Aセンターでは四半期ごとに、同社が仲介者として担当する業務のM&A成約等に伴い売上認識をしておりますが、同社の社内報告において一部不適切な報告が社内での確認の結果発見されました。
当社では、本件事案の事実関係解明のために、本日から外部専門家の協力のもとに過去5年間の社内調査を実施することといたしました。

2.業績に対する影響について
現時点の認識では、各四半期の売上計上の期間帰属等のいわゆる期ずれを中心とする影響があるものと認識しております。

3.今後の対応について
調査結果は確認次第お知らせいたします。なお、当調査につきましては当社 2022 年3月期第3 四半期決算短信の発表前(2022 年1月 28 日予定)までに調査を終える考えであります。

以 上

発生した事象と発覚の経緯

2月14日付でIRで詳細に発覚した事象と経緯について調査レポートが出ました。
第三者委員会ではなく、取引のある士業の有資格者が調査を行っているという事に注意しながら、事実関係について引用しながら見ていきたいと思います。
(全文引用は膨大のため、要所要所にとどめたいと思います)

まずは冒頭部分の引用です(以下、引用部分の「当社」は株式会社日本M&Aセンターを指します)。

当社は、2021 年 12 月 20 日付「当社連結子会社の売上の期間帰属等に関する調査のお知らせ」にて公表いたしましたとおり、当社の連結子会社である株式会社日本M&Aセンターの売上の期間帰属等に関して一部不適切な社内報告が存することが社内での確認の結果発見されたことに伴い、同日以降、外部専門家の協力のもと進行期を含む過去5年半の社内調査を実施してまいりました。

また、2022 年l月 31 日に当該調査の調査報告書へのとりまとめに際し、これまで調査に従事してまいりました調査委員を構成員とする調査委員会を設置することといたしました。

冒頭ご紹介したIRについての調査結果であることが分かります。
後程触れられますが、5年間遡及した確認する必要があったとのことで、長期間にわたった不正があったのではないかという事を推察させます。

発覚の端緒

「全社を挙げてではないが部署間ぐるみ」と記載しましたが、以下引用部分太字部(引用筆者)をご確認ください。
取締役が管掌する部門の部門長(部長)が他の部署から前倒し計上の持ちかけがあり、不正計上が発覚したと記載されています。
業界再編部は後述するように不正が検出されなかったようなので、カルチャーの違いがあったのかもしれません。

2   調査開始に至る経緯

(1) 対象会社の三宅社長(本報告書における役員の表記は、後記第 3 の 1 で定めるとおりとする)及び楢木管理本部長は、本件不正の疑義を、楢木管理本部長は 2021 年 10 月 18 日、三宅社長は翌 10 月 19 日、対象会社の渡部取締役の報告により知るところとなった。

対象会社の渡部取締役による前記報告の経緯であるが、2021 年 10 月 8 日同取締役は、管掌する業種特化事業部において、業界再編部部長 2 名より他部署から前倒し計上の持ち掛けがあったが断ったとの報告があり、この報告に基づき、部員に対し調査を指示した。同取締役は、提携仲介契約書の写しと社内報告に用いられた最終契約書の写しの印影の照合を行った結果、これら印影が類似している可能性が高い案件の存在を確認し、さらに、調査の上疑義の可能性が相応に高まったため、2021 年 10 月 18 日、本件不正の疑義を報告したものである。

 

調査手法についても以下の通り記載されています。
営業部門ではなく、管理本部長が主体となり、ヒアリングベースで不正の確認を行っています。

(2)   対象会社の三宅社長、楢木管理本部長、竹内営業本部長の3人は、本件に関し協議し、事実関係の確認のためには案件担当者への聴き取り調査が必要であり、案件担当者の名誉を尊重し、かつ、社内で風評が発生しないように留意しつつ実施しなければならないとして、楢木管理本部長が単独で案件担当者一人一人と個別に面談を行い、慎重に事実を確認することとした。そして、楢木管理本部長において聴き取り調査を進めたところ、2021 年 11 月末頃までに合計 17 件にのぼる M&A取引に関する不正の発生を確認した。

 

朝日新聞で「コピペ」と言われているのはまさに以下の太字(引用筆者)部分です。
おそらくpdfか何かでデジタル保存されている文書が格納されており、それらを社内従業員が共謀し、売り上げを計上するために改竄した契約書をもとに成約したと虚偽の事実を申告したのでしょう。

(3)     楢木管理本部長の調査により発覚した不正は、営業担当者から管理本部に提出を必要とする売上報告とその根拠資料における虚偽報告であった。すなわち、これら不正はいずれも、対象会社が社内で営業担当者に M&A 受託業務に関する売上報告を行わせる管理システム上、売上となる業務報酬計上の根拠となる個々の受託 M&A 案件に関する売り手・買い手間の基本合意書又は最終契約締結の事実とその事実を管理本部が確認するために提出すべき同締結済み契約書の写しを、これら契約が実際には各四半期末日までに書面締結により成立した事実がないにもかかわらず、当事者間で契約締結済みであると報告し、案 件担当者が別に入手していた当事者の契約書類(提携仲介契約書、秘密保持契 約書、基本合意書、意向表明書)の写しなどその契約当事者の記名(又は署名) 押印部分をコピー・切り貼りするなどの方法で冒用し、あたかも当事者間で各 四半期末までの売上報告日までに真正に成立した契約であるという虚偽の報告 を行ったとするものであった。

 

調査対象と調査手法

全件の取引を対象とするのではなく、以下の通りサンプル調査を行っています。
サンプリングの対象となった案件について、ヒアリングだけではなく、顧客とのやり取りやIRなど客観性のある調査を並行し、整合性を確認しているようです。

(ウ)前記調査に対する補完調査の実施

調査の網羅性を確保する観点から、前記(ア)及び(イ)の調査によって検出し得ない不適切報告案件を発見するための調査手続として、リスクが高いと考えられる M&A取引(売上額が大きい取引、契約締結日が各四半期末日の直前となっている取引、入金サイトが長い取引、本件不適切報告を行った担当者の取引等)合計 156 件に関するサンプリング調査を行った。

具体的には、売上報告の根拠資料とされた基本合意書や最終契約書等の締結日前後における案件担当者と顧客とのやり取り(メール等)や、顧客が公表している IR 情報(顧客において IR が行われている場合に限る)等を閲覧し、上記契約締結日との整合性を確認する方法により、売上報告に係る売上の期間帰属の適切性を確認した。

 

後程出ますが、営業社員が481名に対し、今回不適切報告が発覚した営業担当者が73名と約20%弱。
M&Aの場合、案件化からクロージングまで期間が長いこともあり、新卒や中途採用者等を除外して実際に稼働している営業社員を対象にするともう少し割合としては多いのかもしれません。

イ 営業担当社員全員に対する不適切報告に関する質問調査

現在対象会社の売上報告を行い得る立場にある営業担当社員(正社員)481 名に対し、不適切報告案件の自主申告と関与がない場合の誓約に関する質問を行い、2022 年 1 月 18 日までに 481 名全員から回答を取得した。この結果、自主的に不適切案件であるとの申告がなされた合計 3 件の取引に関し、追加調査を実施した。

 

調査対象については部門長(営業部長)、営業担当者、経営陣に対して行われており、チャットやメールなども確認されたようです。
個人的には

>データを保全した上で、本件不正及び不正一般に関連する合計 26 種類の特定のキーワード検索等により絞り込みを実施し、合計 4,204 件のメールを調査対象とした

とありますが、この特定の「キーワード」が気になります。
余談になりますが、こういう社内用語、隠語は会社の特徴が出てくるので、社風が分るからです。
東芝の架空売り上げでは「チャレンジ!」という用語が使われていましたよね。

ア 営業部部長

対象会社には後記のとおり営業部が合計 27 部存在するところ、各部毎に売上目標が設定されていたことから、各部部長に対するヒヤリングが不可欠と判断されたため、予備調査段階である 2022 年1月6日に主要な部長6名に対するヒヤリングを実施し、2022 年1月 12 日から 2022 年1月 14 日までに、その他の部長全員に対するヒヤリングを実施し、本件不正に至る経緯、その動機、業績達成に対するプレッシャーの程度、本件不正の関与者の範囲等について聴取した。その後、不適切報告の案件解明の作業が進展後、発生原因の分析と改善策の検討のために、2022 年1 月26 日から2022年2月3日までに不適切報告が発生した部の現在の部長 14 名に対する追加ヒヤリングを実施し、回答書を 14 通取得した。

イ 不適切報告をした案件担当者

不適切報告を行った営業担当者等 73 名に対し、個別事案の解明に関する確認とは別に、担当部内の認識状況、発生原因及び改善策に関するヒヤリングを 2022 年 1 月 26 日から 2022 年2月4日までに実施し、各人から回答書を 73 通取得した。

(3)経営陣ヒヤリング調査

対象会社の現取締役7名に対し、不正に関する認識及び不正発生原因・背景となる会社の経営体制・業務体制・運営状況などを確認するため、2022 年1月 11 日から 2022 年 1 月 30 日までに取締役ヒヤリングを順次実施し、本件不正に関する事実の認識の時期、認識の経緯、それ以前における本件不正の認識の可能性の有無等について聴取した。調査委員が現取締役7名からヒヤリングした内容について、各取締役に確認の上、各取締役より署名押印ある確認書面を 7 通取得した。

(4)経営資料調査

対象会社の経営状況に関する資料(会社の中期経営計画、IR 資料、組織図・人員表・部長一覧表、創業30 周年の取り組みに関する資料)、会社の売上利益計画の基礎となる営業各部の年次目標と各部長のコミットメント数値とその達成状況に関する資料、三宅社長の月次の全社営業会議向けレター、調査対象年度において大槻前営業本部長、竹内営業本部長が作成した月次の部長会議提出資料、従業員の待遇関連資料(部長及び営業社員の業績達成インセンティブ及び従業員向けのストックオプション関連資料、売上報告を項目に含む顧客管理システム全般の運用資料)、社内コンプライアンス関連資料(社員心得、コンプライアンス研修資料、通報制度の説明書など)、売上報告・顧客に対する業務報酬・請求入金確認などの売上管理資料など多方面の資料の提出を、予備調査及び本調査の段階と検討項目に応じて徴求して点検した。

(5)デジタル・フォレンジック調査

本件不正について、対象会社の業務執行取締役(なお、社外取締役及び監査等委員は除かれる)による指示ないし積極的関与もしくは消極的関与(黙認等)の有無を確認するため、調査対象期間に在任した取締役8名(分林会長、三宅社長、楢木管理本部長、大槻前営業本部長、竹内営業本部長、渡部取締役、熊谷取締役、大山元取締役)の 2016 年 4 月 1 日から2021 年 12 月 20 日までのメール、チャット等のコミュニケーションデータを対象とし、以下の調査を実施した。なお、以下のうちア及びイは、調査委員(弁護士)及び補助者弁護士が実施し、ウ~オについては、EY 新日本有限責任監査法人 Forensics 事業部(作業担当 18 名)を調査補助者として起用し、調査を実施した。

ア Microsoft365 メールの調査

対象となる取締役 8 名が、発信者又は受信者となる Microsoft365 メール(2018 年 12 月から導入。それ以前のメールについては、下記オ参照)につき、データを保全した上で、本件不正及び不正一般に関連する合計 26 種類の特定のキーワード検索等により絞り込みを実施し、合計 4,204 件のメールを調査対象とした(ただし、メールのやりとりによるコミュニケーションの内容を理解するために、キーワードヒットした個別のメールだけでなく前後のやりとりも目視による点検及び内容の検討をしており、実際の調査件数はこれより多い)。

イ  Microsoft Teams のチーム領域の調査

対象となる取締役が、2020 年 4 月1日から導入されたマイクロソフト「Teams」を利用して、部長会メンバー合計 75 名と業務連絡した投稿及び当該投稿の添付データを調査対象とし、調査委員にて全件内容を目視による点検及び内容の検討を行った。

ウ 社用スマートフォンの SMS の調査

対象となる取締役8 名のうち、社用スマートフォンの貸与がない分林会長を除いた 7 名の社用スマートフォンのデータを保全し、SMS のチャットデータの調査を実施した。なお、社用スマートフォンには会社が認めたもの以外のアプリケーションをインストールすることができない設定となっており、SMS 及び Microsoft Teams 以外のメッセージアプリは存在しなかった。調査対象の社用スマートフォンの SMS の総件数 1,231 件全件につき、目視による点検及び内容の検討を行った。

エ  Microsoft Teams のチャット領域の調査

対象となる取締役 8 名の Microsoft Teams サーバーのチャット領域のデータを保全した上で、業務執行ないし営業活動に主に従事しチャットを利用している三宅社長、楢木管理本部長、竹内営業本部長、渡部取締役及び大槻前営業本部長の5 名を対象とし、チャットデータの調査を実施した。調査対象の Microsoft Teams チャットの総件数 189,406 件を対象に、本件不正及び不正一般に関連する特定のキーワード検索等により絞り込みを実施し、1,187 件を調査対象とした(なお、このエの調査も、アのただし書の内容が妥当する)。

オ Shuriken メールの調査

対象会社では、2018 年 12 月以降は Microsoft365 を使用しており、それ以前はジャストシステム社の Shuriken のメールを使用していた。Microsoft365 移行時までの Shuriken メールのデータは、各人が PC 上にローカル保存し参照する運用としている。そのため対象となる取締役8 名のうち、退任しており社用 PC が残存していない大山元取締役を除く 7 名の社用PC データを保全した上で、業務執行ないし営業活動に主に従事する三宅社長、楢木管理本部長、竹内営業本部長、渡部取締役及び大槻前営業本部長の 5 名を対象とし、Shuriken メールの目視による点検及び内容の検討を実施した。調査対象の Shuriken メールの総件数 322,316 件につき、本件不正関係者のメールアカウントや本件不正及び不正一般に関連する特定のキーワード検索等により絞り込みを実施し、715 件を調査対象とした。なお検索キーワードは、ア・エと同様である。

 

前記ア~オの調査の結果、検討を要するデータとして 25 件(アは9件、イは0件、ウは0件、エが 11 件、オが5件)を抽出し、重要なデータは、当委員会が実施するヒヤリングにおける事実確認の参考資料とするなどして活用した。

営業部の目標設定

営業部門の目標設定のプロセスについても述べられていますので、その点についても抜粋します。
パッと見る限り他の事業会社と変わらないと思いますが、営業部門からの目標数値を取りまとめ、経営とすり合わせ部門に落とすようです(この妥当性については後程、部長たちへのアンケートも出てきます)。
また以下、太字で記載していますが、「コミットメント」という4半期ごとに確認されるボトムラインを部門長に対して設定しており、このプレッシャーが資料を偽造して、売り上げの計上を早めさせた要因になったと考えられます。

対象会社は、毎年 2 月から 3 月にかけて、次の事業年度の経営計画を策定し、その経営計画の基礎となる各営業部の営業目標は各営業部から提出された次の事業年度の営業目標数値を営業本部長が把握し、対象会社の営業本部における経営目標数値との整合性などを検討し、各部と営業目標数値を調整したうえで、次年度の年次の経営計画に反映されることになる。

この各部の年次営業目標額は、各部の部長が、当該年度において各部を統括して達成すべき営業管理上の重要な数値として設定される。

また、各部の年次営業目標額とは別に、各部の部長のみならず各部に所属する全営業社員に対し、当該営業社員が所属する部の各部長が査定した各営業社員の営業目標額が、各営業社員が達成すべき営業管理上の重要な数値として設定される。

さらに、対象会社の各部の営業管理の指標としては、各部長が自ら設定しその達成を社長及び営業本部長その他経営陣に約束する「コミットメント」という営業目標額が存在し(当該年度の第1四半期、第2四半期、第3四半期、第4四半期毎に設定される)、各部長は、このコミットメントの達成状況の説明を、毎月、全役員同席のもとで営業本部長統括のもと開催される部長会議にて求められることになる。対象会社においては、四半期毎に、各部の年間営業目標額の進捗状況と部長の四 半期毎に設定されるコミットメントについて、特に各四半期の最終月である 6 月、9 月、12 月、3 月は各末日まで日々M&A案件の最終契約、基本合意の締結という事実を確認しながら、四半期末日までに積上げ集約する方法により達成状況を確認していた。なお、このような四半期毎に売上達成を確認する現場の実務は、三宅社長のもとで連綿と継続されていた手法である。

管理体制

売上の形状については社内システムで管理されており、その内容が正しいのかどうかという事までは管理本部は関与していなかったようです。
逆にいうと管理本部に対しては営業部門で報告して完結してしまう仕組みになってしまっていたことから、管理本部によって不正を発見する余地は少なかったのでしょう。

4   管理本部における管理業務

管理本部は、調査対象期間中、楢木管理本部長が業務管理を行っているが、後記6 の顧客管理システムを利用して、営業部の各案件担当者から担当する M&A案件の売上報告を受け、報告された売上が対象会社の売上計上基準の充足要件を満たしているかを各営業部へのヒヤリングや証憑書類の閲覧により確認するとともに、その売上入金に至るまでの売上管理業務を行っており、四半期毎の監査法人の監査にも対応している。管理本部は、個別の M&A案件の業務上のプロセスと営業部の業務対応が適正なものであるかを直接管理することはしておらず、これら業務上のプロセスは営業本部が概ね自ら対応していた。

 

5   対象会社の売上計上プロセスについて

対象会社の売上計上の起点は、案件担当者による「Salesforce」(以下「セールス  フォース」という)への起案である(以下では、対象会社の主要な売上である成功報酬の売上計上のプロセスを記載している)。案件担当者は、成約した案件(成約が見込まれる案件)について、「セールスフォース」上で「成功報酬額計算明細書」

(請求金額を算定するための帳票)及び「成約案件日程管理表」(契約締結日や入金 予定日、ディールブレイカーの解消状況等を入力する帳票)を作成して直属の部長 の承認を受ける。また、合わせて販売管理システム(以下「働くDB」という)で請 求書発行依頼を行い、管理本部へ回覧する。また、成約した案件に係る最終契約書 の写しを社内のルールとして定められた期間内(期間は適宜見直しが行われており、以前は監査法人による監査が入る前までにアップロードする運用となっていたが、 直近では各四半期末日の翌営業日までに行うルールとなっている)に、「セールフォース」上にアップロードする。

 

ここでも管理本部の役割が述べられています。
おそらく言い換えると、株式譲渡契約書が営業から回ってきた際に請求書を発行し、その際に譲渡契約が結ばれているのか、何か問題が発生することがないのかという点を確認した上で売り上げとして計上たのでしょう。
太字で引用しますが、入金までに期がずれてしまう場合、管理本部の売掛管理になるようですが、その管理表に回報するのは営業部長のため、営業部長が悪意があると防ぐのは困難だったのかもしれません。
ただ入金が1カ月以内になければ売り上げが取り消されてしまうので、会計上はそこで是正されるはずですが、その後の追跡を誰がどこまでやるのかという責任の所在についてはここからでは読み取りづらいです。

管理本部では、提携仲介契約書の内容と回覧された帳票類との整合性を確認し、問題がなければ「働くDB」上に財務会計への計上月を登録し、管理本部長の承認を受けて請求書を発行する。また、請求書発行依頼が提出された取引について、対象会社の売上計上基準である、株式譲渡契約等の最終契約の締結及びディールブレイカーの解消という 2 要件が満たされているか否かを、次の 2 点の観点で確認を行っている。

1点目は、「セールスフォース」上で申請された成約案件日程管理表とアップロードされた最終契約書の写しを照合し、最終契約の内容と成約案件日程管理表の内容が整合していることを確認している。

2点目は、ディールブレイカーの解消がなされているかを確認することとなるが、最終契約の締結時点と同一四半期内に顧客からの入金がある場合には、特段の事情がないものとして売上計上が行われている。同一四半期内に入金がない案件は、売掛案件として認識されるが、四半期末月の翌月の売掛金計上判定日(概ね翌月 7 日~10 日)までに入金がない案件は、管理本部による詳細確認の対象とされている。売掛案件のリストが管理本部から各営業部長に配信され、各営業部長はディールの状況に関してコメントを行うことになる。各営業部長からの回答及び「成約案件日程管理表」に記載された入金予定日の情報を管理本部長が確認し、特段の事情が認められる案件や契約締結日から入金予定日までの期間が一定期間以上(期間は適宜見直しが行われており、現在は1か月程度まで許容されている)となる案件は、最終契約の締結時点でディールブレイカーが解消していなかったと判断し、売上計上を取消す運用が行われている。

なお、売掛案件について翌四半期末まで入金がないものについては、管理本部から案件担当者への問い合わせが行われ、改めてディールブレイカーが解消しているか否かを判断し、解消していないと判断される場合には、その時点で売上を取消す運用となっている。また、入金日までの間にブレイクした案件についても同様に売上を取消す運用となっている。

 

調査結果

発生件数は83件と日本M&Aセンターの取扱件数全体に占める割合からするとわずかなものなのでしょうが、譲渡契約締結後にディールブレークする要因はあまり考えられないことから(ディール自体のブレークはありますが)、二けた以上、そして下にもあるように同一案件で複数回ディールブレークしていたという事であれば何かしらの問題が起きていたのではないか、という事を考えることはできたのではないでしょうか。

(1)発生件数

調査対象期間合計   83 件

ただし、同一のM&A取引に関する不適切報告が 2 回の四半期にわたってなされたケースが 5 件あるため、不適切報告に係る M&A取引の件数自体は 78 件であるが、発生件数としては合計 83 件としてカウントしている。

なお、対象会社は、ほとんどの受託案件について、提携仲介契約に基づき「仲介型」のアドバイザリー業務を提供しており、同一のM&A取引に、売り手、買い手の各案件担当者が就くことになる。このため、1件のM&A取引の成約に伴い、売り手担当者と買い手担当者各自が業務報酬の売上報告をすることになる。

(2)発生時期

 

2022 年3月期(進行期)39 件
2021 年 3 月期35 件
2020 年3月期  7 件
2019 年3月期 2件
2018 年3月期 0件

 

2017 年3月期 0件

以上のとおり、大多数(約 89%)の不適切報告は、2020 年4月以降の売上報告事案である。なお、2022 年3月期(進行期)については第 2 四半期までの件数であることに鑑みると、2022 年3月期(進行期)の不適切報告の発生件数は、割合的には、2021 年3月期の約 2.2 倍に増加している。

 

関与者についても述べられています。
冒頭申し上げたように同社は社内で買い手と売り手に分かれていたため、買い手担当者もしくは売り手担当者だけでは今回の偽造は行うことはできません。
したがって複数の人間が関与せざるを得ない仕組みとなってしまっていました。
また太字で引用していますが、部長が明示的に支持をしていたケースもあることから、組織ぐるみと言われても仕方ないことがあります。
逆に部長から求められたのに断った担当者については勇気が言ったことだと思います。

(3)発生案件に関する関与者

発生した不適切報告の多くのケースには、複数の関与者が存在する。

不適切報告に関する複数人関与のケースとしては、部長が不適切報告を案件担当者に指示した案件、部長又は部内関係者が売り手・買い手の各担当者と相談又は協議して明示的又は黙示的な了解を与えた案件なども少なくない。これに対し、売り手・買い手のいずれかの担当者の単独行為による不適切報告は、比較的少数 である(これは、M&A案件は売り手と買い手の双方の担当者が業務対応しているため、仮に、契約書の成約の事実に関する不適切報告を意図した場合においても、一方担当者だけではそれを実行し難い事情によるものと推察される)。なお、担当者が部長又は他の営業担当者から協力を求められたものの、これを断ったケースも存在する。

 

不正が発生した案件については手数料(最低報酬が1500万円からでしたっけ)が大きい成功報酬のウェイトが大きいですね。

(4)発生案件の特色

 

ア 不適切報告の対象となった報酬の分類

この 83 件の不適切報告の対象となった報酬は、以下のとおりに分類される。なお、同一のM&A取引において、成功報酬と業務中間報酬の双方に関して不適切報告がなされた案件が 3 件あるが、以下では、各報酬につき1件とカウントしている。

① 成功報酬に関する不適切報告          71 件

② 業務中間報酬に関する不適切報告    15 件

イ 不適切報告案件の四半期末日における進行状況

この 83 件の不適切報告案件の中には、M&A案件としての交渉プロセスが存在しない「架空案件」に該当するものは存在しない。

調査委員において、各不適切報告案件の担当者の回答書とその回答書添付資料を確認した結果、いずれの案件も、進行状況に違いはあれ、売り手・買い手の各担当者が、売り手・買い手(候補者)に基本合意書の締結(意向表明書の提出)や最終契約書の締結に向けた業務を提供している事例であった。

ただし、売上報告の根拠とされた最終契約書が最終的に締結に至らず、売上の取消となった事例については、下記ウ③を参照されたい。他方、不適切報告上の「契約締結日」の時点で、①当事者の一方が基本合意書又は最終契約書への押印を完了し他方当事者の押印のみを待つ状況であった案件、②両当事者間で基本合意書又は最終契約書の内容は確定していたが機関決定や稟議を待つ状況であった案件、③基本合意書又は最終契約書の内容を一方当事者が承認しており他方当事者の最終確認中であった案件のように、交渉が相当程度成熟し契約締結の間近であったと判断される案件も一定数存在する。

 

虚偽報告後、どうなったかという結果についても書かれています。
担当者も虚偽報告した以上必死で対応したのでしょうが、結果として20%が売上取消しになっています。
これも同社の売上全体からすると微々たる金額なのでしょうが、取消しになった率が20%あるというのは実務を行っているものとしては違和感のある数字だと思っていいでしょう。

案件がそもそもスタートしたところからの破談率ではなく、譲渡契約締結後の破談率が20%というのは少し考えられません。

ウ 不適切報告後の当該案件の成約状況

前記 83 件の不適切報告後の最終契約又は基本合意(意向表明書の提出を含む) の成約状況は、以下のとおりである。なお、同一のM&♙  取引について、同一四半期に成功報酬及び業務中間報酬の両方の不適切報告がなされ、当該不適切報 告後に基本合意が締結された上で、最終契約が締結されてクロージングに至っ た案件が1件あるが、下記①において1件とカウントし、下記②においてはカ   ウントしていない。また、同一のM&♙   取引について、業務中間報酬の不適切報告後に基本合意が締結されたものの、その後の成功報酬の不適切報告後に最終 契約が締結されずに売上取消となった案件が1件あるが、下記③において1件 とカウントし、下記②においてはカウントしていない。

①     最終契約が後日締結され、クロージングに至った案件      60 件

②     基本合意が締結された案件                                         10 件

③     売上報告後、最終的に売上取消となった案件                     13 件

 

下の入金期間についてですが、逆にいうと過度なプレッシャーを掛けなければほぼ半数の32件は同社のルール上、問題なく扱われたわけですので、プレッシャーをかけ組織ぐるみで対応した結果、不正の半数を産んでしまったとも言い換えられるかもしれません。

エ 不適切報告後、報酬受領までの期間

前記 83 件の不適切報告後に報酬発生の根拠となる契約の締結に至り、かつ、

当該案件の報酬を受領した前記ウの①及び②の 70 件に関し、直前四半期末日から当該案件の報酬受領までの期間は、以下のとおりに分類される。

① 1 か月以内                    32 件

② 2 か月以内                    21 件

③ 3 か月以内                    11 件

④ 3 か月経過後          6 件                                               

 

経営陣の不正関与はなかったと調査報告書では結論付けられています。
以下、太字で引用していますが、やや歯切れの悪い印象を否定できない箇所があります。
今回第三者委員会形式で行い、既存の取引関係でない調査委員であれば読み手として受ける印象は変わってきたかもしれません。

本件調査では、対象会社の営業部署に多数の不正事案が発生した状況に鑑み、対   象会社の業務執行取締役が本件不正に関与した事実、又本件不正に関し具体的報告   を受けたにもかかわらず黙認した事実の有無・内容に関し、調査の対象としている。

この調査は、業務執行取締役・部長に対するインタビューとともに、対象会社の   業務担当取締役が業務のために社内の社員とのコミュニケーションに用いているメ   ールに関し、前記の内容のデジタル・フォレンジック調査を行うものとした。さら   に、個別案件の回答においても、業務執行取締役のいずれかが関与したとみられる   内容が含まれていないかについても、点検調査した。加えて営業社員から業務執行   取締役の関与の有無を調査委員宛に申告する機会を設定する措置をとるものとした。

 

この調査の概要は、以下のとおりである。

①   対象会社においては、社長が社員向けに毎月1回営業会議にて経営方針を説明しており、このための営業会議資料(社長の従業員向けレターを含む)が存在するので、この資料を点検したが、本件のような不適切な売上報告を行うことを示唆し又はこれを慫慂する記載内容は存在しなかった。

②   対象会社においては、調査対象期間中の営業本部長(2016 年 4 月 1 日から 2019年 12 月 22 日までは大槻現常務取締役、2019 年 12 月 23 日から 2021 年 9 月 30 日までは竹内現常務取締役)がその在任期間中、毎月売上達成状況を確認するための部長会議で提出する資料が存在するので、これら資料を点検したが、本件のような不適切な売上報告を行うことを示唆し又はこれを慫慂する記載内容は存在しなかった。

③   不適切報告を発生させた営業部の社員より、当該個別案件対応に関する質問回答書を各人から取得したが、売上報告の性格上直属上司である所属部の部長と不正であるという認識を共有したとする者が多いが、これら回答書において業務執行取締役が不正を認識しているとする記載は存在しなかった。

④   不適切報告を発生させた営業部の担当部長は、これら回答書において、いずれも、これら案件を業務執行取締役には報告していない旨回答している。

⑤ 業務執行取締役のヒヤリングでは、渡部取締役が社内不正の疑義を認識し、2021 年 10 月 18 日に楢木管理本部長に、翌 10 月 19 日に三宅社長に報告するところとなり、三宅社長が楢木管理本部長及び竹内営業本部長と協議し、楢木管理本部長において内偵調査を行った経過が確認でき、このような経過と矛盾する内容の関係者の供述とメールは存在しなかった。なお、メール内容の調査に関しては下記⑥のデジタル・フォレンジックの調査を参照されたい。

⑥ デジタル・フォレンジックの調査を通じても対象会社の業務執行取締役が不正を示唆しこれを慫慂した事実、すなわち不正に関与した事実は認められなかった。

⑦ 調査委員は、前記のとおり、対象会社の営業社員 481 名に対し対象会社のメールシステムを利用し、業務執行取締役が本件不正に関与した事実があるか又は本件不正の事実を報告したにも拘わらず黙認した事実があるかに関し、電話、文書又はメールにより報告することができる旨(この場合に希望をすれば匿名性は保証される旨)メールで発信した。これに対し、受付期間として指定した 2022 年1月 25 日から 2022 年1月 27 日までの期間に、営業社員から当該事実が存在する旨の報告はなかった。

⑧   竹内営業本部長に関連する前記第2の7(7)に記載の補充調査においても、同氏の不正関与をうかがわせる資料は検出されなかった。

今回の調査の結果、対象会社の経営陣(業務執行取締役)が、2021 年9月末日までの期間において、対象会社の営業社員による今回判明した売上報告に関する不正に関与した事実、及び、不正の報告を具体的に受けながら黙認した事実は、いずれも存在しないものと判断される。

なお、付言するならば、特に、本件不正が相当増加した 2021 年のいずれかの時点において、経営陣が部長会議などの場を通じ部長に対し売上目標達成を要請したことに起因して部長陣において抗しがたい集団的な心理状況ないし空気感を醸成されることがあり、特に、各四半期末日近くに各部の営業担当者が追込みをかけ営業報告を行う状況において、営業本部長、管理本部長又は社長が注意をはらえば、本件不正が蔓延していたことは判断できた可能性があったのではないかという疑問は残る。ただし、これは、あくまで不正の認識可能性の有無の議論に留まるものであり、業務執行取締役はいずれも本件不正に関与しておらず、かつ、本件不正について具体的に報告を受けながら黙認していた事実が認められなかったという、調査委員会の結論を変更するものではない。

また、対象会社は、2020 年以降、各期末日までの売上報告中、報酬入金が各期末日以降に持ち越す「売掛案件」が売上の伸び以上の比率で増加傾向にあり、対象会 社自体が監査法人の指摘のもと、売掛金、とくに契約成立日と報告された日から入金予定日が長い日数の売掛金の動向に留意し、売掛金の計上を減らすことを対象会社の経営方針として検討していたこと、さらに売上報告による売掛金の回収見通し が立ちにくい案件は、管理本部長において入金見込みが比較的に長期(2か月以上) に亘る案件の売上げを事後的に財務会計の取扱として取消扱いとしていたことなどに鑑みると、このような売掛金回収が長い案件が増加する事情・背景要因を個別取引に即して詳細点検していたならば、このような不正は発見できた可能性があったのではないかとの疑問は残る。なお、これは、あくまで、不正の認識可能性の有無の議論に留まるものであり、業務執行取締役はいずれも本件不正に関与しておらず、かつ本件不正について具体的に報告を受けながら黙認していた事実が認められなかったという、調査委員会の結論を変更するものではない。

 

発生原因分析

先ほど触れた虚偽報告の年間推移について再度触れられています。
以下、太字で引用しますが、個人や部レベルの問題とするのではなく、心理的要因や仕組みの問題として考えるべきと述べています。
(まさに今回、当社で触れたい点でもあります)

前記第4の1(2)記載のとおり、不適切報告は、2019 年 3 月期は合計 4 件(対象 M&A 取引合計2件)、2020 年 3 月期は合計 12 件(対象 M&A取引合計7件)、2021 年 3 月期は合計 61 件(対象 M&A 取引合計 35 件)、2022 年進行期は半期で合計 71 件(対象 M&A取引合計 39 件)と発生頻度が増加しており、特に 2021 年度は2020 年度に比しても発生頻度の増加率が大きい。

また、発生部署は、前記第4の1(5)記載のとおり幅広く、本件不正を実行した、或いはそれを指示、黙認、協議した部長・営業担当者は約 80 名に及ぶ。

このように不適切報告が部をまたいで発生し、かつ拡散している状況に鑑みると、不適切報告が生じた要因は、単なる個人、或いは一つの部の倫理観や風土に帰するものと考えることはできず、むしろ行為者間に共通する心理的要因と不正を可能とする共通の機会・環境に起因したと考えられる。

かような根源的な発生原因を分析することが、本件の解明を進めるために必要であり、有用な再発防止策の検討をするにあたり重要であるため、以下で詳述する。

 

冒頭、背景となる経営環境について述べられています。
加ト吉や餃子の王将など他の業種でもあったと思いますが、長期間最高益を更新していることから、株主の期待もあり、会社として実績を出すことが社内でも強く期待されていたのではないでしょうか。
特に意識づけについても都度の機会をとらえて社内に共有されていることから、未達のプレッシャーはかなり強かったと推察せざるを得ません。

ア 会社の成長性・利益についての経営陣の意識と全社的な浸透

各ヒヤリングの結果及び経営陣から部長会議において発出されたメッセージ等を踏まえると、会社の経営陣は、2021 年 3 月決算期までに連結純利益が 11 期連続で過去最高を更新していた実績のもとで、対象会社の成長性・利益について非常に高い意識と自負を有していたことが窺える。

また、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大に見舞われた 2020 年の後半以降、2021 年 3 月決算期においても経営陣からは、「コロナに負けない」旨の強いメッセージが度々社内の全社的な営業会議で伝達されていた。

加えて、2021 年 4 月に創業 30 年を迎えることを受け、会社は、2021 年 1 月8 日には、「EXCEED30」というテーマを掲げると共に、2022 年 3 月進行期を第二創業の初年と位置付けていた。それに伴い、第二創業初年にふさわしい業績を達成する必要があるとの意識が経営陣で共有されていたことが認められる。

前記の成長の重要性・必要性に関する経営陣の強い意識は、月1回開催される部長会議、その他経営陣からのメッセージ発信や下記イで述べる各四半期の業績管理により、各部長、そして営業担当者にまで全社的に浸透していたと考えられる。

 

以下の目標達成方針についてご確認ください。
年間売り上げ目標自体はボトムアップで吸い上げた数字をトップダウンで落とすので他社とも変わりませんが、営業目標が担当者レベルまで全営業担当者に共有されているというのはなかなかプレッシャーのかかる制度だと思います。
インセンティブ率も決まっているので、達成率からだいたいの年収も想像がついてしまうため、営業担当者を追い込むという点では合目的的な仕組みですが、営業社員としてはかなり気が重くなる人もいるのではないでしょうか。

また必達目標ともいえる「コミットメント」もさることながら、「ラップ」制度という概念がここで出てきます。

>前記(ア)のとおり定められた年間売上達成目標に基づき、各四半期の達成目標(「ラップ目標」)は、年間売上達成目標の 34%、67%、100%、120%とされ、第3四半期までに年間売上達成目標を達成することが一つの理想的な進捗とされていた。

ということで、年間目標を第3四半期で達成し、さらに売り上げを20%伸ばすことが期待されているようです。
目標があることは当然営業会社である以上当たり前だと思いますが、「必達」と「ラップ」双方のプレッシャーがあると事実や現実に基づく進捗管理や正しい判断ができなくなってくる可能性は極めて高いと思います。
まして部レベルで求められており、管理本部の確認も形式的なものになってしまうのであれば、部門長としても誘惑に負けてしまうのではないでしょうか(この点も後述されます)。

(ア)年間売上達成目標の設定

対象会社では、各事業年度末には、次年度の売上達成目標が定められていた。売上達成目標は、各部長が部下の営業担当者の実績や能力、案件の状況等を踏まえた上で次年度の見込み額を検討し案を作成していた。そして、各部長は、当該案を営業本部長に報告し、営業本部長と各部長間で調整する方法により最終的な年間売上達成目標が定められていた。

年間売上達成目標は、部単位のものと、営業担当者単位のものが定められていた。決定された部単位・営業担当者単位の年間売上達成目標は、全営業担当者に共有されていた。

(イ)「ラップ」制度

前記(ア)のとおり定められた年間売上達成目標に基づき、各四半期の達成目標(「ラップ目標」)は、年間売上達成目標の 34%、67%、100%、120%とされ、第3四半期までに年間売上達成目標を達成することが一つの理想的な進捗とされていた。

ただし、ラップ目標を実際に達成した部は必ずしも多いわけではなく(例えば 2021 年 3 月期に年間達成目標の 120%を達成した部は、5 つの部のみである)、ラップ目標は下限というよりは理想的な進捗の水準とされていた。

各四半期において、ラップ目標の達成状況は、営業本部長が運営する部長会議においても共有されていた。

(ウ)「コミットメント」制度

対象会社では、前記(イ)のラップ制度とは別に、「コミットメント」と呼ばれる制度も設けられている。

各営業担当者は自らの担当案件の進捗状況を踏まえて、四半期毎に達成できると自ら考える売上額、すなわちコミットメント額を提出する。

各部長は、部内の営業担当者のコミットメント額を合計し、当該合計額を部としてのコミットメント額として定めていた。

各コミットメント額は、個別の進捗を踏まえて自ら申告するものであるため、ラップ制度の想定進捗(34%、67%、100%、120%)を上回ることもあれば、下回ることもある。

各四半期において、コミットメントの達成状況は、営業本部長が運営する部長会議においても共有されていた。

 

先ほど触れた心理的要因についても検証されております。
厳格な業績管理が部長や営業担当者に及ぼした心理的要因について調査されており、部長クラスに対してアンケートを取って公表するという点で、中々同種の報告書はないと思いますので、長くなりますが引用します。
しかし部長レベルの平均年齢が約40歳ということも、今回の要因の一つになったかもしれません。
一部上場企業の平均年齢が40というのは伝統的な企業では少ないでしょうし、年齢がすべてではないですが、結果を出してさらに上を求めるという点では同期につながったのかもしれません。

結論から言うと ボトムアップで数字を上げて営業本部で取りまとめトップダウンで降りてくると記載しましたが、ボトムアップの数字は意味があまりなく、トップダウンで決められ自主性について尊重されていないようです。
また特定の会社を揶揄するつもりはないと記載しましたが、本文中

>なお、この点に関しては、会社が常に 120%の成長を求められることや、会社による部長に対する評価が、売上数値と行動量による KPI で行われ、顧客満足度の高い M&Aが評価されにくいなど、部に対する評価項目が売上偏重であるとの指摘がある。

については、「顧客満足度より売り上げ重視」という事に同業他社として看過できないことから強く憤りを持ったことを強調しておきたいと思います。

ア 部・個人としての業績達成

前記(1)イのとおり、対象会社では、年間達成目標だけでなく、「ラップ」「コミットメント」の各制度により、四半期毎の業績が厳格に管理され、またその進捗が各部の部長・営業担当者に至るまで共有されていた。

このような会社が行った厳格な業績管理が、各部の部長・営業担当者に及ぼした心理的要因について、以下の調査を行ったので、公表する。

この点、調査委員会が、不適切案件が発生した各部の部長(14 名)に要因の回答を求めたところ、以下のような回答がなされた(以下の回答中、◎は相当大きい、〇が大きい、△大きくはないが要因である。×該当しない)。

なお、上記部長 14 名の平均年齢は約 40 才である。

 

① 当部で不適切報告が発生した事業年度における部として営業目標数値のハードルが高すぎた

◎1 〇4   △6   ×3

②   上記営業目標の設定にあたり、自分の部長としての自主的な認識を超える数値が会社により設定された

◎2 〇1   △6   ×5

③   当部で不適切報告が発生した事業年度の四半期毎に設定したコミットメントの数字は、部としての実績・実力に見合っていなかった

◎4 〇3   △3   ×4

④   当部で不適切報告が発生した事業年度において部長として、各担当社員レベルの営業目標数値の設定が各自の実績・実力に見合っていなかった

◎1 〇1   △6   ×6

⑤   毎月の売上進捗状況を確認する機会(部長会議など)における進捗状況の確認や未達の場合の取締役からの各種要請に関しては

イ 部長として、期待にぜひ応えたいと感じた

◎9 〇4   △1   ×0

ロ    部長として部としての営業目標数値が未達の場合の自らの評価・処遇にかかわると感じた

◎1 〇2 △2   ×8   なお、1名は評価×、処遇△ ハ 営業進捗状況の確認・要請が厳しいと感じた

◎0 〇4   △3   ×7

 

さらに 2019 年よりも 2020 年、2020 年から 2021 年における不適切報告の発生頻度が増加しているとされるが、自らの部に該当する事情として

◎大きく該当する 〇相当該当する △少し該当する   ×該当しないから回答を求めたところ

イ 2020 年、2021 年と順次設定された当部の営業目的数値の設定が当部の実績・実力を超えていた

◎2 〇1   △6   ×5

ロ 会社の全社的な取り組みである EXCEED30 周年の取り組みが部長、営業社員の心理に影響を与えた

◎1 〇0   △6   ×7

ハ  新型コロナウィルスの影響で、顧客の M&A案件の受託件数又は進捗状況にマイナスに響いた

◎1 〇6   △2   ×5

ニ    新型コロナウィルスの影響で、顧客との面談等直接接触する機会が少なくなるなどの事情で M&Aの進行のプロセスが業務上管理しにくくなった

◎3 〇3   △5   ×3

ホ    会社の経営層(取締役)が掲げる全社的な売上設定が会社の実績・実力を超えていた

◎2 〇3   △5   ×4

なお、この点に関しては、会社が常に 120%の成長を求められることや、会社による部長に対する評価が、売上数値と行動量による KPI で行われ、顧客満足度の高い M&Aが評価されにくいなど、部に対する評価項目が売上偏重であるとの指摘がある。

ヘ    新型コロナウィルスの影響に左右されずに、営業数値を達成すべしとする経営陣の方針が影響した

◎1 〇2   △7   ×4

ト 会社の経営陣(取締役)からの営業目標達成に関する各種要請が 2019

年に比べ 2020 年はより厳しくなった

◎1 〇1   △5   ×6   回答なし1

チ 会社の経営陣の営業目標達成に関する各種要請が 2020 年に比べ 2021年はより厳しくなった

◎1 〇1   △3   ×9

その他、不適切報告が多発した部を中心に、時間の経過につれ、不正が部内で広がり、抑制が効かなくなったという回答もみられた。

これら回答は、あくまで管理職という部長の主観的な回答ではあるが、発生原因を分析する上で一定の参考となる。

 

次に担当者のアンケート結果について見ていきたいと思います。
担当者も目標は過大だったという感じている担当者が多い認識のようですが、「個人として評価されたい・昇進したい」という事よりも「部長・部の要請にこたえたいと思った」という割合が高いというところが、自分よりも上司のために不正に手を染めてしまったという点で悲哀を感じさせます。
アンケート結果もインセンティブが上がったと答えた担当者の割合が少なかったことから、目先の報酬のためというよりは部のために行おうとした結果であり、部長は会社の期待とコミットメントというプレッシャーに対して対応せざるを得ない立場だったので、部門ぐるみの不正を行ってしまったという事ではないでしょうか。
以下、調査報告書の結論部分がよくまとまっているので(太字で協調しています)ご一読ください。

また、調査委員会は、この部長(管理職)のもとで不適切報告を行った営業担当者(73 名)に対し、その要因に関する質問をしたところ、73 名から以下のとおり回答があった(◎相当影響した、〇影響した、△少し影響した、×影響しないから回答を求めた。なお、無回答及び複数回答があるため、合計数は必ずしも 73 にならない)。

① 会社の経営・業務が営業売上重視の傾向が強すぎた

◎30 〇22   △4   ×14

② 個人に課せられた営業目標数値がもともと高すぎた

◎22 〇24   △5   ×14

これらの回答からは、会社の掲げる成長のスピードと営業担当者に課せられた営業目標との乖離を示すところとなった。

③ 個人として高く評価されたかった

◎5 〇12   △12   ×50

④ 個人として昇進したかった

◎1 〇5   △10   ×21

⑤ 部長又は部の要請に期待したいと思った

◎21 〇20   △10   ×18

⑥ 部長からの指示を受けたので対応した

◎10 〇14   △9   ×29

⑦ 部長以外の所属部から持ち掛けられて対応した

◎6 〇9   △7   ×48

⑧ M&♙ 案件の相手方部署から要請されて断りきれなかった

◎12 〇8   △4   ×34

これらの回答からは、部内では、部に課せられた営業目標数値を達成することに協力せざるを得ない心理状況や、不正な M&♙ 案件が売り手・買い手の各担当者を通じて相手方の部に伝播した心理状況もうかがえる。

なお、上記はあくまで、本件で不適切報告が発生した部内の状況であるが、対象会社には、このような会社の経営方針とか営業目標の設定のもとでも不正な方法による不適切報告が発生しない、又は発生頻度が少ない部も多く存在する。そのため、上記の回答結果は、対象会社のうち問題が発生した部署に顕著な動向として理解されるべきである。

さらに、営業担当者に、売上達成を通じて獲得できる以下の個人の経済的インセンティブが影響したかという質問に対しては

(早期達成インセンティブ)

◎4 〇7   △5   ×55

(その他の特別研修参加の特典)

◎1   〇4    △4    ×62 という回答がなされている。

 

以上の回答結果に照らすと、現行の業績管理制度のもとで、部のラップ目標或いはコミットメントを達成するために、自らの売上を落とすことができない、或いは部のために新たに売上を計上しなければならないとの思いから、本件不適切報告に至ったことは相当程度妥当する。

また、年間達成目標は個人の年間達成目標の積算額であり、部のコミットメントは個人のコミットメントの積算額として計算されている。したがって、個人の年間達成目標の未達、コミットメントの未達は、部全体の負担になるという関係にあり、部と個人としての業績達成は密接不可分の関係にあったと考えられる。

特に、コミットメントについては、各四半期の期首に自らが確実と見込んでいる売上を検討して、その達成を約するという制度である。案件担当者自らが約束するというコミットメント制度の性質上、案件のブレイクに限らず、自らの見込みが外れ或いはその他の要因で案件がわずかに遅延しただけでも、自ら責任を感じやすい状況に至ったことは容易に推察される。このようなコミットメント制度が、部長或いは担当者にとって本件不適切報告を行う心理的な要因になったことは、上記回答結果からみてとれる。

以上を踏まえれば、部・個人としての業績達成、特にコミットメントはどのようにしても守らなければいけないという部長及び部内の主要な営業担当者の置かれた心理状況が、本件不適切報告の主因になった可能性が高い。

対象会社は、この数年間社長以下経営陣が近年概ね年 120%成長を掲げ、実務的には、営業部を統括する営業本部長においてこのような経営目標達成に   向け KPI に基づく経営指標をもとに綿密に業績管理を徹底していたが、結果的にこのような経営目標の達成を担う現場の部長やこれを支える営業社員の相当数が本件不正を行い直近2年間で激増したことは重要な指摘事項である。

 

 

インセンティブの影響については以下の通り触れられています。
同社はストックオプション制度も導入していますが、今回の調査報告書ではストックオプションは本件について「大きな影響はなかった」と記載されているので割愛します。
部長、担当者、会社業績について個別に検証されていますが、結論としては「売り上げの繰り入れでインセンティブが大きく発生しない」ためインセンティブの影響はない、と結論付けられています。
まして普通にやっていてもラップ制度の120%を達成している部ですら虚偽計上を行っていたことから、インセンティブではなく目先の利益ではなく、より上位の役職者の(部長は経営者、担当者は部長)の期待にこたえたい、あるいは答えざるを得ないというプレッシャーがあったと結論付けられています。
これはアンケート結果からしても妥当でしょう。

(イ)インセンティブ報酬

対象会社では、固定給の他に、売上達成率や成約案件数等に応じた各インセンティブ報酬を支給していた。

インセンティブ報酬の種類は多岐に及び、またインセンティブ報酬の設計自体各年度により異なるが、一貫してその中で大部分を占めるのは、①部長について、部の実質達成率(各部の実績額から費用を控除した金額を、年間売上達成目標額で割った割合)に応じた部長インセンティブ、②営業担当者について個人の年間売上目標達成率に応じた営業担当者インセンティブである。

 

  1. 部長インセンティブ

部長インセンティブは、実質達成率が 100%未満であると支給されない制度設計になっている。

部長インセンティブの不支給を避けるために、部長が本件不適切報告を指示し、或いは黙認した可能性を検討する必要がある。しかし、制度設計上、部としての業績を上げることと、部長インセンティブの支給の有無は表裏一体であり、事後的にどちらが主たる目的であったのか分析することは非常に困難である。

もっとも、本件不適切報告は、基本的に計上時期を前倒しする効果しかないところ、最終四半期以外で不正を行ったとしても、部長インセンティブの支給の有無は変わらない。すなわち、第3四半期で売上計上しようが、第2四半期で売上計上しようが、実質達成率は変わらず、したがって営業担当者インセンティブの支給の有無は変わらないことになる(なお、部長インセンティブの項目の中には、12 月に実質達成率 100%を達成した場合に、増額される項目は存在する。しかし、部長インセンティブの大部分を占める項目は、早期達成によって影響されない設計となっている)。

ところが、本件不適切報告があった時期は、際立って最終四半期に偏っているわけではなく、2022 年3月期(進行期)の第1四半期及び第2四半期でも発生している。以上のことは、部長インセンティブが、本件不適切報告の主たる要因ではなく、部長インセンティブの存在が本件不適切報告に関与した部長に与えた心理的な影響は副次的・限定的であることを示唆している。

さらに、部長インセンティブの支給が確定している部においても本件不適切報告が頻発していたことも踏まえると、部長インセンティブが主たる要因となった事例は全体の中でも限定的であると考えられる。

なお、本件不適切報告に関与した部長に対してヒヤリングを行ったが、特に個人的な部長インセンティブを理由として挙げている者はない。

以上を踏まえると、部長インセンティブが、本件不適切報告の要因になった可能性は否定できないものの、あくまで副次的・限定的なものであると考えられる。

 

  1. 営業担当者インセンティブ

 

営業担当者インセンティブは、年間売上目標額の達成率が 100%未満であると支給されない制度設計になっている。

営業担当者インセンティブの不支給を避けるために、営業担当者が本件不適切報告を行い、或いは黙認した可能性を検討する必要があるが、制度設計上、個人としての業績を上げることと、営業担当者インセンティブの支給の有無は表裏一体であり、事後的にどちらが主たる目的であったのか分析することは非常に困難である。

もっとも、前記a でも述べたとおり、本件不適切報告は、基本的に計上時期を前倒しする効果しかないところ、最終四半期以外で不正を行ったとしても、営業担当者インセンティブの支給の有無は変わらない(なお、営業担当者インセンティブを計算するための料率は、9月末、12 月末に年間売上目標額を達成した方が、3月末に達成した場合と比べて有利になる制度が採用されている。しかし、かかる早期達成により増加する金額が営業担当者インセンティブ全体に占める割合は小さい)。

ところが、本件不適切報告があった時期は、際立って最終四半期に偏っているわけではなく、2022 年3月期(進行期)の第1四半期及び第2四半期でも発生している。このことは、営業担当者インセンティブが、本件不適切報告の主たる要因ではなく、営業担当者インセンティブの影響は副次的・限定的であることを示唆している。

(ウ)目標達成と昇進・降格などの人事評価

前記のとおり、部長会議では、ラップ目標及びコミットメントの達成率が共有されていた。また、部長の評価項目には、担当部のラップ目標及びコミットメントの達成率等が含まれていた。

また、営業担当者の中で特に業績を上げているものが、部長に昇進することは、会社内部で共通の認識になっていたと考えられる。

以上を踏まえると、部長及び営業担当者が、自身の今後の昇進の可能性    を高めるため、本件不適切報告を行った可能性について検討の必要がある。

もっとも、昇進の基準が会社内で明確化されているわけではなく(例えば、何回、年間売上達成目標を達成すれば昇進する等といった基準は設けられていない)、また業績の未達により昇進の対象から外れ、或いは降格されるという明文上の制度も無い。このような事情を踏まえれば、昇進等がどれ程行為者にとって動機となったかは、各人のパーソナリティ等による可能性が高く、普遍的な要因と断定することはできない。

 

ウ 会社全体の業績達成

前記(1)アのとおり、対象会社の持続的な成長の重要性・必要性が全社的に共有されていたことを踏まえれば、単なる部の業績達成に留まらず、会社全体の成長を目指し、経営陣の期待に応えるために、本件不適切報告を行った可能性について検討を要する。

現に、本件不適切報告があった事案を除外・修正した年間目標の達成率を各部毎に試算したところ、2021 年3月期において修正後の達成率が 100%を超える部は 5 箇所あり、中には 126%にまで及ぶ部もある。

年初目標である 100%、そして最終的なラップ目標である 120%を超過しているにも関わらず、不適切報告を行った部があることなどによれば、会社全体の成長・利益に貢献し、経営陣の期待に応えたいという心理的な欲求が重要な要素であったものと合理的に考えられる。

 

管理本部の形式的な管理で防止できなかったことは上述しましたが、その他の心理的要因についても触れられています。
規範意識の低下について触れられているので見てみたいと思います。
まずは複数人関与しているのに牽制できなかったのは何故?という点です。
管理本部からのチェックがなく、基本的に彼らは(会社や上司のために)売り上げを繰り入れたいという利害関係がある意味同じであるため、牽制機能が働くのは難しかったのでしょう。

(3)相互抑止機能・牽制機能の不発揮

会社の提携仲介業務においては、売り手側と買い手側とを同一部署内で担当す る少数のケースを除いて、売り手担当者、売り手担当部署の部長、買い手担当者、買い手担当部署の部長と、少なくとも1 案件あたり4 名の案件関与者が存在する。そのため、ある担当者が不適切報告を行おうとしても、相手方の担当者(又は相 手方の担当部)に判明するものであり、本来は、相手方担当者による抑止機能・ 牽制機能の発揮が期待できるはずである。

しかし、対象会社においては、双方の部が売上達成を図るあまり、相互の抑止機能・牽制機能が十分に発揮されない事態が生じた。

 

規範意識の低下についての調査には驚かされました。
「みんながやってるから」はまだわかるのですが、「決まる案件に時期を早めて改竄しただけ」「社内報告に限られるから問題ない」という認識についてはかなり衝撃的です。
M&Aを進めるうえで買い手側に対して買収監査などを説明し、専門家を入れることを勧め、正確な評価をするようアドバイスする立場だと思いますが、例えば売り手がバリュエーションをよくするために売り上げを「早めただけ」として繰り入れることは容認するのでしょうか?
また「社内にしか影響ない」というのは、投資家に対して適切な判断を与えるべき上場企業の社員としていかがなものかとも思います。
当該企業は証券会社や銀行など、様々な金融機関からも広く優秀な営業社員を募集しているという認識だったのですが、環境によっては倫理観、規律性というものは薄れてしまうのでしょうか。
虚偽の根拠に基づいて発表した見通しにより株を購入した株主から株主賠償請求訴訟が行われるのは彼ら彼女らが転職前に属していた会社では当たり前のように教えていたはずですし、非公開株を扱う彼ら彼女が「知らなかった」というには無理があります。

(4)複数の要因による規範意識の低下

本件不適切報告は、不正な書面の作出を伴うものであり、通常の規範意識を有していれば、行わないものである。それにもかかわらず、行為に及んだことは、規範意識が低下していたと考えることを否定することはできない。この規範意識の低下については、複数の要因が存すると考えられる。

第1に、架空報告ではないという意識である。本件は、いずれも進行中の案件 を対象とするもので、かつ、行為者の回答等によれば、間違いなく行ける案件に ついて、時期を早めて報告をしてしまったというものである。そして、実際、前記第4の1(4)ウに記載のとおり、不正報告された 83 件のうち、最終契約または基本合意に至らなかった案件(会計処理的にいずれも取消処理がなされた案件)は 13 件のみであり、大半が最終契約または基本合意に至っている。このような架空報告ではないとの意識が規範意識を低下させたと考えられる。

第2に、不正の報告が社内報告に限られるとの意識である。行為者は、本件不正について、不正報告の意識を有し、そのことの不適切さの意識を有しているが、他方で、いわゆる粉飾決算に至るような不正会計報告に加担した意識が存しない。これは、行為者の不正報告と売上の財務計上は別問題であり、また、最終的に売上として計上するかは、楢木管理本部長の判断によるとの意識を有したものと解される。そして、個々の担当者だけでなく、部長までもがそのような意識を有していたようである。もちろんその意識は正しいものではないが、財務会計に関する知識の欠落と、売上計上が楢木管理本部長の個別判断に依っていたという運用形態がこのような意識を助長していたと考えられる。

第3に、自分だけではないという意識である。即ち、各行為者は、本件不正の方法について、他者から聞いたと述べるもので、この不正が自己のみではないという弁解を作出している。加えて、1つの案件で複数の関与者が存することで、自己の役割を低減させるとともに、他者との共同行為によるとの意識が生じその規範意識を低下させたと言える。

これら複数の要因により、行為者の規範意識が低下していたと考えられる。

 

不正の拡大についてはコロナの影響を指摘しています。
面談ができない中で動いていたので、というのは有印私文書偽造の言い訳にはならないでしょう。

(5)不正行為が急激に拡大したこと

本件不適切報告の発生時期は、前記第4の1(2)に記載のとおり、2021 年 3 月期 35 件、2022 年3月期(進行期)39 件であり、大多数(約 89%)の不適切報告は、2020 年4月以降の売上報告事案である。

このように、本件不適切報告は、2020 年4月以降明らかな増加の状況にあり、その原因については、コロナ禍の状況において、各担当者は、顧客に会えないという事態に数多く直面し、当事者間で合意内容がまとまり、通常期であれば、契約締結に至った事案について、最終契約の締結に至らない事案に直面したという。言わば、当事者間の合意形成から最終契約に至るスパンの長期化が生じた背景事情もある。

このようなコロナ禍においても、経営陣から全社的に発出された「コロナに負けない」、「コロナを言い訳にしない」という文脈における営業促進に向けたメッセージは、担当部長及び末端の営業社員に心理的に大きな重圧を与え、これが件数の増加に繋がったとの推測が働く。

 

再発防止策

再発防止策についても多く紙面が割かれていますが、ここでは印象的なところについて抜粋していきたいと思います。

以下は、個人的には少し違うのではないかと思いますが、岸田内閣の「新しい資本主義」の四半期決算の開示義務化免除にもつながるところなので抜粋します。
ただ先ほど顧客満足度の話もありましたが、「無理なスケジュールを強いる」「押し込み的営業になっている」という点は同業他社として留意すべき点だと思います。
そしてその動機が「対象会社の経営陣の期待に応えたい」のであれば本末転倒と言わざるを得ないでしょう。

(1)四半期業績達成に関する経営管理手法の見直し

今回の不正発生の背景事情として、営業部の部長が自らのコミットメントを絶対に未達にできない事情、設定された各部の年間目標数値の必達を強く求められる事情がもたらした部長サイドの心理的要因は看過しがたいものがある。

対象会社において「営業目標必達で未達は許容されない」という厳格な業績管理・手法が行き着くと「この会社で生き延びてゆくためには、未達を絶対に回避する必要があり、そのような要望に応えるためには何でもやる(それが会社の経営陣らが求めるものと理解する)」という類の歪んだ企業内倫理が醸成される事態となる。「対象会社の経営陣の期待に応えたい」「他に迷惑をかけることができないという」プロとしての職業意識が、結果的に「よくないことも、役員に言わずに、何とか部内でやり切る。」という歪んだ行動を招来した。これは、「売上至上主義的」経営の弊害の顕著な現れといえる。

経営陣としては、四半期毎の売上達成の数値等の重視した経営管理手法をとる 場合、他方で部長など中間管理職のモラルの教育、内部チェック体制、早期の通報体制など「売上至上主義的」経営の弊害を抑止する施策を同時にとるべきであった。対象会社の社長と営業本部長を中心とする主要なビジネスラインにおいて、このような各種施策が十分ではなかった。

「売上至上主義的」経営に陥らないためには、経営陣が伝達する部長会議の運営方針、営業社員に対するメッセージについても、営業成績に過度にフォーカスしたものでなく、社会的に公正で顧客本位の業務対応の実現などによりバランスのとれたものにする必要がある。

さらに、四半期期末を決算期日とする対象会社のこれまでの業績管理は、四半期末日に集中する駆込み的なM&Aのディールメイキングを招来する懸念があり、このような業績管理が顧客サービスに問題を招来していないか(すなわち、顧客に、無理なスケジュールを強いる、顧客満足度を損なうような押込み的営業になっていないか)などは、「売上至上主義的」経営の弊害が防ぐための重要な点検事項とすべきである。

 

以下に示されている提言は現実的というか、適切な再発防止策だと思います。
「コロナに負けない」というメッセージではなく、経営計画を現実に合ったものに修正すること、というのはその通りで、現実を見ず数字を押し付けた結果、組織に不正意識が蔓延してしまったのでは元も子もありません。
またインセンティブについてはそれほどの影響はなかったと調査結果で報告していますが、ここで触れられているのは気になるところです。

また、成長を期す事業会社である以上、高い営業目標を掲げる必要があるとし ても、営業現場の実情と現実に寄り添った経営姿勢を示すこともまた重要である。ところが、この1~2年のコロナ禍における対象会社の経営陣の対応はこの点で 疑義がある。すなわち、コロナ禍で客に会えない状況が発生し、M&Aのプロセスについて通常より時間を要するなか、無理が生じたことは否めない。「コロナに負 けない」という経営陣から営業社員に対するメッセージにより、部の営業達成に 関する心理的あせりが増したことは否定できないと思われる。このような場合は、

「コロナに負けない」というメッセージではなく、コロナ禍の状況又は緊急事態宣言発出時には、当初の経営計画の成長率を暫定的に現実に見合ったものに修正することで、営業現場に心理的な安堵感を醸成するなどの措置もとりえたはずである。このような適切な措置をとっていれば、社員が営業達成のために不正に及ぶことも少なかったと合理的に推測される。

さらに、対象会社が部長・営業社員に適用する各種営業インセンティブが売上の不適切報告に至った要因となった可能性がある。今回の不正調査の結果をもとに部長・営業担当者に対する各種インセンティブの在り方を、営業社員などをもとに再検討すべきである。

 

先ほど部長クラスの年齢について触れられていましたが、ここでも再度年齢について触れられていますね。
人材の問題に帰責されていますが、この評価や私的を誰がしたのかという点についても興味深いところです。
ただ総論としてはこの通りだと思います。

(2)公正かつ適正な評価による部長等主要社員の登用

今回の不正は、特に事業法人各部、ダイレクトマーケティング各部など戦略統括事業部における蔓延状況が特に深刻である。対象会社は近年急成長しており、近年では営業的に優秀な営業担当者(プレーヤー)が若くして部長に登用されている。彼らは営業担当者として極めて優秀であっても、営業部を統括する管理者として経験不足や未熟な面があり、登用するには早かったのではないかという評価・指摘もなされている。また、そのような登用がコロナ禍と重なったために、新任部長に対する十分な教育や指導、チェックが行き渡らなかった事情は、対象会社において認めるところである。一般論ではあるが、過度に営業指向の強い営業社員を部長に抜擢すると、管理者としての公正性・信頼性を伴わない結果を招来する事態が生じかねないので、部長等の主要な社員人事は、営業本部のみならず、管理本部、(新たに設けるとすればコンプライアンス部)、さらに業務対応の顧客満足度の実現など多様な評価の指標をもとに、対象会社内の多様な取締役からの評価が反映されることが重要と思料される。

 

今回、他部署から虚偽計上を持ちかけられた部長2名が取締役に相談して発覚したとお伝えしました。
虚偽報告を行っていた部署とそうでない部署との間で不信感が増長されることを指摘しています
ただ正しい報告を行った部署が評価されないというのは本末転倒な話なので、今回の賞罰を明らかにすることが今後につながるのでしょう。
役員も報酬返上であったり降格したりと処分は発生していますが、社員の納得感のある賞罰が必要になってくると思います。

(3)本件不正に対する公正な社内処分と営業組織の見直し

今回の不正では、社内で不正が蔓延し多発したセクションと適切に業務を実行してきたセクションとの間で社内不信が増長する懸念も想定される。

したがって、本件不正を厳粛に受け止め社内融和を図るうえでも、信賞必罰、公正な観点からの社内処分の発令が、対象会社の再出発にあたり経営陣から社員に対する重要なメッセージとなろう。

この処分を検討する場合、本件においては、各営業部の部長以下の営業担当社員が働く適正な業務体制・業務環境に歪みが生じていることを十分予見せず、本件不正を長期間認識できず阻止できなった社長、営業本部長、管理本部長などの取締役はその管理責任の十分な自覚に立った応分の制裁を、社外取締役などの意見を踏まえて甘受すべきである。

本件不正に及んだ部長ら管理者に対する処分は、経営陣が応分の制裁を受けることを前提としたうえ、社外取締役及び監査等委員の意見を十分踏まえた、公平かつ適切な処分内容である必要がある。

このように役員・部長・営業担当社員の各レベルにおける公正な処分発令とともに、各部署の融和を行うための適切な組織的再編(具体的に、部内で相当数の不正を発生させた部の再編及び、本部長、統括部長、部長など管理職レベルの適切な配置変更)など適切な措置をとることが肝要である。

 

売上報告については原本及び売り手買い手双方からの会社宛の確認書を取り付けてはと記載されています。
また売り上げも未入金の案件については今のような体制にするのではなく、最終契約締結だけでは売り上げを認識しないという運用に移行すべきだと書かれています。
むしろ客観的な指標(入金の有無)に限定したほうが担当者の予断をはさまないので、運用としては恣意性が働かず合理的なのではないでしょうか。

4   売上報告に関する業務フローの再構築

現状は、売上報告に際し、セールスフォースに最終契約書の写しを PDF でアップロードすることが要請されている。

しかしながら、この方法は、対象会社の売上の認識基準となる最終契約書について、写しの存在でしか確認できないものであり、この点で、本件不正の原因となった。また、売り手担当、買い手担当の一方からのみのアップロードで足りてしまうもので、この点で、一方担当による不正を可能としてしまった。

これについて、売り手・買い手の当事者双方から対象会社宛に、最終契約書の写しを添付の上、最終契約締結の確認書の提出を求めること等を検討するべきである。売り手担当は売り手から、買い手担当は買い手から取得する。売上計上に際し、最終契約書の写しに加え、これら2通の確認書の原本を管理本部に提出することで、管理本部において原本による最終契約締結の確認、そして、売り手担当、買い手担当双方からの書類提出によるダブルチェックが可能となる。この方法は、煩雑にも見えるが、最終契約締結時には、当事者はこれに捺印するもので、その際の捺印書類に、対象会社宛のものを加える形で足りるものである。売上計上規程として、これを整備すべきと考える。

 

5   売上計上に関する業務フローの再構築

前記のとおり、対象会社の売上計上の判断に関しては、売上報告された案件について、(1)報告の真正については判断対象に含まれず、(2)売上計上についてはディールブレイカーの解消の判断という観点から判断されている。

しかし、会社規模の拡大により、(1)の報告の真正に関する判断は不可欠であ る。そして、これについては、前記売上報告に関する業務フローの再構築にともない、①売り手担当者から提出される売り手側最終契約締結の確認書の原本確認と、日付及び添付書類等の確認、②買い手担当者から提出される買い手側最終契約締結の確認書の原本確認と、日付及び添付書類等の確認、③  ①及び②の両者の照合等により行う。

(2)の売上計上基準において、対象会社が採用するように、「ディールブレイカーの解消」という充足要件を用いること自体には、会計基準上の問題があるとはいえないが、その判断は、案件担当者及び直属の管理者にしか判断できないもので、売上計上をする管理本部も、当該案件の入金予定日及び案件担当者へのヒヤリングによる確認しかできず、客観的な指標による判断がなされていなかった。売上計上について、管理本部が客観的な指標によって確認可能で、かつ、明確な充足要件を設定すべきである。例えば、株式譲渡契約等の最終契約書の締結から入金までの一定期間(例えば 10 日程度)を超えるような場合は、ディールブレイカーが解消していたとする蓋然性がないと考え、特段の事情がない限り最終契約書の締結時点では売上を認識しないというような明確な充足要件を設定すべきである。

なお、当該充足要件の設定は、多角的な検討のもと適切な機関の意思決定に基づき行われるべきものであり、決定事項は、経理規程やマニュアルなどに明確に記載され、全社員の共通認識とすべきである。

 

6   契約文書等ドキュメント管理の徹底

対象会社内の契約書管理は、契約の適合性を後日検証するにあたり、不足資料が多いため適切な水準の確保が求められる。しかし、対象会社のシステムにおいては、アップロードされた最終契約書について差し替え保存が可能であり、この場合、差し替えられた最終契約書データが消去されるため、業務対応を後日客観的に検証することができない。このような契約文書等のドキュメント管理のシステムは、内部統制的観点からも問題があるので、文書管理システムを見直し、文書管理規程について必要な整備を行うとともに、文書管理責任者において適切な管理を行い、一度アップロードされた書類が更新後においても消去されないシステムを構築することが必要である。

 

 

また内部監査室についても実効性の上で問題があったとおもいます。
営業会社であれば「攻めの経営」で営業面には力を入れて管理部門や監査部門がなおざりになってしまうのは「あるある」なのですが、冒頭お伝えした通り、同社は「パイオニア」にして「ガリバー」であり、業界の指導的立場に位置していたため、後手に回ってしまった、内部統制を軽視していた、との指摘されても仕方ないところはあると思います。
反面、これは同業他社についても同様の話が言えるため、ここから教訓を引き出すことが我々にとって必要なことだと思います。

9   監査・監督部門の体制強化

貴社には、内部監査室が設置され内部監査が行われていたが、内部監査により本件不正の端緒は発見されなかった。

現在貴社の内部監査室は、担当者2名により行われているが、2名はいずれもコーポレートアドバイザーを兼任しており、専属の執務場所もなく補助者も存しない。この体制においては不正予防に関する実効性のある監査は難しいと言える。そのため、内部監査室には少なくとも1名の専属の担当者を配置すること、そして、内部監査室について専属の執務場所と補助者の設置により、その監査体制を整備することで、不正予防に関する監査を可能とする体制の強化が必要と考える。そして、監査等委員会との連携について、定期的な報告の機会に加え、適時報告の機会を設けることにより緊密な連携を図り、監査部門の体制を強化する必要がある。さらに、内部監査室の監査内容について、取締役会への定期的な報告等による綿密な共有も必要である。

10   対象会社のリスクマネジメントの強化

本件不正は、最終契約書の写し又は基本合意書の写しの作出による不正報告という、通常の業務プロセスにおいて想定しえないものとして発見が遅延した面が存する。しかし、会社規模の拡大と業務の多様化に伴い通常想定しえない業務プロセス上のリスクが生じることもある。これについて、貴社においては、従前より、常勤取締役及び法務室の管理職をメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置し、貴社及び子会社の社内横断的なリスクの管理・予防の検討を行っているが、本件不正の発生に鑑みれば、十分な実効性を有していたと評価することはできない。そこで、このリスク管理・予防の検討に加え、業務プロセスを検証し、社員の不正を許す環境を消滅させるための内部統制的環境を実現すべきである。そして、リスクマネジメント委員会をそのための機関とするならば、新たに設置するコンプライアンス所管部署を中心に各業務プロセスにおいて発生しうるリスクの存在を検証し、その発生の可能性を最小限にするための業務プロセスの体制の構築を継続的に議論し、これを検証していく必要があると考える。

以上

 

結論・教訓

さて特定企業の不祥事を揶揄するのではなく、そこから何を教訓として得て他山の石とし、M&Aに関わる売り手・買い手当事者はどう対応しないといけないのか、という事を考える必要があると思います。

今回特徴的な論点としては、

1.虚偽報告の発生原因として過度な目標と営業数字を社内でオープンにしていることで心理的に追い込まれており、コミットやラップ達成のため部長や担当者がプレッシャーを強く感じていた
2.インセンティブについては直接の要因ではなかったと思われる
3.仲介制度の問題でもなく、むしろ担当者が社内でそれぞれ買い手と売り手とに分かれているため、共謀しないと成立しないことから、組織ぐるみの問題が起きてしまった
4.上記に関連して、罪の意識も特になかった
5.個社の話で言えば、買い手売り手FAに分けているから利益相反はないと謳っていたが、社内手続きで癒着し共謀していることが判明したため、守るべき情報が相手方に秘匿されているのかどうかという点について、信頼性が損なわれてしまった

という事ではないでしょうか。

結果として、売上を繰り入れて達成するため、罪の意識もなかったこともあり、むしろ良かれと思ってやった側面もあるかもしれません。
これが一担当者が仲介を行っていれば個人の責任に帰責されるため思いとどまる人間もいたのでしょうが、「部のため」「部長から言われたから」という環境では、なおさら思いとどまるのも難しかったのでしょう。

社内的な牽制については調査報告書であるようなシステム的な再発防止策を入れることも必要でしょうが、合理的な理由がないのに契約を早めたり、焦られたりするような担当者であれば、「顧客満足度」よりも「会社の目標を達成する」ことを優先している可能性があるので、そのような挙動があれば理由を確認することが必要でしょう。
特に売り手の場合は、スピードを優先するために本来、よりよい買い手を紹介されていないケースも考えられます。
したがって進め方が強引であると感じた売り手は、仲介会社の売り上げを早めるために仲介主導で進められているのか、それとも本当に自社に合う買い手を紹介してくれているのか、という事を一度立ち止まって考えてもいいかもしれません。
特に上場している会社や上場を目指しているM&A仲介会社は進捗管理が厳しいため上記のようなことが起きる可能性は非上場の会社より高いと思います。
今M&Aを進められている方、ご検討されている方はご留意ください。

<2022年2月25日追記>
週刊ダイヤモンドでも取り上げられています。
日本M&Aセンターが売上高不正計上、契約書偽造も…評価急落で「業界序列逆転」か

個人的にはややゴシップ的な印象も受けますが、企業の体質について触れているのでご一読ください。
また週刊文春も突撃していますね。
ただこちらは挨拶だけになっている印象です(文春なのに)。
創業者の三宅社長としては自分が作ろうとした会社が、結果としてキマイラのようになってしまったのではと、心中を思うと寂しいものがあります。

M&Aセンターが不正計上 超高給“ワンマン社長”直撃

――社長も関与していた?

「全く知らなかった。実際に想定していない手法で不正が行われていた」

――ノルマ主義が原因では。

「会社側にもそういう文化を作ってしまった責任が大きくあると、私は考えております」

三宅社長が今後、日本M&Aセンターや業界に対してどう向き合うのかは三宅社長の課題でありますが、私としては本件を他山の石として経営を行なっていこうと考えております。

M&Aについては以下のブログも参考にしてください。

<売り手向け>やばい買い手には気をつけろ! マッチングだけが全てではない。
小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」についての解説
「M&A仲介への不信感4選」
仲介かFASか
「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場会社との比較!
M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!
売り手がM&Aを始める前に確認すべき5つのこと
【年倍法】M&Aの「価格」と「価値」の違いとは
「御社を買いたい人がいるから売ってくれと言われているが本当か」問題
M&A仲介会社の「業界最安値」手数料問題とは
仲介会社が入る意味とは
「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」
「中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方」
「中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方2」
日本政策金融公庫を使ったスモールM&Aのための資金調達!・・・と疑似PEファンドの組成?
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