コロナ禍における経営戦略について

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公開日:2021年2月16日 /最終更新日:2024年7月24日

コロナ禍の中、あらためて言うまでもないことかもしれませんが、居酒屋中堅チェーンのヴィア・ホールディングスの私的整理のニュースが報じられるなど、外食産業や百貨店業界などを中心に大きく産業単位でコロナの影響を受けている企業が出てきています。
リーマンショック(サブプライム危機)のように流動性が問題だった時と比べ、人の行動を制約してしまう現在の状況は、幅広い産業で大きな影響を及ぼしていると言えるでしょう。

特に外食・外出(特にインバウンド)需要が激減していることにより、それら企業との取引先(外食を中心とした食品卸や納入業者)の売り上げも減り、売り上げ30%減であれば「まだましな方」との声も聞かれます。
他方、そのような業者の中でも、売上は影響を受けているものの、利益については微減ないしは増加させているようなかじ取りができている企業もあります。そのような企業に共通する特徴としては、既存の販路がスーパーなどのコロナの影響を受けづらい先だったという事はもちろんですが、売上の減少期(コロナの影響が不明な時)にいち早く、環境変化に対応するように努めていた企業が多かったような印象を受けています。
例えば採算悪化が見込まれる事業の切り離しや、利益率は下がるものの大口納品が見込まれる先への販路の拡大、B2C事業への参入などです。

さてワクチンの接種がもうすぐ始まり、楽観的なシナリオではコロナが収束する可能性が見えてきています。
ではコロナ禍で甚大な被害を受けてしまった企業は、従来のような回復は見込まれるでしょうか?

私はホテルや運輸などのインバウンド需要を除いて、そのシナリオには懐疑的な見方をしています。というのも、ホテルや運輸も回復するためには、今までのような出国や移動に対しての制度的・心理的な抵抗が払しょくされる必要があると思いますし、それにはかなりの時間がかかると思うからです。
これに対し、先ほど挙げたような、変化に対応している企業群は、この状況下においても、ダメージを受けていた企業への買収に対しどん欲に動いており、コロナが収束した後、自然に復元した売上から生まれるキャッシュや、傷まなかったバランスシートを活かし、さらに積極的に資本を投下し攻勢に出ています。
それに対しコロナの影響を受けてしまった企業については、緊急融資で借りた負債がのしかかってしまうため、負債の返済で手一杯となり、経営の効率化への投資まで手が回らず、立ち遅れてしまいます。
そして両者の差は、コロナの影響が長引けば長引くほど広がってしまうでしょう。

では今、この現状で何を考えるべきでしょうか。
簡単に言ってしまえば収益がでる企業形態、事業構造へと組織を変化させることです。
「簡単にいうなよ」という声が聞こえるのももちろんわかります。
ただ目的は明確ですし、そのための手段を考えることが前向きな解決でしょう。

例えば資本がある企業であれば、事業ドメインを変えるためにM&Aを行うことも一つです。
(ご参考:「【AP市川×CDI占部】投資収益だけではなく、事業そのものを真剣に考え、価値を高めたプロジェクト」でバリューアップの難易度でM&Aが下位(やりやすい)に位置しています)

反面、持続的な経営に不安のある企業は、事業を切り離してキャッシュの流出を最低限にとどめ、回復の時期をうかがいながら、事業構造を収益が出る形に変えていくことでしょう。
事業構造を利益が出る形に変えてもコロナが収束してそれらがゼロになるかと言えば、コロナが収束してコロナ前まで売り上げが回復するよりも可能性は低いと思います。
なぜなら世界的な疫病となってしまった以上、行動がすぐに従来の様に戻るとは考えづらいからです。

また事業構造を変える余力がない企業は、M&Aで他資本の傘下に入ることも検討してもいいかもしれません。
会社は運転資金が枯渇してしまったらショートしてしまいますが、大資本の傘下であればその可能性が減ります。
また不快に思われたら申し訳ありませんが、この状況下でも柔軟に収益を上げる形を取れている会社の傘下に入れば、その企業の戦略に従い、収益が出る形に変われる可能性があるからです(逆にM&Aを行う側からすると、そういう自信がなければ買収は行いません)。

仮に倒産してしまえば従業員のみならず、取引先や債権者に対してもダメージが発生してしまいます。
ただし企業再生であれば一部従業員や債権者に対してダメージは発生するものの、倒産することに比べれば影響は小さく、企業は存続します(企業再生についてはこちらで触れています)。
M&Aであれば企業は存続する前提となりますし、基本的には同様の条件でオーナーが変わり、そのあとで環境に対応するための人員配置や取引先開拓などが行われることになると思います。

ここで余談になりますが、一般的なM&Aの失敗率は8割と言われています。
これはM&Aを行ったのち減損を行った企業の割合です。

なぜ日本のM&Aは失敗の割合が多いのか、という事についてJALやダイエーの再生に携わった冨山和彦さんが「コーポレート・トランスフォーメーション」の中で興味深いことを書いています。
意訳となりますが「日本の企業は利益率が下がってきていても、少しでも黒字だと、なぜ黒字なのに売却をするのかとカイシャの論理で売れない。赤字なら仕方ないと思ってようやく売るが、二束三文でたたかれる」「買いたたかれたのであれば、買った側からすれば得をするはずだが、PMIをできるような人材も育てていないので立て直しが上手く行かない」という趣旨です。

逆にいえば、買い手側の人材についてはコントロールできませんが、まだ利益が出ている段階で譲渡を行えば、事業体としては存続できますし、経営者として残れる可能性が高いと考えます(買い手側に人がいないのであればなおさら)。
弊社は単純にグループに入ってほしいという事業会社だけれはなく、投資先と連携できる先を探してほしいとPEファンドからも相談を受けております。

事業体として体力のあるうちに上記のような環境に変化ができ、かつ資本がある先と一緒になってやっていくことで企業が存続・発展するのであれば、独自路線に固執し結果として存続できなくなることに比べ、はるかにいいのではないかと思いますがいかがでしょうか。
このコロナ禍の状況で寄せられてくる相談が多くありましたので、私見を述べてきました。
追い込まれる前に動いてしまうとどうしても力関係で弱くなってしまうので、早めに思い切りよく対応したほうが、結果としてプラスに働くと考えています。

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