中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方

Pocket

公開日:2021年9月13日 /最終更新日:2021年9月14日

中小企業庁が問題視していることと中小M&A支援機関に関わる登録制度

前回コラム「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」はお陰様で好評いただき、もう少し深く説明してほしいとのご要望を頂いたため、現在のM&A業界で起きている動きについて、中小企業庁を中心に解説します。

現在起きている問題

中小企業庁の本省である経済産業省を含め、事業承継やM&Aを活発に行い、円滑な代替わりであったり経営資源の効率的な活用を行うことで、日本経済を活性化させようと考えています。
しかしながらM&Aや事業承継が一般的になってきた結果として業者が乱立し、一部業者は取引相手の無知を利用して一方的な契約を行っている、という苦情が寄せられているようです。
加えて悪質な仲介業者と結んだ契約自体は法的要件を具備して成立しており、消費者保護法でさだめる消費者ではないことから保護されることもできずに今まで泣き寝入りしてきた人たちが多くいた、という事があったのでしょう。

河野太郎大臣も問題視し、ブログTwitterで対策を行うことを述べていました。

以下、長いですが中小M&Aガイドラインからの引用です。
(重要と思われる個所は太字にしています)

4 仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
仲介者においては、譲り渡し側・譲り受け側間において利益相反のリスクがある
(利益相反が直ちに違法となるものではない。)。例えば、譲り渡し側が譲り受け側に
会社の事業を譲り渡す場合(事業譲渡)、譲り渡し側にとってはその代金(譲渡対価)
が高い方が望ましい一方、譲り受け側にとっては譲渡対価が安い方が望ましく、構造
的に譲り渡し側・譲り受け側の両者間において利益相反の状況が存在するといわれ
る。そのような状況において、仲介者が片方当事者(特に、リピーターになり得る譲り
受け側)の利益を優先して取引をまとめるように動く動機があるという構造的な問題
が指摘されている(なお、これに対しては、譲渡額が増加すると、これに連動して仲介
者・FA の手数料も増加する形になることがあり、その場合には、逆に譲り渡し側の利
益を優先して取引をまとめるように働く動機があるという指摘もある。)。
このように利益相反のリスクはあるものの、中小 M&A の実務においては、FA より
も仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、仲介者という業態を
中小 M&A において不適切であると断ずることは現実的ではない。そこで、仲介者は、
利益相反のリスクを最小限とするため、最低限、以下のような措置を講じることが必
要である。
 譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるという
こと(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められ
ている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
 バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)
といった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定
しない。依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
 仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがある
ものと想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別
途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとっての
み有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、
各当事者に対し、適時に明示的に開示する。
5 専任条項の留意点
譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、並
行して他の M&A 専門業者への依頼を行うことを禁止する条項(専任条項)が設けら
れることがある。これは、例えば、マッチングにおいて、譲り受け側となり得る同一の
候補先に対し同一の譲り渡し側について複数の M&A 専門業者が重ねて打診した場
合に、当該候補先の心証を害することや、譲り渡し側に関する情報が拡散することを
抑止するという観点で、それ自体は一定の合理性が認められる。
しかし、依頼者である譲り渡し側が、依頼した M&A 専門業者の助言等の内容に疑
義を持った場合等に、他の M&A 専門業者やその他の支援機関にセカンド・オピニオ
ンを求めることができないとすると、当該助言の妥当性を判断できず、ひいては中小
M&A の手続についても適切な判断を行えなくなるおそれがある。
このため、仮に専任条項を設けるとしても、その対象範囲を可能な限り限定すべき
である。例えば、依頼者が意見を求めたい部分を明確にした上、これを妨げるべき合
理的な理由がない場合には、M&A 専門業者は当該依頼者に対し、他の支援機関に
対してセカンド・オピニオンを求めることを許容すべきである。ただし、当該他の支援
機関から、相手方当事者に関する情報も含む中小 M&A に関する情報が漏えいする
リスクもあるため、セカンド・オピニオンにおいては、相手方当事者に関する情報の開
示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業引継
ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する必要がある。
また、専任条項に長期間拘束されることにより、依頼者が適時に他の仲介者・FA
へ依頼できなくなるおそれがあるため、専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA 契
約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めるべきである。加えて、
例えば、依頼者が任意の時点で仲介契約・FA 契約を中途解約できることを明記する
条項等も設けることが望ましい。
6 テール条項の留意点
譲り渡し側と M&A 専門業者との間における仲介契約・FA 契約の内容において、当
該契約終了後一定期間(テール期間)内に、譲り渡し側が譲り受け側との間でM&Aを
行った場合に、当該契約等は終了しているにもかかわらず、当該 M&A 専門業者が手
数料を取得する条項(テール条項)が定められる場合がある。これは、M&A 専門業者
が人的・物的コストを費やして譲り渡し側の M&A 成立直前にまで達した際に、譲り渡
し側が当該 M&A 専門業者の手数料の発生を防ぐため、あえて当該 M&A 専門業者と
の契約を終了させ、その後に当該 M&A を実行しようとするようなケース等を念頭に置
かれる規定であり、それ自体は一定の合理性が認められる。
しかしながら、テール期間が不当に長期にわたる場合には、その後の譲り渡し側
の自由な経営判断を損なうおそれがある。したがって、テール期間は最長でも2年~
3年以内を目安とすることが望ましい。
また、テール条項の対象となる事業者を、当該 M&A 専門業者が関与・接触した譲
り受け側だけでなく、無限定とする場合には、譲り渡し側が当該 M&A 専門業者の手
数料の発生(場合によってはこれに関する紛争リスク)を懸念し、新しく M&A を実行す
ること自体を断念せざるを得なくなってしまうおそれがある。したがって、テール条項
の対象は、あくまで当該 M&A 専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した
譲り受け側のみに限定すべきである。
以上のとおり、テール条項は、譲り渡し側の自由な経営判断を損なわない限度で
活用されるべきである。

長くなりましたが、まとめると

①利益相反の可能性
②専任条項締結によりセカンドオピニオンなどが求められない
③テール条項により一般的に相当と思われる期間以上拘束されてしまい、かつ対象が無限定とされてしまう

の3点です。
③については前回コラム「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」で触れているため、①と②について説明した後、③も含めた問題について中小企業庁がどのように動いているのかを説明したいと思います。

利益相反の可能性

上記のガイドラインにも記載されているように、最も典型的な利益相反のケースは、仲介業者が今後何回も買ってくれるであろう買い手を優遇し、売り手の利益を損なうというものです。
確かに事業売却後にトラブルになったというケースは私の周りでも聞きますし、どちらかというと仲介が買い手にきちんと説明していないことから買い手が損をしているような話が多いのですが、売り手も実際に「これくらいの金額で売却した」という事を誰かに伝えたら「もっと高く売れたよ」と言われ上記のような思いに至ったのでは、と推察します。
本当に高く売れたのかどうかは実際にやってみないとわからないと思いますが、確かに買い意欲が旺盛で実際に取引のあるところにまずは話をしていくので、リピーターを優先しているようにとらえられてしまったのでしょう。
そのため仲介制度については一定の合理性があるとしたうえで、仲介行為を行う事の説明や買収監査を(仲介ではなく)専門家などに依頼することを教示するなどの留意事項が盛り込まれています。
私が意外だったのが仲介が買収監査を行うことが事実としてあったので、こういう内容が盛り込まれてたのでしょうが、仲介者が客観的な価値を担保することはできないにも関わらず(目線はもちろん説明しますが)、買収監査まで仲介が行ってしまうと、結局、M&A案件に対してチェックを働くタイミングがなくなってしまうため、そりゃあ何かあったらトラブルになるよなあと思います。
(弊社では買い手側が買収監査を行うことを前提に基本合意契約締結に進みますし、買収監査を行う専門家にリーチできない場合は紹介することも可能です)

専任条項問題

弊社も基本的に専任でお願いしていますが、ガイドラインでも示している通り、複数の仲介業者と契約を結んでしまうと、情報が売り手の本位でない形で拡散されたり(早く決めようとしてばらまき、実質売り手情報が漏洩したケースがあります)、買い手に対して複数の仲介会社から連絡が行くことで、売り急いでいると思われ、買いたたかれる可能性があります(売り手が10数社に仲介を依頼し、結果、10数社から打診を受けた買い手もいました)。
上記のように仲介をコントロールできる売り手は別にして、そうでないと不利益を被ってしまう可能性が高くなります。
しかしガイドラインでも指摘されているように依頼者である売り手側が、依頼した M&A仲介業者の助言等の内容に疑義を持った場合等に、他の M&A専門業者やその他の支援機関にセカンド・オピニオンを求めることができないとすると、当該助言の妥当性を判断できず、ひいては中小M&A の手続についても適切な判断を行えなくなるおそれがあると、囲い込んで他に相談できなくなることについて注意喚起を行っております。

中小M&A支援機関に関わる登録制度

さて、上記の問題を受けて中小企業庁は中小M&A支援機関に関わる登録を行い、実態の把握に動いています。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/210802m_and_a.pdf

今まではなんら規制も監督もないマーケットで、悪質な業者が勝手なことを行い、散発的にクレームが入ってきていましたが(もちろん権限もないため対応できず、訴訟に移行しても消費者でないため仲介会社が勝訴する傾向が高かった)、M&A仲介業者に対して支援業者として登録を行うことで実態の把握を行おうとしています。

この登録支援制度ですが、登録を行ったM&A仲介会社が適切に報告を行うことで、手数料の一部を補助金として負担することで、仲介会社が売り手買い手双方が負担する手数料が減ることから、登録されている仲介会社が依頼を受けやすいようにしています。
また登録を行うことで仲介会社が一定の品質を保証されていることをアピールできるようにしています(webにガイドラインを遵守することを掲載することを義務付けています)。
そしてクレームに対して真摯に対応することを義務付け、かつ上記の要件が満たされないと支援機関としての登録が取り消されることで、実態の把握及び品質の向上を行うよう制度設計が行われました。

今現在、中小企業庁が登録を受け付けている状況です。
弊社ももちろん応募を行いますが、この制度に登録しているかどうか、また説明をきちんと行うかどうかを見極めることで、初めてM&Aを行う売り手様はある程度安心してM&Aを行うことができるようになるのではないでしょうか。

逆にいうとこれらに登録していないか、登録していたとしても遵守していない会社・担当者については上記で述べられている、利益相反や専任条項、テール条項による売り手の実質的な囲い込みが行われる可能性が否定できないため、依頼しない方が無難でしょう。

弊社はもちろんこのような話についてwebで説明しているくらいですので、ガイドラインを遵守した対応を行いますが、もし不徹底されていると感じたり疑問に思われる点がありましたら遠慮なくお問い合わせください。

なお中小企業庁が仲介手数料の補助として支払う金額は三分の二を上限に400万円としています。
おそらく中小企業庁としては、中小企業を対象としたM&Aの場合、最低手数料が500~600万円程度と想定し、それらを(自己負担も含めて)カバーできる金額レンジとして考えているように見受けられます。
もちろん譲渡金額が大きく成ればこの金額も大きくなりますが、最低手数料でこの金額と大きく乖離しているようであれば、政府が事前に情報収集している範囲を大きく超えて手数料を請求してくるM&A仲介会社の可能性もあるため、その仲介会社に依頼することが経済的にも妥当なのかも考えられた方がいいのかなと思います。

本コラムについてのお問い合わせや不明点などあればお気軽にご連絡ください。

M&A仲介については以下のブログも参考にしてください。

「M&A仲介への不信感4選」
仲介かFASか
「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場会社との比較!
M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!
売り手がM&Aを始める前に確認すべき5つのこと
【年倍法】M&Aの「価格」と「価値」の違いとは
「御社を買いたい人がいるから売ってくれと言われているが本当か」問題
M&A仲介会社の「業界最安値」手数料問題とは
仲介会社が入る意味とは
「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

過去ブログ抜粋

  1. 会社を高く売るには? 会社の価値を正しく伝えるために

  2. 種類株式について(資本政策を考えるにあたり)

  3. 企業の成長の手段とPEファンドについて

  4. 中小企業が持ち株会社化を考える時

  5. 社会福祉法人のM&A

  6. 持ち株会社についての一考察