公開日:2022年9月12日 /最終更新日:2024年7月24日
2年ぶりの円安倒産の発生
コロナ倒産の話題落ち着いてくる反面、円安倒産の話題が目につく機会が増えてきているように思います。
日刊工業ニュースの記事では以下の通り、TDBやTSRの発表を引用し2年ぶりに円安倒産が発生したと触れられています。
帝国データバンク(TDB)と東京商工リサーチ(TSR)が発表した8月の倒産件数は、TDBが前年同月比9・8%増の493件で4カ月連続の増加、TSRが同5・5%増の492件で5カ月連続の増加だった。足元の急激な円安進行で、企業にとってさらなるコスト増が懸念される。燃料高や人手不足による人件費高騰も追い打ちをかける。倒産件数の増勢傾向はさらに強くなりそうだ。
負債総額はTDBが同11・9%増の1059億600万円、TSRが同22・4%増の1114億2800万円だった。8月としては4年ぶりに1000億円超えとなった。内訳では1億―10億円の中堅規模の倒産が広がりを見せている。
円安による輸入コストの上昇などが要因となる「円安倒産」も急増している。TDBによると8月の円安倒産は7件発生した。8月としては2年ぶりの発生だったほか、単月で見ると6年ぶりの高水準だった。急激な円安を受けて「円安倒産予備軍も増えている恐れがある」(TDB)。
新型コロナウイルス関連倒産も増加している。TSRによると同50・7%増の193件で、2020年2月の集計開始以来、過去3番目の多さだった。
業種別では燃料価格の高止まり影響を受ける建設業や運輸業で倒産が増えている。運転手や作業員などの人手不足も深刻なまま。例えば運輸業でのコスト増は商品の仕入価格の上昇にもつながり、他の業種にも波及しかねない状況となっている。
私の周りでも元々原材料の高騰しているところ、さらに円安の加速によってコストが増加する中、価格転嫁ができずに赤字に陥ってしまったというような話も聞くようになってきています。
まさに典型的な円安倒産のケースに繋がります。
円安のトレンドは?
ではこの円安のトレンドはどう推移するのでしょうか。
「ミスター円」の異名を取る榊原英資元財務官は「市場の予測では今年末までには160円ぐらい、来年末には180円くらいまでいくんじゃないかと言われている」とTBSのインタビュー記事の中で述べています。
理由としては日米の金融政策の違いについて述べており、特に金利差が原因であるという事については私も同じ意見です。
日本貿易振興機構(JETRO)のリリースからの抜粋ですが、現在アメリカ国内では物価高を受けて金利を上げ、物価の抑制を行おうとしています。
米国連邦準備制度理事会(FRB)は7月26、27日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の現状の誘導目標1.5~1.75%から0.75ポイント引き上げ、2.25~2.5%とすることを決定した(添付資料図参照)。6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比9.1%とこれまでに続き高い伸びだったことから、前回会合で実質的に予告していた0.5~0.75ポイントの金利引き上げを上回る、1ポイントの引き上げを予想する声もあったが(2022年7月14日記事参照)、結果的には予告どおりの引き上げ幅となった。なお、今回の決定は参加者12人の全会一致だった。
他方、日本の場合は-0.1%を継続しています。
当然、金利の高い国(特に新興国でなく巨大なGDPを持つ米国であればなおさら)にマネーは流入するので、円を売ってドルを買うという動きは継続してしまいます。
では日本は金利を上げて円安の流れを防ごうとするでしょうか?
政府の金利政策は?
個人的には現状でその選択肢を取る可能性は低いのではと考えています。
理由としてはアメリカほど物価が上昇しておらず、日本政府に引き締める動機が小さいということがあります。
また金利を上げてしまうと低金利を前提として進めてきた政府債務の利払いが国債借換え後に膨張することや、民間セクターの圧迫につながってしまうことも、躊躇してしまう動機になるでしょう。
加えてアメリカ経済は需要増加による物価上昇のため、さらに金利を引き上げて物価を引き締めていくと考えられます。
つまり米の金利差がさらに拡大してしまうと考えられることから円売りドル買いは進んでいくと考えられます。
なお政策金利の引き上げはアメリカだけではなくEUも行っており、ドルだけが強くなっているわけではなく、各国の通貨に対して円が弱くなっていると言えるのではないでしょうか。
欧州中央銀行(ECB)は9月8日、フランクフルトで開催した政策理事会後の記者会見で、3つの主要政策金利の引き上げを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。9月14日からそれぞれ0.75ポイント引き上げる。前回7月に行った政策理事会で主要金利の0.5ポイント引き上げをしていたため(2022年7月22日記事参照)、追加の引き上げとなるほか、2002年のユーロ導入以来、最大の引き上げとなる。政策金利(主要リファイナンス・オペ金利)は0.50%から1.25%、限界貸付ファシリティー金利(オーバーナイト貸し出し、翌日返済)は0.75%から1.50%、預金ファシリティー金利は0.00%から0.75%となる。インフレ率が依然として高過ぎ、目標の2%を長期的に上回る可能性が高いと判断し、引き上げを決定した。さらなる利上げも見込んでいる。
以上のように考えると榊原英資元財務官の指摘通り、円安が短期的に緩和されることは難しいと思われます。
むしろ更に円安が進行する可能性が高いと言えるでしょう。
そして円安によるコスト増が継続すると考えると、価格転嫁できない企業はますます厳しい状況に置かれるのではないでしょうか。
円安倒産のニュースもさらに増えてくるでしょう。
通常の中小企業で為替リスクをデリバティブでヘッジしていることは少ないでしょうから、多くの中小企業は為替の影響をストレートに受けてしまうと思います。
価格転嫁できない理由としては、取引先との交渉力が弱いか、商品の改善による付加価値のアップができないことだと思います。
M&Aを行うことで川上、川下の販路を活かし売り上げを上げ、コストを下げることが可能になるでしょう。
またB2Cに強い企業と一緒になることで、現在扱っている商品をさらに魅力を訴求できる可能性もあり得ます。
ピンチはチャンスになり得ます。
どのような選択肢がいいのかは、置かれている状況にもよりますので不安を感じられている経営者はお気軽にご相談ください。
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