社会福祉法人のM&A

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公開日:2024年2月19日 /最終更新日:2024年7月24日

社会福祉法人とは

社会福祉法人(社福)とは、厚生労働省によると「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律(社会福祉法)の定めるところにより設立された法人」と定義されています。
ここでいう「社会福祉事業」とは、社会福祉法第2条に定められている第一種社会福祉事業(特別養護老人ホーム、児童養護施設、障碍者支援施設、救護施設など)及び第二種社会福祉事業(保育所、訪問介護、デイサービス、ショートステイなど)をいいます。
また社会福祉法人は、社会福祉事業の他公益事業及び収益事業(貸しビル、駐車場、公共的な施設の売店の経営など)を行うことができます。

社会福祉法人化のメリット

・補助金や税制の優遇を受けられること。社会福祉法人は、運営費や施設整備費などの補助金を国や自治体から受け取ることができます。また法人税や事業税などの税金は非課税になります。
・地域に根差した保育を実践できること。社会福祉法人は、その保育園がある地域で事業を展開することがほとんどです。そのため、地域の人々との交流や地域ならではのイベントなど、アットホームで文化的な保育を実践できます。
・社会的信用度が高いこと。社会福祉法人は、利益を求めない非営利団体であり、国から認可された公益法人として位置づけられています。また、運営状況を定期的に公開する義務があるので、透明性が高く信用されやすい法人です。

以上のことから、体感的に事業で一定の成果を収めた人が、名士的な存在として理事長として運営を行っている印象です。
また代表者をそのまま相続できれば相続税を払わなくていいというところから、節税のために設立したいというインセンティブもあったようです。

経営権の譲渡はダメ絶対

NPO法人や学校法人など持ち分がない法人では代表者を変更することで実質的な経営権を変える、ということは行われてきました。
具体的には理事の互選で理事長が選ばれ、評議員からなる評議会で決議を行います(プロセスとしては評議員が理事を選任するので、評議員会を招集し、役員の選解任を行い、理事会で理事長を選任する)。

株式会社に喩えるなら理事長が代表取締役、理事が取締役、評議員が株主で評議会が株主総会でしょうか。
社会福祉法人は評議員(理事の人数を超える数が必要。理事は最低6人のため7人必要)+評議員会+理事(最低6人)+理事会+監事(+会計監査人)で構成されます。

なお上記の評議員及び評議会の設置は平成28年の法律改正で設置が義務付けられました。

一 経営組織のガバナンスの強化に関する事項

従来、任意設置の諮問機関とされていた評議員会について、理事・理事長に対する牽制機能を持たせるため、法人の重要事項(理事、監事及び会計監査人の選任及び解任(改正法による改正後の社会福祉法(昭和26年法律第45号。以下「法」という。)第43条第1項、第45条の4第1項及び第2項)、役員報酬(法第45条の35第2項)、定款変更(法第45条の36第1項)、法人の解散(法第46条第1項第1号)等)を決議する議決機関として、必置化することとしたこと(法第36条第1項、第45条の8第2項及び第3項)。
また、法人の代表権を理事長のみに付与する(法第45条の17第1項)等、理事、理事長、理事会、監事等法人の各機関の権限や責任を法律上明確化することとしたこと(法第6章第3節、第12章)。
さらに、社会福祉法人に監査体制を構築し、効率的な経営を確保する等の観点から、一定規模以上の社会福祉法人(平成29年度は、平成28年度の収益額が30億円又は負債額が60億円を超える法人(改正政令による改正後の社会福祉法施行令(昭和33年政令第185号)第13条の3))には、会計監査人の設置を義務付けることとしたこと(法第37条)。

二 事業運営の透明性の向上等に関する事項
公益性の高い法人として国民に対する説明責任を十分に果たす観点から、社会福祉法人の定款(法第34条の2)、貸借対照表、収支計算書、事業報告書(法第45条の32)、財産目録、役員報酬基準(法第45条の34)を閲覧対象書類とし、広く国民一般に開示するとともに、定款、貸借対照表、収支計算書、役員報酬基準、事業概要や役員区分毎の報酬総額を記載した現況報告書について、インターネットを活用して公表を行うものとしたこと(法第59条の2第1項、改正省令による改正後の社会福祉法施行規則(昭和26年厚生省令第28号)第10条第1項)。
また、都道府県知事が、所轄庁から財務諸表等の提供を受け、法人規模や地域特性に着目した分析を行い、公表に努める等、所轄庁の支援、地域住民のサービス利用、法人による経営分析への活用を図ることとしたこと。さらに、都道府県が収集した情報を基に、国において、社会福祉法人に関する全国的なデータベースの整備を図ることとしたこと(法第59条の2第2項から第7項まで)。

三 財務規律の強化に関する事項
社会福祉法人の保有する財産のうち、負債、基本金及び国庫補助等特別積立金を除いた純資産から、事業継続に必要な財産(控除対象財産)を控除した上で、再投下可能な財産(社会福祉充実財産)を明確化するとともに、再投下可能な財産が生じる場合は、社会福祉充実計画を策定し、既存事業の充実や新たな取組に有効活用することとしたこと(法第55条の2第1項)。
また、社会福祉充実計画については、公認会計士、税理士等への意見聴取(地域公益事業を行う場合には、地域の福祉ニーズを的確に反映させるため、地域協議会等への意見聴取)を経て、所轄庁の承認を受け、実施するものとしたこと(法第55条の2第5項、第6項及び第9項)。

以上のように国からの補助金や助成が入っているため、社会福祉法人は公的な役割を担う存在と位置付けられ、先ほどのような私的な利用(というか私物化)を防ぐために評議員にも外部識者を入れるようガバナンスが強化されました。
株式会社と違うのは理事や理事長だけではなく評議員も損害賠償責任を負うため、非常に厳しい運用がなされています。

経営権の売買と逮捕

そのような厳格な運用がされているため、理事長の椅子をお金で売りました、ということは利用者だけでなく当局からも厳しい目で見られます。
そもそも政府は「社会福祉法人の経営権の売買は認められてないし、そもそも経営権はない」と言っています
以下長くなりますが、社会福祉法人の代表者を金銭によって「買って」理事長になった人間が使い込みをして社会福祉法人が破綻した件について、当時の厚生労働大臣の記者会見を引用します(青線筆者)。

記者:社会福祉法人のサンフェニックスの関連で、サンフェニックスで有償での経営権の移転が行われた後に、30億円の預金が流出して民事再生手続が適用される事態となっています。運営施設を利用する高齢者でも不利益が生じかねないということが起きていることになりますが、この件についての大臣の受け止めと、厚労省としてどのように対応されるお考えか教えていただければというのが一点です。
それと、同じサンフェニックスの関連で、この42億円で経営権移転するという契約が結ばれて、その理事長が設立者の男性医師から公認会計士になっていて、経営権が事実上売買されたという理解をしています。社会福祉法人は有償での経営権の移転を認められていないはずですが、売買を禁じる明文の規定が今ありません。売買できないことを明確に示すため、売買禁止を明文化すべきという意見もありますが、大臣の所感をお願いいたします。

大臣:まず、その社会福祉法人のサンフェニックスでの問題でございます。社会福祉法人につきましては、介護・障害者福祉、子育て支援といった、社会福祉事業の実施を目的として設立される法人でありまして、地域における福祉サービスの主たる担い手として高い公益性を有するということで税制優遇等、特別な制度を講じているわけであります。
そのような性質上、社会福祉法人は個人の所有物ではなくて、いわば地域の公共財産として取り扱われるべき存在であることは言うまでもないことであります。
報道のとおり、特定の個人が自己の利益を得るために、社会福祉法人を悪用したとすれば、誠に遺憾なことだと思っております。現時点において法人のサービス提供に大きな支障はないということで、経営再建に向けて民事再生手続が進められている状態だと聞いております。
今後とも、サービス利用者に不利益が生じないように、しっかりと引継ぎをした法人に、法人の運営をしっかりやってもらうような状況を作ることを注視しながら、事実関係を精査した上でこの法人を所管する広島県とも緊密に連絡を図りつつ厳正に対処していきたいと考えています。

それから、次に経営権の移転を禁ずるような明文規定を作ったらどうかというご指摘だったと思いますが、そのことにつきましては、社会福祉法人についてはそもそも持分権がないことから、元々、経営権という概念は、制度上は設けられていない、位置付けられていないと考えます。
 社会福祉法人の経営は、理事の選任・解任等の重要事項を議決する評議員会と、日常の業務執行を担う理事会とは相互に牽制し合いながら行うことになっていますし、理事長の選任は理事会ですが、理事を選任するのは評議員会が推薦して決めていくことになるので、今回の事案は個人間の取引により実質的に理事長が決められておりまして、そういう意味では極めて不適切だということだと思います。
今後、広島県による指導等を通じて明らかとなった事実関係を踏まえまして、今回のような事案が不適切であることについて改めて都道府県の関係者に対して周知徹底を図って、法人経営の適正化に努めていきたいと考えております。
そしてその上で、法制上、売買を禁止する規定を設けるということですが、元々、経営権という概念も無く、売買をするということ自体が、そもそも何の概念を前提にして売買を禁止する規定を設けるかということになりますので、法制上の課題であるとその辺のところは考えております。
社会福祉法人では、経営権の売買はもちろん認められてありませんし、経営権はありませんが、法人間で事業を譲渡する一部事業譲渡みたいなものは可能ですし、合併を行うことはもちろん制度上許容されておりますけれども、こういう形での経営権という概念が無い中で、経営権の譲渡をするみたいな形の禁止規定を設けることの法的な制度上の問題等いろいろあると思うので、どのように適正な社会福祉法人の経営を進めていくかということについては、今後、考えていく課題だと思います。

上記を見てもお分かりの通り、代表者の交代について行政からも厳しく見られてしまうということは事前に把握しておくべきでしょう。
またこのケースでは新旧理事長が共謀したということで逮捕されています(2023年1月19日:読売新聞「社会福祉法人の資金5・7億円着服か、元理事長2人逮捕…約30億円流出」)。
従って「売却」した理事長も代表者から離れたらそれで終わりということではなく、社会福祉法人の経営のその後について責任ある行動をしないと逮捕の可能性も出るという意味で非常に危険な立場に置かれてしまうことは強く自覚する必要があるでしょう。

他にも社会福祉法の他、贈収賄で逮捕されている事例もあるので、明らかに理事長選任のために金銭が動くということは法的リスクが高いと考えられます。

これらを踏まえると、「経営権を譲渡する」という社会福祉法人の案件がM&Aプラットフォームに掲載されていると、載せるほうも載せようとする方もどれだけコンプライアンスを踏まえてやっているのか不安になります。
参考までに理事長選任に関連して逮捕されたケースをいくつかご紹介しておきます。

・社会福祉法人の元理事長逮捕=4400万円横領容疑―警視庁
・南野陽子の夫“ついに”逮捕。元警察官と1500万円横領の疑い、過去には銀座クラブママ妊娠騒動や借金トラブル、暴行…ナンノも「許さんぜよ」と三行半か?
・資金を不正に口座移転か 静岡の社会福祉法人元理事長ら2人逮捕

社会福祉法人がM&Aを行えるケースとは

とはいえ社会福祉法人も事業運営を行う主体ですので、合併や事業承継は法律で想定されています。
先ほどの評議会を経て理事、理事長を選任する方法とは別に

・合併
・事業譲渡

が定められています。

合併

吸収合併契約と新設合併契約の二つが規定されています。
どちらも社会福祉法人とのみ合併が可能で、前者は吸収された法人が消滅してしまいますが、後者は2つ以上の社会福祉法人が合併によって消滅し、新しい社会福祉法人に権利義務を承継する方法です
合併の場合、所轄庁より合併認可を受ける必要があります。
このため、合併申請を行うにあたっては、事前に所轄庁へ合併の趣旨目的や背景事情などを説明し、合併申請の方法、疑問点などを社会福祉法人における合併の相談をすることが必要です。
平成28年改正法等により、所轄庁については、二以上の都道府県の区域で事業を行う法人に関する認可等の権限を地方厚生局から都道府県に委譲し、また単一の都道府県の区域で事業を行う法人であって、主たる事務所が指定都市に所在する法人に関する認可等の権限を都道府県から指定都市に移譲されています。
合併時には、主たる事業所がある所轄庁が認可を行うこととなりますので、上記合併の内容について、行政担当者に対して十分に相談を行っておく必要があります。

また事業譲渡も同様ですが、合併プロセスで不当な利得を受け取ってはいけないため、合併で退任する理事や業議員にそれまでの対価を支払う場合、定款や決議等で決めた適切な基準に基づいた報酬(退職金など)を支払う必要があります。

事業譲渡

事業譲渡の場合、合併の場合と違い譲渡先が社会福祉法人という制限はないのですが、第1種社会福祉業で経営している場合、経営主体が限られてくるので、譲渡できるかどうか事前にチェックしておくことが必要です。
また基本財産の移動を伴うこともあり、所轄庁の承認や国庫補助事業により取得した財産の処分にかかる承認、さらには、独立行政法人福祉医療機構又は民間金融機関の借入債務にかかる各種手続(抵当権の設定等)などクリアすべきものも多いと考えられます。
このため、所轄庁等への事前の相談・協議を並行して進めていくことが重要です。
また事業譲渡等は、譲渡元である法人における施設の廃止手続きと、譲渡先における施設の認可・指定等の手続きをスムーズに実施することが求められます。
このため、所轄庁への事前相談等と同時に、事業所管行政庁にも事前相談を進めていくことが必要となります。

加えて特別利益や利益相反取引の制限があることから、譲渡対価をいくらにするかということの適正な評価を行うことも必要です。
譲渡金額によっては母体である社会福祉法人に損害を与えたと判断されることもあり、その場合は先ほどの忠実義務違反などの賠償責任が発生してくる可能性もあるでしょう。

以上のように社会福祉法人のM&Aはかなり複雑で、賠償責任や場合によっては業法違反での逮捕などに発展する可能性があります。
軽い気持ちでM&Aを行うと、ブローカーや仲介がそのあたりのことを知らない場合、大きな法的問題に巻き込まれてしまう可能性もあるので、十分注意してください。
ご不明な点がありましたらお気軽にご相談ください。

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