中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方2

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公開日:2021年9月16日 /最終更新日:2024年7月24日

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中小企業庁はM&A仲介会社のどこを見ているのか

前回のコラム「中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方」がご好評いただきましたので、追加で中小企業庁かどういう点についてチェックしているのか、という事とそれを踏まえてM&A仲介を選ぶ際にどう判断したらいいのか、という点について具体的に触れていきたいと思います。
これからM&Aをご検討される方については(特に売り手様は)ぜひご参考にしてください。

M&A支援機関に係る登録制度

前回もお話した中小企業庁のM&A支援登録制度は現状のM&A業界の実態を把握し、悪質な業者は排除しつつ、全体としてM&Aや事業承継を推し進めていくため、形式要件に基づきM&A業者に支援機関に登録を行うよう促しています。
以下は登録フォームの要件(チェック項目)です。

以下について順に確認していきましょう。

1.業務形態の実態に合致した仲介契約・FA契約を締結する。
2.契約締結前に依頼者に対し仲介契約・FA契約に係る重要な事項について明確な説明を行い、依頼者の納得を得る。説明すべき重要な点は以下のとおりである。
(1)譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方当事者のみと契約を締結し一方のみに助言するFAの違いとそれぞれの特徴
(2)提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)
(3)手数料に関する事項(算定基準、金額、支払時期等)
(4)秘密保持に関する事項(秘密保持の対象となる事実、士業等専門家等に対する秘密保持義務の一部解除等)
(5)専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
(6)テール条項(テール期間、対象となるM&A等)
(7)契約期間
(8)依頼者が、仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合には、当該中途解約に関する事項
最終契約の締結
3.最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の確認を促す。
クロージング
4.クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上、当日には譲り受け側から譲渡対価が確実に入金されたことを確認する。
専任条項
5.依頼者が他の支援機関の意見を求めたい部分を仲介者・FAに対して明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容する。ただし、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する。
6.専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA契約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定める。
7.依頼者が任意の時点で仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する条項等(口頭での明言も含む。)も設ける。
テール条項
8.テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とする。
9.テール条項の対象は、あくまで当該M&A専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側のみに限定する。
仲介業務を行う場合における特則(※仲介業務を行わない場合は不要)
10.仲介契約締結前に、譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
11.仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項(※)について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。
※ 例:譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結することから、双方のコミュニケーションや円滑な手続遂行を期待しやすくなる反面、必ずしも譲渡額の最大化だけを重視しないこと
12.確定的なバリュエーションを実施せず、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
13.参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額としてのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に対して明示する。
(1)あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易に算定したものであるということ
(2)当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意見等の内容
(3)必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること
14.DDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定しないこととし、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
上記以外の中小M&Aガイドライン記載事項について
15.上記の他、中小M&Aガイドライン中「M&A専門業者」に関する記載事項について中小M&Aガイドラインの趣旨※に則った対応をする。
※ 中小M&Aガイドラインでは、「M&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を併せて示す」ことが示されている

M&A仲介会社に求められるもの

1.業務形態の実態に合致した仲介契約・FA契約を締結する。

まずは仲介とFAの定義について見てましょう。以下も中小企業庁のガイドラインからの引用となりますが、

仲介者/仲介契約

仲介者とは、譲り渡し側(※)・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいい、一部の M&A 専門業者がこれに該当する。
仲介契約とは、仲介者が譲り渡し側(※)・譲り受け側双方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務を仲介業務という。
※株式譲渡を前提に、株主である経営者等が当事者となる場合もある。

FA(フィナンシャル・アドバイザー)/FA 契約

FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲り渡し側(※)又は譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいい、一部の M&A 専門業者がこれに該当する(業務範囲は個別の支援機関ごとに異なる。)。
FA 契約とは、FA が譲り渡し側(※)・譲り受け側の一方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務を FA 業務という。
なお、海外においては、主に大規模な M&A に関して、高度な助言業務等を提供する FA に限定して FA(Financial Adviser)と称することがあるが、我が国においては、中小 M&A に関しても、譲り渡し側・譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関を FA と称することが一般的であるため、本ガイドラインでは、この解釈に従うものとする。
※株式譲渡を前提に、株主である経営者等が当事者となる場合もある。

実態としては売り手と買い手について双方から手数料をもらいM&Aを行うことを仲介、片方側について一方当事者から手数料をもらうことをFAというように慣用的に使われています。
仲介の問題については後程出てくるので別途触れますが、ここでは税理士や弁護士など、利益相反の問題が出てきたときに業法上、仲介形式を行うことが業務形態上妥当かどうか、という点も論点になってくると思われます(一部メガバンクも上記の理由によりFA形式のみを行っているところもあるように聞いています)。

2.契約締結前に依頼者に対し仲介契約・FA契約に係る重要な事項について明確な説明を行い、依頼者の納得を得る。説明すべき重要な点は以下のとおりである。
事前説明を明確に行うことについて明示しています。
今まで一部仲介・FAが相手方の無知につけこみ、乱暴な契約(ご参考:「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」)を結んでトラブルが多発していることを踏まえてのことです。
さて説明すべき内容についてそれぞれ見てみましょう。

(1)譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方当事者のみと契約を締結し一方のみに助言するFAの違いとそれぞれの特徴

M&Aを行う際に仲介で行うのかFAで行うのか、その違い(メリットデメリット)についての説明です。
仲介形式であれば双方から手数料をもらうため利益相反になる可能性がありますが、スピードや交渉の内容について双方との調整がしやすくなるため、「いい仲介」であればより内容についてお互いのニーズを把握して契約を結ぶことができます。実際中小企業庁のガイドラインでも記載しているように、中小M&Aの多数が仲介形式での成立となっていることから、仲介形式の方が実際にやりやすいのも事実でしょう。
他方、FA形式は一方当事者のために対応するので、利益の最大化ができる・・・と言われていますが、成立の割合が仲介形式よりも低いという問題があります。
13項で出てくるような利益相反を「悪い仲介」を事前に排除できるのであれば売り手にとっても仲介形式の方がやりやすいと思います。

なお仲介形式で対応を行っていても相手が見つからず、仲介会社やFA会社に声をかけFA形式で成立するケースもあるので、M&Aプロセスで当初想定していた形式が変わってくることも申し添えます。

(2)提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)

業務範囲として何をどこまで行うのか、という趣旨です。
弊社では契約書にマッチングから交渉、スキーム立案、譲渡契約締結までの女権業務と業務範囲を明記しているため、説明していて当たり前という認識だったのですが、おそらく「マッチング(相手を見つける)」だけが仕事と思っている業者も多いのではないでしょうか。
実際やってみるとわかるのですが、相手を探すのは業務範囲の30%くらいで、相手を見つけてから譲渡実行に至るまでの山もかなりあるため、その程度の認識で対応しているところに依頼したら、それはトラブルよなあ・・・と思います。

(3)手数料に関する事項(算定基準、金額、支払時期等)

これもコラムで何度か触れましたが、手数料を明確化せず高額な(1000~2000万以上)の手数料を取る仲介会社も存在します。
確かに大規模M&Aであったり、複雑なスキーム(会社分割など)を行う場合であれば専門家手数料を含めてその金額なら納得ですが、譲渡対価が1000万程度でもその手数料を請求してくるため、初めてM&Aを行う人にとってはそれが正しいと思い支払ってしまうのでしょう。
またその際の手数料根拠を示さず、その場の雰囲気(払ってくれそうか否か)で判断してしまっているという事も考えられます。
このような不透明な請求を行う業者を排除しようという趣旨と思われます。
「支払時期」というのも譲渡実行時なのか契約締結時なのか、という事を明らかにしていないことでトラブルになっていると思われます。
なお弊社では手数料の算定基準やタイミングについても契約書に盛り込み、透明性を高めています。

(4)秘密保持に関する事項(秘密保持の対象となる事実、士業等専門家等に対する秘密保持義務の一部解除等)
(5)専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
(6)テール条項(テール期間、対象となるM&A等)
(7)契約期間
(8)依頼者が、仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合には、当該中途解約に関する事項

 

これらは同じ問題なのでまとめて解説します。「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」でも触れましたが、無知な売り手を囲い込むことが問題視されています。
知らないのは初めてなので当たり前の事なのですが、説明を行わず、秘密保持契約を盾に仲介会社としかM&Aについて相談させず、売り手に不利な契約のままM&Aを成立させて手数料を取るような業者の存在についてです。
確かにあまり相談する先が増えると話がまとまらなくなってしまうのは事実であり、情報漏洩の問題もあることから一部にとどめておく必要はあると思いますが、その契約を盾に不必要に拘束してしまっていることは大きな問題です。
担当者が信頼されていればそもそもそのような話がないとも思いますが、担当者の能力不足を契約で縛っているわけなので、確かに問題になるでしょう。
そのため中小企業庁としても、「何が秘密保持の対象」で「どこまで相談していいのか」。
特に専任条項がある場合、それを盾にしてセカンドオピニオンを妨げるのかどうか、という事です。
テール条項についても2~3年を目安に(3年は長い気もしますが)、売り手の拘束を外しましょうという事を謳っています。
トラブルが多い部分なので、この点については注意して説明を受け、質問などを行うようにしてください。

最終契約の締結
3.最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の確認を促す。

これも当たり前すぎて当たり前なのですが、契約書も双方に確認を行ってくださいという趣旨です。
M&Aを行うにあたり、最終的に譲渡契約を締結しますが、ここに条件を盛り込みます。
逆にいうとトラブルになりそうなのはここに盛り込んでおかないと後で問題になった際にだれが責任を取るかでもめますし、慣れた仲介会社やFAであればそれを避けるため、事前に出てきた問題点を契約書に盛り込んで明確化しておこうと思うからです。
反面、慣れてない担当や成立を焦る仲介などはこのプロセスを省略してしまうのでしょう(考えたくもないですが)。
そのため当たり前のことをこのように注意喚起しているのだと思います。

クロージング
4.クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上、当日には譲り受け側から譲渡対価が確実に入金されたことを確認する。

「クロージング」とは契約締結後、株式対価を受領し、登記に必要な資料(株主総会での取締役選任決議や印鑑、通帳を受け渡すこと)などを行う一連のイベントを指します。
お金をもらわないで通帳や印鑑を渡すことはあまり想定できないのですが、入金確認せずやってしまいトラブルになったケースもあるのでしょう。

なお当職の経験ですが、上場企業が買い手だった際、支払は翌月末払いというケースがありました。
(対業者ならわかるのですが、それをM&Aの相手にも適用するとは・・・)
その際は売り手了承の下、翌月末払いで契約を締結しましたので、特に問題はなかったのですが、ケースバイケースで変わってくることもご承知おきください。
なおそのケースでは上場企業の窓口の人も事前には知らなかったため、当職も事前に把握することはできませんでした。

専任条項
5.依頼者が他の支援機関の意見を求めたい部分を仲介者・FAに対して明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容する。ただし、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮する。
6.専任条項を設ける場合には、仲介契約・FA契約の契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定める。
7.依頼者が任意の時点で仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する条項等(口頭での明言も含む。)も設ける。
テール条項
8.テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とする。
9.テール条項の対象は、あくまで当該M&A専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側のみに限定する。
仲介業務を行う場合における特則(※仲介業務を行わない場合は不要)

 

これらも先ほど説明した内容と重複するので簡単に説明したいと思います。
専任条項ではセカンドオピニオンについて制限するのではなく許容するようにしています(弊社も業法上守秘義務がある先などについて列挙しています)。
また拘束期間についても不必要に長くしないように求めています(弊社の場合は6ヵ月目途とし、解除条項も盛り込んでいます)。
口頭での名言については「お前のところなんかにもう頼まんわ!」って言うことが想定されますが、そこまでの関係になってしまったのに専任条項を振りかざしても仕方ないじゃない・・・と思いますが、それでも条項を盾にごり押ししてくる仲介会社もいるという事なんでしょうね。

テール条項についても重要なことなので中小企業庁は再度説明しています。
あくまでも関与した先(面談などをアレンジした先)を想定していて、「これくらい候補ありますね」といって全く脈がなかったり、縁がなさそうな企業が入っているリストを見せて拘束するのはやめようという趣旨と理解しています。

10.仲介契約締結前に、譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
11.仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項(※)について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。
※ 例:譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結することから、双方のコミュニケーションや円滑な手続遂行を期待しやすくなる反面、必ずしも譲渡額の最大化だけを重視しないこと

これは冒頭で述べた仲介による利益相反及びメリットデメリットに関わってくるので再度記載します。
当たり前の話ですが、まずは契約を結ぶ際に、売り手買い手とも契約を結び、手数料を取ることを明示してくださいという趣旨です。
これにより双方と利害関係が発生することをまずは関係者に対して認識してもらいます。
その次に、仲介契約において利益相反が発生する事項について説明してくださいという事です。
これも当たり前で、先ほど述べたように一部の情報(売り手側のトラブルなど)を隠して契約しても、あとでトラブルになってしまうため、問題がありそうな点については顕在化させ契約書に盛り込むべきだと私は考えますが、仲介という情報をコントロールしやすい立場であることを利用してかくして制約させていたケースも多々あったのでしょう。
最後の「譲渡額の最大化」という点については買い手側サイドの意向もあるため最大化はできない、という趣旨だと思いますが、基本的には価格は市場で決定されること、またレーマン方式を採用しているため売り手側の意向を尊重することが多いと思いますが、中小企業庁へのクレームとして「得意先の買い手を優先して不当に安い価格で売らされた」というものがあったようなので、それを意識している内容だと思います。
個人的には高く買ってくれる相手がいたらそこを優先しますし、得意先を優先すると、今度は力関係上、手数料を値切られたりする可能性が出てくるのではと思ったりしますので違和感はありますが、そのようなクレームを発生させないよう、弊社としてもきちんと説明をさせて頂きたいと考えております。

12.確定的なバリュエーションを実施せず、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
13.参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額としてのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に対して明示する。
(1)あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易に算定したものであるということ
(2)当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意見等の内容
(3)必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること

企業価値算定、譲渡価格についてどのように決定するのかという話です。
本来、仲介会社やFAが断定的に企業価値算定を行ってしまうと金商法に定める助言業に抵触する可能性があると思いますが、今回のガイドラインではそういった細かい話ではなく、助言として価値算定を行い提示することは認めたうえで、セカンドオピニオンを求められるようにしたという趣旨でしょう。
実際問題として中小企業M&Aにおいてはある程度の相場観ができてきており、そこから逸脱した金額での成立は難しいです。
とはいえ、無くはないのが面白いところですが。

なおこの条項については不当に低く見積もるという事ではなく、契約を取るために相場から外れた期待を持たせる業者の事も想定しているのでは?と思います。
売り手と契約を結び案件があって初めて進められるビジネスなので契約を取りたいために高い金額を言って、専任条項やテール条項で拘束を行い、売り手があきらめて価格を下げてから初めて動くようなケースがあると聞いていますし、その他、着手金方式の会社は、着手金を取るために同様のことを行っているという噂も耳にします。
噂レベルなので真偽は不明ですが、価格は最後は市場で決まりますので、提示された金額の根拠を聞く中でいい話も悪い話も聞いて、譲渡対価を設定したほうがいいと思います。

14.DDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定しないこととし、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
上記以外の中小M&Aガイドライン記載事項について

これも非常に驚いたのですが、DD(買収監査)を自らやるM&A仲介会社やFAがいるようです。
本来、買収監査は買い手側が売り手企業を譲り受けるにあたりその価値の妥当性を自社の責任(と費用)で判断するプロセスです。
そうでないと売り手(および仲介会社やFA)が言っている価値が本当かどうかという検証ができませんし、仮にその判断を仲介会社やFAに任せた場合、泥棒に家の留守番をさせるようなもの、と言ったら言い過ぎですが、譲渡実行後、トラブルが発生した場合にだれが責任を持つのか、という話になってきます。
売り手側も後日のトラブルを避けるのであれば買い手の責任によって買収監査が行われた方が安心するでしょうし、そこで見つかったトラブルについてはむしろ双方で解決していこうという姿勢を示した方が建設的だと思います。
弊社としては買収監査はむしろ譲渡実行前に行うことを推奨しておりますし、必要に応じて弊社と提携しているM&Aに特化した士業の方を紹介することも可能です。

なおスモールM&AだからDDを行わなくてもいいのではないか?、というという買い手がたまにいますが、これは全く違うと思います。
小さい会社ほど属人性が強い運営がされており、可視化されていないものがある可能性が高いこと。
また賠償責任の問題などは損害額が青天井になる可能性があることから、「小さいからと言って損害が少なくなる保証はない」からです。
大手がスモールM&AをやらないのはDDに対する費用対効果が見込めないため小規模法人を避けるのはそういう理由でもあります。
逆にいうと大手がやらないような規模のM&Aを行えるというのはメリットでもあるので、バトンズの表明保証保険などによってコストをかけないで担保していくというのはありかもしれません。

15.上記の他、中小M&Aガイドライン中「M&A専門業者」に関する記載事項について中小M&Aガイドラインの趣旨※に則った対応をする。
※ 中小M&Aガイドラインでは、「M&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を併せて示す」ことが示されている

 

これは1~14までをきちんと網羅して対応を行っていけば特に問題にならないと思いますが、過去、M&A業界で悪質な業者が行ってきたような不利益行為を起こさないよう心掛けて真摯に対応していきましょうという事ではないでしょうか。

以上、かなり長くなりましたがM&Aの仲介会社を選ぶ時のヒントが中小企業庁のガイドラインにはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご参考にして成功するM&Aを行って頂ければと思います。

M&A仲介については以下のブログも参考にしてください。

小規模M&A向け表明保証保険「M&A Batonz」についての解説
「M&A仲介への不信感4選」
仲介かFASか
「M&A仲介会社の手数料」上場・非上場会社との比較!
M&Aで会社を譲渡する際に失敗しないための21のポイント!
売り手がM&Aを始める前に確認すべき5つのこと
【年倍法】M&Aの「価格」と「価値」の違いとは
「御社を買いたい人がいるから売ってくれと言われているが本当か」問題
M&A仲介会社の「業界最安値」手数料問題とは
仲介会社が入る意味とは
「M&A仲介と契約を結ぶ前に。テール条項には気をつけろ!」
「中小企業庁から学ぶ! M&A仲介業者の見極め方」

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